サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム ジロ・デ・イタリア2017

ダゾーン初の日本語実況レース!ジロから始まる新しいサイクルロードレース文化とは?

ボーラ生え抜き三銃士の一人であるチェーザレ・ベネデッティ。
ボーラ・ハンスグローエの前身の前身チームであるチーム・ネットアップ設立当初のメンバーの一人である。

得意の逃げに乗って、初日の山岳賞を確定させ、マリア・アッズーラをゲット。

そして、100%集団スプリントになると思われていたステージで、ルーカス・ペストルベルガーの奇襲アタックが成功し、追いすがるスプリンターたちを振り切ってステージ優勝。
見事、大金星をあげた。

マリア・ローザだけでなく、マリア・チクラミーノも獲得し、25歳であるペストルベルガーはマリア・ビアンカも手にした。

記念すべき第100回大会となったジロ・デ・イタリアの第1ステージは、ジャージ総なめにしたボーラ・ハンスグローエの独壇場となった。

そして、この日はレースを放送したダゾーンにとっても記念すべき、初の日本語実況・解説つきのレースでもあった。

オンデマンド配信界の黒船と言われたダゾーンではあったが、歴史あるレースであるロンド・ファン・フラーンデレンを放送しないなど、既存のサイクルロードレースファンから猛烈な非難を浴びていた。

打倒ダゾーン。
J Sportsに復権あれ。
尊王攘夷を掲げる志士ように、ダゾーンを外敵と見なす風潮が大勢を占めていた。
かく言うわたしもその一人である。

しかし、ダゾーン版ジロ・デ・イタリアの放送を見てみると、文明開化の音が聞こえたかのような感想を抱いた。

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初心を思い起こさせる、木下貴道さんの丁寧な実況

本レースの実況を担当したのは木下貴道さんだ。
普段はラグビーや野球中継の実況を担当しているフリーアナウンサーであり、J Sports中継ではお馴染みの谷口廣明さんと同じ会社に所属しているそうだ。

『サイクルロードレースはテレビで数回見た程度』とのことで、サイクルロードレースの実況には初挑戦となる。

ご自身のTwitterでは、健気にチクリッシモを読んだり、コースプロフィールをプリントアウトして勉強している姿が見られた。

だが、サイクルロードレースの実況は難しい。
レース展開は複雑だし、何より瞬時に選手を判別することが非常に難しい。
極め付けは、場合によっては何時間も展開が変わらない中で視聴者を飽きさせないことが最も大変な仕事となる。

プロの仕事と比較するのは恐縮ではあるが、わたしもレース実況と題してラジオ放送をやってみたから、その難しさは身に染みているつもりだ。

レース展開が動かないレースでは、本当に喋る内容に困るのだ。
レースに詳しかろうが、詳しくなかろうが、動きがないものを見ている中で、話を広げていくことは至難の業だと痛感した。

幸いなことに、わたしの場合は視聴者(聴取者)のコメントのおかげで話を広げることが出来て、何とかそれらしい形で放送が成立していたように思える。

だが、木下さんは隣に解説の別府始さんがいるだけで、あとは全くの孤立無援である。

しかも目の前では、ほとんど動きのないレースが展開している。

そこで、木下さんはあえてレース実況が初めてであることを包み隠さずレース実況に挑んだ。
恐らく実況のオファーを受けてから、本番当日まで決して多くの時間は無かったと思われる。

そのなかでも適度に専門用語を使いながら、過去の大会での出来事や最近起きたニュースをまじえながら、最大限サイクルロードレースのことを勉強してきた成果が見える実況だった。

さらに、自分自身がレース観戦も初心者である立場を活かして、分からないことや分かりにくいところをひたすら解説の別府さんに聞くスタイルをとった。

一体どれだけ別府さんに喋らすねん!というツッコミが飛んで来そうなほどの質問攻め。
視聴歴の長いサイクルロードレースファンにとっては、もう知ってるよ。という内容のオンパレードだったかもしれない。

だが、初めてサイクルロードレースを見る人にとっては、別府さんの分かりやすい説明も相まって、非常に丁寧な初心者向けの放送だったのではないだろうか。

ダゾーンはマーケット拡大して、確固たるビジネスを築きたい

そもそも、ダゾーンはなぜ日本に進出して来たのか?
とある報道によると、日本の若年層のスマホユーザーに注目したからだと言う。

わたしは、ダゾーンやYouTubeなど、インターネット上で動画を見る場合は、Wi-Fiに接続出来る場所、もしくは光回線などを引いた自宅のPCで視聴している。

一方で20代前半や10代の若者たちは、スマホ上で全てが完結していることが多い。
スマホでネットして、スマホで写真を撮って、挙げ句の果てにスマホで論文執筆をしているという話も聞いたことがある。
フリック入力に慣れすぎて、PCでのキーボード入力が出来ない新卒もいるそうだ。

そのような若者たちは、通信量を恐れることなくスマホでYouTubeなどの動画も視聴する。

ゆえに、ダゾーンは新たに若年層を取り込むことが出来れば、今まで以上の市場規模で、動画配信業を成り立たせることが出来ると考えたのだ。

Jリーグを視聴するファンの平均年齢は高い。
言い換えれば若者はJリーグをあまり見ていない。
ゆえに、マーケット開拓の余地があるということだ。

サイクルロードレースにも同じことが言える。
わたし自身『サイバナ』を運営していて感じたことの一つが、アラフォー・アラフィフ世代と思しき方々の反響をいただく機会が非常に多く、サイクルロードレースファンには昔からファンだった人が多いのではないかと思う。

何もサイクルロードレースに限ったことではなく、Jリーグもプロ野球もファンの平均年齢が高くなっている。
つまり、新たに若年層の新規開拓・取り込みがうまく行っていないものと思われる。

これには地上波中継が少ないこと、スポーツ観戦以外に消費できるエンターテイメントが多様化していることなど、様々な要因があるだろう。

もう一つ言えることは、日本国内においてサッカーや野球に比べて、サイクルロードレースはマイナースポーツであるということだ。
マイナースポーツであるがゆえに、どうしても競技人口は少なくなるし、そのスポーツを観戦する文化も育ちにくい。

箱根駅伝では、公道を封鎖してレースが出来ているのに、サイクルロードレースとなると『警察の調整が…』『各自治体の協力が…』などの理由で、サイクルロードレース開催のハードルが高くなっている。

箱根駅伝とサイクルロードレースの開催ハードルは、傍目には同じくらいに見えるのだが、
サイクルロードレースの開催に四苦八苦するのは、ひとえに日本のサイクルロードレース文化が世間に浸透していないからではないかと思う。

一言でいえば、ファン(理解者)が少ないということに繋がる。
そのため、この先サイクルロードレースが日本で発展していくためには、新たなファンの開拓が必要不可欠だろう。

プロ野球のテレビ中継、サッカーのJリーグのように注目される機会が増えることでファンが増え、そのスポーツ選手を目指す子供たちも増える。
そうして、プロ野球もJリーグも、年々競技レベルを向上させてきたのではないだろうか。

わたしは、サイクルロードレースにも同じ道をたどって欲しいと切に願っている。

だから、ダゾーンの出番だ。
ダゾーンには、既存のファンを満足させることだけではなく、スマホ中心の生活を送る若年層という新しいファン層を開拓することに、期待を寄せている。

Jリーグでも、MLBでも、NFLでも、WWEでも何でもいい。
それらを見るためにダゾーンを契約した人々が、サイクルロードレースって何だろう?と思って、たまたま視聴したことをキッカケにハマる可能性もあるはずだ。

少なくとも、わたしはそうだった。

当時はプロ野球の試合を見たくてJ Sportsを見ていた。
夏休みの日中という暇な時間帯に、何気なくJ Sportsにチャンネルを回してみると、再放送のツール・ド・フランスを放送されていた。
ひまわり畑を走り抜ける映像の壮大さと美しさに魅了されたことがキッカケとなり、サイクルロードレース観戦にハマったのだ。

同じことが、ダゾーンでも起きないはずがない。

破壊者と言われたダゾーンは、創造者となれるのか?

実況の木下さんはレース実況が初めてだっただけでやく、サイクルロードレース観戦に関しても玄人ではない。
だからこそ、サイクルロードレースを全く知らないような人たちが見ても楽しめる中継を作ろうとしたのではないだろうか。

あまり初心者向けにしてしまうと、既存のファンは退屈してしまうのではないか?という心配はごもっともだ。

J Sportsの中継が好き!という人たちにとっては、物足りない可能性はある。
だが、一方でJ Sportsのような内輪ノリをあまり好まない人たちもいる。

両者に共通していることは、なんだかんだで日本語実況が無くとも、英語実況のみでも、そもそも中継すら無くても、この数ヶ月間はどうにか楽しんでいたということだ。

また、J Sportsのサイクルロードレース文化は、良くも悪くも成熟した部分があると思う。
ダゾーンは、サイクルロードレース実況が未経験の木下さんを実況に起用するように、完全に黎明期である。

玄人向けのJ Sports、初心者向けのダゾーン、というような棲み分けが確立しても面白いと思う。
ダゾーンはJ Sportsではないのだから、J Sportsのような中継スタイルを真似する必要はない。

いずれにせよ、2つのサイクルロードレース中継が存在することで、良い意味で切磋琢磨しあえる環境がようやく整ったのだ。

ダゾーンという黒船襲来をきっかけに、いよいよ日本のサイクルロードレース維新が始まろうとしている。
外敵・レース文化の破壊者とまで評されたダゾーンには、新たなサイクルロードレース文化を創造していくことを期待したい。

Rendez-Vous sur le vélo…

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