サイバナ

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クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2017 コラム

ドーフィネ総合優勝のヤコブ・フグルサングは、ツールでも勝てるのか?

2017/07/13

クリテリウム・デュ・ドーフィネは、ツール・ド・フランスの前哨戦と呼ばれて久しい。直近の5年間では、総合優勝した選手が4回ツールでも総合優勝を果たしている。
ツール本番に向けて己の力量を見極める試金石となっているのだ。

とはいえ、ドーフィネ自体もワールドツアーのカレンダーに組み込まれている格式の高いレースである。
当然、総合優勝者や上位入賞者には高いWTポイントやUCIポイントが付与される。
これらのポイント獲得を捨ててまで、完全に調整目的で走ることが許される選手は、ごく少数のスーパースター選手だけだろう。

例えば、BMCレーシングのリッチー・ポートの場合は、ツールでエースとしての出場が確定している。
しかし、同僚には今季WT個人ランキングで首位を走るフレフ・ヴァンアーヴェルマートがいる。
ツールへの出場は未定ではあるが、もし出場するとなるとエース待遇で扱われることだろう。

そこで、ドーフィネでのポートの走りが不甲斐ないものであったとしたならば、チームとしてはツールという大舞台である意味保険をかけるためにヴァンアーヴェルマートを出場させてステージ優勝を狙ってくるだろう。
つまり、ポートにとっては自分のためにアシストしてくれる選手が一人減ることを意味する。

だが、ポートはドーフィネで期待以上の素晴らしい走りを見せた。
これほどの走りをしてくれるポートならば、チームはポートに一心の期待を寄せて、ポートで総合優勝を狙うだけのチーム編成をしてくる可能性が高い。
(※一方で、肝心のBMC山岳アシスト陣の走りがイマイチだったため、どうせポートのために働けない選手を連れて行くくらいなら、ヴァンアーヴェルマートを出場させる可能性も十分ある)

というように、ドーフィネはポートクラスの選手でも、調整なんて生ぬるい言い訳を出来ないような、結果が求められる真剣ガチンコ勝負が繰り広げられていたというわけだ。

ヤコブ・フグルサングは、ツールで単独エースとしての出場が約束されていた。
ところが、ジロ・デ・イタリアを欠場したファビオ・アルが、ツールへの出場に向けて調整することとなり、雲行きが怪しくなる。

今シーズン全く良い結果を残せていないアスタナにとっては、是が非でもツールで結果を残したいところだ。
フグルサングがエースだと、いくら事前に決められていたとしても、グランツール総合優勝経験のあるファビオ・アルの調子次第ではチーム内の序列に変更が生まれる可能性も十分にあり得た。

長年、ヴィンチェンツォ・ニーバリのアシストとして粉骨砕身してきたフグルサングはもう32歳だ。
そんなフグルサングに、ツールという大舞台でエースを担う絶好の機会が久々に巡ってきた。

ここを逃せば、もうグランツールで総合エースを張ることは出来ないかもしれない。
だからこそ、ドーフィネで結果を出すことはフグルサングにとって死活問題だった。
己のサイクルロードレース人生を懸けた、極めて重大な戦いだったのだ。

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フグルサングとアル、二人とも結果を残した

だが、フグルサングは勝った。
それもチームの期待を上回る結果を残した。いや、もはや世界中のサイクルロードレースファンの想像を越えた総合優勝という結果を残したのだ。

第6・8ステージというクイーンステージとも言える超難関コースでステージ優勝をあげていることからも、フグルサングの好調ぶり、そして本当の強さを如実に表している。
これにはアスタナのGMを務めるアレクサンドル・ヴィノクロフもにっこりだろう。
予定通り、フグルサングでツールの総合を狙ってくると思われる。

一方で、ファビオ・アルもドーフィネで好成績を収めた。
病み上がりの久々のレースにも関わらず、第6ステージの超級山岳モン・デュ・シャでは最速の登坂力を見せつけた。

第8ステージで見せたアグレッシブな走りは、さらに輝きを増していた。
中盤から終盤にかけて、アルはアレハンドロ・バルベルデと共に集団からリードを築いていた。
逆転で総合優勝を狙うクリス・フルームは大きな力を使って、この2人を追わねばならなかった。
結果として、フグルサングは集団内で力を温存しながら先頭にたどり着くことができて、この日のステージ優勝と総合の逆転に繋がっている。

ダブルエースは結果を残せても、二人の関係を壊しかねない諸刃の剣だ

どれだけ強い選手が多く集っても、総合優勝出来る選手は1人だけだ。
サイクルロードレースはチームスポーツではあるが、成績は個人が評価される。

2009年、当時のアスタナではアルベルト・コンタドールとランス・アームストロングの二人がツールに出場した。
ランスは「コンタドールのアシストをするよ」と言っていたものの、ランスがメカトラに見舞われた際は、コンタドールをほったらかしてアシストが何名も降りてきてランスをサポートするようなシーンが見られた。
結果的にコンタドールが総合優勝したものの、二人のコンビは1年で解散。
シーズンオフにランスは新チーム・レディオシャックを立ち上げて、アスタナから移籍した。

2012年のツールでは、チームスカイのブラッドリー・ウィギンスとクリス・フルームの明らかな緊張関係が見て取れた。
上りで苦しむウィギンスを、フルームが煽るシーンがあった。
ウィギンスは総合優勝を果たすが、翌年からはフルームがチームのエースの座に君臨し、ウィギンスは2013年ジロを最後にグランツールに出場することがなくなり、2015年に自身で立ち上げたチーム・ウィギンスへと移籍していった。

2015年のジロでは、またもやアスタナのファビオ・アルとミケル・ランダの間に緊張関係が見えるシーンが度々見られた。
エースナンバーを背負うアルに対して、アタックとも言える走りをランダが見せていたからだ。
ランダも2015年限りでアスタナを離れ、チームスカイへと移籍した。

これらは一例ではあるが、勝利が至上命題であるエースもしくはエース級の選手が、チーム内に複数いることが何かしらの軋轢を生むことが多い。
ダブルエースと言えば聞こえはいいが、チーム内の実力者の起用に困った首脳陣の言い訳にも聞こえてしまう。

だが、ダブルエースが機能して好結果を生み出す事例もある。

真っ先に思い浮かぶのが、2011年ツールのアンディ・シュレク、フランク・シュレクの兄弟の走りだろう。
アンディとフランクが代わる代わるアタックを仕掛ける、兄弟による波状攻撃は、総合ライバルたちを大いに苦しめた。
総合優勝は果たせずとも、アンディが総合2位、フランクは総合3位と兄弟揃って表彰台に登る快挙を成し遂げた。
もちろん、二人の関係は兄弟という堅い絆で結ばれていう以上に強固なものであった。

モビスターのナイロ・キンタナとバルベルデの二人の関係も良好に見える。

ダブルエースが機能するためには、二人とも総合優勝が狙える実力者でありつつも、一方を勝たせようとサポートに回る気概を合わせ持つことではないだろうか。

フグルサングとアル、このダブルエースはうまくいくのか?

話を2017年のアスタナに戻す。
フグルサングはドーフィネで総合優勝し、アルは総合5位だった。
元々、ツールにはフグルサングが単独エースで臨む予定だったこともあり、ハッキリとアスタナのエースはフグルサングと決まったのではないだろうか。

アルも2015年ブエルタ総合優勝の経験があり、ツールでエースを担うことの出来る人材と言えよう。
だが、ドーフィネの走りを見ていると、自身のステージ優勝や総合成績を追い求めつつも、フグルサングへのアシストとして大きな役割を果たした。
アルが本当に自分の成績しか見ていなかったら、第6ステージや第8ステージで見せたような捨て身の攻撃はせずに、もう少し保守的な走りをしたと思う。

フグルサングは自身の総合成績しか見ていない。
これは悪いことではなく、エースとして絶対に必要なことだ。
一方で、アルは自身の成績だけでなくフグルサングの成績も見ているように感じた。
つまり、うまくいくダブルエースの要件を満たしていると言えよう。

フグルサングは、登り坂で自らアタックで揺さぶっていくようなタイプではない。
集団内でじっと息を潜め、ここぞというタイミングで仕留める、まるでヒョウのような待ち伏せ型狩りを得意とする。
ヒョウを英語で言えば、レオパード。
かつて同名のチームに所属していたこともあるフグルサングにはピッタリではないだろうか。

一方でアルはトラだ。
広大なサバンナで自ら獲物を追い回していくトラのように、山岳で積極的にアタックを仕掛けるスタイルを得意としている。

タイプの違う二人が協力することで、どんな難敵にも立ち向かうことが出来るだろう。

レオパードをタイガーが支え、百獣の王に挑むツール・ド・フランス。
その王はどうやら調子は今ひとつらしい。

狩るか、狩られるか。
食物連鎖に逆らい、王を討て。

Rendez-Vous sur le vélo…

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