2012年以降のグランツール総合優勝者を振り返ってみた。
2012年
ジロ:ライダー・ヘシェダル
ツール:ブラッドリー・ウィギンス
ブエルタ:アルベルト・コンタドール
2013年
ジロ:ヴィンチェンツォ・ニーバリ
ツール:クリス・フルーム
ブエルタ:クリス・ホーナー
2014年
ジロ:ナイロ・キンタナ
ツール:ヴィンチェンツォ・ニーバリ
ブエルタ:アルベルト・コンタドール
2015年
ジロ:アルベルト・コンタドール
ツール:クリス・フルーム
ブエルタ:ファビオ・アル
2016年
ジロ:ヴィンチェンツォ・ニーバリ
ツール:クリス・フルーム
ブエルタ:ナイロ・キンタナ
2017年
ジロ:トム・デュムラン
ツール:クリス・フルーム
このなかで、タイムトライアルをどちらかと言えば苦手とするタイプの選手は、ホーナー、キンタナ、アルの3人くらいで、あとはみなタイムトライアルを得意としている。
タイムトライアルを苦手とするクライマーによる総合優勝は17戦中4勝のみなのだ。
グランツールで勝つためには、タイムトライアル能力の高さが不可欠なのだ。
言い換えれば、タイムトライアルが不得意なピュアクライマー受難の時代だろう。
とはいえ、ホーナー、キンタナ、アルの3人は、フルームやデュムランに比べるとTTが苦手というだけで、決して能力が低いわけではない。
TTスペシャリスト的な脚質の持ち主が、高い登坂力を見せるようになったことで、ピュアクライマーが追い込まれているともいえよう。
この5年の間に、TTの距離が長い・短い、チームTTの有無、山岳TTの有無など、様々なパターンがあったが、個人TTで稼いだタイムが総合優勝に決定的な影響を与えている傾向は変わらない。
ウィギンス、フルームだけでなくデュムランの成功により、TTスペシャリストたちのグランツールレーサー転向が今後も相次ぐはずだ。
TTスペシャリスト系オールラウンダー台頭の流れは避けられないだろう。
では、今後のグランツール総合争いはTTスペシャリスト系オールラウンダーの独壇場となるのか。
わたしは、必ずしもそうとは限らないと思っている。
いや、そう思えるようになった。といった方が正確かもしれない。
この男の走りを目の当たりにしてから、考え方を改めようと思ったのだ。
ミゲルアンヘル・ロペス。
いま世界で一番上れるピュアクライマーだ。
期待されしラヴニール覇者
ロペスは、コロンビア出身の23歳の選手だ。
2014年、20歳にして若手登竜門レースであるツール・ド・ラヴニールでステージ1勝&総合優勝&山岳賞という鮮烈な活躍を見せ、アスタナへの移籍を決めた。
Embed from Getty Images
2015年シーズン、プロデビュー戦のボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでは、プロのスピードへの対応に苦しんだものの、ツール・ド・スイスでは早くも順応。
クイーンステージにあたる第5ステージで4位に入って、総合7位。
さらにブエルタ・ア・ブルゴス第4ステージで優勝し、総合4位&新人賞を獲得した。
グランツール前哨戦で、トップ選手たちと十分に張り合う非凡な登坂能力を示していたのだ。
2016年シーズンは更に飛躍を見せる。
ツール・ド・サンルイスでステージ1勝&総合4位&新人賞。
ツール・ド・ランカウイでステージ1勝&総合3位。
そして、ツール・ド・スイスでは総合優勝を果たした。まだ22歳にもかかわらずだ。
Embed from Getty Images
満を持して、同年のブエルタでグランツールデビューを飾ったものの、初日のチームTTではメカトラが発生して大幅にタイムロス。
第6ステージでは落車して負傷リタイアと全く良いところが見せられなかった。
怪我が癒え、臨んだイタリア・秋のワンデークラシックシリーズ。
ミラノ〜トリノで優勝したものの、出場した7レース中完走できたのはそのミラノ〜トリノのみだった。
さらにオフシーズンのトレーニング中に、脛骨骨折の重傷を負ってしまう。
シーズン前半に飛躍を見せたものの、後半は怪我との戦いに追われた。
2017年は、治療が長引いてしまい、レースに復帰したのは6月のことだった。
復帰2戦目、得意のツール・ド・スイスでは一時は総合10位を走り、復活をアピールしていたが、第5ステージで落車して指を骨折しリタイアとなった。
だが、わずか半月でレースに復帰すると、ツアー・オブ・オーストリアでステージ1勝&総合3位となる。
さらにブエルタ・ア・ブルゴスでもステージ1勝&総合4位の好成績を収め、いよいよ2度目のグランツールに挑んだ。
ブエルタでステージ2勝
第3ステージでトップから1分14秒、第5ステージでフルームら総合上位勢から55秒遅れるなど、第5ステージ終了時点で2分52秒遅れの総合25位と調子がいまいちな様子だった。
ところが、第11ステージで凄まじい走りを見せた。
強風が吹き荒れるカラール天文台の上りで単独アタックを決めて、ステージ優勝を飾ったのだ。
さらに、第14ステージの超級山岳ラ・パンデラでも集団からアタックして、ステージ2位。
第15ステージのシエラ・ネバダの超級山岳フィニッシュステージでは、残り25kmを残した上りの麓でアルベルト・コンタドールと共に集団から抜け出し、コンタドールを置き去りにして独走逃げ切り勝利をあげた。
Embed from Getty Images
ここまで2つの超級山岳で、誰よりも早く上りきっている選手が、ロペスなのだ。
“スーパーマン”ロペス
そんなロペスのニックネームは「スーパーマン」だ。
16歳の頃、治安が不安定な地元コロンビアでトレーニング中、自転車強盗に遭遇。
ロペスは脚にナイフを刺されながらも、自転車を守り抜いたことから、「スーパーマン」と呼ばれるようになったそうだ。
ジュニア時代のロペスはまさに「スーパーマン」のように、コロンビアの上り坂を飛び回っていた。
素質十分なロペスは、今回のブエルタでいよいよ才能を開花させたといえよう。
突出した登坂力は、フルームをして「警戒すべき相手」としてニーバリ、コンタドールと同格と見られるようにまでなった。
とはいえ、ロペスとフルームのTT能力の差はとても大きい。
実際にロペスがフルームの総合を脅かす可能性は低いだろう。
それに総合タイムが開いていたことで、逃げ切りが容認された側面もあるし、結局2つのステージでフルームから稼ぎ出したタイムは、51秒にすぎない。
まだまだ上りだけで勝ち切ることは到底難しい状況だ。
だが、それでも超級山岳2連戦で見せたロペスのスーパーなヒルクライムには、大いなる可能性を感じさせられた。
TTでタイムを稼いで勝つ時代に、純粋に上りでタイムを稼ぐ戦い方を見せるロペス。
まだ23歳ということもあり、伸びしろも十分にある。
彼の登坂能力が真の覚醒を見せたとき、TTスペシャリスト系オールラウンダーを上りでなぎ倒して総合優勝を果たす時がくるのかもしれない。
残る超級山岳はあと2つ。
第17ステージのロス・マチュコスと、第20ステージのアングリルだ。
特にアングリルは、今大会最も難易度の高い上りとなっている。
延々と勾配15%を越える区間が登場することから魔の山とも呼ばれる。
だが、ロペスはスーパーマンだ。
アングリルに潜む魔物を、スーパーヒルクライムで打ち倒すだろう。
ピュアクライマーの想いを背負って、戦えミゲルアンヘル・ロペス!
Rendez-Vous sur le vélo…
ピュアクライマーがTTスペシャリスト系オールラウンダーを打ち破る姿は、見てみたいですよね。
今ブエルタのロペスの走りには、仰る通り希望を感じます。
個人的にも大注目な選手なので今後の活躍がさらに楽しみです。
ベルナルも同じように活躍してくれるといいですね。
珠洲さん
総合争いに限らずですが、自分の長所を存分に活かした勝負を見たいなと思います。
それに、ロペスはイェーツ兄弟やチャベスほど、TTが遅いわけではなさそうですし笑
ベルナルも楽しみですね!
来年のスカイの若手は、やっぱり楽しみです笑
TTスペシャリストがグランツールの総合争いの中心に居る。それはおそらくミゲール・インデュラインの時代から始まってると思います。
20年以上自分が観てきた中でもジロ、ツールを制したピュアクライマーは管理人さんが挙げた以外にイヴァン・ゴッティ、マルコ・パンターニ、ミケーレ・スカルポーニくらいです。
一方、ヴェルタだけ見るとアンヘル・カセッロ、アイトール・ゴンザレス、そしてロベルト・エラス(なんと4勝!)と、スペイン人クライマーが多く勝ってます。
これはヴェルタが「スペイン人のためのレース」と言われたくらい各チームが所属するスペイン人選手を多くメンバーに入れてくるため、参加するスペイン人選手の割合が多く、そしてスペイン人以外の選手がヴェルタで勝つことをあまり本気で考えて走っていなかったこともあります。
スペイン人以外からはジロやツールと比べて格下に見られていたとも言えますが、2006年のヴィノクロフの優勝から、しばしばスペイン人以外の総合優勝者が誕生してます。
また、他の二つのグランツールと比べて山岳の比重が大きいコースレイアウトで、特に激坂が多く含まれる傾向があり、TTスペシャリスト系よりも激坂スペシャリスト的なクライマーが有利ということもあったかも知れません。
近年のヴェルタはさすがに以前よりはバランスの取れたレイアウトですが、それでも山岳の比重はツールよりも大きいように見え、ピュアクライマーが活躍する余地はかなりあると見て良いと思います。
さて、今回のミゲール・アンヘル・ロペス。自分からすると「久々のスペイン人ピュアクライマー」の台頭か!と。
山岳の多いスペイン、バスク地方出身者を中心に多くの優れたクライマーを輩出しています。
それでも近年活躍するのはクライマー系オールラウンダー。アレハンドロ・バルベルデ然り、イサギーレ兄弟然り、ヨナタン・カストロビエホ然り。強いてピュアクライマーと呼べるのはミケル・ランダくらいでしょうか?
グランツールの総合優勝を勝ち取るために必要なものは登坂力とTT能力と強力なアシスト。その全て揃わなければ難しい時代になりました。
強力なクライマーが山岳で一人飛び抜けて後続を1分2分引き離して山頂ゴールへ飛び込む。かつてグランツールの山岳ステージでしばしば見られたそんなシーンは、個の力ではなくチーム力でレースを動かす今の時代、ほぼ不可能になってしまいました。
しかしロペスの山岳での走りは、「もしかすると…ひょっとしたら」と思わせてくれる雰囲気があります。
そしてプロトン随一のファイター、コンタドールのアタックに同調して動ける勇気は近い将来のスター選手を予感させます。
今年のヴェルタのこの後の超級山岳で、スカイのアシストを崩壊させたロペスが、ただ一人飛ぶように激坂を登り後続に分差をつけて単独でゴールへ飛び込むシーンが観られるのかな?と期待している自分なのです。
いちごうさん
コメントを読んでいて、ブエルタはピュアクライマー向けのグランツールとして、ツールやジロとの住み分けをしてほしいなと思いました。
自分は、ツールでスカイが見せているような、組織だって総合優勝を狙いにいくスタイルは好きですし、今のルールのなかで最大限の努力とアイデアの賜物だといえましょう。
一方で、一番上りに強い選手は誰なのか競う場もほしいいと思います。
それは、フレーシュ・ワロンヌとかワンデーではなく、ステージレースの方がいいので、ブエルタにはクライマーの頂点を決める大会としてより磨きをかけていってほしいななんて思います。
ともかく、ロペスには期待です!
コロンビアは、キンタナ、チャベス、ロペス、ベルナルと次々と良い選手が輩出されて楽しいですね。