サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

さいたまクリテリウム2018 コラム

ナチュラルブラックスプリンター「アレクサンドル・クリストフ」とは?

さいたまクリテリウムは普段は画面越しにしか見ることができない、ワールドチームのトップ選手を何人も見ることができる貴重な機会だ。

マルセル・キッテルやワウト・プールスが都内の夜を楽しんでいる一方で、ヴィンチェンツォ・ニバリは大宮公園の氷川神社に参拝。「行ったことがない場所や、異文化を知ることが好きなんだ」と語り、ニバリらしい渋い一面を披露。

レース本戦の前日イベントに先立って、岩槻駅前で行われた「鷹狩行列」に参加したミッチェルトン・スコットのルカ・メズゲッツは、秋口で気温も冷え込む埼玉の朝にもかかわらず半袖で登場。案の定、寒かったようで一人だけストールを羽織って、岩槻区長の話を聞いていた。どことなくゆるくマイペースな男であることがわかるシーンだった。

そんななか、筆者のハートをわしづかみにしたのは、UAEチーム・エミレーツのアレクサンドル・クリストフだった。

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ガビリアのリードアウトになる?

来日前にはフェルナンド・ガビリアの電撃加入のニュースが報じられ、クリストフとのダブルエース問題が浮上。渦中のクリストフはノルウェーのメディアの取材に答え、「私以上にガビリアをリードアウトできる選手はいない」と語り、自らガビリアのアシストに回る意思があることを吐露したのだった。

クリストフはピュアスプリンターに分類されつつも、ワールドツアーのステージレースでの勝利数は直近3年間でわずか2勝に留まっている。だが、ミラノ〜サンレモやロンド・ファン・フラーンデレンでの勝利した経験を持ち、エシュボルン・フランクフルトを4連覇中など、ワンデーレースに非常に強い選手だ。また、ガビリアのワールドツアーのステージレースでの勝利数は直近3年間で17勝だ。一方でワンデーでの勝利数は3にとどまり、ワールドツアーのワンデーレースでの勝利経験はない。

このようにクリストフの現状はピュアスプリントよりもワンデークラシックを狙う方がより多くの勝ちが見込めるといえそうだ。クリストフ自身も「ピュアスプリントにおいてはガビリアの方が僕より速い」と現実的に実力を認めている。つまり、クリストフはステージレースのスプリントではガビリアに一日の長があるが、クラシックなどのワンデーレースでは引き続き自分がエースの座にあるという分析をしていた。

しかし、プロ選手ならばツール・ド・フランスに出場することは一種のステータスとなる。特にクリストフは母国ノルウェーを代表するトップ選手の一人だ。世界最大の自転車レースに出場できるかどうかは、クリストフのプロサイクリストとしての価値を左右する重要な判断材料となるのだ。

クリストフは今年のツール第21ステージで勝利したとはいえ、ピュアスプリンターの大半が途中リタイアした上での勝利だった。そこへピュアスプリンターとの真っ向勝負を制してツール2勝をあげたガビリアが加入してきた。さらにチームにはダニエル・マーティンやファビオ・アルといった総合ライダーもいる。普通に考えたら、そこにクリストフの場所はないだろう。

そこで、ガビリアのリードアウトという大義を掲げることで、ツールに出場する余地をつくったのだ。実際問題、UAEチーム・エミレーツのリードアウトトレインは戦力不足が否めない。クリストフをリードアウトとして起用できるならば、クリストフに繋ぐルーラー陣は優秀な選手がたくさんいるため、ガビリアのために十分なトレインを組むことができるだろう。なおかつ、マーティンやアルの総合も狙うハイブリッドなチームに仕上がる。

クリストフがガビリアのリードアウトとなることで、クリストフ自身はツールに出れる公算が高く、チームにとっても戦力アップが見込め、ガビリアのステージ勝利も期待できる。まさに三方良しな決断なのだ。

リアリストで賢く男気のある選手。それが来日前のクリストフに対するイメージだった。

手投げ・手打ちのクリストフ

さいたまクリテリウムのチームプレゼンの後には、市内交流会と題して選手たちに無茶振りをするイベントが恒例行事となりつつある。

今年は太鼓の演奏と野球体験だった。目玉選手の一人であるクリストフは野球体験に参加。ユニフォームに着替えたその姿は、スプリンターらしいゴツい体格も相まって、強打の助っ人外国人選手を彷彿とさせる出で立ちだった。

まずは投球体験。初めて触れる硬球に、初めての投球動作。当然不慣れな様子で、手投げとなってしまい、コントロールが定まらない。

そこで、コーチから足を上げるフォームを伝授され、腰の回転を使って投げる動作を教えてもらった。

足を上げるフォームは様になっており、体格の良さもありそこそこの速球を投げ込む気配があった。しかし、高く上げた足の下ろしながら投げ込むコツがわからないままなのか、投げ終えた姿は足を上げる前とほとんど変わっていなかった。

続いては打撃体験。投球動作と同じように、手でなく身体の回転でスイングすることが肝要となるが、手投げが直らなかったクリストフはやはり大苦戦。

ゴルフのフォロースルーのような一コマで、バットがティーを直撃して直角に折れ曲がるくらいのパワーを見せるものの、ボールはティーアップした位置から自由落下。それを見つめる元西武ライオンズの星野智樹氏も苦笑いだ。

それでもボールをバットで叩いて飛ばすという行為は楽しかったようで、ボテボテのゴロを連発しながらも果敢に挑戦。身体が開いて、手打ちとなる悪形にもとらわれず、異国のスポーツである野球を満喫していた。

ゲラント・トーマスやアルベルト・コンタドールが快音を響かせて、柵越えを連発するなかクリストフが標的に定めたのは、観覧席の最前列に座るマルセル・キッテルだった。

キッテルといえば、今季からカチューシャ・アルペシンに加入。そう、昨年までクリストフが在籍していたチームだ。ある意味ではキッテルは因縁の相手ともいえよう。クリストフはそんなキッテルを目がけて、打球を飛ばすことに執心していた。

野球体験を終えたクリストフは、キッテルを狙って打ってた?との質問に「ボールを当てて怪我させてやろうと思ったけど、このボールじゃ柔らかすぎたね!」と回答。100歩譲ってボールを当てて怪我させてやろうと思ったことは良いとしても、「このボールじゃ柔らかすぎた」という発言はアウトだと思う。普通は「狙ったけど難しくてなかなか当たらなかったね」くらいにとどめておくべきだ。

クリストフ劇場は止まらない

市内交流会を終え、夜はJ SPORTS特番の収録だった。こちらも毎年恒例となりつつある、選手に無茶振りするバラエティ番組だ。

そのなかで、似顔絵を書くコーナーがある。描くモデルはスーパーレジェンドであるコンタドールだ。「このポーズは特別な時だけなんだ」と語るバキューンポーズを披露する姿を模写せねばならなかった。なかなかの難題だ。

選手たちは一様に大苦戦。そのなかでクリストフはなぜか上半身ムキムキの姿で、ヒゲを3倍増しにしたようなレジェンド・コンタドールの似顔絵を書き上げた。

さらに絵の感想を聞かれたクリストフは「テ◯リストみたいになっちゃった」と発言。さすがの問題発言となって、進行役のサッシャさんも「テ◯リスト」の部分は和訳せず。グランツール総合優勝6度を誇るサイクルロードレース界きってのスーパーレジェンドをあろうことか「テ◯リスト」と称してしまったのだ。

リアリストで賢く男気のある選手というイメージは崩れ去り、リアリストで天然でブラックユーモアな選手という印象で上書きされることとなった。

最後に、さいたまクリテリウム本戦を走った翌日にクリストフがインスタグラムに上げた写真を紹介して本稿を締めたいと思う。

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Cool place Harajuku!! #harajuku #tokyo #harajukustyle 🇯🇵

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筆者は、クリストフならどんな状況でも結果を残してくれるに違いないと確信している。

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-さいたまクリテリウム2018, コラム