その他レース2017 コラム

ツアー・オブ・カタール中止の原因は、資金不足だけなのか?

近年、急速に中東におけるサイクルロードレースの進出・拡大が著しかった。

2014年にはドバイツアー、2015年にはアブダビツアーがそれぞれ初開催され、2016年はカタールの首都・ドーハで世界選手権が開催された。

さらに2017年シーズンから、バーレーン・メリダとUAEアブダビの2チームが新たにワールドツアーチームとして誕生する。

それらは、中東の潤沢な資金が礎となり、UCIの世界拡大戦略にもマッチした結果、急速に中東におけるサイクルロードレースのシェアが広がっていったのだった。

ところが、中東でのサイクルロードレースの先駆けとなり、2017年からワールドツアーへ昇格を果たしたツアー・オブ・カタールが“資金不足”を理由にレース中止を決定した。

ss-20

最も割りを食らうのは、ワールドツアーに組み込まれたレースであり、ドバイツアー、ツアー・オブ・カタール、ツアー・オブ・オマーン、アブダビツアーと短期間に中東で4連戦を行う予定の多かったワールドチームたちだろう。

同時期には、チャレンジ・マジョルカやボルタ・ア・バレンシアナなど、スペインでの歴史あるレースの開催時期と被っている。ツアー・オブ・カタールがキャンセルになるなら、ドバイツアーよりスペインでのレースを優先して調整したかった選手も多くいたはずだ。

それだけではない、中東は資金が豊富ではなかったのか?と、これまでの中東の勢いに水を差すようなニュースに、世界が驚きと落胆を感じたことだろう。

スポンサーリンク

ワールドツアーのレースの開催費用はどれほどか?

サイクルロードレースを開催するにあたっては、基本的に主催団体が開催費用を負担することになる。

具体的な内訳や総額に関しては、ツアー・オブ・ジャパンのディレクターを務める栗村修さんの話が非常に参考になる。

※参考:30代男性「レース運営にはお金がいくらくらいかかりますか?」

重要なことは、ツール・ド・フランスなどのグランツールも、パリ〜ニースなどの1週間ほどのステージレースも、規模感が違うだけでお金を使うプロセスや払うプロセスは同じだということだ。

沿道の警備費、中継機材の準備、スタート・フィニッシュ地点の設営費、選手やチームスタッフの渡航費や宿泊費、そして優勝者への賞金も主催者負担だ。

ツアー・オブ・ジャパンも例に漏れず、開催費用は“億の単位”に届くそうだ。

開催規模はステージ数ではなく、ワールドツアーチームをどれほど招致するかが問題になってくる。コンチネンタルチームは自腹で移動してくるケースが多いそうで、プロコンチネンタルチームの一部は主催者持ち、ワールドツアーチームはほぼ主催者持ちとのことだ。

また、公式発表によると85,000人が来場したジャパンカップはワールドツアーになってもおかしくないレースであるが、現状ではHCカテゴリーである。

ジャパンカップのトークショーで、ファビアン・カンチェラーラに対して「今後、ジャパンカップが大きな大会となるためにはどうしたらいいか?」との問いかけに対して、『Money』と答えていた。つまり、ワールドチームを招致する費用をもっとかける必要がある、ということだろう。もちろん賞金も多くするに越したことはない。

これは完全に推測になるが、UCIからワールドツアーの公認を取り付けるためのロビー活動にかかる費用も少なくないだろう。ジャパンカップのような実績も規模も十分なレースではなく、中国の新規ステージレースがワールドツアーとなったことから、実績だけではない何かが存在するのではないかと思ってしまう。

まとめると、ワールドツアーのレースを主催するには、少なくとも億単位のお金が必要で、下手したら10億円以上の大金が必要になってくると見ていいだろう。

ツアー・オブ・カタールのスポンサーは何か?

ツアー・オブ・カタールの主催団体は、ツール・ド・フランスやブエルタ・ア・エスパーニャを主催しているASOである。

ASO主催レースの公式ページはしっかり作れられいて、主要スポンサー企業の一覧を見ることが出来る。

2016年のツアー・オブ・カタールの公式ページを見ると、スポンサー企業には

・フォルクスワーゲン
・Q AUTO
・Rayyan Water

の名が連なっている。

フォルクスワーゲンはドイツの自動車メーカーで、『Q AUTO』はドーハのカーディーラーのようで、『Rayyan Water』もカタールのミネラルウォーターメーカーだ。

そして、2017年の公式ページにも、同様のスポンサー企業が名を連ねている。

2016年まではHCクラスのレースであり、ワールドツアー化することで、開催費用は増大するはずだが、スポンサー企業数は変わらないままである。

一方で、同じASOが主催する一週間程度のステージレースとして、パリ〜ニースのスポンサー企業を見ると、

・ルコック・スポルティフ
・AG2Rラモンディアル
・LCL
・EUROVISION
・EASY SHOWER
・SKODA
・MAVIC
・GoPro
・ranstad
・Yvelines
・VILLE DE NICE
・francetv sport
・TISSOT
  ・・・
  ・・・

など、比べ物にならないほどスポンサー企業が協賛している。

もちろん、パリ〜ニースは伝統的なフランスのステージレースであり、ツアー・オブ・カタールと比べて人気も段違いであるし、パリ〜ニースは8日間のステージレースで、ツアー・オブ・カタールは5日間のステージレースである。

とはいえ、ヨーロッパで開催されるパリ〜ニースと違って、ツアー・オブ・カタールのチームの移動費は大きく計上されるだろう。パリ〜ニースもツアー・オブ・カタールも、同じワールドツアーのレースとなれば、警備費用や設営費などは、それほど大きく乖離するものではないので、パリ〜ニースとツアー・オブ・カタールの開催費用の総計は大きな差はないのではないかと推測する。

にも関わらず、スポンサー企業の数は10倍近い差が生まれている。公式ページのスポンサー企業一覧に表示される条件は、一定金額以上出資した場合ではないかと思われる。したがって、ツアー・オブ・カタールはスポンサーからの資金では、レースの開催費用を賄うことは不可能ではないかと思う。

ツアー・オブ・カタールの開催費用は誰が出しているのか?

中国初のワールドチームとなるはずだった、プロジェクトTJスポーツを、アブダビのスポンサーが出資して、新たにUAEアブダビとして2017年シーズンに臨むことになった。

この時、アブダビのスポンサー名や出資者の名は一切明かされていない。何か中東ならではの事情があるように思われる。

同じように、ツアー・オブ・カタールの開催にあたって、公式ページに掲載されているスポンサー企業からの出資で足りない分は、名乗ることの出来ないスポンサーや出資者が補っているのではないかと思う。

その、名乗ることが出来ないスポンサーたちが、何かしらの理由で出資やワールドツアー化に伴う増資を拒否したことが、レース中止の原因になったのだろう。

問題は“なぜ”出資や増資を拒否したかだ。

UCIのグローバル戦略と、UAEアブダビの存在

2016年に世界選手権の舞台はカタールのドーハとなった。レースはつつがなく行われたが、沿道に観客が全くいないことが非常に気になった。

しかし、これまでのツアー・オブ・カタールも沿道の観客は多くはなかった。最初は沿道に観客がいない場所でお金だけ積んでレースをすることは無理があると思ったが、それではツアー・オブ・カタールが2002年から開催されていることが説明できない。

2016年から2017年にかけて、中東のサイクルロードレース事情で変化したことは、

・ツアー・オブ・カタールとアブダビツアーのワールドツアー化
・バーレーン・メリダの設立
・ランプレ・メリダがUAEアブダビに変更

と言ったことだろうか。

ツアー・オブ・カタールがHCクラスから、ワールドツアーに昇格したことで、開催費用がかさむことになっただろう。

問題はかさんだ費用を、なぜ事前にスポンサーへの根回しや、新規スポンサー獲得をしなかったのかだ。

そこには、UCIのグローバル戦略に振り回されているチーム、主催団体、スポンサー企業の姿が思い浮かばれる。

ランプレ・メリダがTJスポーツに買収された一連の動きも、UCIが中国にワールドチームを誕生させたいという目的ありきで、プロジェクトTJスポーツが誕生したと思われる。

※詳しくは「中国初のワールドチーム誕生とは一体何だったのか?」を参照いただきたい

TJスポーツの新チーム誕生発表記者会見の時点では、肝心の2017年シーズンのスポンサーが見つかっていなかったからだ。

ツアー・オブ・カタールのワールドツアー化も、UCI主導のもと行われたのではないかと思う。TJスポーツの動きと同様に、2017年の膨らむ開催費用の補填案は、主催団体側に丸投げだったのではないかと思う。

UCIとツアー・オブ・カタールの主催団体であるASOは、それほど良好な関係とは言えないので、十分な根回しが無かったとしても不思議ではない。

さらに、ツアー・オブ・カタールよりはるかに歴史の浅いアブダビツアーが同時にワールドツアー化され、同じくアブダビに新ワールドチームであるUAEアブダビが誕生するなど、ツアー・オブ・カタール側にとって納得のいかない動きが多すぎたのかもしれない。

サイクルロードレースのグローバル化自体は素晴らしい動きである。しかし、当の開催国や開催団体や関連企業のコンセンサス無しに展開をして、名ばかりのグローバル化がサイクルロードレースの発展に繋がるとは思えない。

とはいえ、UCIは毎年のように改革を積み重ねる姿勢は、評価したいし応援したい。

サイクルロードレースが真のグローバルスポーツとなるべく、UCIの改革が良き方向へ進むことを願うばかりである。

Rendez-Vous sur le vélo…

スポンサーリンク

-その他レース2017, コラム