サイバナ

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コラム ツール・ド・フランス2018

コルブレッリ「ニーバリのために集団前方をキープする動きは自分のスプリントに有利に働いている」は本当か?

ヴィンチェンツォ・ニーバリ、イサギレ兄弟、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ、そしてソニー・コルブレッリ。バーレーン・メリダのツール・ド・フランス出場メンバーは、豪華といえば豪華だが、バランスの悪さを指摘する声は多かった。何より日本のファンからすれば、新城幸也の欠場は落胆の一言に尽きる。

そうしたなかで、スプリンターのコルブレッリが2度のステージ2位に入る活躍を見せている。昨年大会はステージ6位に2度入ったことが最高順位だったことを考えると、別人のような活躍ぶりだ。

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しかも、バーレーン・メリダの出場メンバーはほとんどニーバリのためのアシスト要員ばかりで、コルブレッリのためにスプリントトレインを組むことはできない。ニーバリの総合が最優先されるなかで、コルブレッリのステージ成績は当然二の次である。

ところが、2位に入った第2ステージのレース後にコルブレッリはインタビューでは「クイックステップやボーラ・ハンスグローエのようなリードアウトトレインはないけど、ニーバリのために常に集団前方をキープするチームの動きは自分のスプリントに有利に働いている。今日も最後までニーバリが集団前方で走っているかを確認してスプリントに挑んだ。」というコメントを残した。
(※参考:https://www.cyclowired.jp/news/node/269522

確かにスプリントトレインと、総合エースの危険回避のためのトレインのそれぞれの役割は、終盤に集団前方をキープするというざっくりとした観点で共通しているといえよう。1チーム9人から8人に減った影響で、総合と同時にスプリントを狙うチームのアシストのやりくりが難しくなった。その問題を解決する策として、スプリントトレインと危険回避トレインを兼務する”相乗りトレイン”は効果的な戦術かもしれない。

だが、同時に疑問も湧き上がる。本当にそんなに都合よく機能するのだろうかと。

残り3kmを切ってからの落車に巻き込まれた選手は救済措置がとられるため、総合エースを守るトレインは残り3kmまで集団前方をキープできれば、ほぼだいたいの仕事は完了したといえよう。(もちろん中切れが発生して、後方に残されないようにするためフィニッシュまで集団前方をキープし続けることが多い)

一方でスプリントトレインはむしろ残り3kmを切ってからの位置取りが非常に重要になってくる。そして、フィニッシュに向けて一段と集団のスピードも上がるため、スプリンターに近い脚質を持った選手でないと容易に対応できない速度域で、激しいポジション争いが繰り広げられるのだ。

似ているようで違う性質を持ったスプリントトレインと危険回避トレイン。バーレーン・メリダの新戦術は、果たして本当に機能していたのか検証したいと思う。

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隊列を組むことはできず、各自でポジションを確保

まずは、コルブレッリがステージ2位となった第2ステージの位置取りを振り返ってみる。

残り8.4km地点、バーレーン・メリダの選手は集団内で散り散りになっていた。集団が縦長に伸びるほどペースが上がっているため、チームでまとまって走ることは確かに難しい状況であった。しかし、先頭に陣取るチームスカイ、集団中頃に固まるミッチェルトン・スコットやモビスターなど他の総合ライバルチームはしっかりと隊列を組んで走っている様子が伺える。

残り6.8km地点、マイヨジョーヌを着るフェルナンド・ガビリアを、コルブレッリとハウッスラーがマークしている。少なくともニーバリの前を牽いてポジションを守るような動きは見られない。

ただ、先ほどの残り8.4km地点の位置取りと比べると、全体的に集団前方に上がっていることがわかる。各々ポジションを上げていったのだろう。

救済措置が発動する残り3kmを切った、残り2.2km地点、コルブレッリはスプリントに挑むために集団最前方へ上がっていた。ハウッスラーはガビリアの背後についており、ニーバリは集団の後方に下がっていた。

この直後のコーナーで、マイヨジョーヌのガビリアを巻き込む大規模な落車が発生する。ハウッスラーは避けきれずに転倒し、コース際のフェンスに激突。ニーバリも足止めを食らっていた。

一方、落車の難を逃れたコルブレッリは単独でスプリントに参加し、ステージ2位となった。

第2ステージの映像を見る限りでは、とても「チームとしてニーバリのために常に集団前方をキープする方針」が機能しているようには見えなかった。コルブレッリは自力で好位置を確保して集団スプリントに参加しているし、ニーバリも自力でポジションを上げて落車による足止めを食らいつつも、救済措置でタイムを失わずに済んでいた。

チームでまとまって集団前方を確保する場面も

レース後のインタビューは基本的に忖度とお世辞と建前の塊のようなものであり、言葉通りに受け取ると誤解を生むことが多い。しかし、「チームとしてニーバリのために常に集団前方をキープする方針」であることは間違いないのではないかと思う。総合を狙うためには、集団が中切れを起こしてタイムを失うようなミスは避けたいはずだからだ。

そこで、次は第5ステージのバーレーン・メリダの位置取りの動きを振り返ってみる。フィニッシュ前にパンチ力のある上りが控えており、集団が中切れする恐れは、集団スプリントに持ち込まれた第2ステージ以上に大きかった。

有力スプリンターが続々と脱落した残り4.2km地点、バーレーン・メリダはチームとしてまとまりを見せていた。集団最前方にコルブレッリとニーバリの姿が確認できた。あとの2人はリザルトを見る限りでは、ポッツォヴィーヴォとヨン・イサギレと思われる。

フィニッシュ前の上りに向けて、チームスカイが猛スピードで集団をけん引して、遅れたくない総合勢とステージを狙うパンチャー勢によって位置取りの激しさが増している残り1.7km地点、コルブレッリはペテル・サガン、ジュリアン・アラフィリップの背後という絶好の位置を確保していた。

コルブレッリの少し後方にはニーバリとポッツォヴィーヴォがまとまっていたが、前を走行しているのはニーバリで、ポッツォヴィーヴォがニーバリのためにけん引している様子は確認できなかった。

いよいよ上り区間に突入間際の残り1.2km地点、コルブレッリはサガンの付き位置を確保し、5番手を走行。ニーバリもテクニカルなコーナーで巧みなライン取りを見せて一気にポジションを上げて、8番手に浮上していた。一方でポッツォヴィーヴォはやや取り残される格好となり、集団中頃に埋もれていた。

こうして、上りスプリントにコルブレッリは好位置で挑むことができた。ニーバリもスプリントに顔を出し、ステージ10位となった。

ポッツォヴィーヴォも先頭集団内でフィニッシュしていたが、いつの間にか姿が見えなくなっていたヨン・イサギレは14秒遅れのステージ40位となっていた。

このステージでは、「チームとしてニーバリのために常に集団前方をキープする方針」がしっかりと機能した展開だった。コルブレッリやポッツォヴィーヴォたちも、最も重要なラスト3kmまでにニーバリと共に好位置を確保する動きを見せていた。しかし、重要な上り区間ではコルブレッリとニーバリは連携することなく、お互いが自力で好成績を残す走りを見せた。

また、集団のスピードが上がる最終局面ではポッツォヴィーヴォやヨン・イサギレは、自身のポジション確保がままならず、ヨン・イサギレに至ってはアシストとしての動き以前に集団から千切れてしまいタイムを失っていた。

ニーバリは独力で好位置を確保できる

第6ステージでは、ラスト2kmの平均勾配6.9%のミュール・ド・ブルターニュに入ると、ニーバリは単独で好位置を確保し続け、ステージ優勝したダニエル・マーティンから3秒遅れながら、多くのライバル選手と同タイムのメイン集団内でフィニッシュ。

一方、ポッツォヴィーヴォとヨン・イサギレは集団前方をキープできずポジションを下げてしまい、トップから12秒遅れでフィニッシュした。

第7ステージではハウッスラー、ニーバリが集団前方でスプリントトレインを形成する場面も見られ、コルブレッリを好位置に引き上げていた。しかし、最終スプリントで埋もれてしまったコルブレッリはステージ12位に終わった。

◇          ◇

ということで、結論としては「ニーバリは凄い」の一言に尽きる。

チームとして「ニーバリのために常に集団前方をキープする」方針だったとしても、時速60kmに達するような高速域では、クライマー系のポッツォヴィーヴォやイサギレ兄弟はまともに仕事をすることができない。また、ポッツォヴィーヴォとイサギレ兄弟を引き上げるアシストはいないため、彼らは無意味にタイムを失う機会が多くなっている。

終盤の高速度域に耐えうるハウッスラーとコルブレッリは、ニーバリのために仕事をするというよりは、やはりステージ優勝に焦点をあてているような動きが多く見受けられる。

結局、終盤の位置取りに関してはニーバリ自身で前方をキープすることが多くなっているが、第1ステージから一貫してミスもなく無駄にタイムを失うことなく、トップから1分11秒遅れの総合16位につけている。落車などのトラブルが多い展開にもかかわらず、ニーバリの巧みなレース捌きはさすがの一言に尽きる。

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平坦・丘陵ステージでの位置取りに関しては、ニーバリは自力で対処できるため、重要な山岳ステージに強い選手を揃えたバーレーン・メリダのメンバー構成はむしろ理にかなっているのかもしれない。ポッツォヴィーヴォやイサギレ兄弟は結果としてタイムを失っており、素直にニーバリのアシストに専念しやすい土壌も整ってきた。

冒頭の「ニーバリのために集団前方をキープする動きは自分のスプリントに有利に働いているのか?」という問いに対しては、結局お互い自力で何とかしているだけなのでは?と指摘せざるを得ない。あくまでコルブレッリがステージを狙うための口実を与えた首脳陣の詭弁に過ぎないと思う。

だが、結果的にバーレーン・メリダはコルブレッリをステージ上位に送り込み、ニーバリのタイムを失うことなく、ここまで完璧に近いレース展開を見せている。詭弁も結果を残せば真理となる。サイクルロードレースの戦術は本当に奥が深い。

Rendez-Vous sur le vélo…

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