ファビオ・アル、ダニエル・マーティン、アレクサンドル・クリストフというスター選手3人を獲得する大型補強を行ったUAEチーム・エミレーツ。
ディエゴ・ウリッシ、ルイ・コスタら既存戦力との融合に注目だ。
UAEチーム・エミレーツ2018ロースター
ディエゴ・ウリッシ(イタリア)
ルイ・コスタ(ポルトガル)
アナス・エイトエルアブディア(モロッコ)
ダルウィン・アタプマ(コロンビア)
マッテーオ・ボーノ(イタリア)
シモーネ・コンソンニ(イタリア)
ヴァレリオ・コンティ(イタリア)
クリスティアン・デュラセク(クロアチア)
ロベルト・フェラーリ(イタリア)
フィリッポ・ガンナ(イタリア)
ヴェガールステイク・ラエンゲン(ノルウェー)
マルコ・マルカート(イタリア)
ヨウセフ・ミルサ(UAE)
マヌエーレ・モーリ(イタリア)
プシェメスワフ・ニエミエツ(ポーランド)
シモーネ・ペティッリ(イタリア)
ヤン・ポランツェ(スロベニア)
エドワード・ラヴァージ(イタリア)
アレクサンドル・リアブシェンコ(ベラルーシ)※トレーニーから昇格
ベン・スウィフト(イギリス)
オリヴィエロ・トロイア(イタリア)
・新加入選手
ファビオ・アル(イタリア)←アスタナ
ダニエル・マーティン(アイルランド)←クイックステップ・フロアーズ
アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー)←カチューシャ・アルペシン
スヴェンエリック・ビストラム(ノルウェー)←カチューシャ・アルペシン
ローリー・サザーランド(オーストラリア)←モビスター
・退団選手
ルイス・メインチェス(南アフリカ)→ディメンションデータ
サーシャ・モードロ(イタリア)→EF・エデュケーションファースト・ドラパック・パワードバイ・キャノンデール
マテイ・モホリッチ(スロベニア)→バーレーン・メリダ
アンドレア・グアルディーニ(イタリア)→バルディアーニ・CSF(PCT、イタリア)
マルコ・カンプ(スロベニア)→CCC・スプランディ・ポルコウィチェ(PCT、ポーランド)
セイド・リジェ(イタリア)※トレーニー→ホールズワース(CT、イギリス)
フェドリコ・ズルロ(イタリア)→未定
フランチェスコ・ロマーノ(イタリア)※トレーニー→未定
大補強を敢行し、隙のないチームへと変貌
2017年シーズンのグランツールは、メインチェス1人で総合エースを担い、ツール・ド・フランスでは総合8位だった。そのメインチェスが移籍した代わりにツール総合5位のアルとツール総合6位のダニエル・マーティンの両名が加わった。
スプリントはモードロとグアルディーニが担当していたが、共に移籍。代わりに欧州チャンピオンのクリストフを獲得。
マーティンはアルデンヌクラシックを得意とし、クリストフは北のクラシックを得意としている。ブエルタ・ア・エスパーニャでステージ優勝をあげたモホリッチの移籍は痛いが、それらを補って余りある大補強により、大幅に戦力アップしている。
アルはジロ・デ・イタリアとブエルタを狙い、ダニエル・マーティンはツールを狙うものと思われる。(一方で、アルとマーティンとクリストフを同時にツールに起用するという報道もあった。スポンサーの意向でツールでの露出を狙いたいとの思惑だ。)
調子が良い時のアルの登坂力は、世界一といっても差し支えないレベルではあるものの、3週間の長丁場の中で必ず不調に陥ってしまう点が玉に瑕だ。また、平坦路の多い個人TTでは失速しがちな点も弱点だといえよう。
2015年にブエルタ総合優勝したときは、覚醒前のトム・デュムランが相手だったことと、表彰台に乗ったホアキン・ロドリゲスとラファル・マイカは共にTTを苦手としているピュアクライマーだった。覚醒後のデュムランやクリストファー・フルームを相手にするには、今のTT力では分が悪い。
また、アスタナ時代にはアシストに恵まれなかったが、UAEチーム・エミレーツでも頼りになる山岳アシストはアタプマとポランツェくらいなので、引き続き孤軍奮闘が求められるかもしれない。
それはダニエル・マーティンにもいえることだが、マーティンはクイックステップ時代にアシスト無しでツールでは2年連続一桁順位となっている。グランツール上位に食い込むことは十分可能だろうが、総合優勝を狙うとなると戦力不足が気になるところだ。
山岳アシストの陣容は変わらず、平坦アシストに厚みを増した
山岳アシスト候補として、まずはアタプマがあげられる。グランツールでは、度々逃げ切りを狙って、惜しいところまでいくものの、まだステージ優勝をあげられていない。アルとダニエル・マーティンが加入したことで、これまでに比べて自由に動けるステージが減ると思われるが、アタプマ自身にとってステージ優勝をあげることは悲願だろう。
2017年ジロ第4ステージのエトナ山の山頂フィニッシュのステージで勝利をあげたポランツェも非常に登坂力が高い選手だ。ステージ勝利後も安定した走りを見せ、総合11位に入っている。
コンティも、高い登坂力を持つ選手だ。2017年ジロ第8ステージではコーナリングで転倒して、勝利を目前にして逃す悔しい経験もした。
2016年ツール・ド・ラヴニール(2.Ncup)総合2位のラヴァシにも期待がかかるが、ネオプロイヤーの2017年シーズンは目立った活躍はできなかった。
ルイ・コスタ、ウリッシも登坂力は高いが、2人はエース格として走ることが多くなるため、アシストの役割を担う機会はほとんどないだろう。
山岳アシスト候補として個人的に注目している選手は、スウィフトだ。スプリンターと思われていたが、クリテリウム・デュ・ドーフィネ第7ステージのラルプ・デュエズでクライマーばりの走りを見せた。ピーター・ケニャックに13秒遅れのステージ2位となり、途中ウリッシを置き去りにして逃げ切り力を見せたことには非常に驚いた。
ツールでは普通にスプリントに参加していたので、クライマー転向したわけではないと思われるが、ドーフィネで見せた登坂力が本物ならば、とても面白い存在になりそうだ。
平坦アシスト陣は、2017年はラエンゲン、ガンナを中心に構成していたが、新たにサザーランド、ビストラムが加わったことで厚みを増した。
UAE国内ロード選手権を4連覇しているミルサは、地元のドバイツアーで良い逃げを見せていたが、他のレースでは全く歯が立っていない。
豊富なパンチャー陣も控えており、集団コントロール力は決して低くないだろう。
補強によりクラシックを勝てるエースとしての起用もできる
北のクラシックでは、2015年ロンド・ファン・フラーンデレン覇者のクリストフが絶対的エースとして君臨することだろう。
2017年シーズンは、ミラノ〜サンレモ4位、ロンド5位、パリ〜ルーベDNFとモニュメントでは表彰台に上ることができなかったものの、3月下旬のデパンヌ〜コクサイデ3日間レース(2.HC)ではステージ1勝とポイント賞を獲得するなど、コンディションは上々だった。
アシストはマルカート、トロイア、ラエンゲン、ガンナと、新加入のビストラムあたりが務めるだろう。しかし、2017年のロンドでは出場8人中完走者は3人、パリ〜ルーベでは8人中わずか1人しか完走していなかった。勝利を狙えるエースの存在が、アシストのモチベーションを高めることに繋がるだろうか。注目したい。
アルデンヌクラシックでは、ダニエル・マーティンが最も勝利に近い存在だといえよう。2017年はフレーシュ・ワロンヌ2位、リエージュ~バストーニュ~リエージュ2位と共にアレハンドロ・バルベルデの前に敗北を喫した。
ウリッシ、ルイ・コスタと共に、波状攻撃を仕掛けて勝利を狙いたいところだ。アシストには、上りに強いモーリ、ペティッリ、平坦に強いボーノ、サザーランドあたりが担当することだろう。
核となるエーススプリンターの獲得
そして、クリストフはエーススプリンターとしてチームに勝利を大量にもたらす役割が期待される。唯一無二の存在の証である欧州チャンピオンジャージを着用していることも重要だ。
2015年は20勝、2016年は13勝、2017年は9勝と年々勝利数が減少傾向にあるが、30歳と選手として最も脂の乗った時期なので老け込むのはまだ早い。環境を変える選択は吉と出るか凶と出るかは本人次第ではあるが、良いタイミングでの移籍になったのではないかと思う。
リードアウトは、フェラーリ、コンソンニ、オリビアあたりが務め、最終発射台はスウィフトが適任だろう。
トレインを組むには、カチューシャ・アルペシン時代と比べるとやや物足りない戦力となっている。
積極補強によりバランスの良い布陣になっている
グランツール:★★★★☆
北のクラシック系:★★★★☆
アルデンヌクラシック系:★★★★☆
スプリント:★★★★☆
アル、ダニエル・マーティン、クリストフと勝利を期待できる3人の選手を獲得したことによって、2017年シーズン以上に幅広いレースで好成績が見込めることだろう。
しかし、グランツール総合優勝、モニュメント制覇、ステージ優勝増産という観点では、ややアシスト陣の戦力が物足りないように見受けられる。アル、ダニエル・マーティン、クリストフの実力頼みといったところか。
この3人の影に隠れている感はあるが、ウリッシは2017年チーム内で最もWTポイントを稼いだ男なので、ステージレースやワンデーレースを中心に多くの勝利を期待できる。それは、ルイ・コスタも同様だ。
とはいえ、アル、ダニエル・マーティン、クリストフを獲得できるほどの潤沢な補強資金を用意していることから、来シーズン以降を見据えてチームビルディングの最中という見方もできる。UAEチーム・エミレーツはまだ設立2年目のチームなのだから。
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