チーム批判報道のあったミケル・ランダ。「オレは怒っている」発言の真意とは?

強いアシストは、頼りになる。
だが、強すぎるアシストは、自らの力を誇示するために、時としてエースやチームとの間に緊張関係を築くこともありうる。

古くは、ベルナール・イノーとグレッグ・レモンの関係、最近では2009年のランス・アームストロングとアルベルト・コンタドールなど。
そして今回のメインテーマであるミケル・ランダは、2015年のジロではファビオ・アルとの関係が取り沙汰され、今年のツールでも同様にクリス・フルームとの関係が報道されていた。

今年限りで所属チームであるチームスカイとの契約が切れるなか、モビスターへの移籍報道もあり、
そこへ、さらにランダがチームスカイを批判したと捉えかねない報道が、スペインメディアによってなされた。

もちろん、ヨーロッパメディアの信ぴょう性は怪しい。
日本のスポーツ紙も、かなりの量の飛ばし記事を書いているわけで、スポーツ紙のスクープと同じ程度の信ぴょう性で受け止めるべきだと考える。
チーム批判報道は、ランダ自身のインタビューに基づいているとはいえ、脚色している可能性は大いにあると見た方がいいだろう。

その上で、筆者の解釈を述べたいと思う。

ランダとはどのような男なのか?

件のランダの記事はこちらだ。

要約すると、
・ランダは第18ステージのイゾアール峠にて、フルームに従ってアタックを仕掛けたが、その後チームからペースを落とすよう指示され12秒のタイムを失った。
・1秒差で表彰台を逃す原因となったので、チームオーダーには不服を抱いている。
・フルームとは良い関係を維持している。GMのデイブ・ブレイルスフォードが良くやってくれたからだ。
といったところだろうか。

とにかく、ランダは怒っているというのだ。

そもそも、ランダとはどのような男なのか。
ランダを語る上で外せないのが、2015年ジロでのアルとの関係だ。

まず、ランダは2015年のジロまでそれほど有名な選手ではなかった。
ジロで力強い走りを見せたことで、一躍スター選手への道を駆け上ったのだ。

ランダが名をあげたステージが、第15ステージだ。
マリアローザを着るキレキレのコンタドールを相手に、互角以上の走りを見せステージ優勝を飾ったのだ。

結果として、エースのアルは数秒遅れてフィニッシュしたが、総合争いに大きな影響を及ぼすほどのタイム差ではないし、その後のランダやアルのコメントを見ても、2人の間に確執があったとは思えない。

さらにランダは翌日の第16ステージでもステージ優勝をあげる。
コンタドールのメカトラの隙に攻撃を仕掛けたアスタナ、遅れたアルを置き去りにしてのアタックが物議を醸した。
さすがにランダ自身の判断ではなく、チームの指示によるものだろう。
それ以上に、2日続けて山岳でコンタドールと互角以上の走りを見せたことは、ランダにとって大きな自信となったことは間違いない。

この実績を引きさげて、翌シーズンからチームスカイへと移籍した。

単独エースとして惨敗に終わったジロ

2016年ジロには、スカイのエースとして出場した。
前哨戦のジロ・デル・トレンティーノ(ツアー・オブ・ジ・アルプス)で総合優勝し、万全の体制で挑んだ。

しかし、結果は惨敗だった。
胃腸のトラブルで途中リタイアを余儀なくされ何もできずに終わってしまった。

ちなみに、2015年ジロの期間中にランダは次のようなコメントを残している。

「僕がこのジロで最初からエースに据えられていて、アルのために働く必要が無かったとしたら、逆に何も残すことが出来なかったかもしれない。」
(http://www.cyclowired.jp/news/node/167945 より)

元々ランダは一人で、グランツールを戦う自信がなかったのかもしれない。
単独エースで挑んだ2016年ジロでの失敗が、その意識に拍車をかけることになっただろうか。

その後、ツールにはフルームのアシストとして出場したが、山岳での活躍はワウト・ポエルスの独壇場で、ランダの存在感は薄かった。
そのまま2016年シーズンを終える。

再び力を見せたランダ

2017年ジロは、ゲラント・トーマスと共にダブルエース体制で挑んだ。
トーマスを総合エースにしたいチームの意向と、ダブルエース体制ならば自分の本来の力を発揮できると踏んだランダの意向が合わさったためではないかと思う。

ところが、第9ステージで、トーマスとランダは大落車に巻き込まれる。
トーマスは後にリタイアするほどのダメージを負い、ランダも第9ステージは片足が使えないほどのダメージを受け、30分近い遅れを喫した。

ランダのジロは終わった。
誰もがそう思ったはずだった。

ところが、ランダは驚異的な回復を見せ、第14ステージではマリアローザのトム・デュムランを含む先頭集団でレースを展開。
ステージ3位に入る好走を見せた。

その後は、山岳賞を狙って逃げに乗ったり、ステージ優勝を狙った走りを見せ、見事にステージ1勝と山岳賞を獲得するに至った。

ランダは再び自信を取り戻した。
続くツールでは、フルームのアシストとして山岳で際立った活躍を見せた。

第12ステージのペイラギュードでは、アルのボーナスタイム獲得を阻止するために自分の判断でアルを追った。
もちろん、あわよくばステージ優勝を狙っていただろうが、アルのボーナスタイム阻止のことが頭のなかに無ければ、あのようにアルに追従する形で加速する姿はなかったはずだ。

第15ステージでフルームがメカトラで遅れた際も、ランダはロマン・バルデをしっかりとチェックしながら、フルームがバルデグループに近づくとランダは自らフルームのところまで降りてきてアシストしていた。

というように、ランダは常にフルームの頼れる相棒として、献身的なアシストをしていた。

そして、例のイゾアール峠の第18ステージを迎える。
第18ステージという最終盤にもかかわらず、ランダは総合3位まで1分差もない好位置につけていた。
ここまで来たらランダも表彰台を狙いたかったことだろう。
さらに好都合なことに、イゾアールで総合4位につけていたアルが遅れていたのだ。

フルームは、ランダの気持ちを汲み取って、ランダにアタックするよう声をかけたのだ。
ところが、ランダはイゾアールの山頂まで逃げ切ることは出来ず、バルデたちに追いつかれてしまった。
パワーを出し切ってしまったランダは、バルデの最終加速について行けずに、12秒離されてフィニッシュした。

という風に見えた。

だが、例の記事ではランダに待つように指示して、12秒離されたと書いてある。
むしろペースを落として待ったのなら、その前にフルームとのアタック合戦に対応したバルデの方が疲弊しているはずだろう。

さらに最終的に1秒差で表彰台を逃すことになったが、逃したというよりはバルデがTTで大失速したにもかかわらず、ギリギリ1秒差で表彰台を守った。と表現する方が正しく、仮に逆転して表彰台を獲得していたとしても、ランダの功績というよりはバルデの失策と見るべきだろう。

つまり、イゾアールで失った12秒が原因で、表彰台を獲得できなかった。という論調は、結果論に過ぎない。
それに、大会中は常にチームオーダーとフルームのために献身的にサポートしていたランダが、突然チーム批判をすることの方が不自然だ。

ランダが不服を抱いているという方が、記事としては美味しいからインタビュアーが脚色しているのではないかと疑ってしまう。

『ランダは怒っている』と記事には書かれていたが、チームに対して怒っているのではなく、イゾアールでバルデたちを突き放せなかった自分に対して、もしくは最後まで諦めずに走り抜けていれば、数秒差で表彰台を獲得できたかもしれない自分の詰めの甘さに怒っている。という文脈で「怒り」という表現が使われているなら、理解できる話だ。

強い相方と共にグランツールを狙いたい

ランダが印象的な走りを見せる時は、2パターンある。
一つはエースのアシストとして走っている時、もう一つは総合ではなくステージ優勝を狙って走る時だ。

ランダ自身は、もちろんいつの日かグランツールのチャンピオンになることを夢見ているに違いない。
しかし、現実的に単独エースとしてチャンピオンになることは自分には向いていないかもしれないと思っているだろう。

エースをアシストしながら走る、もしくはダブルエース体制で走ることが一番自分の力が引き出されると経験から導き出された。
ゆえに、ランダはモビスターへの移籍の可能性が高いのではないかと思っている。

モビスターはスペインのチームであり、もし万が一ランダが劇的な走りを見せ、総合優勝が濃厚になったとしたら、チームは全力でランダの総合優勝をアシストしてくれるに違いない。
しかし、チームスカイはイギリスのチームであり、イギリス人のフルームやトーマスを差し置いてまでランダが優先されることは考えにくい。

ナイロ・キンタナをアシストしながらでもいいし、キンタナとのダブルエースでもいいし、アレハンドロ・バルベルデとのコンビでも良いのだ。
ランダは自分の力をまず最大限に発揮することを優先したいと考えているのではないだろうか。
その中で、総合優勝や表彰台の機会を伺うことが、自分を高める最善の道なのだ。

それにまだ27歳と若い選手だ。
単独エースで総合を狙うのは、もう少し先になっても遅くはない。

ランダが野心的な選手であることは間違いない。
だが、チームの和を乱してまで、己の野望を実現しようと考えるような男ではない。

ランダの野望を実現するためには、イタリア系チームのUAE・チームエミレーツは適していないし、古巣のアスタナも違う。
現状唯一のスペインのワールドチームであるモビスターこそが最適なチームなのだ。

夢を現実的な目標に変えるために。
ランダよ、スペインへ羽ばたけ。

Rendez-Vous sur le vélo…

2 COMMENTS

はしっこ

当たり前のようにエースとしての責務を全うする一昔前のコンタドールや今のフルームを見てると感覚が麻痺しますが、エースとして3週間走りきるってのは当然ながらものすごいプレッシャーなんだろうなって思います。
アシストやステージ狙い、マイヨポア狙いなら仕事終了後やステージによっては休めますけど、総合リーダーを狙うなら1日たりとも気を抜いてはいけないわけで・・・
必ずどこかでミスをしてしまうポート然り、次々とプレッシャーに潰され続けるフランス若手陣然り。
ランダもエースを目指すならそのプレッシャーとの戦いにもなるんでしょうが、モビスターでバルベルデ・キンタナとダブルエースを組むっていうのは最良の選択かもしれません。
肝心のキンタナが移籍を希望している!?って話題もツール中に出てましたけど(^_^;)

そうすると、初めてエースとして臨んだジロでウ○コトラブルなどに見舞われながらプレッシャーを跳ね除けたデュムランは次世代を担う存在として相当有力かな、って思います。
現代グランツールレーサーに必須のTT能力も抜きん出ていますし。
(個人的にはアームストロングに始まるTTで稼ぐタイプより、古典的な山岳で果敢なアタックするタイプのライダーの方が好きなんですけどw)

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アバター画像 サイバナ管理人

はしっこさん

3週間の長丁場では、必ずバッドデーが訪れるなんて言われていましたが、全盛期のコンタドールや、今年のフルームにはそれらしき日は見当たりませんでしたね。
フルームの第12ステージがバッドデーだったとしても、22秒のロスで済むなら何の問題もなかったわけですし。
すごいことです。

> 肝心のキンタナが移籍を希望している!?って話題もツール中に出てましたけど(^_^;)

さすがに無いと思うんですけどね〜。
特にチームスカイへの移籍は、やめてほしいです笑
キンタナはフルームのライバルとして、立ち向かう存在であってほしいです。

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