アルベルト・コンタドール移籍後初レースで見せた復調と進化の兆しとは?
2017/07/13
スペインの最南部に位置するアンダルシア州を舞台に、5日間のステージレースが行われている。
ブエルタ・ア・アンダルシア、通称『太陽のレース(Ruta Del Sol)』と呼ばれている。
とはいえ、まだ2月ということもあり、最高気温は15度前後だった。
温かい冬のような気候ではある。
第1ステージは、5つの山岳ポイントを含む、クライマー向きのコースレイアウトとなっている。
勝負どころは、ラスト30km地点から始まるモナチル・エル・プエルトの登りだ。
登坂距離は7kmほどで、平均勾配は8〜9%に達する、なかなかパンチ力のある登りである。
ここを登りきると、フィニッシュ地点のグラナダまで一気に20km弱のダウンヒルが待っている。
レースが大きく動いたのは、やはりモナチルの登りだった。
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コンタドールのアタックを契機に集団崩壊
アルベルト・コンタドールのトレック・セガフレード、アレハンドロ・バルベルデのモビスターが積極的に集団を牽引し、モナチルの登りで集団をふるいにかけていく。
一人、また一人とアシストが仕事を終え、モビスターのマルク・ソレールが牽引を終えると、集団の先頭にはコンタドールがいた。
ただ単に集団の前方にポジション取りしていただけと思われるが、ふいに前方が開けたことで、持ち前のアタッカー精神が冬眠から目覚めてしまった。
身体を揺らしながら登る独特のダンシングで激しく加速して見せた。
頂上まで5km以上残す状況でのアタックに、ライバルたちの反応は一瞬遅れたと、同時に集団は完全に崩壊した。
コンタドールにすぐに追いついたのは、バルベルデだった。
二人は協調しながら、集団を引き離そうとしたが、後方にはチームスカイが選手を揃えているとの情報をキャッチして、その脚を緩めた。
崩壊した集団からは、チームスカイのディエゴローザとワウト・ポエルス、キャノンデール・ドラパックのリゴベルト・ウラン、バーレーン・メリダのヨン・イサギーレの4名が追いついてきた。
その更に後方には、FDJのティボー・ピノとセバスティアン・ライヒェンバッハ、チームスカイのミケル・ランダ、チーム・サンウェブのワレン・バルギルなど有力選手や、ヨン・イサギーレのアシストとなるバーレーン・メリダのオンドレイ・ツィンクとハビエル・モレーノたちを含む10数名の集団が控えていた。
その小集団が先頭に追いつくと、後方から猛然と加速してカウンターアタックを仕掛けた選手が現れた。
ミケル・ランダである。
ジロ・デ・イタリアでは、ゲラント・トーマスと共にエースを務める予定のランダは、これからトップコンディションに持っていけば良い選手である。
ゆえに逃げ切るための動きではなく、ポエルスとローザのために小さくなった小集団を更に破壊するためのアタックである。
ランダの目論見どおり、せっかく追いついた小集団は再び粉々となり、コンタドールがランダの動きをチェックしつつ、その後ろにはバルベルデやローザやポエルスが続くという展開になった。
集団が小さくなると、またランダがアタックを仕掛け頂上付近まで単独で逃げる展開となった。
コンタドールたちがランダを捉える頃には、10名足らずまで集団を絞ることに成功し、その中にはポエルスとローザと二人を残すことに成功し、チームスカイにとって十分な展開となっていた。
コンタドールの周りにはアシスト選手はおらず、ランダの波状攻撃をコンタドールが自らチェックする展開になっていた。
エース自ら追わねばならない展開は辛い。
そして、コンタドールという選手は、このような状況で後手に回るような性格ではなく、力の限り前を追い続けるタイプの選手だから尚更だ。
山頂まで残り数百mというタイミングで、今度はバルベルデがアタックを仕掛けた。
バルベルデの圧倒的なダウンヒルに食らいつくコンタドール
先日のブエルタ・ア・ムルシアで70km独走勝利をしているバルベルデの脚はよく回っていた。
ポエルスやローザ、ヨン・イサギーレたちが遅れを喫するほどのキレ味を見せていた。
だが、コンタドールはバルベルデのアタックに食らいついていた。
最初に自らアタックを仕掛け、ランダのアタックを何度もチェックして、最後にバルベルデのアタックにも食らいつく。
このコンタドールの攻撃性が、多くのファンを惹き付ける要素に違いない。
モナチルを登りきると、長いダウンヒルへと突入していく。
バルベルデとコンタドールの差は、1秒ほどしか空いていなかったが、ダウンヒルが得意なバルベルデは猛烈なスピードでかっ飛んでいく。
あっという間にコンタドールの視界から消えてしまった。
だが、コンタドールはこのオフシーズンにダウンヒルを磨いていたのだろうか。
クリス・フルームがツール・ド・フランスで見せた「宇宙ダウンヒル」を披露してみせたのである。
その後、個人的には世界で最もダウンヒルが上手い選手だと思うヨン・イサギーレと合流し、コンタドールはイサギーレに遅れをとるどころか、立派にローテーションを回しながら、先行するバルベルデを追いかけた。
下り坂の斜度が緩くなるころには、バルベルデに追いつくことに成功した。
ワールドチームの70kmに及ぶ追走を振り切った、バルベルデの独走を食い止めたのだ。
ディエゴ・ローザも追いついたので、先頭はバルベルデ、コンタドール、ヨン・イサギーレ、ローザの4名となった。
先頭グループを追って、FDJのセバスティアン・ライヒェンバッハと、チームスカイのワウト・ポエルスが追いかける。
差は10秒ほどだが、先頭のバルベルデグループでは各々の思惑が異なり協調が取れない。
ローザは、チームメイトのポエルスが後方に迫っていることから、ポエルスと合流し数的優位に立って勝負したかった。
コンタドールは、スプリント勝負になるとバルベルデに敵わないことから、バルベルデに先頭を牽かせて消耗させたかった。
ヨン・イサギーレは、TT力を活かして集団を牽いて、後方にタイム差をつけて逃げ切りたかった。
バルベルデは、一人だけ先頭を牽く時間が長くなり消耗することを避けたかった。
というように、ローザは先頭を全く牽かず、コンタドールとバルベルデが互いを牽制し合い、イサギーレ一人が頑張って牽くような状況では、思うようにスピードが出ない。
その隙を突いて、ライヒェンバッハとポエルスが合流に成功する。
と言っても、ポエルスは先頭集団にローザがいることから、無理に追いつく必要はないので、ほとんどライヒェンバッハが牽いての合流だった。
バルベルデ、コンタドール、ヨン・イサギーレ、ローザ、ライヒェンバッハ、ポエルス。
この6名の中で最も体力を温存出来ているのは、先頭を牽いていないローザとポエルスだろう。
残り1kmを切ろうか、というタイミングで最後方からライヒェンバッハがアタックを仕掛けた。
即座にバルベルデと、またもやコンタドールがチェックして、ライヒェンバッハの独走を許さない。
この動きで先頭を牽かされていたローザが後ろに回ることが出来、バルベルデとコンタドールを先頭に釣り出すことが出来た。
バルベルデとコンタドールが牽制し合うなか、残り300m付近から最も脚を残しているポエルスがスプリントを開始した。
この動きを振り向いてチェックしたバルベルデもスプリントを開始。
後方からはライヒェンバッハとローザも勢い良く伸びる一方で、コンタドールとヨン・イサギーレは力尽きてしまう。
スプリント勝負に持ち込んだ時点で、バルベルデの勝利と言える展開であり、ライバルたちを寄せ付けることなく先頭でフィニッシュ。
好調をアピールするステージ優勝となった。
2位にはポエルスが入り、3位はライヒェンバッハ。
そして4位はローザ、5位はヨン・イサギーレとなった。
コンタドールは結局先頭集団では最下位の6位となった。
もはや見慣れた展開ではある。
コンタドールが積極果敢にアタックを仕掛けるも最終的には力を使い果たして、勝ち切れない展開を。
だが、シーズン初戦のコンタドールが、モナチルの登りで何度もアタックを仕掛け、仕掛けられ消耗した状態で、既に何レースも走っている絶好調バルベルデのアタックに唯一食らいつけた選手であったのだ。
往年のライバル勢を蹴散らすまでダンシングし続けるような強力なヒルクライムが戻りつつあるのかもしれない。
更に最近のトレンドであるダウンヒルでのアタックに対し、フルームばりの宇宙ダウンヒルを身につけていた。
昨年のコンタドールに比べると、現時点で既に進化をしているように見えた。
だが、今日のレースを勝ちきれなかった大きな要因は、登りの序盤でアシスト選手を全員失っていたことである。
そのため、ライバルのアタックを自らチェックするしかなかったのだ。
トレック・セガフレードには今日のようなレース展開で、コンタドールを支えるクライマーがいないことが、露呈してしまった。
ただ一人を除いては。
そう、バウケ・モレマがいる。
昨年のツール・ド・フランス第12ステージ、魔の山モン・ヴァントゥでリッチー・ポートとクリス・フルームのアタックに唯一ついていった男である。
今年のツールではモレマがコンタドールのアシストに回る予定になっている。
もし、今日のレースにモレマがいたら、登り口でのアタックはモレマがこなし、ランダのチェックもモレマが行い、ダウンヒルでの風除けもモレマが担う展開で、最終盤までコンタドールの力を温存することが出来ただろう。
コンタドールの爆発力は集団破壊のためでもなく、ライバル選手のアタック封じのためでもなく、己の勝利に直結する決定的なアタックのために使うべきである。
コンタドールとモレマは、当面は違うレースに出場するスケジュールとなっている。
二人が揃うレースは、恐らくツール前哨戦のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネになるのではないかと思う。
それまでは、コンタドールもモレマも、己の刃を研ぎ続けるべく勝利を目指して走るだろう。
Rendez-Vous sur le vélo…
・ブエルタ・ア・アンダルシア第1ステージ終盤の映像
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