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コラム ジロ・デ・イタリア2018

ジロ・デ・イタリア2018総括〜伝説を越えた伝説の誕生は、終わりの始まりである〜

2018/06/01

サルブタモール問題。開幕前の落車負傷。山岳ステージでの失速。ゾンコランの勝利。そして、クイーンステージで80km独走。

振り返れば今年のジロ・デ・イタリアは、クリス・フルーム・オン・ザ・ステージといった、フルームによる華々しい逆転ショーだった。

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しかし、その華麗なるショーを演出したのは中盤まで総合首位を突っ走ったサイモン・イェーツであり、終始そつのないレース展開を見せたトム・デュムランの存在があってこそである。

アカデミー主演賞がフルームであれば、演出賞・助演賞はサイモンやデュムランに送られて然るべきであり、誰一人欠けても今年のジロは成り立たなかった。

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伝説誕生を目の当たりに

大会前は、もっぱらフルームとデュムランの一騎打ちに注目が集まっていた。

そして、総合3位表彰台の座を、ファビオ・アル、ティボー・ピノ、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ、ミゲルアンヘル・ロペスらが競う展開になるだろうと思われていた。

サイモンの下馬評は決して高くなかったのだ。

しかし、初日のイスラエルでの個人TTを、総合勢ではデュムラン、ローハン・デニスに次ぐ好タイムをマークすると、第6ステージのエトナ山フィニッシュではライバルを置き去りにする走りを見せマリアローザを奪取。

「ジャージをローマまで守り切る用意がある」と発言すると、その言葉どおりにエステバン・チャベスは総合2位に浮上し、ジャック・ヘイグ、ミケル・ニエベ、ロマン・クロイツィゲルら強力な山岳アシスト陣がレースを掌握、サム・ビューリー、クリストファー・ユールイェンセン、そしてプロトン最年長のスヴェイン・タフトらが連日のハードワークに耐え、ミッチェルトン・スコットは大会随一のチーム力を発揮して盤石のレース展開を見せていた。

チームの働きに呼応するかのように、第9ステージのグランサッソ・ディタリラの山頂フィニッシュではマリアローザを着たままステージ優勝を飾った。

そして第11ステージではオシモの激坂区間で1.5kmにわたってデュムランの追走を振り切る力強さを見せ、上りでは最強のレーサーであることを周囲に示した。

極めつけは第15ステージだった。残り17km地点でアタックを仕掛けると、デュムランやピノといった総合勢を置き去りにして独走に持ち込んだ。デュムランらの追走グループがお見合いになってペースが上がらないことを見越してのアタックは成功を収めて、41秒差をつけてフィニッシュ。大会3勝目を飾った。

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マリアローザを着たまま積極果敢に攻める姿勢だけでなく、自分の仕掛けを勝利に導く強さに衝撃を覚えた。ジロの総合優勝はデュムランでもなくフルームでもなく、サイモン・イェーツが獲るものだと。まさに新たな伝説誕生の瞬間を目の当たりにしていると、誰もが思ったことだろう。

休息日明けの第16ステージ・個人TTでも、サイモンはデュムランから1分15秒遅れに留めて総合首位を堅守。苦手TTでも確実な改善が見られ、休息日明けにも好走を見せたことで、今年のジロはサイモンが獲ると、確信に変わっていった。

フィネストレ峠での失速劇と独走劇

だが、サイモンの快進撃は突然終わりを告げた。

第16ステージを終えたあと、インタビューで「疲れ切っている」と答えたサイモンは、言葉通りに疲れ切っていた。序盤から飛ばし続けたツケが回ってきたのだ。

第18ステージの最後の上りでは、今大会初めてライバルたちから遅れる姿を見せて、デュムランから28秒タイムを失った。

思い返せば、第10ステージから体調を崩しているチャベスは存在感を無くしており、代わりに山岳で際立った働きを見せていたヘイグも疲労のためか山岳アシストとして機能できなくなっていた。大会随一のチーム力を誇っていたミッチェルトン・スコットは、レースでの支配力を失いつつあったのだ。

そして、迎えた第19ステージ。今大会のチーマ・コッピであるフィネストレ峠では、ミッチェルトン・スコットに代わってチームスカイがレースをコントロールした。

サルヴァトーレ・プッチョがけん引するメイン集団は、ハイペースを保ち、ライバルチームの攻撃を許さなかった。

すると、頂上まで10km以上残した上りの序盤区間で、サイモンは突如集団から脱落してしまう。この時点で決してクライマーではないプッチョのペースについていけないということは、マリアローザを失うだけでなく、総合を争う権利すら喪失することを意味していた。サイモンはフィネストレ峠の山頂にたどり着くまでに10分以上遅れを喫することとなる。

サイモンの脱落と同時に、眠れる獅子が目覚めを告げた。

チームスカイのケニー・エリッソンドによる強烈なペースアップから、フルームが単独アタックを決行。フィニッシュまで80kmを残して独走を開始したのだ。

面を食らったであろうデュムランら有力選手たちは、フルームのアタックを見送ることしかできなかった。

無理もない話だ。フィネストレ峠はこのステージの中間地点に位置しており、下ったあとはセストリエーレ峠を上って、最後はバルドネッキアの山頂にフィニッシュする厳しいコースだからだ。

それを80kmも独走して逃げ切るなんて、現実的ではないと判断することは間違いとは思えない。

しかし、アタックを仕掛けているのは他の誰でもないフルームだ。グランツール通算5勝のフルームなのだ。フルームが、そしてチームスカイがノリや勢いでギャンブルアタックを仕掛けるはずがない。

大会前の落車負傷。山岳での失速。「元々3週目に照準を合わせている」というコメント。フルームのフィネストレ峠でのアタックは、これらすべての伏線を回収するためにはこれ以上ない最高のシチュエーションではないだろうか。

という絵に描いた餅のようなストーリーをデュムランが思い描いたかどうかはわからない。フルームが逃げ切ることよりも、フルームの追走のために自分だけが力を使わされて、最後の上りでピノやロペスに置き去りにされる展開が、デュムランにとって最悪のストーリーだった。

もう一つ、チームスカイとフルームの立場から考えると、フィネストレ峠でアタックを仕掛けたときに、デュムランは積極的に追ってこないと見抜いていたのではないかと思う。

というのもチームサンウェブはチームスカイやミッチェルトン・スコットのようなチーム力はなく、デュムランには個人TTという最大の強みを持っている。

そのためTTで稼いだリードを山岳で守り切るという戦略をとることは必然だといえよう。デュムランにリードがある限り保守的な走りを優先すると、チームスカイは予測していたのだろう。

デュムランはピノとの協調を選択し、更には遅れていたピノのアシストであるセバスティアン・ライヒェンバッハを待ってからフルームを追走した。しかし、淡々と350Wを刻むフルームのペースは全く落ちることはなかった。

数的優位なはずのデュムラングループは、フルームとの差を縮めることができず、フルームは逃げ切りを決めた。デュムランは3分23秒ものタイムを失い、マリアローザはフルームの手に渡った。

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もし、デュムランがフルームに80km逃げ切る力があると信じていたら、結末は違っていただろう。

しかし、いくらゾンコランで勝ったとはいえ、山岳で度々遅れていたフルームに、80km独走する力が残っているとはにわかに信じがたい話ではある。

確かに、ヒントはあった。今年の1月28日に、南アフリカで計271.65kmを平均時速44.8kmで走った走行データをStravaで公開していた。

あれはただの高負荷トレーニングではなく、フィネストレ峠でアタックして80kmを独走するための負荷テストだったのではないだろうか。「3週目にピーク」発言と合わせても、そのほうが辻褄が合う。

いずれにせよデュムランは限りなくベストを尽くしていた。フルームの歴史的な独走勝利は、チームスカイの緻密な計画に基づいた戦略的勝利だったといえよう。

終わりの始まり

第20ステージは、デュムランにとって総合を逆転するための最後の戦いの場であった。

フィニッシュ地点のチェルヴィニアに至る上り区間で、デュムランは何度もアタックを仕掛けた。

対するマリアローザのフルームはデュムランの攻撃を全て受けきった。

万策尽きたデュムランは、総合優勝を諦め、チームメイトのサム・オーメンの総合成績を守るために集団をひき始めた。

自身の総合優勝を逃すだけでなく、オーメンも総合成績を落とすという最悪のストーリーを避けたデュムランらしい幕切れとなった。

最終的には大会前に予想されていた通り、デュムランとフルームの一騎打ちとなり、フルームがグランツール3連勝を飾る形で総合優勝を成し遂げる王道の展開となった。

なのに、予想外の結末を迎えた気分でフルームのマリアローザを眺めている。これがまさにサイクルロードレースの醍醐味なのだ。

ジロ・デ・イタリアというレースは閉幕したが、男たちの物語はまだ終わっていない。

フルームもデュムランもツールに出場するからだ。

2人だけではない。ナイロ・キンタナ、ミケル・ランダ、アレハンドロ・バルベルデ、マルク・ソレルを擁するモビスター、ヴィンチェンツォ・ニーバリとイサギレ兄弟のバーレーン・メリダ、フランスの期待を一身に背負ったロマン・バルデのアージェードゥゼール・ラモンディアールを筆頭に、ジロ以上に役者が揃っているといえよう。

フルームはグランツール4連勝を飾り、ツール5勝クラブ入りを果たすのか。デュムランが栄光のマイヨジョーヌを手にするのか。キンタナが悲願の総合優勝を飾り、フルームに続いて3大グランツールの覇者となるのか。はたまた予想だにしない男の快進撃を目の当たりにするのか。

ロード・オブ・ザ・グランツール2018。第2部の幕開けである。

Rendez-Vous sur le vélo…

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