サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム ジロ・デ・イタリア2017

入ってて良かった!モビスターの『あんしん平坦保険』とは?

2017/07/13

グライペルが悔しそうだ。

ポディウムの上で喜びを爆発させるフェルナンド・ガビリアを横目にアンドレ・グライペルは、露骨に悔しそうな表情をしていた。

勝てた。
絶対に獲れたステージだ。
自信があったからこそ、自分のミスで獲物を逃した悔しさは募るばかりなのだろう。

ジロ・デ・イタリア第2ステージは、クイックステップ・フロアーズの組織的な横風分断作戦が見事に決まり、グランツール初出場のガビリアがステージ初勝利をあげ、初のマリアローザを獲得した。

グライペルは、クイックステップの動きに追従し、一度は先頭集団に追いついたのだが、シューズがペダルから外れるトラブルもあり、遅れてしまったのだ。

メカトラであれば仕方ないと諦めがついてもいいところなのだが、グライペルはただただ悔しがっていたのだった。

ガビリアの嬉しい初勝利、グライペルの無念の一方で、ホッと胸を撫でおろしたチームがあった。

今大会の大本命、ナイロ・キンタナを擁するモビスターだ。

スポンサーリンク

横風区間でエシュロンが形成される

キンタナのように小柄な体格の選手は横風の影響を強く受けやすい。
これまでも、横風区間でピンチに陥ったことは何度もあった。

だが、モビスターはこれまで平坦アシストを重視しておらず、グランツールにはクライマーを大勢起用する傾向にあった。

一方、チームスカイは必ず3〜4名程度は平坦スペシャリストを起用している。

そのスカイの平坦アシスト陣にモビスターは散々苦しめられてきた。
ようやく平坦アシストの重要性を認め、オフには横風職人ことダニエーレ・ベンナーティを獲得し、平坦アシストの強化を図った。

今大会には、ベンナーティ、アンドレイ・アマドール、ローリー・サザーランド、ホセホアキン・ロハスと4名の平坦スペシャリストを投入してきた。
代わりにクライマーをごっそりと減らしている。

平坦アシストの存在は重要だとしても、いくらなんでも偏りすぎでやりすぎではないかと懸念していた。

しかし、過剰に思えた平坦アシストの存在が第3ステージで、絶妙な仕事を見せた。

クイックステップが仕掛けた横風分断の動きにより、集団が大きく縦に伸びる。
ベンナーティはキンタナを守るために、あらかじめ集団前方に位置していた。
あまりの横風の強さに、ベンナーティの背後にいたにも関わらずキンタナがコースアウトしかけて遅れてしまった。

と同時に、抜け出した選手たちを目掛けて、総合のライバルであるゲラント・トーマスがブリッジを開始。
前に行かせるわけにはいかない上に、キンタナを守らねばならないベンナーティが孤軍奮闘する。

前方で粘るベンナーティに、アマドールとホセホアキン・ロハスも追いつく。
トーマスのブリッジは不発に終わったため、あとはメイン集団内でキンタナを守ることに徹していた。

先頭から13秒遅れのメイン集団内で、キンタナは無事にフィニッシュすることが出来た。
もしも、集団後方で横風分断の動きが始まっていたら、キンタナは2分以上はタイムを失っていたことだろう。

キンタナを集団前方のポジションをキープするため、横風分断が始まってからキンタナを守るために、4人の平坦スペシャリストは欠かせなかった。
4人連れてきて良かったと、モビスター首脳陣もホッとしたことだろう。

この過剰とも思われたモビスターの平坦アシスト陣に対して、わたしはモビスターの『あんしん平坦保険』と名付けたくなった。

あればあるほど安心の保険

モビスターの平坦アシストに対する考え方は、保険と一緒ではないだろうか。

『月に何万円も保険代払ってもったいない!』と言えば、
『健康な時には、保険のありがたみはわからないのだよ』
とは、よく聞くやりとりである。

その言葉のとおり、平坦アシストの数の多さは過剰で不必要ではないかと思えたが、平坦アシストの貢献によりエースであるキンタナは無事にフィニッシュできたのだ。

9人という限られた選手枠の中で、何に重点を置いて選手を選ぶかということと、限られた家計の予算内で、どんな保険にお金を払うかという構図は似ている。

自営業を営む父親が、万が一重病にかかって仕事が出来なくなると収入を失いかねないため、医療保険を充実させる。
小さな子供のために、万が一に備えつつ学資積み立ても兼ねた生命保険というように、家族の課題に応じて、どんな保障を手厚くするか考えて、保険に加入するだろう。

モビスター家は、大黒柱のキンタナが横風や平坦路に弱いことから、平坦路での保障を充実した『あんしん平坦保険』に加入したのだ。
さらにベンナーティ特約という横風区間でのライバルチームへの攻撃オプションを付加することができ、ホセホアキン・ロハス特約なら山岳保障も控えめながら付加することができる。

アシストとは、とどのつまりエースに対する保険なのだ。
各チームがエースに対して、保険をプランニングして加入させるわけだ。

チームスカイは、山岳に対する保障が非常に充実している『ずっと、あなたと』に加入している。
しかし、掛け金が高く富裕層向けとなっている上に、査定も厳しく誰でも加入できるわけではない。

バーレーン・メリダは、平坦から山岳までくまなく保障してくれる『ちゃんと応える総合保険』に加入しているが、支払い限度額がやや低めに設定されており、重病には少し心許ない。

ロットNL・ユンボは、山岳・平坦ともに最小限の保障となっている『新・あしすとくん』に加入している。

というようにチームのレースプランや予算に合わせて、みな必要な保険に加入してるのだ。

ただし、忘れてはならないことは、保険が人生を豊かにしてくれるわけではない。
サイクルロードレースも、良い保険に入れば勝てるわけではないのだ。

いざという時に役に立つが、『いざ』という時は望むものではない。

それでも、『いざ』という時の備えがあるかないかの違いは大きい。
心にゆとりをもたらすことで、競技パフォーマンスが向上する可能性はある。

この先も海沿いを走る横風の危険があるコースはいくつか登場する。
『あんしん平坦保険』はもちろん掛け捨てではなく、大会終了まで続く終身タイプだ。

安心を手に入れたキンタナは、マリア・ローザへの道をひた走るのか。

Rendez-Vous sur le vélo…

スポンサーリンク

-コラム, ジロ・デ・イタリア2017
-,