全6ステージ中6ステージでオーストラリア人が優勝。総合優勝もオーストラリア人、ポイント賞もオーストラリア、チーム総合もオーストラリアチーム。山岳賞と新人賞だけが、それぞれベルギー人とコロンビア人という結果に終わったツアー・ダウンアンダー。
サイクルロードレースがもたらす経済効果も考えると、開催国の選手が活躍するレースは大成功だったと言って良いだろう。
レース内容は振り返ってみると、リッチー・ポートとカレブ・ユアンの独壇場ではあった。ポートはダンシングヒルクライムの爆発力は見応え十分で、ポートのクライムだけでも見る価値が大いにあったと言えよう。ユアンは平坦ステージ4勝をあげ、オリカトレインの強力なリードアウトに支えられた勝利から、単騎による絶妙なライン取りで勝利を飾ったりと、面白いスプリントを見せてくれた。
総合2位のエステバン・チャベスも、守りの2位という印象で、チャベスの持ち味であるレースを動かすアタックが見られず仕舞いだったのは残念だった。
世界チャンピオンであるペーター・サガンも、序盤はサム・ベネットのリードアウトを務めたり、第2ステージではレースを動かすアタックを仕掛けたりと、普段見られないサガンが見られて興味深かった。ステージ2位が続いているが、昨シーズンも初勝利は3月のヘント・ウェヴェルヘムだった。サガンの当面の目標はミラノ〜サンレモとツール・デ・フランドルとのことで、3月まで爆発はお預けだろう。
山岳賞を獲得したトーマス・デヘントは、さすがの勝負巧者だった。確実に逃げを決めねばならないところで、確実に逃げを決める力は今年も健在だ。自信初のツールでの山岳賞を目指してほしいものである。
と言った面々の中で、最終ステージの中間スプリントポイントのタイムボーナスを獲得して、総合3位にもう一人のオーストラリア人が滑り込んだ。
その選手こそが、今日のテーマであるジェイ・マッカーシーだ。
ジェイ・マッカーシーの最終スタッツが異様に平均的である
第1ステージ12位
第2ステージ14位
第3ステージ11位
第4ステージ7位
第5ステージ5位
第6ステージ10位
総合3位
ポイントランキング5位
山岳ランキング14位
これが、ジェイ・マッカーシーの最終スタッツである。
ウィランガヒルステージで5位に食い込む登坂力だけでなく、中間スプリントでタイムとポイントを稼ぎ、集団スプリントで上位に絡むことが出来るスプリント力を持ち合わせている選手なのだ。
これは偶然の結果ではなく、昨年のツアー・ダウンアンダーでも似たような成績を残している。
一言で表現すれば、マッカーシーはパンチャーなのだろうが、パンチャーという一言で表現するには勿体なく思えるほど、登坂力・スプリント力が際立っている選手なのだ。タイプ的にはジュリアン・アラフィリップが最も近いだろうか。
何にせよ、山岳ステージを先頭集団で争っていると思ったら、翌日の集団スプリントで上位に食い込むようなファンタジスタ的な選手は見ていて面白い。
面白いだけでなく、近年のサイクルロードレースでは登れるパンチャーの価値が非常に高まっている。
リオ五輪を制したフレフ・ヴァンアーヴェルマートはまさにそうだ。明らかにクライマー向きのコースを集団前方で耐えて、最後は少人数でのスプリントに持ち込んだ時点で勝負ありだった。ヤコブ・フグルサングとラファル・マイカが相手では、100回走っても100回勝てるほどの歴然とした力の差があった。
エステバン・チャベスも小兵ながらスプリント力に優れ、イル・ロンバルディアではリゴベルト・ウランとディエゴ・ローザとのスプリント勝負を制することが出来た。
少しタイプは変わるが、2015年ブエルタ・ア・エスパーニャで第20ステージまでマイヨロホを守ったトム・ドゥムランもそうだ。TTスペシャリストというベースの力に加えて、クライマーに匹敵する登坂力を示したことで、あわやグランツール総合優勝が見えたのだった。
これからの時代は、登坂力・スプリント力・TT力と言ったベースの力に加えて、プラスアルファでもう一つ突出した能力を持ち合わせることが、トップ選手に欠かせない要素かもしれない。
だが、一般的に登坂力・スプリント力・TT力はそれぞれ必要な筋肉や身体の動かし方が違うとされ、登坂力を伸ばせばスプリント力が落ちると言った、三律背反の関係にあるとされていた。
トレーニング方法の進化、身体学の追求によって、2つないし3つの能力を平均以上に高めることが出来るようになったのかもしれない。
とはいえ、”本当に”登れるパンチャーはまだまだ希少種だ。マッカーシーには、希少種として自身の価値を活用していく道筋が見えたのではないだろうか。
だが、マッカーシーの本当の得意分野は登りでもスプリントでもない?
ジェイ・マッカーシーのことを書くにあたり、過去の戦績を事細かく調べていた。
2015年までは、ほとんどステージレースに出場していたのだが、2016年はワンデーレースへの出場が多かった。特に春先のベルギーでのクラシックレースを中心に走っていた。
ティンコフの一員として、オムループ・ヘット・ニュースブラッド、クールネ〜ブリュッセル〜クールネ、ストラーデ・ビアンケ、ドワーズ・ドア・フラーンデレン、E3・ハーレルベーケ、アムステルゴールドレースなどに出場していた。
成績はそれぞれ、53位、DNF、13位、DNF、63位、DNFとなっている。完走したオムループ・ヘット・ニュースブラッド、ストラーデ・ビアンケ、E3・ハーレルベーケには、ある共通点が3つあるのだ。
1つ目は、石畳やダートなど悪路を走るレースであることだ。登れるパンチャーと思いきや、クラシックスペシャリストとして悪路への耐性・適性の高さを感じさせる。
2つ目は、どのレースにもペーター・サガンが出場していることだ。つまり、マッカーシーはサガンのアシストとして期待され、これらワンデーレースに出場しているのだ。
3つ目は、どのレースでもチーム内で2・3番目に良い成績を残していることだ。オムループではサガン2位、オスカル・ガット18位、マッカーシーは53位。ストラーデ・ビアンケではサガン4位、マッカーシー13位だ。E3・ハーレルベーケではサガン2位、オスカル・ガット41位、マッカーシー63位だった。
ティンコフの解散に伴い、サガンがボーラ・ハンスグローエに移籍するにあたって有力なチームメイトを引き連れていった。その一人がマッカーシーであったが、求められる役割はグランツールでの山岳アシスト要員ではなく、クラシックレースでサガンをアシストすることではないだろうか。
なお、マッカーシーに次いで完走順位が高めだったマチェイ・ボドナールもボーラに移籍した。一方でサガンの第1アシストを務めていたオスカル・ガットはアスタナに移籍した。代わりに、BMCレーシングからクラシックスペシャリストのマルクス・ブルクハートを獲得している。
春のクラシックレースでは、サガンをボドナール、ブルクハート、マッカーシーがアシストすることになるだろう。マッカーシーの本領は、石畳や砂利道、激坂の上で発揮されることだろう。
登れるパンチャーに加えて、クラシックスペシャリストの特性も手にすることが出来れば、更に希少種としてマッカーシーの価値は高まることだろう。
クラシックレースでのマッカーシーを、是非とも注目していただきたい。
Rendez-Vous sur le vélo…