サイバナ

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コラム

エネコツアー第7ステージこそ『サイクルロードレースの真髄』と言って良いのか?

2016/09/28

メジャーリーグ、フロリダマーリンズのエース投手であるホセ・フェルナンデス投手が24歳の若さで亡くなった。

9月25日未明にマイアミビーチ沖で起きたボート事故が原因とのことだ。

シーズン真っ最中に、なぜボートに乗っていたのか?なぜ助けは無かったのか?なぜ未明に海にいたのか?現時点では憶測でしか物を言えないが、衝撃的なニュースであったことは間違いない。

何しろ、マーリンズにとってだけでなく、メジャーリーグの至宝と言っても過言ではないほどの逸材だったからだ。

21歳でメジャーデビューすると、いきなりシーズン12勝。その後は側副靱帯再建術、いわゆるトミー・ジョン手術を受けるも、復帰後も手術前と同等かそれ以上の支配的なピッチングをしていた。

2016年シーズンは、自己最多の16勝・253奪三振と、球界を代表するエースへと成長する真っ只中であった。

24歳ということで、サイクルロードレースで言えばアダム・イェーツ、サイモン・イェーツ、ジュリアン・アラフィリップ、ルイス・メインチェスらと同年代である。

ホセ・フェルナンデスは、彼らと同等かそれ以上の存在である。

考えたくもないが、彼らのように将来が嘱望された選手が、激しい落車をしてしまったら…、どうだろうか?

ホセ・フェルナンデスの事故によって、それくらい、決して埋めることが出来ない大きな悲しみに、野球界は包まれている。

世の中、未来に何が待っているかわからない。何が起きるかわからない。ゆえに、今を全力で生きることが何よりも大事なことだと改めて思う。

後悔は後で悔いるから『後悔』であり、今悔いるものは『後悔』とは言わない。

あの時、やっておけば良かったとならないよう、フェルナンデスの死を心に留めておきたい。

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エネコツアーも『何が起こるかわからない』展開に

日曜まで行われていたエネコツアーでも、まさに『何が起こるかわからない』レース展開となった。

第7ステージは、ツール・デ・フランドルなどでお馴染みの、石畳の激坂『カペル・ミュール』を4度通過する、難易度の高いコースだ。

SS 8

加えて、悪天候がプロトンに襲いかかる。

ただでさえ、落車しやすいフランドル地方の石畳に加え、振り始めた雨が石畳の表面の砂を浮かせ、よりスリッピーな路面へと変貌した。

慎重なバイクコントロール術が要求され、走る選手たちは集中し、指先を研ぎ澄まして危険地帯を登っていく。

そのような中で、リーダージャージを着るローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)が平坦区間で落車してしまう。

石畳ではない平坦区間ではあったが、まわりの選手との接触もあり落車してしまった。

デニスは、リスタートに時間がかかり、リタイアを余儀なくされた。不幸中の幸いか、骨には異常がなく、来月のロード世界選の個人TTではデニスの快走を期待することが出来そうだ。

相次ぐ落車によって混乱するプロトンでは、さらに断続的にアタックが繰り広げられ、ようやく決まった逃げ集団には、総合5位のニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)が含まれていた。

総合4位のピーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)は、テルプストラと同タイムで、総合2位のテイラー・フィニーと3位のトニ・マルティンはこのコースではタイムを失うことは必然なので、テルプストラは絶対に逃してはいけない選手だった。

テルプストラは、総合上位へのジャンプアップを狙うオリバー・ナーセン(ベルギー、IAMサイクリング)、ステージ優勝を狙うエドゥアルド・ボアッソンバーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)らと、後続集団と差をつけたいという利害が一致したため、全開で協調して逃げていた。

一方のサガンは断続的なアタックの末、アシスト選手を全て失ってしまい打つ手なし。追走集団も協調体制が取れないまま、先頭のテルプストラとの差がなかなか縮められずにいた。

総合のために、全開で走り続けていたテルプストラとナーセンを横目に、ステージ優勝のため力を温存したボアッソンハーゲンが見事にステージ優勝。

テルプストラはサガンに45秒の差をつけることに成功し、見事に総合優勝を果たした。ナーセンも総合2位にジャンプアップして、サガンは3位に終わった。

2014年に『パリ〜ルーベ』で優勝したことがあるテルプストラは、悪路とアップダウンに強いパンチャー的な脚質を持つ選手だ。独走力も極めて高く、この日のようなレース展開はテルプストラにとってはプラスに作用した展開だったと言えよう。

見ている方は、非常に面白いレース

総合首位のデニスが、サガンの攻撃をどう防ぐかが見ものだったはずのレースが、雨によってテルプストラの総合優勝という、サイクルロードレースならではの大逆転劇が見られ、見ている方からすれば非常に面白いレース展開だったと言えよう。

しかし、見ている方にとって面白いということは、選手たちにとって危険であることが往々にして多い。

エネコツアー第7ステージでは、天候という自然の影響により、荒れたレース展開となった。

滑りやすい路面を高速で走る選手たちにとっては、常に落車の危険が付きまとい、落車してしまうと擦過傷、打撲、骨折によるダメージを選手が被ることになる。

一歩間違えれば…、ホセ・フェルナンデスのように…。考えたくないことだが、選手たちは命を懸けてレースに臨んでいる。

もちろん、選手たちはそのようなことは百も承知で、我々の想像を越えるようなテクニックで、数多くの危機を回避しているに違いない。

それに『パリ〜ルーベ』のような石畳まみれのレースで、雨が降っても、選手たちは『憧れ』『夢』と称して、泥まみれになりながら、むしろ積極的に走っている人も多いくらいである。

とはいえ、もしも取り返しのつかない事故が起きてしまったら、我々は『スペクタクルな展開だった』と楽しめるのだろうか?

サイクルロードレース中に選手が亡くなるような痛ましい事故は、そう遠くない過去に起きてしまっている。あの惨劇を忘れてはならない。

機材の進化、戦術の進化によって、これからもよりハイスピードでよりスペクタクルなレースが増えるに違いないが、人間の耐久性が一緒に進化するわけではない。

より強固に安全性を高めたヘルメットに覆われた頭部は、落車から頑丈に守ってくれるが、顔面・肩・腕・胸・臀部・脚は、むき出しであるか、通気性と空力を上げるために非常に薄い布1枚に覆われただけである。

エネコツアーは間違いなく面白いレースではあったが、改めてサイクルロードレースとは、選手たちのリスクの大きさに比例した楽しさがあり、それを素直に享受していいのだろうか、自問する機会となった。答えはまだ出ていない。

Rendez-Vous sur le vélo…

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