サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム

ミケーレ・スカルポーニへ捧ぐレクイエム。

感情を整理することが出来なかった。

ミケーレ・スカルポーニが、トレーニング中の交通事故により、この世を去ってしまった。

現役晩年に差し掛かっていたとはいえ、数日前のツアー・オブ・ジ・アルプス第1ステージでは、全盛期に勝るとも劣らない巧みな走りを見せていた。
主力選手が次々と負傷離脱する中で、その男にはジロ・デ・イタリアへの期待が寄せられていた。

人の死は、誰の死であっても等しく尊く、追悼されるべきものだ。
しかし、70億人いると言われる世界では、毎日どこかで必ず誰かがこの世に別れを告げている。
我々はその一人一人の死を認識することが出来ない。
ゆえに人の死に対する悲しみと喪失感は、その人に対する思い入れに比例することだろう。

スカルポーニの訃報は、世界中のサイクルロードレースファンのみならず、スカルポーニの母国イタリアでも衝撃的なニュースとなっている。
ジロ覇者として国民的英雄扱いを受けており、国中が追悼ムードとなっているそうだ。
週末に行われたイタリアのサッカーリーグ、セリエAの全試合では、スカルポーニのために黙祷が捧げられた。

チームメイトとして、あるいはライバルとして、直接的な関わりの有無を問わず、共にレースを走ったプロサイクリストの方々からもスカルポーニへの追悼メッセージが止まらない。

それら全てのメッセージには、
『いつも笑顔で、フレンドリーで、究極の紳士だった』
ということが共通している。

プロトンの中で、表情豊かに走り、ファンとの時間もとても大切にする。
誰からも愛されたチャンピオン。
それがスカルポーニだ。

多くの人々にとって、非常に思い入れの強い人物だったのだ。
わたしもその一人。

だが、いつまでも悲しみに暮れているわけにはいかない。

今晩も、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュは開催されるし、2週間後にはジロ・デ・イタリアも開幕する。
過酷なプロの世界では待った無し。

わたし自身、感情を整理しながら、今後に向けてポジティブな記事を書くことで、せめてもの追悼の意を表したいと思う。

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純粋にアスタナが失った戦力はあまりにも大きい

ミケーレ・スカルポーニという”戦力”を失ったアスタナのダメージはあまりにも大きい。

ジロ・デ・イタリアには、負傷中のミゲルアンヘル・ロペスモレーノ、ファビオ・アル、そしてスカルポーニも不在のまま挑むことになるだろう。
頼みのヤコブ・フグルサングはツール・ド・フランスでエースを務める予定なので、ジロには出場できない。

このままでは、アスタナはチーム崩壊しかねない。
ただでさえ危機的状況だったにもかかわらず、スカルポーニを失ったことは泣きっ面に蜂どころの騒ぎではない。

しかし、アスタナの底力を侮ってはならない。

2015年ブエルタ・ア・エスパーニャ、2016年ジロ・デ・イタリアとグランツール2連勝を果たすほどの戦力を誇るチームだ。
少しのきっかけで、再び好循環の流れが生まれるに違いない。

今、アスタナに必要な選手はスカルポーニのような救世主の存在だ。

そこで、わたしは2人の男に注目している。

1人はルイスレオン・サンチェスだ。

ケース・デパーニュ、ラボバンク時代にはエースとして活躍していたが、2015年にアスタナに移籍してからはもっぱらアシストとして活躍している。
2015年ブエルタ第20ステージでの、ファビオ・アルの逆転総合優勝を果たしたのは、間違いなくLLサンチェスの力があってこそだった。
登坂力、スプリント力、TT力、ダウンヒル、どれをとっても一流の走りが出来るLLサンチェスは、21世紀を代表する最強アシストの一人なのだ。

だが、最強のアシストであろうと、肝心のアシスト対象がいないのでは意味がない。
ならば、再びエースとして走ってみてはどうだろうか。

かつてのエースがアスタナ移籍後はアシストとして活躍して、再びエースの座に舞い戻る。
何だかスカルポーニを彷彿とさせるようである。

もう1人はタネル・カンゲルトだ。

昨年のアブダビツアー第3ステージでは、エースのヴィンチェンツォ・ニーバリを差し置いてアタックを決めた。
そのままステージ優勝をもぎ取り、見事に総合優勝を果たしたのだった。

ニーバリが移籍を決めていたとはいえ、カンゲルトで勝負したことには、チーム首脳陣の意図があるのではないかと思った。

ファビオ・アル、ロペスモレーノ、スカルポーニらが健在であれば、カンゲルトはLLサンチェスと同じくアシストしての起用が濃厚であった。
だが、主軸となるエースが不在である今こそ、カンゲルトにエースを託してもいいのではないだろうか。

アブダビツアーで総合優勝争いをした経験を活かすべき時がいま来たのだ。

LLサンチェス、カンゲルト、共にジロ・デ・イタリアに出場予定だ。
二人とも総合トップ10を狙え、実力は十分。

チームのために、スカルポーニのためにも、LLサンチェスとカンゲルトに期待したい。

人々を悲劇から救うのは、いつだってヒーローの務めだ

ジロ・デ・イタリアはイタリア人にとって、最高のお祭りである。
ましてや今年は100回記念大会であり、ステージのスタート・フィニッシュ地点は全てイタリア国内で完結している。

ゆえに、イタリアのレースでイタリア人が活躍することでしか、イタリア人の悲しみを癒やすことは出来ないだろう。

ファビオ・アルが適任であるが、怪我を押して無理強いするわけにはいかない。

ならば、あとはこの人しかいないだろう。

2013・2016年のジロ・デ・イタリア覇者。
長いサイクルロードレースの歴史で、たった6人しかいない全グランツール総合優勝経験者。

まさにイタリアが誇る大ヒーロー。
ヴィンチェンツォ・ニーバリである。

2014年ツール・ド・フランス総合優勝、2016年ジロ総合優勝の際には、スカルポーニが献身的にニーバリを支えていた。

ニーバリにとってスカルポーニは、母国の先輩である以上に、欠かせない相棒であり、心からの親友であっただろう。

スカルポーニの訃報に触れて、今一度マリアローザへの想いを強くしたことだろう。

バーレーン・メリダに移籍して1年目。
正直、他のライバルチームに比べて、バーレーン・メリダの戦力は心もとない。
もちろん、ヴァレリオ・アニョーリ、コンスタンティン・シウトソウ、ジョヴァンニ・ヴィスコンティといった実力者は揃っているが、総合優勝を目指し他のチームを圧倒する戦力ではないことは確かだ。

だが、ニーバリにとって朗報であるのは、今年からグランツールの出場人数が1チーム9人から8人に減ったこと、ニーバリの得意なダウンヒルが勝負どころにあること、長い距離の個人TTがあることだ。

チーム人数が減ったことで、他のチームの支配力は確実に低下する。
より公平的な条件のもとでは、純粋に選手の力量が試されるシーンが増えることだろう。

ナイロ・キンタナ、ゲラント・トーマス、バウケ・モレマ、ティボー・ピノなど、強力なライバルは多いが、やはり経験とホーム・イタリアの地を走るアドバンテージはニーバリに有利に働く。
ジロ・デ・イタリア第100回記念大会で、イタリアの英雄であるニーバリがマリアローザを獲得することは、天国にいるスカルポーニへの最高の餞別となる。

もし、総合優勝を果たせずとも、ステージ優勝は是非ともあげて欲しい。
ニーバリが友のために、ステージ優勝を果たすシーンを見ることが出来るならば、涙なしでは語れないだろう。

スカルポーニの前でいつまでも悲しんでいられない

スカルポーニのご家族や、特に親しい友人たちの気持ちを考えると、サイクルロードレースというエンターテイメントに興じている場合ではない。
と思うことはある。

レースは待ってくれないし、プロならばどのような状況でも結果を出し続けなければならない。

ならば、我々ファンも前に進むしかない。
わたしに出来ることは、これからも粛々と行われるレースを最大限楽しみ、サイクルロードレースを満喫することくらいだ。

今宵のリエージュ~バストーニュ~リエージュ、そして2週間後のジロ・デ・イタリアを最大限楽しんでいきたい。

だから、スカルポーニよ、いまは安らかに眠っておくれ…。

R.I.P. Scarpa...

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