サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム ツール・ド・フランス2017

ミカル・クウィアトコウスキーは世界最強のアシストだ。実力・人格全てにおいて。

2017/07/13

激動の第1週を終えて、選手たちは束の間の休息を味わっていることだろう。
落車が非常に多く、総合上位を狙える選手を含む18人の選手が大会を去っている。

昨年は第8ステージでカチューシャのミカエル・モロコフがリタイアするまで、出場選手198人全員がレースを続けていた。
第9ステージ終了時点でも5人である。

そのため、主催者は例年以上に第1週の難易度を上げたかったのかもしれないが、我々が見たいスペクタクルなレースとはこのようなものではない。
新城幸也がアシストするヨン・イサギレがアタックを仕掛け、アレハンドロ・バルベルデがアシストするナイロ・キンタナやリッチー・ポートやラファル・マイカが、マイヨジョーヌのクリス・フルームに襲いかかる。
フルームがピンチに陥ったところを、ゲラント・トーマスが引き上げて助ける。
そのような展開こそが、ファンの期待するスペクタクルの本当の意味ではないだろうか。

That's a part of cycling.
The show must go on.
と言えば、それまでだが、簡単に開き直りたくはない。

ランス・アームストロングが自身のポッドキャストで「選手たちは労働組合を組織して、コース決定に参画すべき」という意見もごもっともだと思う。

現実的には、選手の間にだって様々な思惑があるだろうし、一枚岩になることは難しいことのように思える。
そして、星の数ほどあるレースの全てを事前にチェックすることは不可能だし、グランツール3つにしたって難しいことだ。

だが、選手やチーム、主催者やUCIのいずれにも属さない独立した組織による第3者チェック制度を導入してもいいだろう。
交通規制の事前調整、自治体の協力などもあり、後から修正が難しい点もあることは承知だ。
それでも、観客の喜ぶレースを危険なレースだと勘違いして暴走を続けるレース主催者を監視する役目を持った組織が、今の時代だからこそ必要ではないかと思う。

荒れた大会となっているが、展開を落ち着けるために一役買うのはアシスト選手の働きだ。
落車に巻き込まれて遅れたエースを集団に引き戻したり、大人数の逃げを吸収可能なタイム差でコントロールしたりと、アシストの動き次第で荒れたレースも落ち着きを取り戻す。

中でも、とりわけ素晴らしい働きを見せているのが、チームスカイのミカル・クウィアトコウスキーだ。

スポンサーリンク

第8ステージでのアシストぶり

第8ステージは、終盤に2級山岳・1級山岳と登場するレイアウトで、50人近くの選手が逃げているレース展開だった。

2級山岳の上り口で先頭集団とメイン集団とのタイム差は、2分23秒だった。
この山岳の途中からクウィアトコウスキーは集団コントロールを開始した。

逃げ集団内でも、度々アタック合戦が勃発していて、相当のスピードが出ていたはずだった。
さらに、ヤン・バークランツ、ニコラス・ロッシュ、グレッグ・ヴァンアーヴェルマート、セルジュ・パウェルス、ワレン・バルギル、ロベルト・ヘーシンク、サイモン・クラーク、そしてリリアン・カルメジャーヌら8名の精鋭集団が逃げる展開となった。
全員がステージ優勝を狙う、本気の逃げ集団だ。

協調も取れていて、全員でローテーションしながらメイン集団を引き離す。
…はずだった。

ところが、クウィアトコウスキーが牽引するメイン集団とのタイム差は広がらず、むしろ縮小傾向にあった。
中継を見ている限りでは、クウィアトコウスキーが先頭固定で牽いているように見えた。

クウィアトコウスキーが仕事を終えたのは、残り21km地点。
逃げとのタイム差は1分19秒まで縮まっていた。

決して、逃げ集団が手を抜いていたわけではない。
1級山岳の上りが始まると、ヴァンアーヴェルマートやバルギルなど、登坂力の高い選手がすぐに遅れてしまっていた。
それなりの高負荷でローテーションを回っていたのだと思われる。

クウィアトコウスキーの牽引力の凄まじさが伝わってくる。

さらに凄まじい働きを見せた第9ステージ

ラ・ビッシュ峠の下りでAG2Rがペースアップしてきて、チームスカイはゲラント・トーマスが落車したため、ロマン・バルデがフルームたちに先行する展開となった。
当然、下りのスペシャリストであるクウィアトコウスキーがマイヨジョーヌグループの先頭に立って牽引していた。
下り切った頃には、無事にバルデグループを吸収することができた。

クウィアトコウスキーの真骨頂はここからである。
グラン・コロンビエの上りはセルジオ・エナオら山岳アシストの担当分野ではあったが、山頂付近で6分程度まで広がっていた逃げ集団とのタイム差を削るため、再びクウィアトコウスキーが先頭に立った。

グラン・コロンビエのダウンヒルはもちろん、下りきってからの平坦区間も中継を見る限りではクウィアトコウスキーが先頭固定で牽き続けていたように見える。

補給地点を通過した際には、缶のコーラを器用に開けて、クイッと飲み干しながらも集団先頭で牽引は続ける仕事人ぶりを発揮していた。
逃げ集団とのタイム差もぐんぐん縮まり、最後の超級山岳モン・デュ・シャの手前にあたる残り36km地点では3分差まで詰め寄った。

仕事を終える前になると、さすがのクウィアトコウスキーも顔を歪ませるシーンが見られた。
とはいえ、超級山岳のダウンヒル2つ分の集団牽引を含む、途中は50km以上先頭固定という人間離れした牽引を見せた。

いったい、クウィアトコウスキーは何人分の仕事をしているのだろうか。

この後は、逃げ集団を全て吸収し、フルームはステージ3位に入りボーナスタイムを獲得した。
いろいろなことがあった一週間を、トーマスのリタイアという痛手は被ったものの、フルームのマイヨジョーヌは無事に守り通すことが出来たのだ。

第9ステージには、まだ続きがあった

だが、クウィアトコウスキーは、第9ステージで仕事を終えた後も、もう一つ仕事をやってのけていた。

集団牽引を終えて、ゆっくり走っていると後続の選手たちに続々を抜かれていく。
その中に、両腕を包帯で巻き、全身血だらけになっているラファル・マイカを発見したのだ。

マイカは、ラ・ビッシュ峠のダウンヒルで激しく落車してしまい、リタイアしてもおかしくない怪我を負いながらも完走を目指していたのだ。
マイカに付き添っていたチームメイトのエマヌエル・ブッフマンを、ペースが上がらないから先に行かせていたほどだった。

クウィアトコウスキーとマイカは同じポーランド出身だ。
年齢もそれぞれ1990年生まれ、1989年生まれと一歳違いだ。
出身地は違うし、同じチームに所属したことはないが、2010年のU-23世界選や、2013・2015年の世界選ではポーランドチームとして一緒に出場している。

そのような同郷のよしみからか、マイカのアシストを始めたのだ。
クウィアトコウスキーが先頭固定で、苦しむマイカのペースをつくる。

マイカのスピードは全く上がらず、後方にマルセル・キッテルを含むスプリンターのグルペットがあるものの、タイムアウトの危機も迫っていた。
それでも、クウィアトコウスキーはマイカのそばを離れず、献身的に牽き続けていた。

そして、フルームたちがフィニッシュしてから36分21秒遅れて、2人揃ってフィニッシュした。

チーム間を越えた友情、なんとも素晴らしい美談ではあるが、クウィアトコウスキーはこの日メイン集団を50km以上ほぼ全開で牽いていた後の出来事なのだ。
手負いのマイカのスピードに合わせることなど、クウィアトコウスキーならたとえ消耗していたとはいえ造作の無いことかもしれない。
それでも、疲れきった身体で自分と明らかにペースの合わない選手を牽き続けることは決して楽なことではない。

クウィアトコウスキーの人格、アシスト選手としての矜持、何よりも同じ釜の飯を食うプロサイクリストへの崇高な敬意を感じるシーンだった。

なおマイカは、レース後に病院に直行。
検査の結果、骨折は無かったものの、全身に擦過傷と打撲を負っており、残念ながら翌日にリタイアを決めた。

それでも、本当に素晴らしいシーンを見せてもらったと思う。
クウィアトコウスキーは並々ならぬ実力者であり人格者でもあった。
1人のサイクルロードレースファンとして、心から尊敬したい。

Rendez-Vous sur le vélo…

スポンサーリンク

-コラム, ツール・ド・フランス2017
-,