ツール・ド・フランス第3ステージの中継では、サガンの着順がクイズの対象になったこともあり、様々な議論が交わされていた。
ところが、
・サガンには厳しい。
・昨日のスプリントで、サガンは伸びてなかったし。
・パンチャーじゃなくてクライマーが来る。
・いやいや、むしろ上りに強いスプリンターが生き残って来る。
というように、サガン圧勝を予想する声は少なかったように思われる。
なぜなら、残り1.6km地点から始まる、最大勾配11%・平均勾配5.8%の上りの頂上にフィニッシュするコースレイアウトになっているからだ。
ストラーデ・ビアンケやアムステルゴールドレースのようなレイアウトであり、サガンよりもフィリップ・ジルベールやミカル・クウィアトコウスキーのような上りに強いパンチャーが有利という予想は決して的外れではないと思う。
かく言うわたしも、サガンの着順は4位以下と予想していた。
ところが、サガンは勝った。
それも、スプリント中にペダルが外れるアクシデントに見舞われながらの圧倒的なスプリントだった。
というように、サガンにはしばしば「圧倒的」という形容詞が使われる。
いったい、サガンの”どこ”が”圧倒的”なのだろうか。
と思っていたところに、ツールのオフィシャルパートナーを務めるディメンションデータが、興味深いデータを公開していた。
そのデータを考察し、サガンの強さを分析してみたいと思う。
ディメンションデータ提供の走行データとは
Porte attacked first, but Sagan dominated the field with an ave speed of 28.6km/h on the final climb (1.6km, 5.8% grad.). #TDFdata #TDF2017 pic.twitter.com/VKlYAPEX8X
— letourdata (@letourdata) 2017年7月3日
内容はこちらだ。
ペーター・サガン、マイケル・マシューズ、そしてリッチー・ポートの3名の残り1kmを切ってからのスピードを比較している。
このデータと、実際のレース映像を比較していると、3つのポイントが浮かび上がった。
ポイント1,短い上りならクライマーと同等以上のスピードを出せる
残り1kmから残り600m地点までは、平均勾配6%ほどの上りだった。
集団を牽いていたBMCレーシングのアシストが離れ、ポートが牽き始めたタイミングだ。
サガンは、一流のクライマーであるリッチー・ポートに匹敵するかそれ以上のスピードを出していたことになる。
ポイント2,ポジション取りがうまい
上りに入った時点では、サガンは30番手前後のポジションにいて、アシストとも離れ離れだった。
残り1kmのフラムルージュをくぐったあたりでも、まだサガンの前方には10名以上選手がいた。
そこでサガンは、ポート以上のスピードを出して、自分のポジションを前に移動したというわけだ。
マイケル・マシューズは、10番手から15番手あたりでなかなかスピードを上げられない様子が見えた。
といように、ライバルたちがなかなか動きにくい上りで、サガンは自由にポジション取りすることができる。
そのメリットは計り知れない。
ポイント3,上りやポジション取りに脚を使ってもなお、余りある脚力
これだけ派手に脚を使って動いたら、普通はスプリントする力は残っていないはずだ。
しかも、ペダルを踏み外すアクシデントにも見舞われている。
それでも、サガンは時速40キロオーバーのスピードを出して、スプリントしていた。
一方でラスト400m区間はマシューズの方が速かった。
しかし、上り坂でポジションを前に移動できなかったマシューズは、残り400m地点でサガンとの距離差は自転車4〜5台分は開いていた。
このギャップを埋めるのが精一杯で、サガンをかわすことができなかったのだ。
結論
サガンが強い理由は、『短時間で出力できるパワーの”総量”が段違いに多いから』だと主張したい。
ポートより速いスピードで上ったと言っても、上り坂が10kmとか続いたらサガンはとうてい敵わない。
あくまで短い上りだからこそ、なし得る力技だろう。
全く同じ位置から、全く同じタイミングでスプリントを開始したら、常にサガンが勝つとは限らない。
しかし力技で、サガンが有利な位置にいち早く移動することは可能なのだ。
それら力技を繰り出す回数と時間が、他のパワー型のパンチャーやスプリンターに比べて段違いに多いと言えよう。
仮にパワーの総量が100である選手Aと選手Bがいるとする。
Aは自力でポジションを上げるのにパワーを50使ってしまうと、スプリントの時に使えるパワーは50しか残らない。
Bはアシスト選手の力を借りてポジションを上げたため、パワーを20しか使わずに済み、スプリントに使えるパワーは80残っている。
2人が同じタイミング・同じ位置からスプリントした場合、残りのパワーが多いBの方が先着することだろう。
ところがサガンの場合はこのパワーの総量が200あるのだ。
ポジション上げに50使っても、先頭に出て風を受けて30使っても、ペダルからクリートが外れて20失っても、まだ100のパワーでスプリントができる。
こんなイメージではないだろうか。
総量200のパワーを一気に解放すれば、ツール・ド・スイスで決めたように400mのロングスプリントで勝つことも出来るし、時速76kmのトップスピードを記録することも出来る。
そうでなくとも、残り1km地点くらいまでにサガンをそこそこ前方に送り届けることが出来れば、あとは自分で何とかして勝ててしまう。
全くもって恐ろしい選手だ。
ライバルの立場からすれば、スプリントまでにサガンのパワーをいかに削り取ることが出来るかが重要ではあるが、ボーラ・ハンスグローエのチーム力がそれを阻む。
ボーラ・ハンスグローエには、クイックステップ・フロアーズのファビオ・サバティーニや、ロット・ソウダルのユルゲン・ルーランズのような強力なリードアウト役はいない。
だが、強いルーラーは揃っているので、残り1km地点くらいまでサガンを送り届ける任務は十分にこなせるのだ。
第3ステージのような、パンチャー向きのステージはサガンの独壇場になるかもしれない。
サガンの圧倒的なパワーと、どうにかして対抗するライバルたちの立ち回りにも引き続き注目していきたい。
Rendez-Vous sur le vélo…
サガンは本当に圧倒的ですね。
今回のゴール前、400mほどのところで先頭に立ってしまい、早く前に出すぎたためしばらく踏むのを緩めて後ろを伺い、残り250mから再度踏み直したそうです。
グラフの残り300〜250mでスピードが落ちてるのがおそらくそれだと思います。
もし自分だったら一か八かでロングスプリントをしてしまうかも知れません。
あの局面でも冷静さを失わないメンタルとクレバーさも強さの秘密だと思います。
かつて「アルカンシェルの呪い」というジンクスがありました。
世界チャンピオンジャージを着ていると勝てなくなる。というやつです。
いつの頃から言われてるジンクスなのか知りませんが、自分が知ってる過去の世界チャンピオン達、例えば最強スプリンターと言われたマリオ・チポッリーニ、2000年代前半のクイックステップの絶対エース、パオロ・ベッティーニ。最近だとルイ・コスタも。それぞれが自らの強さを見せつけて世界チャンピオンを勝ち取った彼らが、アルカンシェルを身に付けてる時期だけはとことん勝ちに見離され続けていました。
また、レースの結果以外にも怪我や病気、事故などにつきまとわれることが多いのも事実です。
こちら少し古い記事ですが、
http://www.cyclingtime.com/modules/ctnews/view.php?p=16063
(サイクリングタイム.comの記事、「アルカンシェルの呪いは存在するのか?」)
しかし、サガンには呪いなど通じないのか?今シーズンもチャンピオンの称号に恥じない強さを見せつけ続けていますね。
今ツールもあと一つ二つは勝ちそうな、そんな雰囲気もあります。
大集団ゴールも含めて、スプリント勝負のときはアルカンシェルジャージが何処に居るのか、気にして観ないといけませんね。
いちごうさん
この記事を書いた翌日に、あんなことになるとは…。
一種のアルカンシェルの呪いなのかもしれませんね。
それでもサガンは、「プレッシャー何それ食べれるの?」みたいなスタイルを貫くので、今年の世界選でもやってくれると期待しています!
あのステージ、最後は斜行祭りでした。たまたまサガンとカヴが絡んだというだけで誰が落車してもおかしくなかったと思います。
サガンとカヴ、2人のスター選手が去ったのは残念ですけど、カヴには早く治して貰って、サガンには気を取り直して貰って次のレースへ向かってもらいたいです。
サガンの場合、パワーの総量が多いというよりパワーの出し入れが上手い(効率的な)感じがします
有名な話ですが、サガンは乳酸処理能力が異様に早く、ピークパワーがピュアスプリンター並でもあるので、消耗戦のスプリントでは無敵に近い強さを発揮できそうです
さらにMTB譲りのバイクコントロールの巧みさで混戦にも強く、単騎でも勝負に絡めるセンスもありますし
あとは今年は兄サガンの奮闘も大きいかもしれませんね(^^)
兄サガンが引いてその頑張りに発奮させられる弟…今年のサガンは更なる力を手に入れました!
最近バイクを新調して前車のクロモリと新車のカーボンとの違いに悩む自分にとって、ツールでの選手の走りは大変刺激になります(^_^;)
まだまだ先は長いですが、ツール観戦頑張りましょう\(^o^)/
アディさん
> サガンの場合、パワーの総量が多いというよりパワーの出し入れが上手い(効率的な)感じがします
なるほど〜!
パワーの出し入れがうまいって見方は、確かに!って思いました。
そっちの方がしっくり来ますね。
> 有名な話ですが、サガンは乳酸処理能力が異様に早く、ピークパワーがピュアスプリンター並でもあるので、消耗戦のスプリントでは無敵に近い強さを発揮できそうです
とはいえ、さすがに数百mで回復するのはにわかに信じがたいのですが、実際のところはどうなんでしょう?
上りでパワーを使って、アシスト選手に牽かれている間に回復、なんてことが実現しているなら、そりゃ無敵ですよね笑
> 最近バイクを新調して前車のクロモリと新車のカーボンとの違いに悩む自分にとって、ツールでの選手の走りは大変刺激になります(^_^;)
おお!
ニューバイクを手に入れたんですね〜。
選手は全員カーボンでしょうからね笑
サガンは残念なことになりましたが、まだまだレースは続きます。
共に楽しんでいきましょう!