サイバナ

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コラム ツール・ド・フランス2017

ファビオ・アル失速の原因は、自身の契約問題にあるのか?

2017/07/30

チームスカイのヴァシル・キリエンカはわずかな変化を見逃さなかった。
ファビオ・アルのボトル消費量が普段より多いことに気付いたのだ。
長年、プロトンでアシスト任務を遂行し、様々なチームからエースを守ってきたキリエンカだからこそ、ライバルチームのエースの異変をいち早く察知できたのかもしれない。

「アルは不調かもしれない。」
キリエンカが無線を通じてチームに伝達した。

ツールドフランス第14ステージは、ラスト570mの平均勾配9.6%に達する激坂が設置されていた。
激坂で集団が割れることは避けられない。
いかに前方に位置どりして、上り始めるかが大切だった。

ミカル・クウィアトコウスキーは、クリス・フルームを好位置に引き上げる役割を担っていた。
仕事を終えたクウィアトコウスキーはいつも通り、集団の後方へと下がっていこうとしたが、ふとキリエンカの指摘が頭をよぎった。

「アルはどこだ?」
少なくともフルームの近くにはアルはいなかった。
念のためアルの位置を確認してみたところ、中切れを起こした集団の後方にいることが分かった。

クウィアトコウスキーは即座に無線で「アルが遅れている!ペースを上げろ!」と伝えた。
フルームはミケル・ランダと共に、全開でペースを上げていった。

そうして、フルームは先頭から1秒遅れでフィニッシュした一方で、アルは25秒も遅れてしまった。
マイヨジョーヌは再びフルームの手に戻ったのだ。

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少なくともアルの周囲には、アシストがいなかった

これらは、レース映像と海外メディアの情報を掛け合わせて想像して書いた。
本当のところ、アルがバッドデーだったかどうかは分からない。

ただ一つハッキリと言えることは、第11ステージでの集団落車の影響で、アルにとって重要なアシストになり得たダリオ・カタルドとヤコブ・フグルサングを失ったことはとてつもなく痛手だったということだ。

アスタナの選手のフィニッシュタイムを見ていると、アルのアシストが不足していたのは明らかだった。
1分14秒遅れのアンドレイ・ゼイツ、2分18秒遅れのミカル・ヴァルグレン、この2人は終盤までメイン集団にいたと思われる。

ゼイツの背後では、ニエベがフィニッシュしており、ヴァルグレンは残り1.4kmまで集団を牽いていたジャック・バウアーと共にフィニッシュしている。
次に早くフィニッシュしたアスタナの選手は、6分28秒遅れのアレクセイ・ルツェンコまで遡られねばならない。
ルツェンコは、サイモン・ゲシュケやトマ・ヴォクレールと共にフィニッシュしており、終盤の位置取りには参加できていなかっただろうし、第9ステージでの落車のダメージもまだまだ残っていることだろう。

つまり、最も重要な残り2kmから残り500mあたりでアルは、周囲にアシストがいなかったと思われる。
この日のアスタナは、全く集団牽引をしていなかったにもかかわらずだ。

アル自身も調子が悪く、終盤のスピードが上がるメイン集団内で、前方をキープし続けることは難しかったのだろう。
止むを得ず、ポジションを落としてしまったところで中切れが発生し、なす術なくフィニッシュ地点にたどり着いたのではないだろうか。

サンウェブとアスタナ、何が違うのか?

一方、チーム・サンウェブは、決して強くはないアシスト陣が、エースのポジション取りのために全力を尽くしていた。
ジロから連戦のローレンス・テンダムとサイモン・ゲシュケに全開で仕事をさせなくてはならない状況は異常だ。
それでも、チームの要求に期待以上の結果を残し、エースのために粉骨砕身働く姿は美しかった。
決して強くはないが、チームワークと結束力は抜群に高い。

ジロ・デ・イタリアでの、トム・デュムランに対するアシストの姿勢も全く同じだ。
明らかにオーバーワークをしながらも、デュムランのために一致団結して限界以上のアシストを見せていた。

対してアスタナはどうか。
ドーフィネでは、フグルサングとのコンビネーションが素晴らしかったが、ツール第5ステージでアルの方が総合タイムで上回った時点から立場が逆転したように見える。

第9ステージでのアルとフグルサングは、1ヶ月前に全く同じ場所で絶妙なコンビネーションを見せたとは思えないほど、ちぐはぐだった。
どちらも勝利できないどころか、ボーナスタイムも獲得できなかった。

第13ステージでは、早々にアスタナのアシスト陣は崩壊し、集団牽引は他のチームに任せっきりだった。
そのため、ランダ、キンタナ、コンタドールたちの逃げ切りを許してしまい、更に総合争いで不利に陥ってしまった。

そもそも、アスタナのアシスト陣は決して弱くない。
2015年ブエルタ逆転総合優勝を果たした時のメンバーも出場している。
なのに、どことなく涼しい風が吹いているかのような雰囲気を醸し出ている。
アスタナアシスト陣が奮わない理由は、フグルサングとカタルドがリタイアしたことによる人数不足だけが原因ではないように思えるのだ。

フグルサングはアスタナとの契約を延長し、アルはまだ来季の契約は未定となっている。
一部報道によれば、アルの要求する年俸が高すぎるため、折り合いがついていないと言われている。
更にUAE・チームエミレーツへの移籍話も噂になっている。
UAEは第13ステージでアルのためにアシストしていると見られる場面もあり、また元々イタリア系チームだったため、多くのイタリア人選手やスタッフがいる。
憶測でも、割と信憑性があるような筋の通っている話に思える。

来年はもういないかもしれないエースのために、果たしてチームは一致団結して身を粉にして働けるだろうか。
もっとストレートに言えば、良い契約を引き出したいと考えるエースのために働けるのだろうか?

アシスト選手は機械じゃない。
血の通った人間だ。
いくらビジネスと言えども、この人に尽くしたい!そう感情を掻き立てる要素は必要不可欠だ。

GMのアレクサンドル・ヴィノクロフは、アルのマイヨジョーヌ獲得を無邪気に喜んでいたが、それはアルがマイヨジョーヌを獲得したことに対してではなく、チームとしてスポンサーに顔向けできる成果を上げられたことに対する喜びだったのではないかと、今は思ってしまう。

アルは再びマイヨジョーヌを着ることができるのだろうか。
状況は厳しいと言わざるを得ない。

2015年ブエルタのようなチーム力を発揮するためにも、アルは一刻も早く契約問題を片付けるべきではないだろうか。
チームの結束力を高める方法は、もはや他には残されてはいないだろう。

Rendez-Vous sur le vélo…

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