サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム

ブエルタ2016の主役は『アルベルト・コンタドール』だったのか?

今年のツール・ド・フランスの主役は、間違いなくクリス・フルームです。

”宇宙”レベルのダウンヒルでマイヨ・ジョーヌをゲット。魔の山でのランニングマン。マイヨ・ジョーヌとマイヨ・ヴェールによる逃げ切りアタックと、レースの中心には必ずフルームがいて、誰よりも速く、誰よりも強かったです。

大会前半にはフルームにブーイングを浴びせていた観客も、終盤になるにつれそのボリュームは確実に減っていきました。

エンターテイメントを求めるフランスの観客にも、『ただ勝つだけでなく、美しく勝つ』フルームのエンターテイメント性の高いパフォーマンスに、圧倒されていました。

2016年のツール・ド・フランスの主演男優賞は間違いなくフルームでしょう。

では、2016年のブエルタ・ア・エスパーニャの主役は誰でしょうか?

山岳で圧倒的な力を見せ、マイヨロホを獲得したナイロ・キンタナか、個人TTで異次元のスピードを見せ最後まで接戦を演じたクリス・フルームか、チームの作戦がピシャリとハマって総合3位に浮上したエステバン・チャベスでしょうか?

それとも2016年のグランツール3大会全てを完走し、最後までポイント賞ジャージ争いを見せたアレハンドロ・バルベルデでしょうか?

確かにバルベルデは、今年のブエルタをいろいろと盛り上げた選手の一人なので、個人的には助演男優賞を送りたいです。

しかし、主演男優賞は”エル・ピストレロ”ことアルベルト・コンタドールに捧げたいと、わたしは思います。

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落車、アタックからの失速、マイヨロホと逃げる

思えば2016年は、今年限りでの引退を公言して臨んだシーズンでした。

春先のステージレースで、好成績を連発すると、気が変わったのか『来年も走りたい』と引退宣言を撤回します。

そうして、臨んだ7月のツール・ド・フランスでは、第1ステージからいきなり激しく落車をして、大きな擦過傷を負ってしまいます。

翌日も落車、山では徐々に総合ライバルたちに差をつけられ、第8ステージを終えてトップのフルームとは3分12秒差の総合20位と沈んでいました。

第9ステージでは、レース序盤から捨て身のアタックを見せます。

ついにコンタドールが復活のアタックか!反撃の狼煙をあげたぞ!!と盛り上がりを見せたのもつかの間、あっさりと失速したコンタドールは、そのままバイクを降りてリタイアしてしまいます。

『(リタイアして)すまんな。また会おう!』と言わんばかりの笑みとサムアップを見せていました。

最後のアタックも、コンタドールなりのエンターテイメントを見せてくれたのだと思います。

その後は、シーズン前から狙っていたリオオリンピックもパスして、ブエルタ・ア・エスパーニャに照準を合わせ、調整して来ました。

ブエルタ前哨戦、ブルゴスでは総合優勝

ブエルタ・ア・ブルゴスでは総合優勝と、仕上がりの良さを見せ、ブエルタ・ア・エスパーニャに臨みます。

しかし、案の定と言うべきか、初日のチームTTで、いきなりライバルチームから1分以上遅れ、第7ステージでは再び落車してしまいます。

その後も、山岳ステージで果敢にアタックを見せるも、結局失速してしまい、ライバルたちに抜かれるという。こうして、徐々にタイム差をつけられ、クイーンステージである第14ステージを終えて、トップのキンタナから3分28秒遅れの総合6位と、表彰台も厳しい状況に陥ってしまいました。

この日の夜、コンタドールは考えました。

『今から総合上位を狙うことは正直厳しい。けれども、このままライバルと一緒に走って行っても、ジリ貧だ。山岳で失速する姿を何回も何回もファンに見せるわけにはいかない…。』

あれこれ、思慮するなか、翌日の第15ステージのコースマップを見ていると、天啓の閃きが訪れます。

全長118.5kmと短い上に、スタート直後から細かいアップダウンが続く点に注目しました。

『そうだ!スタート直後から全開で行こう!』

とてつもない博打とも言える無茶な作戦を立案し、実行に移します。

スタート直後から全開で飛ばしたコンタドール含むティンコフ勢に対して、前日の第14ステージで非常に消耗したチームスカイとオリカ・バイクエクスチェンジは遅れを取ってしまいます。

『全力!全力!フルームが遅れた!』1)シクロワイヤード『ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第15ステージ選手コメント』よりとは、キンタナの叫び声でした。

マイヨロホの声に、反応したコンタドール含む逃げ集団のメンバーは全員で全力でローテーションしながら、後続集団とのタイム差をつけにかかります。

この渾身の逃げが実り、キンタナはフルームに3分以上のタイム差をつけることに成功し、コンタドールは総合3位のチャベスに対し、わずか5秒差に迫ることに成功し、一度は諦めかけた表彰台の座を射程圏内に捉えます。

レース後にコンタドールは『素晴らしい展開を作ることができ、ステージ優勝や総合争いに関係なくファンに楽しんでもらえたと思う。』とコメントを残しています。

自身の成績も大事ですが、何よりもエンターテイメントとしてのサイクルロードレースを見せる心意気を持ったコンタドールは、真のサイクルロードレーサーの姿そのものでした。

第19ステージの個人TTで一度は総合3位に浮上しますが、翌第20ステージではオリカ・バイクエクスチェンジのチームプレーに阻まれ、逆転されてしまい、総合4位で完走しました。

コンタドールはステージ0勝、各ジャージを1日たりとも着用することなく、得意のポーズを見せる機会は皆無のまま、今年のブエルタを終えるかと思いました。

しかし、コンタドールはスーパー敢闘賞を受賞します。今年のブエルタを最も盛り上げた選手に送られる、名誉ある賞です。

コンタドールの出身地でもある、マドリードのファンの歓声に包まれながら、表彰台に登っていた姿は、どこか誇らしげにも見えました。

サクセサーだけが主役じゃないんだぞ、と。

もちろん、総合4位という成績に満足しているはずがありません。

最終第21ステージでも、キンタナやフルーム、チャベスなど総合上位の面々と会話しようとはせず、同じく第20ステージで大失速し、総合トップ10を逃したミケーレ・スカルポーニと談笑する姿が映されていました。

第20ステージで逆転されたことは己の力不足も含め、悔しかったことでしょう。

それでも、ブエルタ・ア・エスパーニャという至高のエンターテイメントを最大限、面白く、エキサイティングに仕立てあげたのは、コンタドールです。

コンタドールの落車、失速、ギャンブルアタック、悲劇の逆転劇、全てが2016年のブエルタの『メインストーリー』になったと言っても過言ではないでしょう。

アルベルト・コンタドール33歳。

来年だけと言わず、もっともっとあなたの姿を見ていたいです!

Rendez-vous sur le vélo!

(執筆時間:40分)

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