サイバナ

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コラム

ついに覚醒!?ディラン・フルーネウェーヘンのパワースプリントとは?

サイクルロードレースシーズンの初頭は、スプリンターが主役だ。

オフシーズンにどれだけ強度のある練習を重ねたとしても、100人以上の大集団でレーススピードで走行する経験は、本番のレース以外では経験できない。ゆえに、シーズン初頭はスプリンターが有利な平坦コースが多く、集団はまずスピードに身体を慣らすところから始めていくのだ。

今シーズン初頭のレースでは、エリア・ヴィヴィアーニ、カレブ・ユアン、フェルナンド・ガビリアなどの活躍が目立っているが、とりわけ筆者の印象に強く残ったのがディラン・フルーネウェーヘンだ。

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格闘家のようにたくましい身体つき

今シーズンはドバイツアー第1ステージとボルタ・アン・アルガルベ第1ステージで勝利をあげたが、勝ちっぷりの良さが際立っていた。それは、アンドレ・グライペルやマルセル・キッテルを彷彿とさせるような他を圧倒する凄まじい力を見せていたからだ。

丸太のようなたくましい上腕筋、隆々とした胸筋と極太の首筋、もはや格闘家のようなフルーネウェーヘンの肉体が生み出すパワーにすっかり魅了されてしまった。

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昨シーズンまでは、トップスプリンターを相手にすると、良い勝負はしてもなかなか勝ち切れない印象だった。だが、今シーズンの走りを見ている限りでは、すでにトップスプリンターに肩を並べる存在になったのだと確信を深めた。

プロ選手としてのルーツ

フルーネウェーヘンの自転車選手としてのルーツは彼の祖父にある。祖父は自転車屋を営んでおり、フレームビルダーでもあったのだ。フルーネウェーヘンの父親もまた祖父の跡をついで、オランダの首都・アムステルダムの中央駅から4kmほど南下したリヴィーレンブールト地域に現在もお店を構えている。

生粋の自転車一家にてフルーネウェーヘンは文字通り自転車と共に育ったのだ。7歳のときに、市販品ではフレームサイズが大きすぎるということで、祖父が愛する孫のためにフレームをこしらえた。そして、そのバイクに乗ってたくさんのレースに出場していたのだ。

また、フルーネウェーヘンの5歳年上の姉は17歳でプロデビューを果たした自転車選手だった。後にプロになる年上の姉と一緒にレースを走ることも多く、高い強度でフルーネウェーヘンは自分を鍛えることができたのだろう。

しかし、フルーネウェーヘンは練習嫌いで有名だった。トレーニングに出かけても30分ほどで帰宅することもざらにあった。

練習をしないフルーネウェーヘンに批判的な意見も多かったそうだが、両親はそれを咎めるようなことはしなかった。レースが好きなら、もっとレースを走ればいいじゃないか。我が子は我が道を行けばいい、とレースに出場する機会を与え続けたのだった。
(※なお、現在は毎日3時間は自転車に乗ってトレーニングしているとのこと)

5歳年上の姉を追いかけ、実戦のなかでひたすら自分を磨いたことで、いまスプリンターとしてフルーネウェーヘンの才能は大きく開花しようとしているのだ。

そんなフルーネウェーヘンのパワースプリントの勝ちパターンは主に2通りある。先行逃げ切り型と番手からの差し切り型の2つだ。

パワーで打ち勝つ"先行逃げ切り型スプリント"

先行逃げ切り型の代表例は、フルーネウェーヘンが自転車に乗り始めてからの夢だった、ツール・ド・フランス第21ステージ・シャンゼリゼで勝利したスプリントだ。

カチューシャのリードアウトを利用して、先頭でスプリントを開始。フルーネウェーヘンの番手についていたアレクサンダー・クリストフが付き切れするほどのパワーを見せ、後方から猛加速してきたアンドレ・グライペルを振り切って勝利をあげている。

もう一つの例は、今年のドバイツアー第1ステージだ。

ティモ・ローセンの好リードアウトもあり、先頭でスプリントを開始。巧みなライン取りにより、後方から迫るヴィヴィアーニをうまくブロックし、逆サイドで伸びてきたマグナス・コルトニールセンを抑えて勝利を飾った。

他にも2017年ツール・ド・ヨークシャー第1ステージも先行逃げ切り型のスプリントを披露して勝っている。

このように、先行逃げ切り型スプリントを決めるには、なるべく集団の先頭でスプリントを開始することが重要だ。しかし、先頭でスプリントを始めることは最初に空気抵抗の影響を大きく受けることとなり、最近のレース展開を見ていると必ずしも有利とはいえない。

だが、フルーネウェーヘンは物理的な不利を持ち前のパワーで補い、ライバルを振り切る走りをすることができるのだ。その凄まじいパワースプリントに惚れ惚れとしてしまう。

卓越した嗅覚とボディバランスを活かした"番手からの差し切り型スプリント"

番手からの差し切り型の代表例は、ツアー・オブ・広西第5ステージだ。


※スプリントが始まる23:17から再生

第1〜3ステージと3連勝していたガビリアの番手についたフルーネウェーヘンは、残り100mくらいになってからガビリアを抜きにかかる。サイド・バイ・サイドで競り合いながらフィニッシュ。わずかホイール4分の1ほどの僅差で勝利を収めた。

ガビリアも凄まじいパワーの持ち主であり、真っ向勝負を挑んで勝ち切ったフルーネウェーヘンのパワーには非常に驚かされた。

直近の例では、ボルタ・アン・アルガルベ第1ステージを紹介したい。


※スプリントの空撮リプレイ映像より再生。青白赤のフランスチャンピオンジャージの背後にいるロットNLの黄色いジャージがフルーネウェーヘン。

アルノー・デマールの番手をとり、デマールよりワンテンポ早めにスプリントを開始して先頭に出ると、そのままデマールを振り切って勝利した。

他には2017年ツアー・オブ・ブリテン第7ステージ2016年エネコ・ツアー第1ステージ2016年ブエルタ・ア・バレンシアナ第3ステージも同様に、ライバルチームのエーススプリンターの背後からスプリントを開始して勝利を収めている。

ライバルの番手をとってスプリントするというのは、これも単純そうに見えて難しいことである。

まず、そのライバルが必ずしも好位置を確保するとは限らないことだ。リードアウトに失敗してポジションを下げてしまったり、肝心のエースが不調でスプリントの伸びが悪くて前を塞がれる格好になるケースも多い。だが、フルーネウェーヘンは子供の時からひたすら実戦を通じて磨き上げた勝負勘を持っている。勝負に絡む選手を見分ける嗅覚に長けているのではないだろうか。

また、トップスプリンターの番手という好位置は激戦区であり、ライバルたちはお行儀よく順番に後ろに並んでくれるわけではないため、横入りしようとする相手を跳ね返すボディバランスが必要となる。

フルーネウェーヘンは格闘家のような筋肉隆々のゴツいボディを持っており、ちょっとやそっとのことでは当たり負けすることはない。たとえアシストがいなくとも、自力で好位置を確保できることが強みになっている。

頼れる相棒の存在

先行逃げ切り型と番手からの差し切り型のいずれにせよ、集団の最前方に位置取りすることが肝要である。

先に述べたように、自力で好位置を確保する嗅覚とボディバランスを持ち合わせているが、やはり頼れるリードアウトがいた方が安定して好位置を確保することができるだろう。

ここまで、フルーネウェーヘンのリードアウトを務めているローセンは昨シーズンから着実に力をつけており、ドバイツアー第1ステージで見せたリードアウトだけでなく、激坂フィニッシュの第4ステージで3位、最終的に総合7位と好成績を残した。ローセンとのコンビネーションがあるからこそ、今シーズンのフルーネウェーヘンは更なる飛躍が期待できるのだ。

また、今季から加入したダニー・ファンポッペルの存在も大きいだろう。共に同年齢のオランダ人同士、チーム内のエーススプリンターの座を巡る争いも水面下では繰り広げられていることだろう。

パワースプリントに磨きをかけ、ツール・ド・フランスで再びトップスプリンターとの争いを制することができるか。フルーネウェーヘンの走りを今後もチェックしていきたい。

Rendez-Vous sur le vélo…

※参考動画:Groenewegen: Podium of jodium

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