サイバナ

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コラム パリ〜ルーベ2017

トム・ボーネン引退の花道を飾る、パリ〜ルーベでは誰のために走る?

2017/07/13

昨シーズンは大物の引退が相次いだシーズンだった。

一世を風靡したシュレク兄弟の兄、フランク・シュレク。
“プリート”ことホアキン・ロドリゲス。
2012年ジロ・デ・イタリア総合優勝のライダー・ヘシェダル。

他にも、かなりネームバリューのある選手たちが引退した。

中でも最も実績を残し、引退が惜しまれた選手はファビアン・カンチェラーラだろう。

UCIのカテゴリーレースでは、現役最終レースとなったリオ五輪個人TTで金メダルを獲得し、まだまだ第一線でやれるどころか、世界一のTT力を見せつけるという、あまりにも見事な引き際だった。

そして、そのカンチェラーラの終生のライバルと言ってもいい、トム・ボーネンもまた引退の花道を飾ろうとしている。

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地元・ベルギーでは、国をあげてボーネンを祝福

世界選手権優勝1回
パリ〜ルーベ優勝4回
ロンド・ファン・フラーンデレン優勝3回
ヘント〜ウェヴェルヘム優勝3回
E3・プライスフラーンデレン(現E3・ハレルベーケ)優勝5回
ツール・ド・フランス通算ステージ6賞&ポイント賞1回

ボーネンの輝かしい実績の一部である。
だが、ベルギーの英雄と言えばエディ・メルクスのような圧倒的な戦績だった、とは言い切れないだろう。

なぜなら、カンチェラーラ然り、ボーネンと同時代を走る選手たちの力は非常に拮抗していたからだ。

ボーネンは国民的英雄として、熱狂的な支持を集めている。

祖国の英雄の花道を飾らんと、ロンド・ファン・フラーンデレンでは今年からスタート地点がアントウェルペンとなり、ボーネンの出身地のほど近くを通るコースレイアウトに変更された。
さらにロンドより歴史あるレースであるシュヘルデプライスではボーネンの生まれ育った街であるモルへとスタート地点を変更した上、9.5kmのパレード走行の後、ボーネンのおじいちゃんの家の前でアクチュアルスタートのフラッグが振られた。
さらにそのフラッグを振ったその人こそが、ボーネンのおじいちゃん本人である。

ベルギー全体でボーネンの引退の花道を飾ろうと、まさしくお祭り騒ぎの状態となっているのだ。

ここまでベルギー人の支持を得られる要因はいくつかある。

一つは、プロデビューこそアメリカのUSポスタルチームで飾ったが、2003年以降は一貫してベルギーのクイックステップを母体とするチームで走っている。
ほとんどクイックステップ一筋の選手と言ってもいいだろう。

移籍の激しいサイクルロードレース界で、チーム一筋で現役生活を終える選手は極めて珍しい。
好成績を残すと、より良い待遇を求めて、他のチームへと移籍することが多いし、資金難のためチームが消滅することも決して珍しくはないからだ。

だが、ボーネンは安定したクイックステップに残り続け、地元のヒーローをベルギー人たちは愛し続けることが出来たのだ。

もう一つの要因は、何よりもボーネン自身の走りにある。
ピュアスプリンターに匹敵するスプリント力に加え、激坂をもいとわないパワフルな走りは、常にレースの中心でレースを動かす存在でもあった。

「自らレースを動かし、自ら勝つ選手」を真の強者と定義するベルギーのサイクルロードレースファンにとっては、ボーネンの走りはエキサイティングで魅力あふれるものだったに違いない。

そして、もう一つ要因をあげるとするなら、ボーネンの持つストーリー性だろう。

圧倒的な支配者ではなかった

エディ・メルクスは、圧倒的な支配者だった。
ロンド・ファン・フラーンデレンに勝ち、その脚でツール・ド・フランスにも勝つような、ずば抜けた存在だった。

対してボーネンは一時代を築いた選手であることに異論はないが、圧倒的な支配者だったとは言えない。
スプリント力は非常に高かったが、一時期のマーク・カヴェンディッシュやマルセル・キッテルのように連戦連勝ということはあまり無かった。
ツールでのポイント賞獲得は通算1回のみだ。

ワンデークラシックにおいても、パリ〜ルーベ2連覇という実績は輝かしいが、トータルで見れば毎年のように勝てていたわけではない。
なぜなら、カンチェラーラを筆頭に、強力なライバル選手との死闘を繰り広げていたからだ。

ボーネンのサイクルロードレース人生は、言わばライバルとの激闘の歴史と言っても過言ではない。

ファンアントニオ・フレチャ、トル・フースホフト、アレッサンドロ・バッラン、そしてファビアン・カンチェラーラ。
一時代を築いたライバル選手たちの引退は、ボーネンの走る理由を一つ、また一つと奪っていった側面は否めない。

戦う理由を無くしたファイターは、自身の勝利だけでなくチームの勝利のために走ることに喜びを見出し始めた。
最近のボーネンの走りを見ていると、徹底したフォア・ザ・チームの走りに徹しているように思えるのだ。

ロンドでは、カペルミュールでアタックを仕掛け、結果的にフィリップ・ジルベールの歴史的な独走勝利へと繋がる好アシストを見せた。
そして、ボーネン一色で迎えたシュヘルデプライスでも、マルセル・キッテルのためにトレインの先頭で牽き続ける姿が映されていた。

クイックステップがあげた、今シーズン23勝のうち実に8勝をあげたレースで、ボーネンは走っている。
歴戦のクラシックスペシャリストの類まれなる爆発力と、強力な独走力は今もなお、クイックステップにとって欠かせない戦力だ。

それでも、ボーネンはパリ〜ルーベで引退する

明らかにまだやれる力を残している。

しかし、カンチェラーラと激闘を繰り広げた頃のパワーは、もう無いのかもしれない。
何よりも、血湧き肉躍るような死闘を繰り広げたライバル選手たちはもう走っていない。
もはや、ボーネンの闘志を掻き立てるものは無いのだ。

一方で、アシストとしてチームのために走るボーネンには、ロンドで見せたようにレースの決定的な動きを作るほどの力を持っている。

やはり、パリ〜ルーベでも、チームのために走るのだろうか?

その懸念は半分合ってて、半分違っていると思う。

今のクイックステップは、エース級の選手たちがお互いを補完しながら、チームで勝利を狙うことの出来るチームだ。
したがって、ボーネンもチームの勝利のために走るだろう。

だが、我々サイクルロードレースファンのみならず、クイックステップのチームメンバーも望んでいることは何か?

それは、トム・ボーネンの勝利に他ならない。
カンチェラーラがリオ五輪で金メダルを獲得したように、ボーネンもパリ〜ルーベで有終の美を飾って欲しいと願うファンは、大勢いることだろう。

とはいえ、ワールドツアーレベルのワンデークラシックでの優勝は、2012年のパリ〜ルーベ以来5年も遠ざかっているが、
昨年のパリ〜ルーベは2位と、まだまだ十分にルーベで優勝する個の力を有しているのだ。

ファンが望み、チームが望むボーネン自身の勝利のために走ることは、フォア・ザ・ファン、フォア・ザ・チームの精神そのものではないだろうか。

フレフ・ヴァンアーヴェルマートやペーター・サガンと言った強力な選手は、もはやライバルではない。
ボーネンにとってみれば、次代を担うスター選手たちだろう。

ボーネンの闘志の源となっていたライバル選手はいなくてもいい。
もう一度、表彰台のてっぺんに立つボーネンの姿を見たいと願うファンのために。
ここまでお世話になったチームメイトたちの、最後はボーネンに花道を飾って欲しいという想いに応えるために。

ベルギーの英雄が挑む、最後のレースをしっかりと見届けたい。

Rendez-Vous sur le vélo…

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