サイバナ

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コラム ドバイツアー2017

ジョン・デゲンコルブ反撃の狼煙、春のクラシックで完全復活を遂げるのか?

2017/07/13

ドバイツアーで、4位・4位・1位・5位と絶えず上位に食い込んだジョン・デゲンコルブのスプリントには、あるメッセージが込められていた。

それはライバルのスプリンターに向けてのメッセージではなく、ミラノ〜サンレモやパリ〜ルーベなど、春のモニュメントで戦うクラシックスペシャリストのライバルたちに向けてのメッセージだ。

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大事故からの復帰の途上

思えば、ちょうど1年前の出来事だった。2016年1月、スペインでのトレーニング中にチームメイト6名が巻き込まれる交通事故に遭ってしまった。中でもデゲンコルブが最も重傷を負ってしまい、左手の人差し指はあわや切断寸前になるほどの大怪我である。

路面からの衝撃を感じ取り、即座に変速やブレーキングをするためにも指先の動きは非常に重要だ。仮に指一本無くとも自転車には乗れるだろうが、コンマ数秒の世界で争うプロ選手にとって、わずかでも指先に自由が効かないハンデはあまりにも大きい。

事故からわずか3ヶ月後の5月1日、今年からワールドツアーに昇格したドイツのワンデーレースであるエシュボルン・フランクフルト(1.HC)でレースに復帰した。

その後、ツアー・オブ・カリフォルニア、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネと連戦するが力は戻らず、続くツール・ド・フランスでも低調なパフォーマンスのままだった。デゲンコルブを責めるつもりは全くないが、同じく大腿骨骨折という選手生命を脅かす大怪我から復帰した新城幸也がツアー・オブ・ジャパンでステージ優勝して、ツールで敢闘賞を獲得する走りを見せた回復力には改めて驚嘆するばかりである。

だが、デゲンコルブもツールの次戦となったアークティックレース・オブ・ノルウェーで、復帰後初勝利をあげる。最終第4ステージでアレクサンダー・クリストフやアルノー・デマールを抑えてステージ優勝をあげ、ポイント賞ジャージも獲得した。

更にサイクラシックス・ハンブルグではカレブ・ユアンに続いて、2位に入った。

ここで、デゲンコルブにとってサプライズとも言える出来事が起きる。トレック・セガフレードへの移籍を発表したのだ。

まだ大怪我からの回復の途上にあるにも関わらず、トレック・セガフレードはデゲンコルブに3年契約を提示した。それも、引退するファビアン・カンチェラーラの後継者として、クラシックレースのエースとして迎えたいという、これ以上ない破格の待遇でだ。

他のどのチームよりも自身の可能性を期待して、見込んでくれたトレック・セガフレードの気持ちに応えたい、という強い想いを持ったことだろう。

2017年シーズンへの闘志を燃やしつつ、10月の世界選の1週間前に行われたドイツのレースであるスパルカッセン・ミュンスターランド・ジロ(1.HC)では、復帰後2勝目となる優勝を果たした。

確かな手応えと共に、カタール・ドーハでの世界選に乗り込んだ。

世界選でのドイツチームの惨敗

マルセル・キッテル、アンドレ・グライペルを擁するドイツチームにとって、デゲンコルブは極めて重要な存在であり、ピュアスプリンター向けのレースではドイツ人世界チャンピオン誕生の絶好の機会であった。

ところが、ベルギーとイギリスによる横風区間での集団分断作戦の煽りを見事に喰らってしまい、ドイツチームは後方集団に取り残されてしまう。前を追いかける理由があまりない後方集団は人数の少ないドイツチームが必死で追いかける。その必死さをあざ笑うかのように、ベルギーのイェンス・デブシェールがローテーションが周りにくいように妨害工作を仕掛ける。

デゲンコルブがキッテルとグライペルのために集団を牽引しようにもデブシェールに邪魔をされ、思うようにスピードは上がらず、デゲンコルブ自身は消耗していく一方だった。全く先の見えない絶望的な状況に、デゲンコルブは堪忍袋の緒が切れた。手持ちのボトルの水をデブシェールに向かってぶっかけたのだ。そして、デブシェールに怒号を飛ばし、あまりの迫力にたじろいたデブシェールは集団後方へと下がって行った。

ようやく全力で前を追えると思ったのもつかの間。デゲンコルブは熱中症にかかって、リタイアを余儀なくされてしまった。その瞬間にドイツチームの世界選は終了した。キッテルもグライペルも何もすることが出来ずにレースを終えたのだった。

あまりにも悔しかった。5月の時点では考えられないほどに体調も良くなり、確かな手応えと共に挑んだ世界選。チームメイトのキッテルとグライペルは世界トップレベルのスプリンターであるし、TT世界王者のトニ・マルティンもいる。間違いなく世界チャンピオンを輩出できるチャンスだった。なのに、何も出来なかった。忸怩たる思いを持って、翌年以降のリベンジを誓ったに違いない。

ドバイツアーで、同胞のキッテルに唯一勝った男

そうして迎えた2017年のドバイツアー。

トレック・セガフレードはデゲンコルブをエーススプリンターとしつつも、日々異なる戦略を試していた。しかし、クイックステップ・フロアーズのアシスト陣があまりにも強力すぎたため、トレックのトレインはすぐに崩壊してしまった。

第5ステージでキッテルはチームのトレインが崩壊しても自身のライン取りとパワーで勝利をもぎ取っていた。しかし、デゲンコルブにはキッテルほどのパワーは無かった。第1・2・5ステージでは、キッテルとカヴェンディッシュより前の順位に行くことは出来なかった。

しかし、優勝した第3ステージは、単純なスプリントステージではなかった。猛烈な強風が吹き荒れるステージは、前年の世界選を彷彿とさせるサバイバルレースの様相を呈していた。

横風に煽られながらも自身のポジションを守ること、砂嵐で視界も路面も不良の中で落車をしないようにバイクを走らせることは体力だけでなく精神的にも消耗したことだろう。

だが、デゲンコルブは2015年のパリ〜ルーベの覇者である。こういった消耗戦は得意であり、荒れたレースほど強さを発揮するのである。カヴェンディッシュやキッテルが下位に沈み、ディメンションデータのレイナルト・ヤンセファンレンズバーグという決してスプリンターではないタイプの選手が2位に食い込むほどの大荒れのレースを、デゲンコルブは確実に勝ち切ったのだ。

トレック・セガフレードという新チームに来て、一刻も早く勝利を欲しかっただろう。しかし、目の前にはクイックステップというあまりにも強力な壁が立ち塞がっていた。その強大な壁も中東の砂嵐の前には為す術がなかった。読めない気象条件がもたらした千載一遇の好機を、トレックのエースたるデゲンコルブは確実に仕留めたのだ。この勝利はただの1勝以上の価値があろう。

そして、ドバイツアー4ステージ中、3ステージをキッテルが制したが、砂嵐の第3ステージをデゲンコルブが制した、というメッセージは世界各地で春のクラシックに向けてコンディションを整えているクラシックスペシャリストのライバルたちに届いただろう。昨年の世界選では中東の砂嵐の前に何も出来なかったデゲンコルブが、砂嵐を制したと。春のクラシックでは砂嵐は吹かないが、強風・大雨・低音・みぞれ・雹・石畳・砂埃・泥しぶきなど、砂嵐に負けるとも劣らない悪条件の中を走るレースになりがちだからだ。体力・気力ともに充実していない限り、こういった悪条件のレースを制すことは難しい。

ゆえに、デゲンコルブは砂嵐のドバイツアー第3ステージ優勝という強烈なメッセージをもって、クラシックスペシャリストたちへ挑戦状を叩きつけることが出来たのだ。

だからと言って、デゲンコルブ完全復活と言うのはまだ早い。デゲンコルブ本来のスプリント力はキッテルやカヴェンディッシュに劣るものではないからだ。事故前のデゲンコルブのパワーはこんなものではなかったはずだ。ゆえに、まだまだ力を取り戻す余地も十分に残っているのだ。

まずは2015年以来のミラノ〜サンレモ優勝を狙う。そして、本命はパリ〜ルーベだろう。デゲンコルブ完全復活宣言は、モニュメントのポディウムに登るまでとっておきたいと思う。

Rendez-Vous sur le vélo…

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