サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム ジロ・デ・イタリア2017

サンウェブアシスト通信Vol.5(終)〜31秒を生み出した弱き者たち〜

ナイロ・キンタナが残り1kmを切った時点で、トム・デュムランは勝利を確信した。

キンタナがマリアローザを守るために必要なタイムを記録するためには、残り1kmを1分で走らねばならなかった。
時速60キロを1分間維持することは、クライマーのキンタナにとってはほとんど不可能なことだ。

不安そうに画面を見つめていたデュムランから、笑みがこぼれ第100回大会のジロ・デ・イタリア覇者が誕生した瞬間だった。

思えば第20ステージまで、ライバル勢の猛攻を受け、総合4位まで転落していたトム・デュムラン。
だが、総合勢では頭一つずば抜けた走りを見せ、第2計測ポイントを通過した時点では既にマリアローザ奪還できるタイム差を築いていた。

しかし、キンタナは終盤に踏ん張りを見せた。
総合では31秒差でデュムランに逆転されてしまったものの、2分以上はデュムランから離されると見られてい個人TTで、1分24秒遅れに留めた。
ライバルのティボー・ピノ、イルヌール・ザッカリン、バウケ・モレマよりも速いタイムで、総合2位を死守した。

最後の最後で、キンタナの意地を見せつけられたような気がした。

モビスターは、チーム戦略に全く問題はなく、アシスト陣の働きも素晴らしく、ミスらしいミスは無かった。
だが、デュムランに31秒届かなかった。

もちろん、デュムラン自身の強さもあったが、戦前から層の薄さを指摘され続けたサンウェブアシスト陣の奮闘が無ければ、この31秒差は生まれなかったと思われる。

トム・デュムランがマリアローザを初めて着用した臨んだ第11ステージからの、サンウェブアシスト陣の働きをレポートする『サンウェブアシスト通信』もVol.5まで発行することが出来た。
しかし、今回が最終号となる。

21ステージに及ぶ、サンウェブアシスト陣の活躍ぶりを振り返りたいと思う。

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千切れては追いついてまた仕事の繰り返し

サンウェブアシスト陣が弱いと言われる理由の一つは、登坂力に優れる選手が少ないことだった。

頼みの綱のウィルコ・ケルデルマンは第9ステージの集団落車のきっかけとなる、道路の端に停車していたモトバイクに激突してしまい、指を骨折してDNFとなった。
アシスト陣の中で唯一クライマーといえる選手を失ったことは、あまりにも痛かった。

第11ステージでは、サンウェブアシスト陣は登りで次々に遅れてしまう。
しかし、ダウンヒルで集団復帰を果たすと、次の登りでまた仕事をして千切れる。
ということを繰り返していた。

とても、あと10ステージ力が持つとは思えないような、全力のアシストぶりだ。
マリアローザを死守するために、サンウェブチーム全体の雰囲気も良く、アシスト陣のモチベーションの高さを感じられるステージだった。

第12ステージ以降も無難に乗り切り、第14ステージではデュムランの猛烈な登坂力を見せ、ライバルたちから逆にタイムを奪って見せた。
デュムラン強すぎる!
アシスト陣も着実な仕事ぶりで、ジロはサンウェブの圧勝で終わるかと思われていた。

クイーンステージでまさかのトラブル発生

チーマコッピであるステルヴィオ峠を通過するクイーンステージで、サンウェブアシスト陣は再び良い仕事をしていた。
1回目のステルヴィオ峠では、アシスト全員千切れる覚悟で集団を牽き倒した。
強力モビスターアシスト陣を粉砕するほどの走りを見せ、順調なレース展開を見せていた。

だが、歴史に残る大事件が発生してしまう。
デュムランのお腹が限界に達し、自然に呼ばれてしまったのだ。(※「Nature calls」でトイレに行くという意味だそうで)

思わぬ事態に、メイン集団から1分以上遅れてしまう。
前待ちしていたローレンス・テンダムが必死に集団復帰しようと、デュムランをアシストしたが、メイン集団に追いつくことが出来なかった。

決して脚が回っていなかったわけではないデュムランは、単独ながらマイペース走行に徹して、失ったタイムを2分程度に抑えることが出来た。

ところが、テンダムはこのステージ以降、本来の力を出せなくなっていた。
第16ステージで限界を越えてアシストしていた結果だったと思われる。

限界を越えてサポートするアシストたちと、疲労困憊のエースたち

第19ステージは、デュムランにバッドデーが訪れてしまった。
さらに、間の悪いのことに、モビスターやバーレーン・メリダが組織的な集団分断作戦を決行してきたため、サンウェブアシスト陣は追走に脚を使わされてしまった。

デュムラン自身も大きなダメージを負ってしまったため、最後の1級山岳の登りでは登り口から遅れを喫してしまった。

マリアローザの最大の危機で神がかった活躍を見せたのは、サイモン・ゲシュケだった。
ペースの上がらないデュムランの前に出て、猛烈な牽引を見せた。
そのスピードは、クライマーであるステフェン・クライスヴァイクを千切るほどだ。

その姿は、まさに鬼神のようだった。
もし、ゲシュケがいなかったら、デュムランはもっとタイムを失っていただろう。
結果的には、ゲシュケの鬼神の如き活躍がなければ、デュムランはマリアローザを獲得出来なかったかもしれない。

そして、デュムランの危機にライバルたちは積極的に攻撃を仕掛けることも出来なかった。
連日の激しい山岳バトルの影響で、キンタナもニーバリも疲労困憊だったのかもしれない。

それほどまで、キンタナやニーバリを追い詰めることが出来たのはデュムラン一人の力ではない。
山岳アシストが弱いと言われ続けたサンウェブであったが、山岳でのサンウェブアシスト陣の活躍なしに、デュムランのマリアローザは無かったと言えよう。

ポディウムで喜びを爆発させるサンウェブアシスト陣

個人TTでは、直接デュムランをアシストすることは出来ない。

とはいえ、ここまで20ステージでデュムランを献身的にサポートしてきた、サンウェブアシスト陣の想いは、デュムランを心強く支えたことだろう。
渾身の走りで、ステージ2位となり、逆転でマリアローザを奪還した。

総合1〜3位の表彰、総合優勝トロフィーの授与を経て、リタイアしたケルデルマンとフィル・バウハウスを除くサンウェブのチームメンバー全員がポディウムに上がった。

その喜び方を見ていると、やはりサイクルロードレースはチーム競技であり、どれだけデュムランの力が優れていようとも、アシスト無しで得られた勝利ではないと強く感じさせられた。
デュムラン様様、というよりは「俺たちの勝利だ!」という雰囲気だった。

アシストの力を最大限に発揮するためには、エースの人格・性格は非常に重要だ。
デュムランのあっけらかんとした明るい性格が、チームを一つにまとめたのかもしれない。

フィル・バウハウス、サイモン・ゲシュケ、チャド・ヘイガ、ウィルコ・ケルデルマン、シンドレショースタッド・ルンケ、ゲオルグ・プレイドラー、トム・シュタムスナイデル、ローレンス・テンダム、そしてトム・デュムラン。
今年のジロは、この9名全員で掴み取ったタイトルだ。
全員の働きがあったからこそ、わずか31秒の僅差でマリアローザをものに出来たのだ。

一人ひとりの力は弱かったかもしれない。
しかし、サンウェブは間違いなく最強チームだった。

デュムラン、そしてサンウェブの次なる偉大な目標は、ツール・ド・フランス制覇ではないだろうか。

ともかく、激闘を終えた今は束の間の休息を満喫してほしいと願う。
サンウェブアシスト陣、また会う日まで。

Rendez-Vous sur le vélo…

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