サイバナ

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コラム

モビスターの"トリプルエース構想"は吉と出るか凶と出るか?

スペイン唯一のワールドチームであるモビスターは、グランツール主催国のプロ自転車チームとして、長らくスペイン自転車界を支えている。

強豪チームならではの組織力を活かした緻密な戦略が売りのように思えるが、実態はかなり革新的な戦略を採用することが多い。

2016年シーズンは、36歳を迎えたアレハンドロ・バルベルデを3つのグランツールすべてに出場させるという正気の沙汰とは思えないプランを立てて、実行したのだ。
グランツール初戦であるジロ・デ・イタリアにコンディションを高めていくように、序盤の1〜4月のレースは抑えめに走るのが普通の考え方だろう。ましてや36歳を迎えるベテラン選手である。

ところが、1月29日からのチャレンジ・マジョルカでシーズンインすると、2月のブエルタ・ア・アンダルシアで総合優勝、消耗の激しいワンデークラシックであるストラーデ・ビアンケやミラノ〜サンレモに出場し、それぞれ10位・15位と割と上位でフィニッシュしている。

4月のブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオンでは総合優勝を果たし、その勢いのままアルデンヌクラシック第2戦のフレーシュ・ワロンヌを優勝し3連覇を成し遂げると、続くリエージュ~バストーニュ~リエージュにも出場し16位完走。

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3つのグランツール出場を計画している選手とは思えない全開の走りを見せていた。そして、ジロでも勢いは衰えることなく総合3位表彰台を獲得した。

ツールではエースのナイロ・キンタナのために献身的なアシストを見せる場面もあり、キンタナを総合3位、自身は総合6位で完走を果たす。

さらに、翌週のクラシカ・サンセバスチャンを経て、リオデジャネイロのオリンピックにも参戦。結果は30位と沈んだものの、そのまま調整レースを経ずにブエルタ・ア・エスパーニャに参加。今度こそ、キンタナのアシストとして獅子奮迅の活躍を見せ、エースを総合優勝に導いた。自身は総合12位で完走したのだ。

結局この年はレース走行距離が15000kmを突破していた。

あまり前例のない試みとしては、チームとして3つのグランツール全てで表彰台を獲得したうえに、ブエルタでは総合優勝も果たし、モビスターの戦略は成功を収めたといってよいだろう。

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ジロとツールを狙ったキンタナの失速

2016年シーズン、キンタナはツール総合3位、ブエルタ総合優勝ということもあり、グランツールの2連戦目に調子が上がるという説を唱え、2017年シーズンはキンタナをジロからツールへと連戦させることでツール総合優勝を狙うという理論的のようで全く理論的でないプランを提唱した。

キンタナは2014年にジロを総合優勝した時と同じように、まずは3月のティレーノ~アドリアティコに向けて調整を進めて、一度ピークを持ってきた。
狙い通り、ティレーノ~アドリアティコでは総合優勝を果たし、一旦休養に入った。

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2014年はボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャを走ったが、2017年はジロの直前にスペインの3日間のステージレースを走って本番に挑んだ。

やはり調整はうまくいき、第9ステージではライバルたちを圧倒する登坂力を見せマリアローザを獲得した。

ところが、トム・デュムランの驚異的なTT力、さらにTTスペシャリストらしからぬ登坂力、弱いと思われたチーム・サンウェブの粘り強さに大苦戦を強いられる。デュムランからマリアローザを奪還するために、かなり無理を重ねたに違いない。最終日の個人TTでは総合勢が思い通りのパフォーマンスを出せないほどにみな消耗していたうえに、キンタナは31秒差で総合優勝を逃した。

ジロでのダメージは非常に大きく、調整レースに出ることなく回復に努めてから出場したツールではキンタナ本来の走りは影を潜めていた。結果は総合12位と惨敗ともいえる有様だった。

キンタナは「ジロとツールの間はあまりにも短く、準備不足だった」とコメントを残したものの、ジロの激闘が尾を引いていたように見受けられた。

モビスターとしても、頼みのバルベルデもツール第1ステージの落車で骨折してしまいリタイア。エース不在のまま挑んだブエルタでは

2017年シーズンはバルベルデがクラシックレースで多くの勝利を飾ったものの、2016年に比べると失敗に終わったといえる。

セオリーでは考えられない奇策

2018年シーズンを迎えるにあたって、モビスターは悲願ともいえるツール総合優勝を成し遂げるために、チームスカイからミケル・ランダを獲得した。

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アルベルト・コンタドールの引退により、スペイン人スター選手の座が空席となった。モビスターのチームマネジャーであるエウセビオ・ウンスエ氏は「ランダこそがスペイン自転車をリードする逸材」と評し、ランダをスター選手へと育て上げたい強い意向を示している。

27歳のキンタナに加え、37歳のバルベルデも未だ健在だ。ここにランダが加わることで、チーム内のエース争いが激しくなることが懸念されていた。

普通に考えれば、例えばランダはジロ、キンタナはツール、バルベルデはブエルタ、というように役割分担を明確にして争いを避けるだろう。だが、モビスターは一味違っていた。

チームの悲願でもあるツール総合優勝を果たすため、最大の強敵であるクリス・フルームをいかにして倒すかということにチーム力の全てを注ぎ込もつと考えたのだ。

そうして、奇策ともいえる「トリプルエース構想」が立ち上がった。ツールにキンタナ、バルベルデ、ランダの3人をエースとして送り込み、フルームを打倒しようという戦略である。

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ただでさえ、ツールの出場人数が1チーム9人から8人に減るというのに、エースを3人送り込むということは、残った5人が3人のエースをアシストすることになる。
1人のエースを7人でアシストするならば、エースは7人分のアシストを受けられる。2人のエースを6人でアシストするならばエースは3人分のアシストを受けられる。3人のエースを5人でアシストするならばエースは1.7人分のアシストしか受けられない。

というわけで、普通に考えたらアシストがヘロヘロになって倒れてしまいかねない。

5人のアシストの役割分担も難しい。石畳や短い山岳ステージの存在もあるため、平坦スペシャリストも山岳スペシャリストも欲しいところだ。

イマノル・エルヴィーティは、スペイン人では貴重なクラシックスペシャリストで石畳にも強いルーラーだ。ぜひとも起用したいところだ。

「横風職人」ことダニエーレ・ベンナーティも必要不可欠だろう。一人で数人分の仕事をする力があるので、貴重な存在だ。

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アンドレイ・アマドールもメンバーに入れたいところだ。登坂力だけでなく、TT力も高くオールラウンドにアシストが可能だ。

ネルソン・オリベイラはTTスペシャリストではあるが、上りにも強い印象を受ける。山岳ステージでの集団コントロールに適しているといえよう。もしくはホセホアキン・ロハスでもいいかもしれない。

最後の一枠はエース3人につぐ山岳スペシャリストがいいだろう。ヴィネル・アナコナ、カルロス・ベタンクール、マルク・ソレルなどが候補に上がる。

こう考えると個々の力は高く、強力なメンバーになりそうだ。エース3人の護衛という凄まじいハードワークにも耐えうる力は十分に持っているだろう。

あとは、トリプルエースが攻撃面でどれほど機能するかどうかだ。
3人が連携して波状攻撃を仕掛ける、というよりは3人とも各々総合優勝を狙って、バチバチ争いながらお互いにアタックを仕掛けあうような展開になれば、凄まじいスピードで山岳を上っていきそうだ。

エース級の選手のみがついていくことができるハイスピードな展開に持ち込めれば、最強のスカイ山岳トレインも崩壊するだろうし、フルームをもってしても防戦一方という状況に追い込めるかもしれない。

一見、無茶苦茶に見えるトリプルエース作戦ではあるが、チームスカイの強力なチーム力を真っ向からパワーで叩き潰すという裏の裏は表というような発想から編み出された戦略は、実は優秀ではないかと思えるような気がしないこともないのかもしれないが、果たして…?

Rendez-Vous sur le vélo…

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