サイバナ

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コラム ロード世界選2017

栄光を掴み損ねたアラフィリップ。完璧だったレース戦略を立てた名将の誤算とは?

マイヨ・アルカンシェルは、自転車競技に打ち込む選手たちにとって別格の価値を持つ。

選手たちのなかには、ファンが持ってきたアルカンシェルのレプリカジャージへのサインを、「このジャージは特別だから」と拒むことさえあるそうだ。

ツール・ド・フランス総合優勝者に与えられるマイヨ・ジョーヌよりも、断然アルカンシェルの方が欲しいと思う選手たちがほとんどだろう。

まさに夢だ。
アルカンシェルは自転車競技に打ち込む者にとって、最終目標であるといっても過言ではない。

もちろん、ロードレースだけでなく、シクロクロスやトラック競技にも、競技種目ごとにアルカンシェルは用意されている。

だが、世界への露出度を考えると、ロードレース男子エリートのアルカンシェルが、キング・オブ・アルカンシェルといっても差し支えないだろう。

その頂点に立てるものは、1人だけだ。
たった1人だけが、向こう1年間にわたって栄光のレインボージャージを身にまとうことを許される。

したがって、世界選手権は国別のチーム対抗戦の形式をとりながら、本質は個人競技に近いかもしれない。
時にチームの目標よりも個人の野望が勝ることもあるだろう。

そのなかで、フランスは『チーム』としてのレース戦略が見事に機能して、アルカンシェル獲得まで、あと一歩のところまで迫るレースを展開した。

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名将ギマールがフランス代表監督に

フランス代表監督を務めるのは、シリル・ギマールだ。
ベルナール・イノーの才能を見出し、初めてツール・ド・フランスで総合優勝に導いた際の監督だ。
さらに、ローラン・フィニョンのツール総合優勝など、監督として7回もツールを制した名将中の名将だ。

2000年代は、アマチュアクラブチームのマネジャーに就任。
アンディ・シュレクを輩出した実績を持っている。

そうして2017年6月、ギマールが新たにフランス代表監督の座に就いたのだった。
1997年のローラン・ブロシャール以来、遠ざかっているアルカンシェルをフランスに取り戻すために、白羽の矢が立った。

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70歳のギマールに求められることは、ただひとつ。
勝利という結果のみだ。

ギマールが選んだフランス代表メンバーは、

ジュリアン・アラフィリップ
トニー・ギャロパン
リリアン・カルメジャーヌ
ワレン・バルギル
シリル・ゴティエ
ジュリアン・シモン
アレクシー・グジャール
オリビエ・ルガク
アントニー・ルー

の9人だ。

昨年の世界選手権では、アルノー・デマールとナセル・ブアニのダブルエース体制といえば聞こえの良い、実質2チームに分断された状態で挑み、案の定ライバル国の横風分断作戦をもろに喰らってしまい、為す術もなく敗北。
そのため今回は「アラフィリップがエース」とギマールは名言していた。

明確な意図が感じられる人選

登坂距離1.5km、平均勾配6.4%のサーモンヒルを12回通過するコースでは、ピュアスプリンターでは生き残りが難しく、クライマーが登坂力を活かすには距離も勾配も足りない。
ミラノ〜サンレモで3位に入ったアラフィリップのような上り区間での爆発力、平坦路の独走力、そして少人数スプリントに勝ちうるスプリント力を持った選手が適任だったのだ。

アラフィリップの脚質を考えると、最終周回のサーモンヒルで集団から飛び出して、独走に持ち込んで逃げ切ることが最も勝ちやすいだろう。
勝率を高めるためには、最終周回までにライバルチームのアシスト陣をどれだけ削り取ることができるかが、重要となってくる。

したがって、アラフィリップをエースに据える場合に、ライバルチームのアシスト陣を削り取るためにはどうすれば良いかを考える必要がある。
そこで、アラフィリップと比べると爆発力には欠けるものの、アタックが得意な選手を起用することにした。

ギャロパン、カルメジャーヌ、バルギルがその任を担う。
しかも、彼らは所属チームではエース格の選手だ。
単純にアラフィリップに尽くせと命じても、機能するとは思えない。

かといって、ギャロパン、カルメジャーヌ、バルギルは、どちらかと言えばクライマーに近いパンチャーといった脚質だ。
今回のコースでの勝機は薄い。

薄いが、ゼロではない。
3人が最も得意とする少人数の逃げ切りに持ち込むことが出来れば、わずかながら勝利の可能性がある。

最終周回で強力なパンチャー陣の飛び出しについていっても、スプリントで負けてしまうだろう。
ゆえに残り2〜3周くらいの中盤から終盤にかけて、集団からの飛び出しに成功すれば、強力なパンチャーやスプリンターはついて来ないはずである。
万が一、逃げ切りが決まれば、夢のアルカンシェルを獲得できるまたとないチャンスが訪れる。

ギャロパン、カルメジャーヌ、バルギルといったメンバーの逃げは、他の強豪国にとって看過できないだろう。
そのため、アシストを使って逃げのチェックや吸収するための動きをすることになる。

つまり、ギャロパン、カルメジャーヌ、バルギルは自分の野望を優先することで、ライバル国のアシストの脚を削ることになり、結果としてアラフィリップのアシストになるのだ。

そして、残りのゴティエ、シモン、グジャール、ルガク、ルーの5人は、所属チームでアシストを務めることが多く、アシストとしてフランス代表に選ばれた誇りが、彼らのモチベーションに繋がるだろう。

完璧だったフランスのレース戦略

ギマールの選手起用はピタリとハマった。

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中盤から終盤にかけて、フランスがレースを支配していた。
常に集団前方でレース展開し、バルギルは上り区間で何度もアタックを仕掛け、集団を揺さぶった。

残り3周で形成されたティム・ウェレンスを含む8人の精鋭グループに選手を送り込むことに失敗したものの、ルーやシモンの献身的な牽きもあり、残り2周で吸収に成功する。

再びアタック合戦が活発になり、ギャロパンが集団から単独でリードを築くシーンも見られた。
相当ハイペースで周回をこなすことができたため、ライバルチームのアシスト陣は大きく人数を減らしていた。

そうして迎えた最終周のサーモンヒルで、満を持してアラフィリップが飛び出した。

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それまでに繰り広げられたアタックとは比べ物にならないほど、アラフィリップのアタックの切れ味は鋭く、あっという間に集団からリードを奪った。
ジャンニ・モズコンが追いついたことは予定外だったかもしれないが、マッチスプリントとなればアラフィリップに分がある。

多くのアシストを失っていたメイン集団では、お見合い状態に陥っており、アラフィリップの逃げ切りが決まったかのように見えた。

しかし、出場枠の少ない中堅国のエース級の選手たちの脚が残っていたため、先頭を目指してブリッジをかける動きが活発となり、再び追走のペースが上がった。

これがフランスにとって、一番の誤算だっただろう。
ベラルーシのヴァシル・キリエンカ、オーストリアのルーカス・ペストルベルガーが飛び出すシーンも見られた。

さらにコロンビアのフェルナンド・ガヴィリア、デンマークのマグヌス・コルトニールセンはブリッジに成功し、残り2kmを切った地点で先頭の2人に追いついた。

この時点で、アラフィリップの夢は潰えてしまった。
ガヴィリアとコルトニールセンが相手では、スプリント勝負の分が悪すぎた。

結果的に、イタリアのアルベルト・ベッティオールが超人的な牽きを見せて、集団スプリントに持ち込まれ、ペーター・サガンが勝利を収めた。
アラフィリップは辛うじて10位に入った。

ライバル国のアシストを削って、アラフィリップの独走に持ち込むフランスのレース戦略は完璧だった。
中堅国のエース選手たちが相当数、生き残っていたことが誤算だったが、かといってこれ以上の策は無かったようにも思える。

エリートクラスのレースシーンからは、長いこと遠ざかっていたにも関わらず、ギマールの戦略は見事だった。
来年の世界選は、獲得標高4700mとなるクライマー向きのコースだ。

クライマー系アタッカーは、フランスにとって最も選手層の厚い脚質だろう。
かといって有力選手が多く出場すると、チームがうまく機能しない。

ギマールがどのような選手起用をするか、とても楽しみだ。

Rendez-Vous sur le vélo…

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