サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム ロード世界選2016

靴を脱ぎ、脚を組み、スマホを触って待つ姿に漂う大物感。ライアン・マレンとはいったい何者か?

2017/03/09

『ふてぶてしい』という言葉が、これほど似合う若手選手も珍しい。

ロード世界選手権個人タイムトライアルで、長時間ホットシートに座り続け、最終的に5位に入ったライアン・マレンの姿には驚いた。ワールドワイドに中継されていると知ってか知らずか、靴を脱ぎ、脚を組んで、ひたすらスマホを触り続けて待っていた。

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時折、マレンに逼迫する中間タイムを計測した時は、モニターをチラっと一瞥し、ニヤリ。またスマホの操作に夢中になるのであった。

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そもそも、8番目にスタートしたマレンのタイムは、ラストから6番目にスタートしたマチェイ・ボドナールが抜くまで、実に50人以上の選手がマレンのタイムを上回ることが出来なかったのである。2時間近くホットシートに座り続けることは、確かに楽なことではなかっただろう。

だが、あまりにも『ここは我が家かな?』と思いたくなるほど、くつろいでいる様子に、ある種の才能を感じた。大物は得てして“ふてぶてしさ”というか“図太さ”のようなものを持っているからだ。

ひょっとしたら礼儀をわきまえろと言いたい方もいるかもしれない。しかし、本質的には個人の力を競うサイクルロードレースにおいて、ふてぶてしさや、図太さや、ある種の“やんちゃさ”を持ち合わせていることは重要であると思う。

もちろん、エースとして活躍していくためには、周囲のリスペクトを集める人格は必要不可欠であるが、一目置かれるような人格と、お行儀の良さはあまり関係ないように思える。

仮に人格的に未熟であったとしても、まだ22歳のマレンは、これからレースを出ていく中で磨いていけば良いだろうし、この日のバイクを降りた姿が全てであるとも思えない。

だが、世界選手権の大舞台のホットシートで、靴を脱ぎ、脚を組み、スマホを触る姿は、大物を感じさせるには十分すぎるインパクトであった。

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サガンを彷彿とさせる立ち振舞い

かつて、ペーター・サガンは、『やんちゃ』の代名詞とも言える印象を、世間に与えていた。

機嫌が良いときは、フィニッシュ後にウィリーを見せてみたり、表彰台でポディウムガールのおしりを触ってみたり。

時にはレース中に監督とバトルしたりと、やんちゃエピソードには事欠かない。最近のサガンは、やんちゃを卒業してロックスターへと変貌を遂げたが。

サガンは、リクイガス(現キャノンデール・ドラパック)の下部組織出身だ。

リクイガス下部組織時代のサガンについて、当時マッサーを務めていた中野喜文さんによると、『彼は「やんちゃ」「悪童」というイメージがあるが、リクイガスの下部組織の育成プログラムは徹底していて、特にエースクラスになる選手に対しては、わがままが許されるような教育をしていない』というようなことを言っていた。サガンの表面的な振る舞いはやんちゃという印象を与えても、チームメイトやスタッフへの配慮・リスペクトは忘れず、気配りの出来る好青年だったそうだ。

キャノンデール・ドラパックはリクイガスの後継チームである。すなわちマレンの所属チームであり、マレンはキャノンデールの下部組織の出身だ。

キャノンデールが、かつてのリクイガスの育成プログラムを踏襲しているとすれば、人格に問題があるような選手を、いくら実力があるからといって、トップチームに昇格させるようなことは無いだろう。つまり、マレンは人格に問題があるのではなく、実力と人格を兼ね備えた人物だと言えよう。

なので、やんちゃで図太い神経を持っているから、靴を脱いでくつろいでいたわけではないと思う。ただ単に、長時間ホットシートに座ることに飽きただけだろう。

考えてもみれば、気温37度の高湿度の中を40km走ったあげく、恐らくシャワーを浴びることもないままに、カメラの前に2時間近く居続ける方がストレスであろう。靴を脱いでリラックスしたり、姿勢を崩したり、スマホで暇つぶししたりしていたとしても、情状酌量の余地があると思える。

と言ったものの、両隣にいたヨス・ファンエムデンとイヴ・ランパートの2人は、さすがに靴を脱いだりスマホをいじったりはせずに、スタッフや関係者と談笑したり、間にいるマレンを飛び越えてお互いに会話するなどして、待機していた。

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色々御託を並べて来たが、あんなにくつろぎながらホットシートに座る選手は初めて見た。挙句の果てに、トニ・マルティンのタイムを確認すると、最後は靴を両手に持ち、靴下のままホットシートから歩いて立ち去った。

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サガンとは“やんちゃ”の方向性が違う気もするし、脚質も違うが、マレンの姿にかつてのサガンを見た気持ちになった。

ローハン・デニスを上回るタイムを記録したことから、実力者であることも分かる。完全にフラットな40kmのタイムトライアルでは、運で上位に来ることは不可能だ。マレンはこのロード世界選手権で間違いなくトップタイムトライアリストの仲間入りを果たした。

ファビアン・カンチェラーラが引退した直後の世界選手権で、大物感の漂うニューカマーの到来だ。

まだ22歳。これから数年以内に大きなレースで勝つようなスター選手になることを、期待している。最後までスマホを手放すことのなかったマレンが、メダルを手にする日が来ることを願って。

Rendez-Vous sur le vélo…

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