何度もダウンを喫し、ヘロヘロになりながらも何度も立ち上がり、結局KO負けを喫するボクサー。
箱根駅伝で、必死に食らいついて食らいついて走るも、最後は遅れてしまうランナー。
かと思えば、横綱とがっぷり四つに組んでから、押し出しで勝ってしまうような番狂わせを演じる力士。
いずれも、劇場型のスポーツ選手と言えましょう。
ジュリアン・アラフィリップ、24歳。この男ほど、ドラマチックに走るライダーはいないでしょう。
グランプリ・シクリスト・ド・ケベック
9月9日にグランプリ・シクリスト・ド・ケベック(以下、GPケベック)という、ワールドツアーのレースが行われました。
開催地は、カナダ国内で唯一フランスを公用語としている、ケベック州のケベックシティです。
スポーツ文化もフランスの影響を受けて育まれてきたかと思いきや、アメリカの影響を思いっ切り受けていて、アイスホッケー・アメフト・野球・モータースポーツなどが盛んです。
ちなみに、世界最古の自転車ロードレースが行われたのは1968年にフランス・パリ郊外のサンクルーで行われたレースだと言われています。
GPケベックと、2日後に開催されるGPモントリオールがカナダで開催されるようになったのは、ごくごく最近の2010年のことです。
フランス語を母国語とする移民がケベックに住み始めたのは、17世紀のことで世界最古の自転車レースが行われた時代より200年近くも昔の話です。
カナダのケベックは、フランスにルーツを持ちつつも、独自の文化を育んできたと言えましょう。
さて、GPケベックでもフランス人選手の人気は高く、ブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)、アントニー・ルー(フランス、FDJ)、そしてジュリアン・アラフィリップも注目を集めていました。
レースは、残り40km地点で逃げ集団を吸収すると、カウンターでルーク・ロウ(イギリス、チームスカイ)が飛び出しました。
これを追って飛び出したのがジュリアン・アラフィリップです。
ルーク・ロウとアラフィリップの2人で集団から20秒以上のリードを築きます。
アラフィリップはGPケベックのような登り基調のスプリントに合う脚質を持った選手で、エースナンバーを背負って走ります。
にもかかわらず、残り40kmを残して飛び出しちゃうあたりが非常にアラフィリップらしいです。
ルーク・ロウと二人でローテーションしながら逃げますが、残り27km地点でメイン集団に吸収されます。
さすがにワンデーレースで、2人で大集団を引き離して40kmを逃げ切るのは至難の業で、レース展開としては全く不思議なことではありません。
その後も、集団から誰かが飛び出して吸収するということを繰り返しながら、最終周回でペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)のために集団牽引していたティンコフの選手が、仕事を終えます。登り坂に入り、集団のスピードが緩んだ瞬間にアタックを仕掛けた選手が、アラフィリップでした!
残り3km地点で、アラフィリップの飛び出しに、チームメイトのマッテオ・トレンティン(イタリア、エティックス・クイックステップ)とジャンニ・モスコン(イタリア、チームスカイ)が反応します。
レース中盤に10km以上逃げた脚で、ゴールスプリントに向けて激しく動く集団からリードを築くほどの脚を残しているアラフィリップもアラフィリップですが、それを最後のスプリントには取っておかずに、残り3kmで使うあたりもアラフィリップらしいと言えばアラフィリップらしいです。
このアラフィリップのアタックは、結果的に追いかけてきたトレンティンのアシストをするような形になり、またメイン集団内にいたペトル・ヴァコッチ(チェコ、エティックス・クイックステップ)の間接的なアシストにもなる動きとなりました。
さすがに逃げ切るだけの力は残ってなく、残り1km地点で吸収されると、今度はリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール)がタイミング良く飛び出します。
集団から4〜5秒のリードを築いて、最後の緩やかな登りストレートに突入していくと、後方からペーター・サガンが猛加速して来ます。
サガンの背後には、リオ五輪金メダリスト・フレフ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)がマークしますが、サガンの加速には敵わず、サガンが優勝しました。
それでも、わたしはアラフィリップの走りを賞賛したい
2度にわたるアラフィリップのアタックは、いずれも無謀とも言える走りでした。
結果的に、ペトル・ヴァコッチが9位に入りましたが、3位アントニー・ルー、4位アルベルト・ベッティオル(イタリア、キャノンデール)、6位ネイサン・ハース(オーストラリア、ディメンションデータ)というあたりと比較すると、アラフィリップの方がスプリント力で優っていたはずです。
冷静にレースを進めれば、最後のスプリント勝負でトップ3くらいは狙えるはずなのですが、アラフィリップはそうはしません。
物凄い調子が良い時は、ツアー・オブ・カリフォルニアのように、クイーンステージを勝って、翌日の平坦スプリントで上位に絡むような動きが出来るように、ポテンシャルは非常に高いです。ハマった時の爆発力はとんでもない選手です。
アラフィリップなら、何かしれくれるのではないか。常に期待を持たせてくれる、1か0かではなく、100かマイナス100かみたいなハイリスクハイリターンな走りに、わたしは完全に魅了されました。
今シーズンはエネコ・ツアー、イル・ロンバルディアとワールドツアーのレースが残っていて、最後にはロード世界選手権もあります。恐らく、アラフィリップはいずれかのレースには出場するのではないかと予想しています。
シーズン残りわずかとなってきましたが、もうしばらくアラフィリップ劇場を楽しみたいと思います。
Allez Allez Alaphilippe!
Rendez-vous sur le vélo!
(執筆時間:1時間)