サイバナ

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その他レース2017 コラム

37歳ミケーレ・スカルポーニ、チームの窮地を救う1勝。大ベテランが見せる本気とは?

2017/07/13

アスタナがヤバい。

もう、『ヤバい』というありふれた言葉でしか形容できないほどに、目を覆いたくなる惨状だった。

今シーズン、18を数えるワールドチームの中で、唯一未勝利のチームだった。
UCIワールドツアーチームランキングでは、辛うじて最下位は免れたものの現在17位。

昨シーズンまでのポイントゲッターだった、ヴィンチェンツォ・ニーバリとディエゴ・ローザ移籍のダメージをもろに受けている状況だったのだ。

また、アスタナの登録国であるカザフスタン首都としてのアスタナでは、今年の6月から「アスタナ万博」が開催される。
中央アジアの新興国として、目覚ましい発展を遂げている国家として、世界にアスタナをアピールする極めて重要な一年となっている。

カザフスタン国家、ならびに首都アスタナの支援を受けているアスタナ・プロチームにとっても、万博の開催は他人事ではない。
むしろ、アスタナ・プロチームは万博開催にこぎつけるまで、世界に対して「アスタナ」の名をアピールし続ける役割を背負い続けていたのだ。

だからこそ、よりいっそう2017年シーズンにおけるアスタナの活躍は重要だった。

チームの顔とも言えるニーバリを失ったものの、ファビオ・アルとミゲルアンヘル・ロペスモレーノという二人のステージレーサーをエースに据えることで、アスタナは飛躍の一年を送る予定だった。

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ダブルエースの負傷離脱

昨年のツール・ド・スイスで総合優勝を果たした新鋭ロペスモレーノは、昨年11月にトレーニング中の事故で脛を骨折してしまった。
全治半年間という重傷を負い、いまだにレース復帰を果たしていない。

5月のツアー・オブ・カリフォルニアで復帰予定ではあるが、トップコンディションにすぐ戻せるかどうかは未知数だ。

そして、ファビオ・アルもまた、4月上旬にトレーニング中の落車の影響で、ジロ・デ・イタリア欠場が発表された。

今年のジロ・デ・イタリアは、記念すべき100回大会だ。
しかも、第1ステージが開催される場所は、アルの地元であるサルデーニャ島だ。

2014年総合3位、2015年総合2位と相性の良いジロで、アルは爆発的な活躍を期待されていた。
しかし、トレーニング中に落車して、膝を痛めてしまった。
このため、ジロの欠場が決まった。

貴重なポイントゲッターを失ってしまったこと以上に、チーム最大の目標であったジロ・デ・イタリアに向けてエースを欠くことが何よりも痛かった。
しかもまだシーズン未勝利の状況でだ。

アルの欠場は、あまりにも悲しい出来事だ。
ふと、昨年のツール第20ステージでハンガーノックに陥って失速したアルが号泣しながら、チームメイトに慰められるシーンを思い返した。

今もツールの時と同じような状況ではないだろうか。

昨年までのアルに対しては、「何やってんだ!」「不甲斐ないよ」という感情があったが、今のアルに対しては、ただただいたたまれない気持ちにさせられている。

最悪のチーム状況のまま、GMのアレクサンドル・ヴィノクロフ大佐は、ジロ・デ・イタリアの代役エースに37歳ベテランのミケーレ・スカルポーニを据えることを決めた。

ピンチの時に、頼れるスカルポーニ

急遽、総合エースとして調整することを命じられたスカルポーニは、ツアー・オブ・ジ・アルプスに出場する。
昨年までジロ・デル・トレンティーノの名で知られたステージレースだ。

スカルポーニは、2011年のジロ・デ・イタリアで総合優勝を果たしている。
本来、総合優勝のはずだったアルベルト・コンタドールがドーピング違反のため成績を剥奪され、スカルポーニは繰り上げで総合優勝となった。

2012・2013年のジロでは、ともに総合4位の成績を残した。

2014年からアスタナに移籍してきて、当時のエースだったヴィンチェンツォ・ニーバリや、アルのアシストを務めていた。
とくにニーバリにとっては、極めて重要な山岳アシストとして活躍し、2014年のツール総合優勝、2016年のジロ総合優勝に大きく貢献した選手の一人だ。

昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでは、早々にリタイアしたロペスモレーノに代わって総合エースを担い、しぶとく総合11位で完走している、
11位とはいえ、グランツールの上位で完走したことで、貴重なポイントを獲得した。

このように、ベテランらしいしぶとい走りを見せつつ、山岳アシストとしてチームの危機を幾たびも救ってきた。

今回もチームの窮地を救うべく、スカルポーニがキーマンに指名されるのは必然であった。

そうして迎えたツアーオブジアルプス第1ステージで、スカルポーニが大仕事をやってのけた。

ベテランらしい緩急をつけた駆け引き

最後の登りは登坂距離は2.3kmだが、平均勾配は10%近くあって、なかなか強烈だ。

登りに入ってすぐ、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォのアタックをきっかけに集団が乱れ始める。

残り1.2kmでのゲラント・トーマスの決定的な攻撃に食らいついたのは、ポッツォヴィーヴォ、スカルポーニ、アンドローニ・ジョカットリのベルナールだけだった。

スカルポーニは決して前に出ることはなく、ジッと耐えるようにライバルたちのアタックをチェックする。
クライマーの心理を全て見透かしているかのような落ち着きぶりだった。

多少距離が離れても慌てず、無駄なダンシングはしない。
体力の消耗を最小限に留めながら、機をうかがっていた。

後方からは、ダビデ・フォルモロとティボー・ピノが追いついてきた。
その勢いのままフォルモロがアタックを仕掛けるも、これはポッツォヴィーヴォがチェックする。
スカルポーニは常に3番手から4番手くらいの位置をキープしながら、機が熟すのをひたすら待った。

残り100mを切るころには、ライバルはみな牽制しあっていた。
脚が緩んだ一瞬の間隙を突いて、スカルポーニが溜めに溜めた体力を解き放つかのようにスプリントを開始する。

アタック合戦や追走に消耗したライバルたちには、もはや全開のスカルポーニを追う力は残っていなかった。

最後まで力強くペダルを踏み続けたスカルポーニが最初にフィニッシュラインに到達。
ようやくアスタナに今シーズン初勝利をもたらしたのだった。

久々の勝利が、チームの危機を救う1勝

スカルポーニ自身にとっても、勝利の美酒を味わうのは実に4年ぶりのことだ。
2011年にジロで総合優勝した後は、2013年にGPエトルスキで優勝のみだった。
どちらも前所属チームのランプレでの出来事であり、アスタナ移籍後の初勝利となった。
アスタナでのスカルポーニは、ニーバリとアルのために徹底してアシストの任務を遂行していたというわけだ。

そのスカルポーニが、チーム未勝利という異常事態から脱するために、ツアー・オブ・ジ・アルプス第1ステージを狙って勝ちに来たのだ。

必ずステージを獲るために、アタック合戦には参加せずチェックに徹した。
これぞ百戦錬磨のベテランの味と言える、絶妙な駆け引きを見せた。

アスタナは、またもスカルポーニに救われた。
頼れるベテランは、ジロでも総合上位を本気で獲りに来ることだろう。

チームのため、アスタナ万博成功のため、何よりヴィノクロフ大佐の檄に萎縮しているであろう若手選手を勇気づけるためにも。

Rendez-Vous sur le vélo…

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