サイバナ

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アブダビツアー2017 コラム

アブダビツアーで、カレブ・ユアンは勝利の方程式が完成したのか?

2017/07/13

ワールドチームが共同で出資しあって設立した企業である『Velon』に注目が集まっている。
UCIや、ツール・ド・フランスなどを主催しているASOなど、既存の組織に依存しない新しいサイクルロードレースをつくろうとしているからだ。

理由はただ一つ、チームの収益性を高めて、安定的に持続的なチーム運営を可能とするためだ。
現状では、ツールに出場しても主催のASOやUCIが放映権等のうまみを根こそぎ持っていってしまうため、有名なチームであっても大口のスポンサーに依存したチーム運営を強いられている。

毎年のようにチーム名は変わり、ジャージのデザインも変わっていく。
これでは、なかなかチームに対する愛着が湧きにくい。
レプリカのサイクルジャージを買おうにも、1年後には存在していないチームとなっている可能性がある以上、売れ行きに歯止めがかかることは想像に難くない。

このような状況を改善するべく、Velonが中心となって新たなレースの開催を計画していたのだ。

その計画の具体的な姿が報じられた。
2017年6月1日から3日間のレースが開催されることが決定したのだ。

その名も『Hammer』。

この新レースの最も重要なポイントは、従来の着順で個人順位を争うものではなく、チーム単位で優勝を決めることになっている。
とことんチームにフォーカスし、チームの人気を高めていきたい意図があるようだ。

レース内容は、ハマー・スプリント、ハマー・クライム、ハマー・チェイスの3ステージにわかれ、それぞれ1周8〜10kmの周回コースでレースが行われる。
スプリンターが活躍する日、クライマーが活躍する日、TTスペシャリストやルーラーが活躍する日と、脚質ごとに活躍の場が用意されている。
3日のレースを通じて、ポイントやタイム差などで優勝チームを決めるという仕組みのようだ。

追って、詳細なレース内容等チェックしていきたいと思う。

Hammerが始まっても、スプリンター・クライマー・TTスペシャリスト等の脚質の概念は不変であろう。
いつものゴールスプリントはもしかしたら形を変えるかもしれないが、あるポイントに向かって全力でもがく動作が無くなるとは思えないからだ。

今シーズンは、ツアー・ダウンアンダーに始まったスプリンター同士によるバトルが熾烈を極めている。

ツアー・ダウンアンダーはカレブ・ユアンがスプリンターの王者となり、ブエルタ・サンフアンではフェルナンド・ガヴィリア、ドバイツアーはマルセル・キッテル、ツアー・オブ・オマーンではアレクサンダー・クリストフが最も強いスプリンターだった。

そして、アブダビツアーでは、ユアン、キッテルに加え、マーク・カヴェンディッシュ、アンドレ・グライペルが参戦した。
第一次スプリンター大戦の幕明けだった。

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第1ステージはカヴェンディッシュの勝利だったが

ドバイツアーでは不発に終わったカヴェンディッシュが、アブダビツアー第1ステージを制した。
しかし、この日はラスト1km地点でユアンとキッテルを含む有力選手が巻き込まれる落車が発生したことも影響している。

とはいえ、マーク・レンショーに発射されたカヴのスプリントは、昨年のツール4勝を思い起こさせる力強い姿だった。

第2ステージでは、前日の落車が軽傷に済んだユアンとキッテルも加わる本格的な大スプリントとなった。

ここでは、オリカ・スコットトレインが完璧なリードアウトを見せ、ユアンを先頭の好位置で発射することに成功する。
得意の超低空スプリントが炸裂した。

背後にピタリとマークしていたカヴェンディッシュを全く寄せ付けることなく、勝利を確信しガッツポーズをしかけた刹那、
ユアンがスプリントを開始した時点では8〜9番手に沈んでいたはずのキッテルが猛スパートをかけ、フィニッシュラインにハンドルを投げ込んできた。

最後まで踏み込んだキッテルが、執念の逆転勝利をあげた。

ユアンは完全に"やってしまった"格好となった。

アシストの想い、チームの想いを凡ミスで落とす

アブダビツアーの平坦ステージは、ひたすらに平坦路ではあるが、時折吹き荒れる強風からエースを守るためにアシスト陣は身を粉にして働く。
フィニッシュ地点が近づくにつれ、組織的にトレインを形成し、この日一番のパワーを出力して前へ前へとエースを送っていく。

最終リードアウトが、エースを発射する地点は、フィニッシュラインまで残り200〜300mだ。
わずか200〜300mで最高のポジションにエースを連れて行くために、153kmの平坦ステージをチーム一丸となって走るのだ。

アシストの想いを託されたエースは一心不乱にペダルを踏み込む。
そして、最初にフィニッシュラインを通り抜けたものにだけ、勝利の栄光は訪れる。

ユアンのオリカ・スコットはこのミッションを完璧にこなし、ユアン自身も完璧なスプリントを見せた、はずだった。
わずかな油断、ほんの少しの隙を見せたがために、152kmと999mは完璧なレースだったのに、最後の1mで最悪のレースとなってしまった。

1勝を失った以上に、22歳のユアンの心に深いダメージを与えたとしてもおかしくなかった。
あまりにも辛すぎる敗北だ。

最終第4ステージも集団スプリントに持ち込まれる

砂漠の国であるはずのアブダビで、まさかの大雨が降りしきるレースとなった。
アブダビの年間降水量は75mmで、この日の雨は年間降水量の3〜4分の1を占めるくらい降ったことだろう。

朗報だったのは、この日のレース会場はF1グランプリの行われるヤス・マリーナ・サーキットだった。
F1が走る路面はなめらかで水はけもよく、ロードバイクの細いタイヤでも十分にグリップが効いていたのだ。

ウェットな路面に慣れたレース後半は、ハイスピードバトルが繰り広げられ、この日も集団スプリントへと持ち込まれた。

オリカ・スコットトレインが集団の先頭を確実にキープする完璧な走りを見せ、ラスト1kmからは最終発射台となるロジャー・クルーゲに全てを託した。
細かいコーナリングの続くテクニカルなコースでも、クルーゲのスピードは落ちず、第4ステージも集団の先頭でユアンを発射することに成功した。
そのユアンの背後にはまたもやカヴェンディッシュがツキイチでマークしている。
まるで第2ステージのデジャヴだ。

ユアンの超低空スプリントと、元祖・低空スプリントのカヴェンディッシュの一騎打ちだ。
だが、ユアンは後ろを一切振り返ることなく、最短距離でフィニッシュラインをめがけて、もがいた。
横目には他の選手の存在は確認できない。
それでもユアンは力を緩めることなく、フィニッシュラインを駆け抜けた。

フィニッシュラインを越えてから、初めて自分の勝利を確認し、控えめにガッツポーズを繰り出した。

嬉しさ爆発、という雰囲気ではなく、どことなくホッとしたような表情に見える。
第2ステージの汚名返上となる勝利をあげたからだろう。

第2ステージで生涯トラウマになってもおかしくない精神的ダメージを受けたにもかかわらず、ユアンは2日後には全く同じパターンで完全なる勝利を掴んでみせた。
やらかしても挽回するメンタルの強さは、ユアンの強さをより一層高めることに役立つだろう。

ユアンの勝ちパターンが見えた

第2ステージは、実質的にはユアンの勝利であり、今大会ではユアンが最も際立ったスプリンターだったと言えよう。
キッテル、カヴェンディッシュ、グライペルを相手に実質2勝をあげたことは、賞賛に値する。

ツアー・ダウンアンダーからの一連のユアンのスプリントを見ていると、一つのパターンが浮かび上がる。

クルーゲのリードアウトから、集団先頭でスプリントを開始すると勝率100%だと言うことだ。

つまり「オリカ・スコットのリードアウト×超低空スプリント=勝率100%」という方程式が完成する。
超低空スプリントは、その低姿勢ゆえに前に選手がいる状態では発動することが出来ない。
超低空スプリントを繰り出すためには、集団の先頭でユアンを発射することが必要不可欠だ。

リードアウトはクルーゲが適任ではあるが、ダリル・インピーでもイェンス・ケウケレールでも、場合によってはマグヌス・コルトニールセンが務めても構わない。
とにかくオリカのアシスト陣は死にものぐるいでユアンを先頭で解き放つことにさえ注力すれば、ユアンの超低空スプリントを逆転しうるスプリンターはいないので勝利が約束される。

第2ステージでの手痛い敗北から得た教訓により、ユアンがゴール前で油断することは今後一切ないだろう。
勝利を目指して、最後まで超低空で踏み抜くユアンのスプリントは、ひょっとしたら既に世界最強なのかもしれない。

身長165cmの小さな巨人が、世界を席巻する日は近い。

Rendez-Vous sur le vélo…

・アブダビツアー第4ステージハイライト

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