サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム ブエルタ・ア・エスパーニャ2017

横風分断炸裂!クイックステップに受け継がれしジルベールのDNAとは?

全21ステージの長丁場のブエルタ・ア・エスパーニャは、まだ始まったばかりのはずだ。
しかし、第3ステージでは総合勢による激しい戦いを繰り広げられ、早くも総合上位を狙う選手のなかで、明暗が分かれる結果が出た。

ラストレースのアルベルト・コンタドールは3分10秒遅れ、ラファル・マイカは2分53秒、ステフェン・クライスヴァイクは1分56秒、イルヌール・ザカリンは1分29秒と、表彰台が期待されるような選手たちの多くが、すでに総合1位から1分以上離されている状況だ。

逆に決して前評判が高かったとはいえないエステバン・チャベスは11秒遅れ、ダビ・デラクルスは2秒遅れにとどめている。ニコラス・ロッシュとティージェイ・ヴァンガーデレンもTTTのリードを活かして、共に2秒遅れとなっている。ツールからの連戦の疲れが不安視されていたロマン・バルデは48秒遅れ、ファビオ・アルは38秒遅れとなっているが、TTTで失ったタイムが大きかったためであり、第3ステージでは先頭集団でフィニッシュしているので、脚はよく回っているようだ。

元々総合の有力選手が20人以上いたような状況だったため、まだまだ多くの選手に可能性があるだろう。

さて、今回はその前日の第2ステージの話をしたい。

スポンサーリンク

横風の影響で逃げが決まらない稀有なレース

海岸沿い付近の道路を走るコースということと、強い横風が吹いていることから、集団は徹底的に横風分断を警戒していた。
そのため、全く逃げが決まらないまま一塊のままレースが展開する珍しい展開になる。

途中、トレック・セガフレードやカチューシャ・アルペシンなどが集団分断の動きを見せるものの、不発に終わった。
やはり、山岳重視のメンバー構成では、横風分断を決めるほどの強力なルーラーは人数が揃っていなかったようだ。

そうして迎えた最終盤。
残り3km付近で、クイックステップ・フロアーズが動き出した。

ラウンダバウトのコーナーを利用して、集団が縦に伸びる瞬間を狙ってニキ・テルプストラが一気にペースアップする。
コーナーを曲がった先は左から強風が吹き付ける横風区間だったからだ。

クイックステップの選手たちは、終盤のコースレイアウトを頭にインプットしていて、風向きの変化を計算していたに違いない。
テルプストラの動きにより、集団は大きく縦に伸びて、横風の影響をもろに受ける格好となった。

続いてジュリアン・アラフィリップが先頭で強烈な牽きを始めた。
風下にあたる道路の右側でペースアップを継続すると、ついに集団が分断された。

やはり、ミラノ〜サンレモで3位に入るスプリンターとしての実力も高いアラフィリップによる横風分断の動きは、これまでの総合系チームが試みたそれとは別格のパワーだった。

絶妙なタイミングでの仕掛けも相まって、完璧に決まった。
まるでジロ・デ・イタリア第3ステージの再現だといわんばかりの、見事な作戦である。

アラフィリップ、アシストのイヴ・ランパールト、そしてエースのマッテオ・トレンティンの3人が先頭を陣取り、このグループについてこれた選手は他に4人程度だった。
一日中、小競り合いをしていた総合系チームにはトレインを組んで前を追う力はなく、エースたちは自力での位置取りを強いられた。
スプリンターチームも隊列を組む間もなく、集団がズタズタに引き裂かれたため為す術もなかった。

アラフィリップの牽引はラスト1km付近まで続いた。
次にランパールトが前に出て、トレンティンのために牽引するはずだった。

トレンティンは「行け!行け!」と叫んだ

トレンティンとランパールトは、言葉を交わした。
恐らく、ランパールトに「前に出て飛び出せ」と指示したのだろう。

ただ、残り1kmで「前に出て飛び出せ」というからには、トレンティンのリードアウトをするという意味に捉えたのではないかと思う。

トレンティンの「行け!」の掛け声と共に、ランパールトはペースを上げて、後ろにトレンティンがついているか確認のために振り返った。
しかし、いるべきはずのエースがついてきていない。

「え?まずいよね?」と思ったランパールトは、踏む脚を緩めて、もう一度後ろを振り返り、トレンティンを見つめた。
その瞬間、トレンティンは「行け!行け!イヴ!!」と、ランパールトに全開でアタックしろという指示を送った。

ようやくトレンティンの意図を理解したランパールトは、全開でペースアップ。

残ったトレンティンは、ライバルたちの蓋になりながら、悠然とグループ内に待機した。
クイックステップの予想外の行動に、ライバルたちの追撃はわずかに遅れてしまった。

BMCレーシングのダニエル・オスが必死に前を追うものの、時すでに遅し。
ランパールトが1kmのロングスパートを決めて勝利を飾った。

Embed from Getty Images

お家芸ともいえる横風分断作戦からの、素晴らしい連携を見せたチームの勝利だ。

選手による現場判断の決断力が素晴らしい

という流れを理解した上で、こちらの動画をご覧いただきたい。

クイックステップ・フロアーズの選手たちの車載カメラの映像を編集した動画だ。
25秒付近から、トレンティンが「GO!」と声をかけ、その後「GO!!GO!!!」と叫ぶシーンが収録されている。

この動画を見てハッキリと理解したことは、あの状況でランパールトを先行させる決断を下したのはトレンティン自身であり、チームの監督ではないということだ。

恐らくチームオーダーは、「トレンティンをエースにすること」「終盤で横風分断作戦を仕掛ける」くらいだっただろう。
しかし、先頭集団に残ったライバルチームの選手たち、サッシャ・モドロ、ダニエル・オス、エドワード・トゥーンスらが脚を溜めていたことを考えると、トレンティンがスプリント勝負するより、ランパールトを先行させた方が勝率が高くなるという現場判断だったのではないかと思う。

とはいえ、トレンティンは2015年パリ〜ツール優勝、2016年ジロ第18ステージ優勝、そして今シーズンも直近のブエルタ・ア・ブルゴスでステージ1勝をあげており、エースとして十分勝利が狙える選手だった。
それに、今シーズン限りでクイックステップを退団し、オリカ・スコットへの移籍も決めている。
移籍先での立場を確保するためにも、勝利してワールドツアーポイントを土産にしたい考えもあったはずだ。

それでもトレンティンは迷わずチームの勝利を優先した。
なぜなら、今シーズンのクイックステップは、フォア・ザ・チームの精神が徹底されていたからだ。

というよりは、チームのレジェンドでもあるフィリップ・ジルベールが率先してフォア・ザ・チームとは、こういうことだ!と背中で証してくれたからだろう。

ドワルス・ドール・フラーンデレンでは、ジルベールが自ら囮となって、ランパールトを先行させる作戦を成功させ、チームに勝利をもたらした。
ジルベールクラスの選手であれば、ランパールトにアシストさせていれば、普通に勝てていただろう。
それでも、より勝率の高い作戦を迷わず選ぶことができる。
ジルベールとは、そういう選手なのだ。

だからこそ、ロンド・ファン・フラーンデレンで55km独走勝利という一見無謀に思える動きでも、それが最も勝率の高い行動だと判断し、躊躇なく実行に移せたのだろう。
もはや勝利を求める本能が為す技かもしれない。

※参考:ドワルス・ドール・フラーンデレンでのジルベールの動きについて解説した記事
フィリップ・ジルベールはクイックステップのエースではないのか?

昨年までのクイックステップは、スター選手揃いにも関わらず、歯車がうまく噛み合わず、春のクラシックでは1勝もあげることができなかった。
しかし、今シーズンは春のクラシックだけでなく、ジロとツールではチーム最多勝をあげる活躍を見せているように、どんなレースでも結果を出している。

勝利を知る男、ジルベールの加入がもたらしたものは、非常に大きかった。
特に無形の"勝利の哲学"をチームに浸透させた功績は計り知れない。

今シーズン限りで、クイックステップからはトレンティン以外にも多くの主力選手がチームを去る。
だが、ブエルタ第2ステージでのクイックステップの動きを見ていると、弱体化せず、むしろもっと強くなる可能性さえ感じた。
クイックステップの可能性は無限大だ。

Rendez-Vous sur le vélo…

スポンサーリンク

-コラム, ブエルタ・ア・エスパーニャ2017
-,