日曜日の夕方、何気なく大相撲中継を見ていると、好調の遠藤が、過去の対戦成績0勝6敗と全く勝ったことのない、勢との取り組みがあった。
遠藤と言えば、学生相撲で圧倒的なパワーを見せ、鳴り物入りで土俵入りした力士である。
ところが、度重なる膝や足首の故障により、ここまで期待に応えるような活躍が出来ていない。『もう遠藤は…』など囁かれる中で、かつての姿を取り戻しつつあった今場所で、天敵の勢を迎えたのだ。
この一番の結果は、これまで苦手としていた相手とは思えない一方的な相撲を取り、遠藤が勝利した。
7勝1敗の成績で中日を折り返す遠藤に対し、記者団は優勝への期待感を隠せず、遠藤は『それを聞いたら笑っちゃいますけど考えてない。体をケアしながらやっていきます』と答えた。
プロスポーツ選手に無理するな、という言葉こそ無理な話ではあるが、無理せず角界を代表する力士へと成長して欲しいと願うばかりだ。
実力と比例することなく、人気ばかりが先行してしまうプロスポーツ選手は悲惨だ。
周囲の期待に応えようとばかりして、本来の実力を発揮することなく埋没していく選手は数知れない。
24歳のジュリアン・アラフィリップへの、周囲の期待値はもの凄く高い。
逸材の登場
海外のサイクルロードレース中継を見ていても、アラフィリップへカメラがフォーカスする機会は多く、実況がその名を呼ぶ回数も決して少なくない。
今年のツアー・オブ・カリフォルニアでは、クイーンステージである第3ステージで鮮烈なアタックを決め、勝利をあげた。翌日の第4ステージでは、モータースポーツの聖地ラグナ・セカでの集団スプリントに絡んで10位でフィニッシュするなど、ヒルクライムもスプリントも何でも出来る超オールラウンダーとして、アラフィリップは実力以上の期待を一身に浴びていた。
マイヨ・ブラン候補の最右翼と目され、臨んだツール・ド・フランス。
第2ステージでは登りスプリントでステージ2位に入る活躍を見せ、マイヨ・ブランを獲得した。この時、ステージ優勝を飾ったのは、ペーター・サガンだ。
今年のサガンはあまりにも強すぎた。しかし、第2ステージに限っては、アラフィリップのスプリントも強かった。サガンがわずかに先着しただけであって、アラフィリップが負けたとは感じさせないレース内容だった。
やはりアラフィリップは強い。周囲の期待は更に膨らみ、それらは重圧となってアラフィリップにのしかかった。
第7ステージで、アダム・イェーツの決死のダウンヒルでのアタックが実り(フラムルージュが落下して激突したステージ)、アラフィリップはマイヨ・ブランをイェーツに明け渡してしまう。
第8ステージのアラフィリップは、登り坂での力強さは一切見られず、早々にグルペットに落ちてしまった。イェーツに対して、失ったタイムは25分以上。総合上位はおろか、マイヨ・ブランも絶望的になった瞬間だった。
アラフィリップは目標をステージ優勝に変え、逃げに乗って勝利を狙う。
第15ステージでは、超級山岳グランコロンビエールから、ゴールまでの下り坂で時速100キロに達しようかという猛烈なダウンヒルを見せ、先頭のラファル・マイカを猛追するが、無慈悲な神はアラフィリップにメカトラという試練を与えた。
ステージ優勝の夢がついえた瞬間であった。代わりにステージ優勝を果たしたのは、一度は下りでぶち抜いたはずのヤルリンソン・パンタノだった。
パンタノのダウンヒルが大いに注目されたステージであったが、この日の最速スピードを記録したのはアラフィリップだった。
アラフィリップはあまりの悔しさに、ゴール後に涙を流したそうだ。
第16ステージでは、チームメイトのトニ・マルティンと怒りの逃げを見せ、敢闘賞を獲得して意地を見せたが、実質的にはアラフィリップのツールは第15ステージのメカトラで終わってしまったのだ。
スポーツの世界で”たられば”を言っても仕方がないが、それでも”たられば”を考えずにはいられない瞬間がある。
もしも、第2ステージでアラフィリップがサガンに先着して、1位でゴールしていたら…と今も思う。
サガンの着順次第では、マイヨ・ジョーヌを手にしたのはアラフィリップだったはずだ。
しかし、ほんのわずかな差で、マイヨ・ジョーヌには手が届かず、マイヨ・ブランを獲得することとなった。マイヨ・ブランも名誉あるジャージであるが、目の前に手を伸ばせば届いたであるイエロージャージが、すんでのところで離れていったショックは少なくなかったであろう。
第8ステージで失速してからは、周囲の視線は同じフランス人ライダーのロメン・バルデへと移った。
バルデが山岳で安定した力強い走りを見せ、フランス人として唯一のステージ優勝をあげ、総合2位に輝いた。
ツールを走り終えたアラフィリップは、リオ五輪に出場するもメダルに届かず4位に終わった。
9月に入って、GPケベックでは果敢にアタックするも実らず、GPモントリオールでは10位。
欧州ロード選手権で、アラフィリップの優勝を阻んたのは、またしてもペーター・サガンであった。
フランスは終盤まで多くの選手を残したのに対し、スロバキアのサガンは早々にサガン単騎での戦いだった。
単騎でもうまく立ち回って、集団スプリントに持ち込んで勝ち切ったサガンはさすがの一言に尽きる。サガンが強すぎただけなのだ。
来シーズン以降も、アラフィリップの前にサガンが巨大な壁となって立ちはだかる光景が、ありありと想像できる。
アラフィリップには、総合を狙うオールラウンダーとしてではなく、パンチャーとしてサガンに真っ向勝負を挑んで欲しいと強く願う。
無茶だと言われようが、がむしゃらにアタックしてほしい。たとえ無計画であっても、勝算が無くとも。
それでこそ、『ジュリアン・アラフィリップ』だと言えよう。
Rendez-Vous sur le vélo…