サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム ストラーデ・ビアンケ2017

ミカル・クヴィアトコウスキー2度目の栄冠。チームプレーを越えた先の消耗戦とは?

2017/03/09

サイクルロードレースは間違いなくチームスポーツだ。
エースの勝利、すなわちチームの勝利のために戦略を練り、あらゆる戦術を駆使して戦うスポーツである。

特に近年のサイクルロードレースは、戦略の進化が著しい。
チームスカイに代表される統制のとれた高いチーム力を活かして、ライバルチームにつけ込む余地を与えないようなレースを展開することが可能となっている。

気合い・根性さえあれば何とかなるような状況ではなく、エースの体力・実力に加えてチーム力・戦略も勝利に大きな影響を与える要素となっている。

しかし、今年のストラーデ・ビアンケは、最終的に戦略・戦術など何の意味もない、根比べとなった。
優勝したミカル・クヴィアトコウスキーの勝因を考えようにも、「一番体力があった」としか言いようがないほど、極めて原始的なレースだった。

原始的と言えども、プロサイクリストの気合いと根性のぶつけ合いとなった激しい戦いは、片時も目が離せなく見るもの全てを魅了する至高のレースだったと言えよう。

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有力選手が相次いでリタイア

小雨のちらつくストラーデ・ビアンケは、「白の道」ではなく「泥の道」を走るレースとなった。

1週間前のオムループ・ヘット・ニュースブラッドと同様に、有力選手を含む落車がレースの動くきっかけとなった。

昨年、同レースで3位に入ったクイックステップ・フロアーズのジャンルーカ・ブランビッラは集団落車に巻き込まれ、リタイアを余儀なくされた。
この集団落車の影響で、メイン集団は大きく2つに分裂し、バーレーン・メリダのヴィンチェンツォ・ニーバリや、キャノンデール・ドラパックのリゴベルト・ウランやセプ・ヴァンマルクなどの有力選手が後方集団に取り残されてしまった。

さらに優勝の最有力候補であった、ボーラ・ハンスグローエのペーター・サガンが体調不良が原因でリタイアする。

この時点でメイン集団内で最も多く選手を残していたチームは、ロット・ソウダルだった。
ティージ・ベヌート、ティム・ウェレンスと2人はエース格の選手に加え、アシストのショーン・デビエが残っていた。

このメイン集団から1分ほど前方に、FDJのティボー・ピノらを含む5名ほどの逃げ集団がいた。

残り70km以上を残して、メイン集団はほとんどのチームがアシストを失っていて、メイン集団自体の人数も少なくなっている。
手をこまねいていると逃げ集団が逃げ切ってしまいかねない状況だった。
一方で、メイン集団の後方には落車の影響で遅れた大集団がメイン集団に合流しようと、必死の追走を行っていた。

ロット・ソウダルとしては、このレースを勝てる見込みのあるベヌートとウェレンスが残っている以上、絶対に後ろに追いつかれたくはなかった。
デビエが先頭固定で追走集団を引き離すべく、全開の牽きを始めた。

ここから、消耗戦は始まった。

カウンターアタックに次ぐカウンターアタック

だが、デビエ一人では追いすがる大集団を引き離すことは難しかった。

しかし、後方の追走集団に追いつかれたくないという思いは、なにもロット・ソウダルだけが抱いているものではない。
チームスカイのミカル・クヴィアトコウスキー、BMCレーシングのフレフ・ヴァンアーヴェルマート、クイックステップ・フロアーズのゼネク・スティバル、チーム・サンウェブのトム・ドゥムラン、オリカ・スコットのルーク・ダーブリッジも同じ考えを持っていた。

だが、ロット・ソウダルと違ってアシストを残していなかったため、自ら動きたくはなかった。
そこで、ロット・ソウダルのデビエにギリギリまで仕事をさせてから、自分たちも動いていこうと考えていたはずだ。

後方の追走集団が、メイン集団にたどり着いたや否や、メイン集団からクヴィアトコウスキーらエース級の選手たちによるカウンターアタックで一気にペースアップ。
追走で大きく力を使った後方の集団から、メイン集団にブリッジ出来た選手は、ほんのわずかだった。

メイン集団が落ち着きを取り戻そうとすると、誰かがアタックを仕掛けメイン集団をバラバラにする。
メイン集団後方で遅れをとった選手が、何とか集団復帰を果たしたと思いきや、再びカウンターアタックを仕掛けられる。

このような断続的な攻防は、"ファビアン・カンチェラーラ"の名が付けられたアップダウンの激しい11.5kmの未舗装路区間で行われていた。
フィニッシュまで残り50km近くある状況にもかかわらず、まるでレース最終盤かのような激しいバトルを繰り広げている。

11.5kmの未舗装路区間が終わる頃には、ディメンションデータのエドヴァルド・ボアッソンハーゲン、クイックステップ・フロアーズのマッテオ・トレンティン、BMCレーシングのステフェン・キュングらがメイン集団へのブリッジに成功する。

フィニッシュまで残り40kmほど。
次の未舗装路区間まで20km近くあり、一旦レースが落ち着くかと思われた。

カウンターアタックは終わらない

トレンティンが合流したことで、クイックステップ・フロアーズはスティバルと2名体制となった。
このあとの激坂の存在を考えると、スプリンター寄りのトレンティンが生き残ることも、激坂で仕事をすることも難しい。

そこで、激坂に至るまでに集団を破壊せんと、トレンティンがアタックを仕掛け、人数を揃えるロット・ソウダルとBMCレーシングがトレンティンのアタックをチェックする。
舗装路区間とはいえ、アップダウンが激しく、登りが得意ではない選手たちは遅れを喫してしまい、集団復帰に脚を使う羽目になる。

しかし、このトレンティンの動きは誘導に過ぎなかった。
再び集団が落ち着こうかとした矢先に、スティバルが猛加速してアタックを仕掛けた。
今度は正真正銘の集団破壊の動きである。

トレンティンのチェックに追われていたロット・ソウダルとBMCの面々は、スティバルの仕掛けに反応が遅れ、取り残されてしまう。

スティバル、クヴィアトコウスキー、ドゥムランらが飛び出しに成功し、いつの間にか前を走っていた逃げ集団と合流して、ベヌート、ウェレンス、ヴァンアーヴェルマートらを引き離しにかかる。

スティバルたちにとって、登りに強いウェレンスとスプリントに強いヴァンアーヴェルマートは一緒に連れていきたくない選手なので、協調してローテーションを回して決定的な差をつくりにかかっていた。
スティバルグループは、ヴァンアーヴェルマートグループと20秒以上のタイム差を築くことに成功した。

ヴァンアーヴェルマートたちは、ここで諦めたらレースが終わってしまうので、かれこれ40km近く全く息のつかない展開で、かなり脚を使っている状況にもかかわらず、根性の追走を見せた。
体力ゲージのようなものがあったとしたら、ヴァンアーヴェルマートもウェレンスもレッドゾーンに突入していたに違いない。

気合い・根性としか言いようがない壮絶な追走劇は成功を収める。
ヴァンアーヴェルマート、ウェレンス、ダーブリッジの3名は先頭集団にブリッジすることが出来た。
すでにフィニッシュまで残り20kmを切っていた。

目まぐるしく動くレースは、いよいよこの日最大の難所である最大勾配18%の激坂未舗装路区間へと突入していく。

残る力を振り絞って、激坂をクリアした選手たちによる優勝争いへ

アタックを仕掛けるポイントとして18%の激坂は最適のはずだった。
選ばれし精鋭たちと言えども、落車による集団分裂時から、ほとんど全開に近い走りを強いられてきたため、激坂でアタックを仕掛ける余裕など全くなかった。

とにかく体力の消耗を最小限に抑えながら、極力速い速度で登ることだけを意識している。
という風に見えた。

それでも、消耗しきったTTスペシャリストたちの脚にとどめを刺すには十分だった。

ドゥムラン、ダーブリッジらが遅れを喫してしまい、
優勝争いの行方はスティバル、クヴィアトコウスキー、ヴァンアーヴェルマート、ウェレンスの4名に絞られた。

フィニッシュまで残り10km。
4名はローテーションを回そうとするも、うまく回ることが出来ない。
誰もがみな体力の限界を迎えているかと思われた。
1名を除いては。

クヴィアトコウスキーは、わずかながら体力に余裕を残していた。
いや、この日最も体力を有していた選手がクヴィアトコウスキーだった、と言う方が正しいかもしれない。

なぜなら、クヴィアトコウスキーは誰よりもライバルのカウンターアタックを潰すために脚を使っていたからだ。
誰かの背後に隠れて、脚を溜めていたわけでは決してない。

気が付けば、クヴィアトコウスキーは、他の3名に対して自然と差をつけていた。

ヴァンアーヴェルマート、スティバル、ウェレンスの3名は体力の限界に達していると察したクヴィアトコウスキーは、勝算なき賭けに打って出た。
フィニッシュまで10kmを残して、独走を試みたのだ。

世界屈指のダウンヒラーであるクヴィアトコウスキーは、雨が降った後のウェットな路面のダウンヒルを使って、ヴァンアーヴェルマートたちとの差をぐんぐん開いていく。

残り5kmで20秒以上のアドバンテージを築くことに成功する。
そして、クヴィアトコウスキーの見込み通り、ヴァンアーヴェルマートたちは体力の限界に達していたため、3名でローテーションしても一向にクヴィアトコウスキーとの差は縮まらない。

20秒以上のリードを築いたまま、ラスト1kmのアーチをくぐっていく。
いよいよ、本レース最後の難所である最大勾配16%の激坂の登場だ。

時折ダンシングをまじえながら、気合いと根性で激坂をクリアする。
後ろを振り返りながら、直角コーナーをクリアしていく。
1つ、2つと。

最終コーナーを曲がるところで、クヴィアトコウスキーは勝利を確信し、右手を突き上げる。

そして、観客を煽るかのように右腕をぐるんぐるん振り回して、最後は両手でガッツポーズ。

2014年以来、2度目のストラーデ・ビアンケ優勝を果たした。

昨年、3度目のストラーデ・ビアンケ優勝を果たしたファビアン・カンチェラーラは、ゴール後に自身のバイクを持ち上げて喜びを全身で表現した。
対して、今年の勝者であるミカル・クヴィアトコウスキーは、ゴール後は自身のバイクの上でへたり込み、スタッフの呼びかけにもわずかな反応しか示さないほどに疲弊しきっていた。
それだけ、激しく壮絶な戦いが繰り広げられていたのだろう。

終盤のクヴィアトコウスキーの走りには戦略も戦術もクソもなかったが、魂のこもった素晴らしい走りだった。
バイクだけでなく顔やヘルメットまで跳ねた泥で汚れた姿は、美しい以外の言葉では形容できない。

2014年、ストラーデ・ビアンケでの勝利に勢いを得たクヴィアトコウスキーは、同年のロード世界選手権で優勝し、アルカンシェルを獲得している。

2017年、クヴィアトコウスキーは再びアルカンシェルを獲得することが出来るだろうか。
この日の走りを見ている限り、とても期待が持てるように見える。

だが、まずは目先のターゲットを射止めることが大事だ。
次の目標はアルデンヌ・クラシックだろう。

アムステルゴールドレース、フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで、再びクヴィアトコウスキーのタフさが試される。

Rendez-Vous sur le vélo…

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-コラム, ストラーデ・ビアンケ2017