サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

コラム パリ〜ルーベ2017

ゼネク・スティバル、死力を尽くした2位。そこには世界一美しい敗北者の姿があった。

ロンド・ファン・フラーンデレン史上最多タイの3度優勝。
そして、パリ〜ルーベも史上最多タイの4度優勝。

北のクラシックでの英雄的な活躍から、絶大な人気を誇ったライダーがバイクを降りる。

トム・ボーネン、現役最後のレースには世界一過酷で、世界一美しいパリ〜ルーベを選んだ。

日本時間18時10分。
ボーネンの現役最後のレースがスタートした。

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ボーネンを支える7人のアシストたち

ここまでの北のクラシックにおけるクイックステップの戦略は、レースに勝てるエース級の選手2〜3名を前線に送り込んで、高度な連携を通してチームで勝利を掴み取るスタイルだった。

ドワルス・ドール・フラーンデレンではフィリップ・ジルベールを囮に使ってイヴ・ランパートで勝利。
E3・ハレルベーケでは、ジルベールが逃げて3位。
ヘント〜ウェヴェルヘムでは、ニキ・テルプストラ、トム・ボーネン、フェルナンド・ガヴィリアがトップ10に入った。
そして、ロンド・ファン・フラーンデレンでは歴史的な55km独走を決めてジルベールが優勝。

近年、不調が続いたワンデークラシックで快進撃とも言える好成績を収めていたのだ。

その集大成がパリ〜ルーベだ。
しかも、ボーネンの引退レース。
クイックステップとしても、是が非でも獲りたいレースであり、何よりもボーネンに有終の美を収めさせたいレースだ。

したがって、これまでの北のクラシックシリーズとは異なり、ボーネン単独エースで他7名がアシストという編成で挑んだ。

クイックステップの作戦はシンプルだった。
有力チームに所属する選手が逃げようとしたら、欠かさずチェックすること。
これだけだった。

ロット・ソウダルの選手が逃げようとすればチェック。
BMCレーシングの選手が逃げようとすればチェック。
トレック・セガフレードも、キャノンデール・ドラパックもだ。

コフィディスやデルコ・マルセイユなどプロコンチームには目もくれず、有力チームをひたすらマークし続けた。

ただでさえ逃げが決まりにくいワンデーレースである上に、優勝の最有力候補のクイックステップが逃げに乗ろうとするため、全く逃げが決まらない。
決まったかと思えば、追走の果てに吸収。また逃げたと思えば、吸収。
ということを繰り返しているうちに、あっという間に最初の石畳区間にたどり着いていた。
距離にして100km、2時間近くアタックと追走を繰り返していた。

疲弊したアシストと、致命打を受けたセカンドエース

100kmに渡るアタック合戦と、集団牽引の影響のためか、クイックステップのアシスト陣の疲労が早かった。

消耗したアシストは集団後方に下がって、再び仕事をするために脚を溜めていた。
しかし、何が起こるか分からないパリ〜ルーベ。

第28セクターでは、大きな集団落車が発生する。
クイックステップは2人の選手が巻き込まれ、イヴ・ランパートは落車して大きな遅れをとってしまった。

さらに、セカンドエースと言える2014年パリ〜ルーベ覇者のニキ・テルプストラも落車の影響のためか、勝負どころを前にリタイアとなってしまう。

中盤最大の勝負どころであるアランベールを迎える頃には、クイックステップの選手は4名まで減っていた。

アランベールを抜け、しばらくするとボーネンのアシストは、とうとうゼネク・スティバルただ一人となっていた。

スティバルが獅子奮迅の活躍を見せる

徐々に人数を減らしたメイン集団からは、決定的になりかねないアタックが繰り返される。
その全ての動きをスティバルがチェックしていた。

スティバルは逃げのローテーションには加わらないので、アタックは不成功に終わる。
そのようにして、スティバルはアタックを一つ一つ潰す非常にタフな仕事を一人で請け負っていたのだ。

メイン集団の人数は減っていき、気付けば各チームのエースたちが残る精鋭集団と化していた。

残り35kmを切り、キャノンデール・ドラパックのセバスチャン・ラングフェルドとロット・ソウダルのユルゲン・ルーランズが集団から飛び出した。
決して野放しにしていい選手ではないので、2人にブリッジすべく、スティバルは単独で追い始める。
見事に追いついたとはいえ、長時間の追走はスティバルの身体に大きなダメージを残すこととなる。

一方で、メイン集団にいるボーネンの周りには誰もアシストがいなくなった。
フレフ・ヴァンアーヴェルマートという猛獣がそばにいるにもかかわらず。

ボーネンが集団に取り残されてしまう

ヴァンアーヴェルマートは、満を持してアタックを仕掛けたのだろうか。
もしくは、チームスカイのジャンニ・モスコンやトレック・セガフレードのジャスパー・ストゥイヴェンの動きに乗じたのかもしれない。

決定的な瞬間の映像がないため、事実はわからないが、とにかくヴァンアーヴェルマートはボーネンを置き去りにすることに成功した。
このヴァンアーヴェルマートたちの動きをチェックするアシストは、ボーネンの周りにはいなかった。

ヴァンアーヴェルマートがスティバルたちに追いつくと、更に前方を単独で逃げていたダニエル・オスがヴァンアーヴェルマートのために牽引を開始し、ボーネンとの差を開きにかかる。

状況はかなり厳しい。
それでも、スティバルは最善を尽くす。

難易度☆5のカルフール・ド・ラルブルで、ヴァンアーヴェルマートがアタックを仕掛ける。
スティバルより脚が残っているであろう、ストゥイヴェンとモスコンは遅れてしまうほどの猛烈なアタックだったにもかからず、スティバルは気合いと根性で喰らいつく。

スティバルの奮闘も虚しく、ボーネンのいる集団との差は開くばかりだった。
もはやボーネンは最後のベロドロームでの勝負には絡めないことが確実となってしまう。

ボーネンに勝ちの目が無くなった今、スティバルに新たな任務が託される。
それは、ヴァンアーヴェルマートを倒して、ルーベで優勝することだ。

だが、ペーター・サガンを下すほどのスプリント力を持つヴァンアーヴェルマートとの勝負は、あまりにも絶望的だった。
しかも、スティバルはアシストとして働き尽くした、言わば手負いの状態である。

250km以上走ってきたヴァンアーヴェルマートの脚が無いことを祈って、スティバルは最後の登り坂でアタックを仕掛けるも、ヴァンアーヴェルマートは難なく対処。

ベロドロームでのスプリント勝負にかけるしかないが、両者の間には圧倒的な力量差が存在している。
それでも、スティバルは諦めなかった。

ベロドロームでの最終決戦

ヴァンアーヴェルマート、ラングフェルド、スティバルの3名がベロドロームに入った。
1周半の後、栄光のパリ〜ルーベの覇者が決定する。

まず、スティバルはバンクの上方に位置どり、ヴァンアーヴェルマートを牽制する。
お互いに、にらみ合いが続く中、ラスト1周の鐘が鳴らされる。

スティバルは後方をちらちらと振り返るが、チェックしていたのはヴァンアーヴェルマートだけではなかった。
遅れたはずのストゥイヴェンとモスコンが迫っている姿が視界に入った。

ストゥイヴェンとモスコンが追いつけば、ヴァンアーヴェルマートが焦るかもしれない。
もしくは、合流の混乱に乗じてカウンターアタックが決まるかもしれない。
スティバルは、2人の合流を待つために、わざとスピードを緩めた。

残り半周。
狙い通りストゥイヴェンとモスコンが、スティバルたちに追いつく。
直後、カウンターでモスコンがスプリントを開始し、すかさずスティバルもスプリント体勢に入る。

ヴァンアーヴェルマートは、モスコンに道を塞がれる形となり、わずかに出遅れた。
スティバルが残る全ての力を使って、前に出ると、ヴァンアーヴェルマートとの差が車体1〜2台分ほど開いた。

このまま大金星なるか!と思われた矢先に、モスコンをかわしたヴァンアーヴェルマートが凄まじいスピードで突っ込んでくる。
フィニッシュラインの寸前でかわされ、わずかな差でスティバルは敗北したが、あわや大金星という互角の勝負を演じてみせた。

それでも、スティバルはハンドルを叩いて悔しがっていた。

アシストの職務を全うした身体で、ヴァンアーヴェルマートとの真っ向勝負を挑んで2位。
たとえ2位だったとしても、ボーネンの引退レースを勝利で飾ることが出来なくとも、とてつもなく立派な結果だったと言えよう。

だが、いかなる状況であっても、プロとして求められるものは勝利のみである。
アシストで消耗していたことが敗北の理由だとしても、スティバル自身が敗北の理由にしていいわけではない。

ハンドルを叩く姿から、ただただ己の力量不足を悔やむスティバルの無念さが伝わってくる。

ヴァンアーヴェルマートが、キャリア初のモニュメント優勝した姿も素晴らしかった。
だが、それ以上にレース後にハンドルを叩いて悔しがり、地面にへたり込むスティバルの姿は最高に美しかった。

スティバルは負けた。
ボーネンの引退レースを勝利で飾ることも出来なかった。
2位では歴史に名も残らない。

だからこそ、わたしはスティバルを称えたい。
記憶に残したかった。

心を震わすスティバルの走りは、引退するボーネンへの餞別にもなったに違いない。
レース後に抱擁をかわす、ボーネンとスティバルの姿もまた非常に美しかった。

ゼネク・スティバル。
本当に素晴らしい走りを、ありがとう。

Rendez-Vous sur le vélo…

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