サイバナ

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コラム ロンド・ファン・フラーンデレン2017

フレフ・ヴァンアーヴェルマート悲運の2位。精密コンピュータに生じた狂いとは?

2017/07/13

「ルーベは素晴らしいレースだが、わたしの一番の夢ではない」

フレフ・ヴァンアーヴェルマートがレース後に語ったコメントに、ロンドへの想いが凝縮されていた。

フィリップ・ジルベールが歴史的な55km独走勝利をあげた。
ベルギー人として、ベルギーチャンピオンジャージを身にまとい、ベルギーのチームで、ベルギーの最高のレースで勝利した。
しかも、ジルベールはロンドの開催地であるフランドル地方ではなく、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュのあるワロン地方の出身だ。

フランドル地方とワロン地方、両者の隔たりは大きく、ロンドを勝ったベルギー人選手の大半がフランドル地方の出身者だ。
フランドル出身のプロサイクリストにとってロンドとは、人生を賭して是が非でも勝ちたいレースなのだ。

ヴァンアーヴェルマートは、フランドル地方出身だ。
彼の出身地であるオースト・フラーンデレン県のローケレンから、数キロ離れた隣町を今年のロンドのコースは通過している。

まさに勝手知ったるフランドルの地で、栄光のロンド覇者の歴史に名を刻みたい想いは人一倍強かったに違いない。

ジルベールがロンドに焦点を合わせて、完璧な調整をしている一方で、ヴァンアーヴェルマートもまたロンドに向けてジルベール以上の仕上がりの良さを見せていた。
現時点で、ワールドツアーランキング1位という結果が物語っている。

だが、勝利の女神はヴァンアーヴェルマートに微笑むことは無かった。

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ヴァンアーヴェルマートの武器は、卓越したレース頭脳

脚質はスプリンター寄りのパンチャー、という一言で片付けられるような選手ではない。

ヴァンアーヴェルマートの最大の武器は、得意のスプリント勝負に持ち込むために、有利な展開を築くことの出来る技術である。
昨シーズンから、ヴァンアーヴェルマートが勝ったレースを振り返ってみると、

・2016年シーズン

オムループ・ヘット・ニュースブラッド
→ペーター・サガン、ティージ・ベヌート、ルーク・ロウとのスプリントを制して優勝

ティレーノ~アドリアティコ第6ステージ
→サガン、ゼネク・スティバル、ミカル・クヴィアトコウスキーとのスプリントを制して優勝、逆転で総合優勝も果たす

ツール・ド・フランス第5ステージ
→終盤にアタックを決め、2位に2分34秒差をつける独走勝利で、マイヨ・ジョーヌ獲得

リオ五輪男子エリートロードレース
→少人数の追走集団から、ヤコブ・フグルサングと共に飛び出し、先行するラファル・マイカを捉えてスプリント勝負に持ち込み勝利

GPモントリオール
→集団スプリントを制して勝利、2位にはサガン

・2017年シーズン

オムループ・ヘット・ニュースブラッド
→サガン、セプ・ヴァンマルクとのスプリントを制して優勝

E3・ハレルベーケ
→ジルベール、オリバー・ナーセンとのスプリントを制して優勝

ヘント〜ウェヴェルヘム
→イェンス・ケウケレールとのスプリントを制して優勝

となっている。
ツールでのステージ優勝とGPモントリオール以外は全て、少人数でのスプリント勝負に持ち込んで勝っていることは、偶然とは思えない。

うまくライバルチームの力を利用して、集団をセレクションにかけ、集団が人数を減らしたところで自らアタックを仕掛けるか、ライバルのアタックに乗じて更に少人数での勝負に持ち込み、得意のバンチスプリントを制するパターン。
それが、ヴァンアーヴェルマートの勝利の方程式なのだ。

そのため、時にはヴァンアーヴェルマートの走りは消極的だという声があがることも。

真の強者は自ら攻撃を仕掛けて、自ら勝利を収める者だ。
そのような価値観を持つ、サイクルロードレースファンは大勢いることだろう。
ゆえに、ライバルのサガンとの走りと比較され、ヴァンアーヴェルマートが非難の矢面に立つことも少なくない。

だが、チームのエースとして、純粋に勝利を追い求める姿は、極めてプロフェッショナルであると言えよう。

勝つために不確実なことの多いレースにおいて、ヴァンアーヴェルマートの高性能CPUが、不確実な状況の連続の中で確実に勝利に近づく方程式を解き続けているのだ。

精密コンピュータに生じた、わずかな綻び

5年ぶりに登場した難所、”ミュール・カペルミュール”
あのファビアン・カンチェラーラとトム・ボーネンが幾多の激闘を繰り広げた地でもあるが、今年は残り95km地点で登場した。

本当の勝負どころは、最終盤に訪れるオウデ・クワレモントとパテルベルグに違いない。
最終盤に向けて、どのように集団の人数を減らしていくかが、ヴァンアーヴェルマートの腕の見せどころとなるはずだった。

ミュール・カペルミュールでクイックステップ・フロアーズが予想外の攻撃を仕掛けてきた。

集団の中頃で走っていたヴァンアーヴェルマートはこの攻撃に対応することが出来ず、クイックステップのジルベール、ボーネン、マッテオ・トレンティンを含む14名の先行集団が出来上がった。

このまま逃してはいけない集団であるため、メイン集団ではオリカ・スコットやボーラ・ハンスグローエの力を存分に借りながら、BMCレーシングは追走を試みる。
さすがのジルベールグループも、全開のプロトンには敵わない。
このまま行けば、残り30kmくらいで吸収できる。

そう見込んでいたはずだったが、残り55km地点のオウデ・クワレモントで、ジルベールがまさかの単独アタックを決める。
じりじりと近寄るメイン集団の圧力に痺れを切らして、一か八かのヤケクソアタックを決行したかのように見えただろう。

ヴァンアーヴェルマートを含むメイン集団は、サガンのアタックをきっかけに大きく人数を減らし、サガンやナーセンと共に3名で先行するジルベールを追う展開となった。
クイックステップの早仕掛け、ジルベールの単独アタックという予想外の要素はあったものの、ヴァンアーヴェルマートにとっては十分にキャッチアップ出来る展開に持ち込んでいた。
あとは、サガンとナーセンとのスプリント勝負に勝つだけだ。
そう考えていた矢先に事件は起きる。

まさかのサガンのクラッシュに巻き込まれる

信じられない光景が広がっていた。
世界一のバイクコントロール技術を持つと言っても過言ではないサガンが、沿道の柵に引っかかってしまったためか、落車していた。
真後ろを走っていたヴァンアーヴェルマートとナーセンは為す術もなく巻き込まれてしまう。

幸いなことに、ヴァンアーヴェルマートのバイクはほぼ無傷だったため、すぐにバイクに乗って走り出すことが出来た。
しかし、落車に巻き込まれたことで40秒程度まで縮まっていたジルベールとの差が、再び1分以上にまで開いてしまった。
後方を走っていたディラン・ファンバールレと、ジルベールのチームメイトであるニキ・テルプストラと共に、ジルベールを追わねばならない展開となる。

ヴァンアーヴェルマートは焦った。
サガンとナーセンの力を借りながら、ジルベールを捉える算段が、ほとんど脚の残っていないファンバールレと共に、絶対に前を牽かないテルプストラを背負って前を追わねばならなくなったからだ。

ヴァンアーヴェルマートは再び計算する。
自分が追走に力を使ってしまうと、ジルベールを捉えたとしてもテルプストラに負かされてしまう。
テルプストラに負けないギリギリの力を残しつつ前を追うとしたら…、ジルベールには届かないだろう。

そうして、ジルベールから29秒遅れでフィニッシュし、ファンバールレとテルプストラとのスプリント勝負は制して辛うじて2位に入った。
奇しくもジルベールとのタイム差である29秒は、ヴァンアーヴェルマートが落車で失ったタイムとほぼ同じであった。

ヴァンアーヴェルマートは運がなかった。
わたしはそうは思わない。

なぜなら、ヴァンアーヴェルマートの走りは運の要素を極力排除して、積み上げた細かな工夫の上に、勝利を掴み取るスタイルだからだ。
運がなかったの一言で済ましては、ヴァンアーヴェルマートに失礼だろう。

残り95km地点のカペルミュールを軽視して、クイックステップは動かないと想定していたヴァンアーヴェルマートの計算ミスが敗因だろう。
たらればではあるが、ジルベールら先行集団にヴァンアーヴェルマートも入ることが出来たなら、先行集団のローテーションはうまく回らず、メイン集団に再び吸収され、仕切り直しとなっていただろう。

今年のロンドは、ヴァンアーヴェルマートの精密コンピュータに僅かに生じた綻びを、ジルベールを擁するクイックステップが全力で咎めて勝利を掴み取ったレースだったと言えよう。

いずれにせよ、ヴァンアーヴェルマートは歴史的な一戦の立役者となり、歴史的な勝者が誕生した一方で、歴史的な敗者となったのだ。
だが、ヴァンアーヴェルマートは二度と同じ轍は踏まないだろう。

サイクルロードレースのシーズンは続く。
彼にとってナンバーワンではないとしても、パリ〜ルーベも非常に価値の高いレースだ。

切り替えて、北の地獄でクレバーな走りを再び見せてほしい。

Rendez-Vous sur le vélo…

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