いよいよ集団は、決戦の地ラルプ・デュエズに到達。登坂距離13.8km・平均勾配8.1%の今大会最後の勝負どころである。
集団のリーダーチームであるチームスカイが引き続きコントロールしていた。先頭ではトーマス・ピドコック(イギリス)がペースメイクを行い、集団の絞り込みをかけていく。
仕事を終えたピドコックに代わって、ケニー・エリッソンド(フランス)が強烈なペースアップを開始。すると、43歳のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスターチーム)がたまらず遅れを喫してしまった。
フィニッシュまで残り7km地点、今シーズン、モビスターへ電撃移籍を決めたエガン・ベルナル(コロンビア)が満を持してアタック。猛烈な加速で一気に集団を引き離した。
この動きに反応したのはマイヨジョーヌを着るタオ・ゲオゲガンハート(イギリス、チームスカイ)だった。1分6秒遅れの総合3位につけているパヴェル・シヴァコフ(ロシア、アスタナプロチーム)も食らいつく。昨年大会に総合優勝したトム・デュムラン(オランダ、チームサンウェブ)はここで脱落。早くも総合上位3選手による三つ巴の戦いに持ち込まれた。
22秒差の総合2位につけるベルナルだが、残り5km地点でマイヨジョーヌグループとのタイム差は30秒まで開いていた。2年ぶりの総合優勝に向けて、快走を見せていたが、ここからマイヨジョーヌが驚異の追い上げを見せる。
残り4km地点でゲオゲガンハートはシヴァコフを振り切ると、単独でベルナルを追走。2人のタイム差は徐々に縮まり、残り1kmのフラムルージュが見えるポイントでとうとうベルナルの背中を捉えた。
後がないベルナルは、アタックを試みるもののゲオゲガンハートを振り切ることはできない。すると今度はゲオゲガンハートがカウンターアタックを仕掛けると、ベルナルは反応できず。
勝利を確信したゲオゲガンハートは右手を突き上げながらフィニッシュ。自身初のツール・ド・フランス総合優勝を決定的なものとした。
以上は「5年後のツール・ド・フランス」と題した筆者の妄想である。
当初は、チームスカイの絶対的エースに君臨するベルナルを、ゲオゲガンハート、シヴァコフ、そしてベテランになったエリッソンド、イギリス期待の新星ピドコックといったメンバーが支えるみたいなストーリーを思い描いていた。
しかし、ゲオゲガンハートのことを考えれば考えるほどに、アシストに収まる器ではないと思い至ったのだ。それはシヴァコフも同様である。
となると、チームスカイに3人ものリーダーを擁する状況はいつか破綻すると思い、ベルナルはナイロ・キンタナの後釜としてモビスターへ。シヴァコフはロシアとゆかりのありそうな(カチューシャではなく)アスタナへ移籍させた方が、自分のなかではリアリティのあるストーリーになった次第である。
ツアー・オブ・カリフォルニア、クリテリウム・デュ・ドーフィネの走りを見たことで、筆者のゲオゲガンハートに対する認識は、チームスカイの有望若手選手から未来のグランツールチャンピオンへと変わったのだ。
初期はパンチャー寄り、今はTT力が向上したオールラウンダー
まずはゲオゲガンハートのキャリアを少し振り返ってみたいと思う。
・2013年(18歳)
パリ〜ルーベ・ジュニア3位
ツアー・オブ・イストリア(ジュニア)総合優勝
ジロ・デッラ・ルニジアナ(ジュニア)総合優勝
・2014年(19歳) ビッセル・ディベロップメントチーム(現ハーゲンズベルマン・アクシオン)に加入
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュU23(1.2U)3位
ツアー・オブ・カリフォルニア(2.HC)総合75位
ツール・ド・ラヴニール(2.Ncup)総合10位
ツアー・オブ・ブリテン(2.HC)総合15位
・2015年(20歳)
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュU23(1.2U) 3位
ツアー・オブ・カリフォルニア(2.HC)総合13位、新人賞2位
USAプロチャレンジ(2.HC)総合7位、新人賞
・2016年(21歳)
トロフェオ・ピーヴァ(1.2U)優勝
ツアー・オブ・カリフォルニア(2.HC)総合12位、新人賞2位
ツール・ド・ラヴニール(2.Ncup)総合6位
・2017年(22歳) チームスカイに加入
ツール・ド・ヨークシャー(2.1)総合8位
ツアー・オブ・カリフォルニア(2.WT)総合8位
ツール・ド・スイス(2.WT)総合14位
・2018年(23歳)
ツアー・オブ・カリフォルニア(2.WT)総合5位
クリテリウム・デュ・ドーフィネ(2.WT)総合13位
まず、目につくのがワンデーレースで良い結果を残していることだ。ドーフィネでのゲオゲガンハートの走りぶりを見る限りではクライマーに見えるのだが、キャリア初期の頃はパンチャー的な脚質も持ち合わせていたことがわかる。
2014年ツアー・オブ・ブリテン総合15位は、10代の成績としてはHCクラスに昇格後最上位の成績である。
そして2014年以来毎年出場しているカリフォルニアでは、年々成績を向上させ、今シーズンは総合優勝したベルナルのアシストをしながら自身も5位に入った。
それよりも注目ポイントは、個人TTの成績である。2014年以降の個人TTステージの順位、レース距離、平均スピード(トップタイムのスピード)は次のようになっている。
2014年:80位、20.1km、45.395km/h(51.760km/h)
2015年:17位、10.62km、48.579km/h(50.908km/h)
2016年:22位、20.3km、47.362km/h(50.192km/h)
2017年:23位、24km、48.841km/h(50.615km/h)
2018年:3位、34.7km、50.391km/h(51.050km/h)
このように今年から急激にTT能力の向上が見られたのである。
ゲオゲガンハートのヒルクライムでの走り方は、基本的にシッティングのまま高回転でハイペースを刻むスタイルである。いわゆるペース走行と呼ばれるような、TTスペシャリストたちによく見られる走り方である。
ベースとなるTT力が向上したことで、高速ヒルクライムが可能になったのだ。
かつてのツールで、フルームの前をひいていたゲラント・トーマスのように、ドーフィネではトーマスの前をゲオゲガンハートがひいていた。
さらに遡れば、フルーム自身もブラッドリー・ウィギンスのために前をひいていた選手である。
初グランツールはブエルタか
ツールへの出場の期待感も高まったゲオゲガンハートだが、今シーズンはツールへの出場はないとのことだ。そのかわり、8月のブエルタ・ア・エスパーニャへの出場が最大の目標となっているそうだ。
ブエルタに出場するチームスカイのグランツールレーサーというと、ミカル・クウィアトコウスキーとダビ・デラクルスが有力であるが、絶対的エースとはいえないだろう。そしてフルーム、プールス、トーマス、ベルナルが出場する可能性は低い。
となると、ゲオゲガンハートは誰かのアシストというよりは、自身の総合成績を狙える立場にあるといえよう。
なお、フルームが最初に台頭した2011年ブエルタのときは26歳だった。同様の躍進を23歳にして初グランツール出場となるゲオゲガンハートに期待するのはさすがに酷な話かもしれないが、それだけの可能性を秘めているともいえよう。
逸材はベルナルだけじゃない。タオ・ゲオゲガンハートこそ、フルームの真の後継者になり得る逸材ではないだろうか。
Rendez-Vous sur le vélo…
引っかかりました(笑
リアリティある想像ですね!
ゲオゲガンハートは去年くらいから記事にたまに載っていたよう気がします。
最初はクネースのような平坦が得意で登りもある程度こなせる選手かと思ってました。
まだ23歳なんですね。これから注目したいと思います。
ヤマカツさん
ありがとうございます!
去年のハンマーシリーズから知名度がグッと上がってきた印象を受けます。
発展途上にある若手選手は脚質がハッキリしないこともあるので、突き抜けた結果を出すまではこういう選手!と思い込むと良くも悪くも裏切られることが多いかもしれませんね。
バルベルデの年齢が間違えてると思います!
5年後の創造のお話なので、43歳で間違い無いと思います。今が、38歳なので。
本当に43歳まで走っていたとすれば、人の子ではないですよね笑
匿名さん、つーじさん
おっしゃる通り、仮定の話なので一応43歳で文脈上は合っていると思います笑
ダビド・レベッリンという選手は今年47歳になりますが、未だに公式レースで勝利しているようなとんでもない化け物です!
https://www.procyclingstats.com/rider.php?id=135457
ただ、バルベルデがもし43歳でツールの総合上位に入ったら、それこそ本当に驚くべきことだと思います。
タオ、ツール不出場ですかあ。
残念です。プールスのような高速牽引期待していました。
スカイは、ツールのメンバーどのゆなものになるんでしょうか。
個人的には、フルーム、トーマス、タオ、エリッソンド(ベルナル)、クウィアトコウスキー、モズコン、ロウ、カストロビエホかなと思っていたんですけど
ハウエルさん
スカイとしても、グランツール初出場の若手2人を連れて行くことはリスクがあると考えたのかもしれませんね。
フルーム、G、クウィアト、プールス、モスコン、ベルナル、ファンバーレが今のところ暫定メンバーとして名を連ねていて、あと1人はルーク・ロウかカストロビエホかなあと見ています。