サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム ドバイツアー2017

マルセル・キッテルがアンドレイ・グリブコに肘鉄を喰らって流血する事件が発生。

ドバイツアー第3ステージは、大荒れのレースとなった。

延々と平坦に続く砂漠の中を走る路上では、風が強く吹きやすい。それらの風はただの強風ではなく、砂塵を巻き上げた砂嵐となる。

横風の砂嵐が吹こうものなら最悪だ。集団はエシェロンを形成し、路上に散らばる砂に滑って落車しないよう繊細なバイクコントロールが要求され、砂塵に視界を遮られ、サングラスの隙間から目に砂が入り込み、砂粒が頬を叩きつけ、口の中は砂利まみれだ。

たとえレースをしていなかったとしても、こんな状況で自転車に乗っていては誰だってイラつくし、一歩間違えればバイクのコントロールを失って落車しかねない。

ドバイツアー第3ステージでは、最悪の事態が全て引き起こされただけでなく、クイックステップ・フロアーズのマルセル・キッテルが、アスタナのアンドレイ・グリブコに肘鉄を喰らって、割れたサングラスで目元を切ってしまい、流血する事件が起きた。

幸いなことに、キッテルは縫うほどの怪我には至らなかったようだった。応急処置後は出血が止まり、トップ集団と同タイムでフィニッシュしている。

一方で、レース後に様々な状況を審議した結果、グリブコはレース失格処分とされた。

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キッテルは「6ヶ月間出場停止」を要求

レース後に、自身のTwitterに見解を述べていた。

「グリブコの謝罪を受け入れるつもりはない。なぜなら、殴ったことはサイクリングとは関係ないことだから。グリブコのやったことは、美しいスポーツにとって恥ずべきことだ。」

と激怒していて、グリブコを非難している。

また、レース後のインタビューで、キッテルはグリブコに6ヶ月間の出場停止を要求しているとのことだ。

※参考:Kittel calls for Grivko to face six-month ban for punching sprinter

これほどキッテルが怒るのには、ただ殴られたからではない。

こめかみのあたりを切っているが、あと数cmズレていたら眼球を切っている恐れがある危険な場所だったのだ。あわや失明しかねないという、選手生命の危機を感じただけに、キッテルがキレるのも無理はない。

激おこツイートをした直後には、自分の顔をボクサーに当てはめた画像をツイートしている。

「グリブコのことをググったら、体重70kgだそうじゃないか。おい、あんたの限界を知れ!」とのことだ。

70kgの人が殴ってきたら、大事だよと言いたいのか、キッテルは86kgあるので喧嘩する相手を間違えているぞ、と言いたいのか、はたまた冗談っぽい画像で和ませようとしたのか、キッテルの真意ははかりかねる。

何にせよ、キッテルはグリブコに殴られた被害者だと主張しているようだ。

グリブコは先にキッテルが仕掛けてきたと主張

一方で、グリブコは自身のFacebookに、キッテルとの出来事についての見解を述べている。

※参考:Andrei Grivko の投稿

自己流に訳してみると、

「スプリントまで残り3kmの地点で、(お互いの身体がぶつかり合うような)激しいポジション争いが起きることは正常なことだと理解している。しかし、今日のような厳しい気象条件のなかで、ゴールまで残り100kmの地点で激しいポジション争いをすることは、選手に多大な危険をもたらす。

今回は、キッテルの方から私と私のチームメイトのドミトリー・グルージェフを肩で押し込んできて、非常に緊張した危険な状況を作り出し、私の落車や集団内での大クラッシュの原因になりかねなかった。キッテルが攻撃的な行動をするので、私も攻撃的な行動で対応した。確かに感情的になって、サイクリングとは関係ない行動をとってしまったが、極端な状況では安全を確保するために冷静ではいられなかった。

集団内では選手全員平等であり、ポジションを守る権利も平等である。それは、有名な選手だからとか、新人の選手だからかどうかは関係ない。私たちはお互いに平等であることを尊重せねばならない。逆に、キッテルが有名な選手だから、ポジションを譲り渡すのだとしたら、全くスポーツマンシップに則ってない行為だと言える。

私がしたことは、キッテルへの攻撃ではないと断言したい。そして、キッテルが指摘したように私の体重は70kgに対して、彼の体重は86kgだ。

もう一度、レース主催者・すべてのファン・そしてもちろん私のチームにお詫び申し上げたいのだけれども、この不愉快な事件によって、私はレースから失格にされたのだ。」

と言っている。

要は『キッテルが先にぶつかって来て危なかったから殴り返したら、レース失格にされたんだけど…』と言いたいようだ。

過去のレース中の暴力沙汰の事件を見ていると、手を出した選手は軒並み処分される

2001年ジロ・デ・イタリア第14ステージでは、ウラジミール・ベッリが沿道の観客の罵声にキレて殴ってしまい、失格になった件。

2010年ツール・ド・フランス第11ステージでのHTC・コロンビア(当時)のマーク・レンショーが、ゴールスプリントの際にガーミン・トランディションズのジュリアン・ディーンに何度も頭突きをかまし、レースから追放されたこと。

2014年ブエルタ・ア・エスパーニャ第16ステージでは、オメガファルマ・クイックステップのジャンルーカ・ブランビッラとティンコフ・サクソのイヴァン・ロヴニーが殴り合いの喧嘩をした際は、レース中に即刻失格処分となっている。

選手同士の暴力沙汰ではないが、2016年ツール・ド・フランス第8ステージでは、チームスカイのクリス・フルームが沿道の観客を殴ってしまった際には、200スイスフランの罰金が科された。これは、旗を持ちながら走っている観客の旗を振り払おうとしたら、観客の顔面に拳がクリーンヒットしてしまったもので、故意ではないとの判断で軽い罰則で済んだのだろうか。

一方で、2016年クリテリウム・ドーフィネ第1ステージでは、コフィディスのナセル・ブアニがスプリントに向けてのポジション争いでカチューシャのアレクサンダー・クリストフに頭突きをかましていたが、こちらはお咎めなし。

ポジションを守るため、自身の安全を守るために身体をぶつけたり、頭突きをすつことは、ある程度は容認されるということなのかもしれない。そう考えると、2010年のレンショーの処分は重たいように思われる。

また、2010年ツールの第6ステージ終了後に、ケースデパーニュのルイ・コスタとクイックステップのカルロス・バレドが、フロントホイールを使った殴り合いの乱闘を繰り広げたこともあったが、レース外での出来事だったためか、お互いに400スイスフランの罰金という処分で済んでいる。


Fight breaks out after Tour stage 6

処分の明確な基準が曖昧であるように思えるが、一般的には殴る・肘鉄・頭突きなど分かりやすい暴力行為は何かしらの処分が下されやすいように思える。

今回、グリブコが「攻撃的な行動に攻撃的な行動で対応した」とあるように、気象条件が悪い不安定な集団内で、ポジションを守るために身体をぶつける行為は暴力行為ではないのか?という問題提起をしていうようにもとれる。

キッテル側からすれば、わざと身体をぶつけたのではなく強風にあおられてぶつかってしまったのかもしれない。だから、グリブコの言うように「攻撃的な行動」ではなかったことも十分考えられる。客観的に、攻撃の意思があったかどうかを確認することは難しい。

とはいえ、グリブコのFacebookに書いてあったように、もしキッテルがぶつかってきたことで集団内で大落車が起きていたとしたら、どうだろうか。落車によって、選手生命を脅かしかねない大怪我を負う可能性は十分になる。キッテルがこめかみを切って失明の危機を感じたように、グリブコたちもキッテルに押し込まれて、己の危機を感じたことであろう。

ゆえに、キッテルだけが被害者という論調で、グリブコより圧倒的にフォロワー数の多いキッテル自身のTwitterで非難されたことに対して、グリブコの怒りが収まらないことには、情状酌量の余地があるように思える。しかし、客観的に攻撃の意思があったかどうかの証明が難しい以上、明確な攻撃的な行動を示す肘鉄を食らわしたことはいただけない。今回、グリブコが失格処分となったことは仕方がないことだろう。

この事件を受けてか、ドバイツアーの主催者は翌日の第4ステージのコース短縮を決めた。正確には強風横風区間が予測される砂漠地帯を回避するルートに変更した。

砂漠地帯を走る中東のレースにおいては、横風区間の有無がレースの行方を左右する重要な要素となるため、丸々カットされてしまうのは正直残念だ。選手の安全を考えれば喜ばしいことなのに、スリリングな展開を期待している自分がいることは否めないジレンマを抱えている。

ドバイツアー第4ステージ、残されたアスタナの選手たちとキッテルたちとの間で、何事もないことを願って。

Rendez-Vous sur le vélo…

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