サイクルロードレース界は、8月1日から移籍市場がオープンする。
シーズンの真っ只中でも、来シーズンの契約を正式に締結し、発表することができるのだ。
今年も早速、有力選手の移籍が次々に発表されている。
中でも、ビッグニュースだったのはツール・ド・フランスでステージ2勝&山岳賞を獲得したワレン・バルギルの移籍だろう。
かねがね噂されていたとは、良好な関係を築いていたように見えたワールドチームのチーム・サンウェブを離れ、プロコンチネンタルチームのフォルトゥネオ・オスカロへの移籍を発表したのだ。
バルギルにとって、フォルトゥネオの本拠地であるブルターニュ地方は地元であり、プロデビューを飾ったチームでもある。
しかし、それだけの理由でわざわざプロコンチームに移籍するとは思えない。
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なぜ、バルギルはフォルトゥネオへの移籍を決めたのだろうか。
トム・デュムランの存在
真っ先に思い浮かぶことは、ジロ・デ・イタリア総合優勝を果たしたトム・デュムランの存在だ。
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圧倒的なTT力を持ち、ナイロ・キンタナを打ち負かせる登坂力を持ったデュムランは、打倒クリス・フルームの最有力候補だといえよう。
来シーズン、フルームの4連覇を阻むべく、デュムランはツールに出場することが予想される。
もう一人のチームの顔であるマイケル・マシューズもツールへの出場が濃厚だ。
マイヨヴェール2連覇を狙って、ペーター・サガンと真っ向勝負を挑むことだろう。
2人のエースがいる上に、3人目のエースとしてバルギルが出場する枠は取りづらい。
なぜなら、来シーズンからグランツールは1チーム8人体制となるからだ。
デュムラン、マシューズ、バルギルが出場するとなると、アシストは5人となってしまう。
もし仮に、マシューズを外してバルギルがメンバーに入ったとしても、自由に動けるわけではない。
少なくとも総合はデュムランが最優先され、バルギルが逃げに乗っても前待ち作戦や集団の足止めを命じられる機会も増えそうだ。
だが、フォルトゥネオならば、地元のスター選手としてバルギルが絶対的エースとして君臨することが可能だ。
逃げに乗ろうが、ステージ優勝を狙おうが、総合上位を狙おうが、バルギルの意思が最優先させるに違いない。
サンウェブは良いチームだったが、デュムランがいる以上は、バルギルの天下になることはないだろう。
自分にとってベストな走りができるチームとして、フォルトゥネオを選んだことは筋が通っている。
フォルトゥネオがツールに出場できる保証はない
フォルトゥネオは、ブルターニュ・セシュ時代の2014年から4年連続してツールに出場している。
地元フランスのチームで、かつ前回大会の山岳王でもあるフランス人選手がエースならば、再びワイルドカードで出場する可能性は高いだろう。
とはいえ、同じフランスのプロコンチームであれば、デルコ・マルセイユ・プロヴァンス・KTMもいる。
今年のワンティ・グループゴベールや、昨年のボーラ・アルゴン18のようにフランス外のプロコンチームの出場も恒例となっている。
運営組織は違うが、ジロでは4つのワイルドカードのうち2つは外国籍チームに割り当てられた。
ツールと同じASOが運営するブエルタ・ア・エスパーニャに至っては、4チーム中スペインチームはカハ・ルラルの1チームのみだ。
だからこそ、来シーズンもフォルトゥネオがツールに出場するとは限らないのだ。
だが、フォルトゥネオが確実にツールに出場できる方法が一つある。
それはワールドチームへ昇格することだ。
ワールドチームであれば、3つのグランツールに自動的に出場権が与えられる。
毎年、シーズンオフにUCIによってワールドチームライセンスの発行が検討される。
その際に、重要視されるのが所属選手の持つワールドツアーポイントだ。
プロコンチームがワールドチームに昇格するためには、ワールドツアーポイントを持つ選手をたくさん獲得する必要がある。
言い換えれば、多額の資金が必要なのだ。
果たして、フォルトゥネオに潤沢な資金があるのだろうか。
フォルトゥネオ・オスカロの”オスカロ”とはどんな会社か?
ツール第1ステージの直前に、フォルトゥネオ・ヴィタルコンセプトから”フォルトゥネオ・オスカロ”へのチーム名変更が発表された。
チームプレゼンテーションにはヴィタルコンセプトの名が入ったジャージで登壇していただけに、突然の変更だったように見える。
オスカロ社の援助次第では、来シーズンのワールドチーム昇格も現実的になる。
オスカロ社は、フランス・パリに本社を置く企業だ。
主な事業は自動車部品専門の通販サイトの運営であり、2016年度の売上高は320百万ユーロ(≒416億円)だった。
自動車部品に特化したAmazonのようなネットショッピングサイトといえば、イメージしやすいだろう。
フランス、スペイン、アメリカで事業展開し、2016年4月からベルギーへも販路を広げた。
こちらのアメリカ版サイト(http://www.oscaroparts.com/)を見てみると、自動車の製造年・メーカー名・車種などから、対応するパーツを検索することができて、確かに便利そうである。
オスカロ社は「スペアパーツのGoogle」を目指しており、利用者が欲しいパーツにすぐアクセスできるよう工夫をこらしているとのことだ。
なお、ヨーロッパでは新車販売台数が、3年連続で増加しており、ゆくゆくは修理するためのスペアパーツの需要も増えることだろう。
今後も、販路をヨーロッパ諸国へ広げる、もしくはアジアや中東への進出も考えているかもしれない。
となると、オスカロの名をもっと世界に認知させたいはずだ。
少なくとも、自動車部品専門の通販サイトとしては、フランス国内ではすでにナンバーワンシェアを誇り、国内へのPRはそれほど必要ないと思われる。
だからこそ、ワールドチームへの昇格を狙う可能性は十分にあるのではないか。
オスカロはどこまで本気なのか
また、スポーツへのスポンサードもサイクルロードレースが初めてではない。
コルシカ島に本拠地を置く、フランスサッカーリーグのSCバスティアのメインスポンサーを務めているのだ。
ここで筆者は既視感を覚えた。
ウェブサイトを運営する企業。
世界展開を目論んでいる。
母国のサッカーチームのスポンサーを務めている。
そう、サンウェブと非常に似ているのだ。
サンウェブは、スポンサー1年目にしてジロ総合優勝、ツールでステージ4勝&ジャージ2種獲得と大成功を収めている。
広告効果は抜群だっただろう。
そのサンウェブの主力選手を引き抜いて、サンウェブ社のとった戦略をオスカロ社が真似するとなれば非常に面白い。
バルギルに加えて、BMCレーシングのアマエル・モワナールも獲得した。
モワナールの獲得は、まだまだ予兆に過ぎない。
次に再びビッグネームを獲得したとき、ワールドチームへの道が開けるだろう。
そして、フォルトゥネオ・オスカロの本気、いや”オスカロ”社の本気を目の当たりにすることになるだろう。
Rendez-Vous sur le vélo…
契約を1年残しての移籍。当然来年のツールを見据えてのことだろうと思いました。
来年のツールには今年のジロのような「ドゥムランのためのチーム」として出場するでしょうから、バルギルがチームに残ったとしてツールには出られたとしても間違いなく山岳アシストとしての出場になると思われます。
ドゥムランにとって、今年のジロで手薄だった山岳アシストにバルギルが加われたらこんな心強いことはないはずですし、バルギル自身が納得していれば献身的なアシストぶりが見られることでしょう。
しかし今年のツールの成績で、バルギルは自らが総合成績を狙えることに気付いてしまいました。
もしかしたら、ツール以前から自分が総合エースとして走りたいと思っていたのかも知れません。
しかし、それでも今年のツールでは自らの成績とは別に要所でマシューズの為に働き、チームとしての和を乱すことはしませんでした。
しかし、まだ若いバルギルですから今年は我慢出来ても来年は我慢できるか分からない訳で。
我慢できず野心を露わにしてしまえばチームはバラバラになってしまう。せっかく良い雰囲気のチームに自らが水を差すようなことをしたくない。
もしかするとバルギル自身がそう思い、移籍を決断するに至ったのではないかと推察しています。
しかしながら、移籍する先がフォルトゥネオ。ちょっと意外ではありました。
ツールでエースを務めたい選手が移籍する先に選ぶにはリスキー。管理人さんがおっしゃる通りに、来年のツール出場が確約できるチームではありません。
ワールドツアーチームへの昇格を狙ってる可能性が無いとは言い切れませんが、個人的にはそうならないと自分は見ています。
というのは、ワールドツアーチームへの昇格を狙うならば、大量の資金と共に、大量のUCIポイントを獲得してる選手を複数獲らなければいけないのです。
ワールドツアーチームの数は上限が決まってます。
今シーズン限りで一旦ライセンスが切れるチームがあるはずなのですが、(少し調べただけではそれがどこなのかは分かりませんでしたが。)そのチームが再登録に動いている場合はチームの数が上限を超えてしまうことになります。
その場合、所属選手が2017シーズンに獲得したUCIポイントの合計が多いチームが優先されます。
これはバーレーン・メリダがチームを立ち上げ、ボーラ・ハンスグローエがワールドツアーチーム昇格を狙った時を見ると分かると思いますが、かなり有力な選手を複数他チームから引き抜いており、フォルトゥネオがもしワールドツアー入りを狙うなら、バルギルとモナワールだけではUCIポイントが全然足りないことになります。
もしかするとバルギルはまだジャブ程度で、あっと驚くようなビッグネームの移籍が決まってるのかも知れません。
しかし自分はワールドツアーライセンス取得は無いだろうと踏んでおります。
では、フォルトゥネオはどうやってツールに出るのか?
バルギルもモナワールもフランス人選手です。そしてチームもフランスのチームです。
そしてツールドフランスはフランスのレースで、主催のASOはフランスの会社です。
何が言いたいのかと申しますと、、、「もしかするとバルギルが居るという理由だけでワイルドカードが獲れるだろう。」という話です。
フランスのプロコンチームに「ディレクトエネルジー」があります。
かつてはヨーロッパカー、その前はブイグテレコムという名で活動を続けていて、ブイグ時代はワールドツアーライセンスを持っていた時期もありました。
ワールドツアーライセンスを失効して以来、ずっとプロコンチームとして活動していましたが、ツールドフランスには「皆勤」です。
何故か?
自分の個人的な推察ですが、
1.地元フランスのチームではFDJに次ぐ戦力を保有して居る。
2.エースを始め、主力選手がほぼフランス人。
3.その主力選手の活躍がある程度見込める。または絶大な人気がある。
おそらく、ですがこれが選考理由です。
このチームには長年エースとしてトマ・ヴォクレールが君臨していました。
大逃げであのアームストロングからマイヨジョーヌを奪い、すぐに遅れると言われた山岳でも粘りに粘り10日間キープして以来、フランスの英雄として支持されてきた選手です。
そして「次世代のエース」としての期待を背負ったピエール・ローラン。
おそらくこの2人の存在なくしてはディレクトエネルジーのツールドフランス出場は叶わなかったでしょう。
しかし、ローランは既に移籍してしまい、ヴォクレールは引退します。
後継者としてはリリアン・カルメジャーヌが居ますが、まだ選考理由にするにはインパクトが足りないような。もう一人のエース、スプリンターのブライアン・コカールは移籍が確実視されています。
つまり、来年このチームがツールに呼ばれる理由がほとんど失われてしまったと言っても良いのです。
近年、ツールのワイルドカード選びは以前ほどフランスチーム偏重ではなくなりました。しかしいくらディレクトエネルジーを呼ぶ理由が薄れたといっても、4チーム全てを海外チームから選ぶとは考えにくいです。
フランスチームが1つ以上入ることは間違いないかと。
その1つがこれまでのディレクトエネルジーに代わりフォルトゥネオになるため、バルギルを獲得したのでは。
選ぶASO側にも、ロメン・バルデの他にもう一人くらいフランス人選手が優勝争いに絡んで貰いたいという思いは当然あるでしょう。チームとバルギルはそこを見据えて戦略を立てているのでは?(むしろ確信めいた何かがあってもおかしくないような。)
というのが自分の見解です。