サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム ジロ・デ・イタリア2017

ピエール・ロラン5年ぶりのWT勝利。世界一諦めの悪い男が掴んだ栄光とは?

ついに、その時がやってきた。

ピエール・ロラン、5年ぶりのワールドツアー勝利である。
2012年ツール・ド・フランス第11ステージでの独走勝利以来の出来事である。

この5年の間には、下位カテゴリーでの勝利経験はいくつかあった。
だが、2011年ツールでマイヨ・ブランを獲得し、翌年のツールでもステージ優勝をあげたフランス人選手への期待は、下位カテゴリーの勝利程度では埋められない。

周囲のプレッシャーに押し潰されて、自分を見失い、ますます結果が出なくなる悪循環。
慣れ親しんだフランスチームを離れ、アメリカのキャノンデールへと移籍した2016年は全く良いとこなし。

心が折れても不思議ではなかった。

ロランには、
バンチスプリントを制するようなスプリント力はない。
タイムトライアルも苦手。
ダウンヒルも遅い。
得意だったはずのヒルクライムも、山頂の手前でタレてしまうシーンはもう見飽きた。

プロサイクルロードレース選手として、勝つために必要なスキルがほとんどないのだ。

一体なぜこのような選手に期待をしていたのか?
疑問に思わざるをえない時も、多々あった。

だが、なぜか応援したくなる。
いや、ロランならいつかきっと、と期待したくなる。

その理由は、ロランが決して諦めない選手だからだろう。

ワールドツアーで勝てなかった5年間、ロランは挑戦をやめなかった。
不屈の闘志だけは、心の中に絶えず炎を灯していた。

昨年のツール・ド・フランス第19ステージでは、逃げ切り勝利が濃厚な展開だったが、雨のダウンヒルで滑って落車。
人目をはばからず、ロランは泣いていた。

続くブエルタ・ア・エスパーニャでも、何度も何度も逃げに乗って、何度も何度もアタックを仕掛けるが、全て実らない。

今年のジロ・デ・イタリアでも、大会序盤から積極的に山岳賞を狙いにいき、逃げに乗ってアタックを試みるが、何一つ実らなかった。

第17ステージが始まるまで、ロランの山岳ポイントは26ポイントの12位。
トップのミケル・ランダとは100ポイント近い大差をつけられている状況だ。

ステージ優勝を狙って、たびたび仕掛けていくものの、必ずタレてしまい、追走に捕まる。
登りでもダメ、下りでもダメ。
もはや為す術もなく、何も出来ないまま今大会も終えようとしていた。

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迎えた第17ステージ、ロランはまた諦めずに逃げに乗る

果たして意味があるのかさえも分からない山岳ポイントを積極的に獲りにいき、30ポイントを加算する。

一旦逃げから退くものの、大人数の追走集団に再び乗り込み、今度はステージ優勝を狙う。

だが、第17ステージは平坦基調のフィニッシュとなっており、最もロランに勝ち筋が見当たらないレイアウトとなっていた。
しかも逃げ集団には、スプリント力に優れるルイ・コスタやオマール・フライレ、そして第8ステージで勝利している好調ゴルカ・イサギーレらがいる。

どうやっても、ロランの勝利はない。
もはやアピール目的のアタックなんじゃないの?
今ステージでロランの勝利を予想するものは、誰一人としていなかったことだろう。

にもかかわらず、諦めの悪い男はもがき続けるかのように、逃げ集団からのアタックを繰り返す。
当然、アタックは決まらない。
ライバルたちがアタックを決めると、ロランはいつも通り遅れてブリッジを試みる。

どう見ても効率的な走りではなく、いたずらに体力を消耗するだけにしか見えない。

それでも、ロランは諦めない。

アタック合戦を繰り返し、疲労も見えてきた逃げ集団が一瞬牽制しあった瞬間をロランは見逃さなかった。
ついに単独アタックが決まったのだ。

集団とのタイム差をぐんぐん広げていく。
10秒、20秒と。

いやいや、ロランが平坦でこんなにタイムを離せるはずがない。
第16ステージでタイム表示がおかしくなったように、表示タイムが間違っているのだろう。

そう思い、目視でタイム差を確認してみると、画面上の表示タイムとピタリと一致する。

残り4kmで30秒差。
通常、平坦ステージでの逃げとのタイム差は10kmで1分縮められると言われている。
30秒なら5kmは必要な計算だ。
理屈の上では、ロランの逃げ切りがあり得る。

だが、そこはロランだ。
キャノンデール移籍後、『科学的なトレーニング』を積み、タイムトライアル能力の向上に努めたと言われているが、昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでも、ツールでも、ブエルタでも、個人TTのタイムは全く凡庸な結果に終わっていた。

そのようなロランが、平地を独走し続けて逃げ切れるはずがない。
またタレてくるだろう、と見ていた。

しかし、追走集団内では完全に牽制モードに入っており、ロランを追うペースが上がらない。
追走集団内に潜んでいる、チームメイトのマイケル・ウッズの存在も影響したことだろう。

タイム差は25〜30秒あたりをキープしたまま、残り距離だけが減っていく。

とうとう、残り2kmを切った。
まだ25秒のリードがある。

ここまで来ると、さすがにステージ優勝があるのではないか?
ついにロランが勝つ時が来たのか?
あまり経験したことのない類のドキドキ感だ。

残り1kmのアーチをくぐり、残り600mの看板を越える。
後ろの集団は見えてこない。

当のロランは後ろを一切振り返ることなく、歯を食いしばってペダルを踏み続けている。

残り200m、ロランは初めて後ろを振り返る。
追走集団の姿は見えない。
残り100m、もう一度後ろを振り返って見ても、追走集団はやってこない。

そして、勝利を確信。
ガッツポーズを繰り返し、頭を抱えて「信じられない」というポーズをしてから、胸のスポンサーロゴをアピール。
フィニッシュ後も何度もガッツポーズして喜びを表現していた。

わたしも感無量だった。
あれほど、何をやってもダメだったロランが、まさか平坦ステージで勝利するとは思いもよらなかった。

やはり、諦めずアタックを続けることがレースで勝つために最も重要なことなのかもしれない。
アタックをしなければ、勝つことは出来ない。
当たり前の事実ではあるが、それを続けることは並大抵のことではない。
プロサイクルロードレース選手の中には、1勝も出来ずまま引退する選手の方が多いはずだ。

フランスのニューヒーローともてはやされてから、早5年。
総合を捨てて、決意のステージ優勝狙いに切り替えてから、ようやく掴んだ5年ぶりの栄光。

ポディウムの頂上で喜びを爆発させるロランの姿は、マイヨ・ブランよりも輝かしく見えた。

Rendez-Vous sur le vélo…

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-コラム, ジロ・デ・イタリア2017