サイバナ

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コラム パリ〜ニース2017

ジュリアン・アラフィリップは真のオールラウンダーへと進化するのか?

2017/03/24

いまレジェンドと呼ばれるような選手たちは、出場する全てのレースで勝利を求められていた。

険しい山岳のレースでも勝利を求められ、平坦のスプリントステージでも勝利を求められ、ステージ優勝だけでなく総合優勝も求められていた。
全てで圧倒的な力を見せることが、プロサイクリストとしての誇りであり、誰しもからリスペクトを集める勲章であった。

ファウスト・コッピ、ヨハン・ムセウ、エディ・メルクス、ローラン・フィニョン…、といったレジェンドたちは、言わば"真のオールラウンダー"だったのだ。

現役レーサーで最も真のオールラウンダーに近い選手として、ペーター・サガンを思い浮かべる方が多いのではないだろうか。

サガンの今年の目標はミラノ〜サンレモとパリ〜ルーベだと公言している。
リック・ファン・ローイ、エディ・メルクス、ロジェ・デ・フラミンクと、歴史上わずか3名しかいない5大モニュメント全てに勝利した男になることを、サガンは新たな目標として掲げている。

ミラノ〜サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ〜ルーベで勝ちやすい脚質はスプリンターやパンチャーだろう。
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ、イル・ロンバルディアで勝ちやすい脚質はクライマーだ。

前者と後者、両方のレースを同年に制した選手は、1984年にパリ〜ルーベとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュを制したショーン・ケリーが最後となっている。
近年では、2011年にフィリップ・ジルベールがミラノ〜サンレモ3位、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝した年が最も惜しかったと言える。

それだけスプリント力と登坂力の両方を高い次元で兼ね備えることは、難しいことなのだ。

サガンは、同年に全てのモニュメントを勝とうとは思ってなく、今年はミラノ〜サンレモとパリ〜ルーベ、来年以降はリエージュ〜バストーニュ〜リエージュとイル・ロンバルディアを狙う、というようにトレーニング方法を変え、脚質を変えてレースに挑むものと思われる。
数年単位での長期的な計画だと言えよう。

しかし、ジルベールやサガンは、5大モニュメントを全て勝ちうる力があるかもしれないが、グランツールで総合優勝することは難しいだろう。

真のオールラウンダーとは、クラシックレースだけでなくグランツールでも勝てる選手のことを言う。

グランツール自体は、クライマー向きのレースと言える。
スプリンター・パンチャー向きのモニュメントでの優勝と、クライマー向きのグランツールでの総合優勝を同年に成し遂げた選手は、1989年にミラノ〜サンレモとジロ・デ・イタリアを制したローラン・フィニョンが最後である。

スプリント力も高く、グランツールで総合上位に入っている印象のあるアレハンドロ・バルベルデですら、ミラノ〜サンレモは2016年の15位が最高順位である。
なお、同年のジロ・デ・イタリアでは総合3位となっている。

20〜30年前に比べ、トレーニング方法も大きく進化して、スプリンターはスプリンターに特化して、クライマーはクライマーに特化しつつあるこの現代に、ローラン・フィニョンやエディ・メルクスのようなスーパーレジェンドは、もう未来永劫誕生することは無いのではないか。

かつての真のオールラウンダーの姿を現代に求めることは酷なことである。
時代は変わったのだと考えるほうが普通だろう。

だが、それでも、この男の走りを見ると期待せずにはいられない。

その男の名は、ジュリアン・アラフィリップ。
いま、最も真のオールラウンダーに近い選手は誰か?と聞かれたら、迷わずアラフィリップの名をあげたい。

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現状では2位コレクターだが、秘めたる可能性を感じさせるライダー

いや待てよと。
アラフィリップは、未だにワールドツアーでの勝利がなく、2位コレクターという嬉しくない呼称がついているではないかと。
フィニョンやメルクスと同等のカテゴリーで語ってほしくない、という往年のサイクルロードレースファンからのお叱りの声が聞こえてきそうだ。

この点については、全くの同感である。
24歳の若者に、多大な期待を寄せすぎている感は否めない。

重々承知の上だが、それでもアラフィリップには多大な期待を寄せていきたいと思う。
その理由を話していきたい。

アラフィリップは、ワールドツアーの舞台では、まだ1勝もあげることが出来ていないが、2位の座は何度も獲得したことがある。

2014年は、
ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ第5ステージの集団スプリントで2位。優勝はルカ・メツゲツ。

2015年は、
ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ第6ステージで、逃げ切った小集団によるスプリントで2位。優勝はセルゲイ・シェルネツキ。
フレーシュ・ワロンヌで、優勝したアレハンドロ・バルベルデにスプリントで敗れて2位。
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで、優勝したアレハンドロ・バルベルデにスプリントで敗れて2位。

2016年は、
フレーシュ・ワロンヌで、優勝したアレハンドロ・バルベルデにスプリントで敗れて2位。対バルベルデ3連敗。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第4ステージで、集団スプリントで2位。優勝はエドヴァルド・ボアッソンハーゲン。
ツール・ド・フランス第2ステージで、勝てばマイヨ・ジョーヌ獲得できたが、ペーター・サガンに敗れて2位。
欧州ロード選手権はWTではないが、勝てば欧州チャンピオンジャージを獲得できたが、ペーター・サガンに敗れて2位。

そして2017年は、
パリ〜ニース第1ステージで、自ら決めたアタックに追いつかれたアルノー・デマールに敗れて2位。

と言った様相だ。
ワールドツアーでは通算8度の2位を獲得している。
欧州選手権も含めると9回だ。

だが、中身をよく見てみると、クライマー向きのアルデンヌ・クラシックで最終盤まで残ってスプリント勝負している一方で、
通常のステージレースの集団スプリントにも絡んでいることが分かる。

さらに、2016年当時はHCカテゴリーではあったが今年からワールドツアーに昇格したツアー・オブ・カリフォルニアで、総合優勝の経験もある。

スプリント、クラシック、ヒルクライム、全ての領域で1位ならずとも2位をこれだけ獲得できるポテンシャルを持ったレーサーがアラフィリップなのだ。

バルベルデに負けた時も、サガンに負けた時も、大差の敗北ではなく、わずかな差での敗北だった。
もし、今後スプリント能力とヒルクライム能力が10%ずつでも成長したとしたら、アラフィリップはとんでもないバケモノレーサーに進化するだろう。

闘志溢れる走りも魅力の一つ

それだけでなく、アラフィリップの走りはファンを惹き付けるものがある。

アラフィリップは誰かの背後でおとなしくしているタイプではなく、自ら積極的に攻撃を仕掛けていくタイプだ。
その攻撃が不発に終わることのほうが多いのではあるが、身体を大きく揺らしながらダンシングで攻撃していくスタイルは、一度見たら忘れられない。

そして、冷静沈着な男では決してなく、感情を表に出すタイプでもある。
2016年のツール・ド・フランスでは、渾身のアタックがメカトラで不発に終わった時には、人目をはばからず悔し涙を見せていた。

パリ〜ニース第1ステージでも、完璧なタイミングでアタックを成功させたはずだったのに、スプリンターのデマールが唯一アラフィリップについていくことが出来てしまい、ステージ優勝をかっさらわれたことで、やり場のない怒りの表情を浮かべている。

アラフィリップはどれだけ2位になろうとも、闘志は衰えていない。
むしろ覇気が増している印象さえ受ける。

出場する全てのレースで勝ちたい、という純粋な欲求のもとレースに臨んでいるように見えるのだ。

もうあと少しで、念願の勝利を手に入れることが出来るに違いない。

アラフィリップがポディウムの頂点に立った時、新たな伝説は始まるだろう。

Rendez-Vous sur le vélo…

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-コラム, パリ〜ニース2017