サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム ハンマーシリーズ2017

ハンマーシリーズと弱虫ペダル。似ているのはルールだけじゃない。

ようこそ、新しいサイクルロードレースの世界へ!

目の前で繰り広げられているレースは、もはや我々の知っているレースではなかった。
いや、漫画では見たことはあったが、まさか現実に目の当たりにする日が来るとは思わなかった。

その漫画とは、『弱虫ペダル』のことである。
『弱虫ペダル』で描かれる最も大きなレース「インターハイ」のルールは、ハンマーシリーズと酷似している。
最大の特徴はロードレースでは当然とも言えるマスドスタートを採用せず、着順スタート制にしたことだ。

わたしも初めて『弱虫ペダル』を読んだ時は、「現実のレースと違うではないか。違和感しかない」と受け入れにくい部分があった。
だが、作者の渡辺航先生いわく「通常のロードレースのルールにすると、ロードレースを知らない読者にはわかりづらい。わかりやすさを重視して、ああいうルールにした」とのことだ。

『弱虫ペダル』はコアなサイクルロードレースファンをターゲットにした作品ではなく、サイクルロードレースのことをよく知らない大衆向けに描いた作品だと言えよう。
だからこそ、累計1400万部を発行する大人気作となったのだ。1)サイクルロードレースファンならニヤリとするような描写が随所に織り込まれ、もちろんコアなファンでも楽しめる作品である。違和感には読んでいるうちに慣れた。

ハンマーシリーズを開催する本来の目的は、決して"既存のコアなサイクルロードレースファンに楽しんでもらうこと"ではない。
既存のサイクルロードレースを主催する団体に収益のほとんどを独占されている状況を鑑みて、チーム自らレースを主催して得られる利益を各チームで分配することで、チーム運営をより健全化させることにある。

ハンマーシリーズを開催することで、多くの利益をあげることが最も重要なことなのだ。

では、今回のハンマーシリーズでは本来の目的である"収益の向上"は果たせたのだろうか?
私見を交えつつ考察していきたい。

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ハンマーシリーズのビジネスモデル

ハンマーシリーズに限らず、サイクルロードレースのビジネスモデルは、

・放映権からの収入
・広告収入
・現地で開催するイベントからの収入
・レース誘致料(開催地が主催団体に支払う)

などが大部分を占めるだろう。
更に副次的な要素として、開催地周辺での宿泊費や食事代、周辺地域への観光などによってレースの主催団体だけでなく、開催地域に経済効果をもたらすことが出来る。

どの要素も、観客(視聴者)数が増えれば増えるほどの増加していくだろう。
そのため、今後収益性を高めていくためには、シンプルにハンマーシリーズのファンを増やすことが大事だと言えよう。

そこで、冒頭の『弱虫ペダル』の話に戻る。
『弱虫ペダル』の最も革新的なことは、「インターハイ」でのルールを改変したことではなく、それまでサイクルロードレースに全く興味が無かった層をファンに取り込み、一部の人は実際にロードバイクを買ったり、サイクルロードレースのファンになって実際にレースにも足を運んでいることだ。

新しいサイクルロードレースファン層の開拓に成功しているのだ。
このファンの新規開拓こそ、今後ハンマーシリーズ並びにサイクルロードレースが発展していくために最も重要なことだと考えている。

そういった新規のファンを「にわか」と揶揄する人たちもいる。
しかし、誰だって最初は「にわか」からのスタートだ。

プロ野球では、昨年リーグ優勝を遂げた広島カープのファンだと言う人たちが急増した。
中には、肝心の広島のスタメンをほとんど知らなかったり、野球のルールすら分かっていない人たちもいたようだ。
それでも、その新規ファンの人たちがチケットを購入し、球場に足を運んで、グッズを購入することになれば、広島カープにとってみれば立派なお客様である。

サイクルロードレースだって同じだ。
きっかけが『弱虫ペダル』の限定グッズの購入でもいい、渡辺航先生のトークショーでもサイン会でもいい。
実際にレース会場に訪れて、いざ観戦してみたらハマった。
思いがけずレース放送が面白くてハマった。
意外と風景が綺麗、イケメンいっぱいいる、等々ハマる理由は何でもいい。
コンテンツ(この場合は実際のレース)が面白ければ、たとえ「にわか」であっても一部のファンは定着するのだ。

『弱虫ペダル』が大衆受けを狙ったように、ハンマーシリーズもサイクルロードレースをよく知らない大衆向けに作られたコンテンツではないかと思う。
ハンマーシリーズと『弱虫ペダル』が、よく似たルールを採用していることは偶然ではないだろう。

海外の人たちの反応はどうだったのか

海外ではハンマーシリーズに対して、どのような反応だったのか少し調べてみた。

ハンマーチェイスが開催された6月4日とその翌日に、『#Hammerseries』のハッシュタグをつけているツイートを検索してみた。
有名な人かどうかは分からないが、なるべく一般人と思われるツイートを探した。

一例を紹介したい。
筆者の意訳もつけているが、文法が間違っている可能性もあるのでご注意願いたい。

『ハンマーシリーズは素晴らしい!』

『なんて楽しい新しいイベントなんだ!』

『カオスすぎる!TTバイクでスプリント勝負とかめちゃカッコいい!』

『なんてレースなんだ!タオ・ゲオゲガンハートの最後の強くてスリリングなスプリントは、まるでバズーカのようだったよ。』

『ハンマーシリーズは最高のアイデアだし、最高のレースだった!これぞ未来のレースだね!』

などと言った調子で、絶賛に近いコメントが多かった。
英語のツイートのみを調べていて、ここで紹介した人たちはイギリス在住の方が多そうに見える。
イギリスチームであるチームスカイが勝利したこともあり、イギリス人が喜ぶ理由はよく分かる。
ただ、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オランダ在住の方もいた。

一方で、改善の余地があると思っている人も多い。

『素晴らしいコンセプトで、とても興奮したよ!ただ、改善の余地はあるけどね。』
と、オランダ人と思われる方のツイート。

『最初のハンマーシリーズが実施された。しかし、もっと良くできないだろうか?』
とは、Velonewsの編集者のコメントだ。

さらには、このような意見もある。

『現行のハンマーシリーズでは、フットボールジャーナリストが選んだベストイレブンと同じくらい無価値だ。絶対に無意味だよ。』
なんて、かなり否定的な意見もあった。

全てのツイートを調べたわけではないが、ざっと眺めているとライトなファンには大いにウケていて、目の肥えたコアなファンにもウケてはいたが、やはり既存のロードレースとのギャップやルールに改善の余地があると考えているようだった。
このあたりの事情は、日本国内とそう変わらないのではないかと思う。

ハンマーシリーズの世界進出戦略は正しいのか?

話によると、ハンマーシリーズは第2戦が中国、第3戦が南アフリカで行われるそうだ。

目の肥えたコアなファンが集まりやすいヨーロッパではなく、ライトなファンが多いであろう中国と南アフリカで開催予定なのだ。

ここで新たにサイクルロードレースファンを獲得し、またライトなファンには更にハマってもらうことが狙いだろう。
こうしてファン層のボリュームを増やすことで、収入を増やしていくことが出来る。

そうなれば、選手たちにも大きなメリットがあるため、中国や南アフリカのように遠い地域のレースに有力選手も積極的に出場してくれるに違いない。
有力選手が集うことで、イベントとしての価値も上がるし、レースもより面白くなるはずだ。

『弱虫ペダル』が既存のサイクルロードレースのルールを変えて、大衆受けを狙って人気を博したように、
ハンマーシリーズも新しいサイクルロードレースのフォーマットを用いて、世界中に新しいファンを開拓していく戦略なのだろう。

そして、ハンマーシリーズがきっかけで、本家本元のツール・ド・フランスやロンド・ファン・フラーンデレンのようなクラシックなサイクルロードレースを観戦し始めるかもしれない。
ハンマーシリーズとは違う、サイクルロードレースの面白さに触れ、より一層ハマっていくファンが増えていくのだ。

筆者も現行のハンマーシリーズのルールには改善の余地があると思っている。
だが、ハンマーシリーズの分かりやすい面白さには、世界中で一大ムーブメントを引き起こすポテンシャルがあるかもしれない。

ハンマーシリーズの持つ可能性。
ハンマーシリーズが創造する新しい文化。
ここに期待せずにはいられない。

Rendez-Vous sur le vélo…

References   [ + ]

1. サイクルロードレースファンならニヤリとするような描写が随所に織り込まれ、もちろんコアなファンでも楽しめる作品である。違和感には読んでいるうちに慣れた。

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