サイバナ

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コラム

ゲラント・トーマスの野心がチームスカイを『世界一のスポーツチーム』に導く

2017/03/15

2017年の箱根駅伝は青学が3連覇を果たした。3年連続で往路・復路ともに制しての総合優勝であり、圧倒的な強さを発揮している。

全国から有望選手を集め、原監督の指導力のもと、ライバルチームを寄せ付けない巨大戦力を誇るチームを作り上げている。

今年の箱根駅伝では3区で首位に立つと、7区で田村選手が脱水症状でタイムを落とすハプニングはあったものの、一度も首位の座を譲ることなく、圧勝していた。

なんだか、既視感のある光景に見える。序盤から優勢を築いて勝つ、エースがたまにハンガーノックになったり、落車したりする。そう、チームスカイと似ているからだ。

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ブレイルスフォードのビジョンは『世界一のスポーツチーム』

青学の原監督は『オリンピックでメダルを獲得するような選手を育てたい』と語っていた。駅伝で勝てるチームではなく、もっとその先の日本の陸上界の未来を見据えているのだ。

チームスカイのチーム代表を務める、デイブ・ブレイルスフォードもそうだ。「世界で最も注目されるスポーツチームのひとつとなる」ことを目指している。

2010年のチーム創設からこのビジョンは変わっておらず、ブラッドリー・ウィギンスもチーム移籍時には「サッカーのマンチェスターユナイテッド、F1のフェラーリのようなチームにする」と抱負を述べていた。

チームスカイはツール・ド・フランスで勝つことを目的としていないのだ。ツールでの勝利はあくまで『世界一のスポーツチーム』を実現する上での目標の一つである。

一つ、ブレイルスフォードの実績を紹介したい。

2002年まで、イギリスがオリンピックの自転車競技で獲得した金メダルの枚数は通算でたったの1枚のみだった。自転車発祥の国であるにもかかわらず、自転車レースに関しては後進国だったのだ。

同年、ブレイルスフォードがイギリス代表監督に就任すると、チームの状況は一変する。

2004年のアテネ五輪で金2枚獲得すると、2008年の北京五輪では18競技中8競技で金メダルを獲得する。母国開催となった2012年ロンドン五輪もイギリス代表は圧倒的な強さを誇示し、金メダル8枚獲得。2016年リオ五輪では金メダル6枚獲得と、ここ10数年はイギリスの天下が続いている。もちろん、その中心選手はブラッドリー・ウィギンスである。

イギリス国内でサイクルロードレースへの機運が高まり、2010年にチームスカイが誕生し、ブレイルスフォードがチーム代表の座についた。後の活躍は、周知の通りである。

2017年にはライドロンドン・サリークラシックがワールドツアーに昇格し、イギリス初のワールドツアーレースが開催される。さらにクリス・フルームだけでなく、アダム&サイモン・イェーツ兄弟のように、若きイギリス人選手の才能も発掘・開花されつつあり、イギリスの自転車選手の裾野が大きく広がっていきている。

ブレイルスフォードは、わずか10数年でイギリスを世界トップレベルのサイクルロードレース先進国へと引き上げたのだった。この勢い、成長は今後も続いていくことだろう。

チームスカイの強みは、何と言っても選手層の厚さ

ブレイルスフォードの次なるミッションは、いよいよ真の『世界一のスポーツチーム』を創り上げることだ。

クリス・フルームという稀代のスーパースターの存在により、フルームとの直接対決を避けるかのように、2017年はツールを避けジロに焦点を合わす選手が多いようにさえ思える。それほど2016年ツールは、フルーム擁するチームスカイは最強だった。

2017年のチームスカイは、ジロをミケル・ランダとゲラント・トーマスで総合優勝を狙う。ツールはクリス・フルームで、ブエルタはフルームとトーマスで総合優勝を狙う方針と思われる。

さらに、新加入のディエゴ・ローザとケニー・エリソンドが強力な山岳アシストとして出場し、ワウト・ポエルス、ミケル・ニエベ、セルジオルイス・エナオモントーヤ、ピーター・ケノーらも健在だ。

若手選手の発掘・育成にも積極的で、ジョナサン・ディベン、オウェイン・ドゥール、タオ・ゲオゲガンハートらを引き上げた。過去には、フルームとトーマスもそうだが、イアン・スタナード、ルーク・ロウもチームスカイに育てられた選手と言える。

補強と育成が噛み合い、これだけの巨大戦力の中で、強力なアシストに支えられ、ツール・ド・フランスの総合優勝に3度輝いたフルームを間近で見ているアシスト選手たちは、自分だってチームスカイの巨大戦力の中でなら、ジロやブエルタで勝つことが出来るのではないかと思うはずだ。

一方で、かつてチームスカイに所属していたリッチー・ポートは第一エースの座を求めて2016年からBMCレーシングに、レオポルド・ケーニッヒは2017年からボーラ・ハンスグローエに移籍してジロでエースを務める。ニコラス・ロッシュも2017年からBMCレーシングに移籍した。

ブレイルスフォードのチームスカイで実力をつけた選手たちは、ツール以外のグランツールへの出場を直訴したり、他のチームに活躍の場を求めて移籍することが相次いでいるのだ。

実際に、ランダはジロでの野望を露わにしているし、ポエルスも2016年からチームに対してジロかブエルタでエースを務めたいと直訴している。

驚くべきはトーマスがグランツールで総合優勝を狙いたいと発言したことだ。

フルームとは、2008年からずっと同じチームに所屬していて、フルームにとってトーマスは最も重要なアシスト選手だった。ツールでフルームがピンチに陥った際に、トーマスに救われたことは1度や2度ではない。フルームのツール3度の総合優勝の陰の立役者はゲラント・トーマスと言っても過言ではない。

フルームの力になることに生きがいとやりがいを見出していたトーマスに、心境の変化が訪れたのは、2016年3月のパリ〜ニースだったに違いない。

自信初のワールドツアーのステージレース総合優勝

2016年は春先からトーマスは絶好調だった。

2月のボルタ・アオ・アルガルベでは、得意の個人TTでライバルたちを引き離す走りを見せ、総合優勝を果たす。総合3位はアルベルト・コンタドールだった。

その勢いのまま臨んだパリ〜ニースでも、終始安定した走りを見せ、総合2位のコンタドール、同3位のリッチー・ポートを下して総合優勝に輝いた。

コンタドールも決して調子が悪かったわけではなく、むしろ春先のパフォーマンスの良さを受けて、引退撤回をしたほどだ。そのコンタドールに二度も勝ったのだから、トーマスの中でそれまでの自転車選手人生のなかで芽生えたことのない感情が湧き上がったとしても不思議ではない。

ツールでは、フルームの重要な山岳アシストとして常に最終盤までフルームの近くについていた。チームスカイのハイペースについていけず、脱落するライバルチームのエース選手もいるなかで、トーマスは総合15位でフィニッシュしている。

もしかして、オレはもっとやれるんじゃないか?とトーマスは思ったのだろう。

2017年、トーマスはブレイルスフォードらチーム首脳陣に直訴した。グランツールで総合優勝を狙いたいと。

トーマスの野心、トーマスの覚悟を首脳陣は受け取ったのだろう。2017年のジロとブエルタで総合を狙う走りを許されたのだ。

ジロでは、ミケル・ランダとのダブルエースになるだろう。ブエルタでは、フルームがダブルツールを狙って出場する可能性も高い。それでも、トーマスがフルームの出るツールではなく、フルームのいないジロとブエルタで総合を狙って走る覚悟を決めていることが非常に楽しみである。

ブレイルスフォードの『世界一のスポーツチーム』実現に向けて、トーマスにジロとブエルタの総合優勝の期待をかけたのだ。時は満ちたのだ。

さあトーマスよ、世界を掴め。

Rendez-Vous sur le vélo…

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