クイックステップの”クラシック銀河系軍団”は成立するのか?

2000年代初頭、サッカーのビッグクラブであるレアル・マドリードは、ビッグネームを次々に獲得していた。

2000年に6000万ユーロでルイス・フィーゴを、2001年は8000万ユーロでジネディーヌ・ジダンを、2002年は3900万ドルでロナウド、2003年は3500万ユーロでデビッド・ベッカムを、
といった調子で毎年のように攻撃的なスター選手を獲得していた。

メンバーのあまりの豪華さから『銀河系軍団』と称されるようになった。

一方で生え抜き選手や、守備的な選手で、世界的に有名ではない選手に対しては、冷遇とも言える扱いを受けていた。

2000-01シーズンから2002-03シーズンまでの3年間、レアルは2度のリーグ優勝、1度のチャンピオンズリーグ制覇と、栄華を誇っていた。
前線の攻撃的な選手が、その力をいかんなく発揮できたのは、後方の守備的な選手たちの献身的なハードワークの賜物である。

特に、中盤の底で守備的ミッドフィルダーとして活躍していたクロード・マケレレのチームへの貢献度は凄まじかった。
2001-02シーズンにチャンピオンズリーグを制した際には、「マケレレこそがバロンドールだ」と最大級の賛辞を受けていた。

しかし、レアルのフロント陣はマケレレを冷遇した。
2002-03シーズン終了後に、給料面での対立もあってマケレレは退団することになった。

翌2003-04シーズン、マケレレを失ったレアルは、フォーメーションのバランスが崩壊し、失点が増大する。
フィーゴ・ジダン・ベッカムの黄金の中盤があったにもかかわらず、チームはリーグ4位と低迷した。

マケレレのプレーは、決して派手さはない。
それどころか、ゴールやアシストをするようなタイプの選手でもないため、傍目には貢献度が数字でわかりにくい側面も否めない。
だが、間違いなくマケレレがいたレアルと、マケレレがいないレアルは別チームと言ってよいくらい、レアルの守備はマケレレに依存したチームだった。

というようなことを、オムループ・ヘット・ニュースブラッドのレースを観戦していて思ったのだった。

サイクルロードレース界の”銀河系軍団”

クイックステップ・フロアーズは、オムループ・ヘット・ニュースブラッドに超一流のクラシックスペシャリストを参戦させた。

トム・ボーネン、フィリップ・ジルベール、ゼネク・スティバル、ニキ・テルプストラ、マッテオ・トレンティンという単独でエースを担うことのできるメンバーが5人も入っている。
その脇を固めるメンバーも、イヴ・ランパート、イーリョ・ケイセ、ジュリアン・ヴェルモトと素晴らしい選手ばかりだ。

だが、結果はトレンティンの9位が最高だった。
誰一人としてトップ集団に選手を送り込むことが出来なかった。

もちろん、ボーネンが大規模な落車に巻き込まれたアクシデントも影響しているとは思う。

だが、それ以上にペーター・サガンたちのアタックが決まった後、追走集団には3名のクイックステップの選手を残していたにも関わらず、何も出来ずに逃げ切りを許してしまったことが気になった。

恐らく落車に巻き込まれたボーネンを、待つか待たないか判断に悩む時間があったはずだ。
バイク交換の必要があるのか無いのか、無線があったとしても即座に分かることではなかっただろう。
数十秒ほどの間、ボーネンを引き上げるために、ランパート、ケイセ、ヴェルモトたちは集団の後方に下がってのではないかと思われる。

しかし、ボーネンはバイク交換にて間取り大幅に遅れをとってしまったため、翌日のクールネ〜ブリュッセル〜クールネのために早めのリタイアを選んだ。
その間に、前方ではトレック・セガフレードによる攻撃が始まったため、ランパートたちは第1追走集団に乗り遅れてしまったのだ。

したがってクイックステップは優秀なアシストを全て失った状態で追走しなくてはならなくなってしまった。
それでも、サガンたちを追う追走集団には、トレンティン、ジルベール、スティバルの3人を残していた。

チームスカイがイアン・スタナードとジャンニ・モスコンを使って、必死に前を行くサガンたちを追いかけるも、30秒前後のタイム差で離されないようにすることで手一杯だった。
スタナードが力尽き、モスコンも力尽きると追走集団は前を追う力を失ってしまった。

この時点で、最も多くのメンバーを揃えるクイックステップが追走に力を入れていたら展開は変わっていたはずだった。

だが、トレンティン、ジルベール、スティバルの誰を勝たせればいいのか?そのために、誰を牽引役として使えばいいのだろうか?

3人ともエース級の選手であるため、クイックステップの監督の立場で考えると、どんな指示を出せばいいのか、大いに迷うだろう。
「○○のために、前を牽いてくれ」という指示を出そうものなら、指示を出された選手はこのレースで勝てないと言われているようなもので、下手をすれば選手のプライドを傷つけかねない。

結局、クイックステップは組織的な動きを見せることなく、トレンティン9位、ジルベール13位、スティバル14位と凡庸な成績でフィニッシュしたのだった。

もし追走集団にアシストが残っていたら

チームのエースであるボーネンを前に引き上げるためにアシストを使うのはやむを得ないことだ。
しかし、エース級の選手を5名も入れるのではなく、エース級は2〜3名にとどめておけば、トレンティンたちのいた追走集団にアシスト専門の選手を残すことも出来たはずだ。

仮に、追走集団にトレンティン、ランパート、ケイセの3人が残っていたとしたら、チームスカイと強力して前を追うことが出来たはずだ。
そうすれば、前を走るサガン・ヴァンアーヴェルアート・ヴァンマルクの3名に対し、スタナード、モスコン、ランパート、ケイセの4人で追うことが出来た。

終盤の20kmはほぼ平坦路が続いていたため、この区間でサガンたちを捉えることは十分可能だったはずだ。

この展開となれば、スプリント力が一際高いトレンティンの優勝の可能性が格段に高まったことだろう。

今回のレースは、一見すれば豪華なメンバーも展開が煮詰まってくると、かえって身動きが取れなくなることがよく分かる一例になった。

もちろん勝てるエースが複数人いることは、明らかにプラス要素だ。
カチューシャ・アルペシンのアレクサンダー・クリストフは単独エースだったゆえに、落車に巻き込まれた時点でレースが終わってしまった。
サガンも、ヴァンアーヴェルマートも、ヴァンマルクも基本的には単独エースだった。
仮に落車に巻き込まれていたら、さすがのサガンたちもレース終了となってしまう。

そういったリスクを回避するために、複数人のエースを出場させることは大賛成だ。
だが、5名は多すぎたのかもしれない。

レアル・マドリードのように、攻撃的な選手と守備的な選手のバランスが重要なことは、何もサッカーだけの話ではない。
サイクルロードレースにも、フィーゴやジダンのような選手の力を存分に活かすためには、マケレレのような選手を起用する必要がある。

幸い、クイックステップにはマケレレのように、ハードワークできる選手が大勢所属している。
これから本格化する春のクラシックで、クイックステップには是非とも勝利をあげてほしいと願うばかりである。

サイクルロードレース界の”銀河系軍団”として面目躍如となるだろうか。

Rendez-Vous sur le vélo…

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