グランツールで2度表彰台を獲得したロペスを擁するアスタナプロチーム。
さらにフルサング、イサギレ兄弟とオールラウンダーの層は厚く、ステージレースに特化したチーム布陣となっている。
アスタナプロチーム2019ロースター
ペリョ・ビルバオ(28、スペイン、C・A)
ザンドス・ビジギトフ(27、カザフスタン、R)
ダリオ・カタルド(33、イタリア、A)
マグナス・コルトニールセン(25、デンマーク、S・PS)
ローレンス・デヴリーズ(30、ベルギー、R・U)
ダニイル・フォミニフ(27、カザフスタン、T)
オマール・フライレ(28、スペイン、PC・E)
ヤコブ・フルサング(33、デンマーク、A)
エフゲニー・ギディッチ(22、カザフスタン、PS)
ドミトリー・グルズジェフ(32、カザフスタン、R)
ヤン・ヒルト(27、チェコ、C)
ユーゴ・ウル(28、カナダ、R)
バーフティヤール・コージャタイエフ(26、カザフスタン、R)
ミゲルアンヘル・ロペス(24、コロンビア、C)
アレクセイ・ルツェンコ(26、カザフスタン、PC)
ルイスレオン・サンチェス(35、スペイン、PC・D)
ニキータ・スタルノフ(27、カザフスタン、P)
ダヴィデ・ヴィレッラ(27、イタリア、PC・E)
アルチョム・ザハロフ(27、カザフスタン、R)
アンドレイ・ツェイツ(32、カザフスタン、RC)
・新加入選手
ヨン・イサギレ(29、スペイン、A・D)←バーレーン・メリダ
ゴルカ・イサギレ(31、スペイン、A・PC)←バーレーン・メリダ
マヌエーレ・ボアロ(31、イタリア、RC)←バーレーン・メリダ
メルハウィ・クドゥス(24、エリトリア、C)←ディメンションデータ
ダヴィデ・バッレリーニ(24、イタリア、PS・E)←アンドローニ・ジョカトーリ・シデルメク(PCT、イタリア)
エルナンド・ボホルケス(26、コロンビア、C)←マンサナ・ポストボン(PCT、コロンビア)
ヨーナス・グレガールドウィスリー(22、デンマーク、RC)←リヴァル・セラミックスピード・サイクリングチーム(CT、デンマーク)
ロドリゴ・コントレラス(24、コロンビア、R)←EPM(CT、コロンビア)
ユーリ・ナタロフ(22、カザフスタン、RC)←アスタナ・シティ(CT、カザフスタン)
・退団選手
ミケル・ヴァルグレン(26、デンマーク、P・U)→ディメンションデータ
オスカル・ガット(33、イタリア、RS・U)→ボーラ・ハンスグローエ
タネル・カンゲルト(31、エストニア、A)→EFエデュケーションファースト・ドラパック
セルゲイ・チェルネトスキー(28、ロシア、PC)→カハルラル・セグロスRGA(PCT、スペイン)
ジェスパー・ハンセン(28、デンマーク、RC)→コフィディス・ソルシオンクレディ(PCT、フランス)
モレーノ・モゼール(28、イタリア、P・RC)→NIPPOヴィーニ・ファンティーニ(PCT、イタリア)
リカルド・ミナーリ(23、イタリア、S)→イスラエル・サイクリングアカデミー(PCT、イスラエル)
アンドリー・グリブコ(35、ウクライナ、R)→未定
トルルス・コルシャイス(24、ノルウェー、R・U)→引退
ルスラン・トルウバイエフ(31、カザフスタン、L)→引退
※
S:スプリンター
C:クライマー
A:オールラウンダー(ステージレーサー)
TS:10km以下の短い距離に強いTTスペシャリスト、TL:30km以上の長距離に強いTTスペシャリスト、T:どちらの性質も持つTTスペシャリスト
PS:スプリントに強いパンチャー、PC:上りに強いパンチャー、P:どちらの性質も持つパンチャー
RS:スプリントに強いルーラー、RC:上りに強いルーラー、R:どちらの性質も持つルーラー
E:逃げのスペシャリスト
L:リードアウトマン
U:石畳・未舗装路に強い
D:ダウンヒルが得意
※年齢は2018.12.31時点で換算
2018年シーズンの主な戦績
・シーズン 33勝
(うちワールドツアー 10勝)
・UCIランキング
ワールドツアーチーム:7859pts、6位
ワールドツアー個人:ヴァルグレン(1803pts、12位)
UCIポイント個人:ロペス(2273pts、14位)
・チーム勝利数ランキング
6勝 ルツェンコ(アジア競技大会ジャカルタでの2勝を含む)
4勝 コルトニールセン
3勝 ロペス、サンチェス、フライレ
2勝 ヴァルグレン、ビルバオ、ミナーリ、ヴィレッラ
・レース出場日数ランキング
82日 カンゲルト、ビルバオ、ヴィレッラ、フライレ
81日 ツェイツ、
80日 コルトニールセン
78日 ロペス
・グランツール総合成績
ジロ・デ・イタリア:ロペス(3位)、ビルバオ(6位)、サンチェス(25位)
ツール・ド・フランス:フルサング(12位)、カンゲルト(16位)、ヴァルグレン(44位)
ブエルタ・ア・エスパーニャ:ロペス(3位)、ビルバオ(27位)、ヴィレッラ(48位)
・モニュメント成績
ミラノ〜サンレモ:コルトニールセン(8位)
ロンド・ファン・フラーンデレン:ヴァルグレン(4位)
パリ〜ルーベ:コルシャイス(33位)
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:フルサング(10位)
イル・ロンバルディア:カタルド(16位)
戦力補強アナリティクス
評価:★★★★☆
チーム内で最もワールドツアーポイントを稼いでいたヴァルグレンが抜けたものの、クラシックライダーの補強はなし。代わりにバーレーン・メリダからイサギレ兄弟を獲得した。このことから、アスタナはワンデークラシックよりもステージレースでの成績を重視する方針を打ち出したといえよう。
ゴルカ・イサギレはパリ〜ニース総合3位に入るなど、近年は1週間程度のステージレースで好成績をあげている。ロペスの出場しないレースではエースとしての起用が期待される。また2018年シーズンはワールドチーム所属選手のなかで最多の92日間レースに出場。DNFはクラシカ・サンセバスチャンでの1回のみだ。アスタナで最多出場だったカンゲルトの移籍した穴は余裕で埋まるだろう。
ゴルカの弟のヨン・イサギレはパリ〜ニース総合4位、イツリア・バスクカントリー総合3位、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合9位とステージレースで高いパフォーマンスを発揮した。さらにゴルカと同様に2018年はワールドチーム所属選手のなかで3番目に多い90日間レースに出場。さらにDNFはゼロと、兄弟揃ってスーパータフネスぶりを発揮している。
グランツールではイサギレ兄弟をエースに据え、連戦となる次のグランツールではロペスやフルサングのアシストに回すといった起用法も考えられる。
ハンセン、チェルネトスキー、モゼールといった上りに強いルーラー系の選手が移籍した代わりに、ボアロ、グレガールドウィスリー、コントレラス、ナタロフと似たようなタイプの選手を獲得して、戦力低下を抑止している。
クドゥスとボホルケスはクライマー寄りの選手だ。クドゥスはエリトリアロード王者に輝き、ボホルケスは標高3000m前後の高地で争うツアー・オブ・チンハイレイクで総合2位を獲得した。
バッレリーニはスプリンター系のパンチャーといった脚質で、ジロ・デ・イタリアでは中間スプリント賞を獲得し、シーズン3勝をあげる活躍を見せていた選手だ。コルトニールセンやミナーリと共に走る機会が多くなると思われる。
注目選手プレビュー
TT能力の改善が急務なロペス
ジロとブエルタで表彰台を獲得し、今やアスタナの絶対的エースとなったロペス。次に狙うは表彰台のてっぺん、と言いたいところだが、そこにはまだまだ大きなハードルがあるように思える。
というのも、ジロもブエルタも第1ステージのタイムトライアルで大きく失ったタイムを徐々に取り戻しながら、後半の個人TTでまたタイムを大きく失っても、終盤の難関山岳ステージで再びタイムを取り戻しながら、ようやく勝ち取った表彰台だからだ。
一例をあげると、ジロ第1ステージの個人タイムトライアル(9.7km)では、試走中に落車するトラブルに見舞われ、本戦でも56秒遅れのステージ60位と大きく出遅れた。第16ステージの個人タイムトライアル(34.2km)では2分42秒遅れのステージ50位となり、総合優勝したクリス・フルームからは2分7秒、その時点で総合首位だったサイモン・イェーツからも1分以上の遅れを喫していた。
ヒルクライムに関しては、ロペスは世界トップ3に入るといっても過言ではない実力者である。ロペスが頂点を獲るためにはタイムトライアル能力の改善が必須となるだろう。長めのTTで1分前後のタイムを失う現状ではあまりにも厳しい。
そういう意味では、タイムトライアルの比率の低い2019年のツール・ド・フランスは狙いめかもしれないが。
フルサングはベテランの力を発揮できるか
フルサングはタイムトライアルも上りもそつなくこなせるオールラウンダーらしいオールラウンダーだ。2017年シーズンはクリテリウム・デュ・ドーフィネでステージ2勝を飾り総合優勝を決めたものの、同年ツールでは無念の落車骨折リタイア。
2018年シーズンはツール・ド・スイスで総合2位と順調な調整を経て、再びツールに挑んだものの、難関山岳での低調なパフォーマンスが響いて総合12位に沈んだ。
そんなフルサングも4月だけは素晴らしい走りを見せていた。アムステルゴールドレースでは、徐々に人数を減らしていく先頭集団内で撹乱する動きを見せ、ヴァルグレンの勝利をお膳立て。ツール・ド・ロマンディでは第4ステージで独走勝利を飾り総合4位になった。
2019年に34歳となるが、パフォーマンスは年々向上しているように思えるので、アスタナの真のエースはオレだ!という走りを見せてほしい。
タフネスクライマー・ビルバオ
2017年シーズンにアスタナに加入して以来、2年連続でチーム最多出場となった。レースに出場すれば出場するほどに強くなるのではないかと思うほどに、ビルバオの存在感は日に日に増していった。
イツリア・バスクカントリーで総合8位となると、ツアー・オブ・ジ・アルプス第1ステージで勝利。続くジロ・デ・イタリアでは初日の個人タイムトライアルでTTスペシャリストに匹敵する好走を見せてステージ6位。難関山岳ステージではロペスのアシストを務めながらも大崩れすることなく21日間走り抜いて総合6位となった。
それだけの走りを見せたにもかかわらず、ジロを終えて1週間後のクリテリウム・デュ・ドーフィネに出場し、第6ステージでワールドツアー初勝利となるステージ優勝を飾ったのだ。さらにブエルタ・ア・エスパーニャにも出場し、再びロペスのアシストとして21日間走り切った。
無茶にも思える起用に応えるタフネスさと、上りで強烈に引ける力はチームにとって非常に価値の高いものである。イサギレ兄弟が加入したことで、ステージレースのエースの座は非常に競争が激しくなっているが、個人的にはビルバオをエースに据えて戦ってほしいと思う。
集団破壊の担い手・ヒルト
2017年シーズンに初出場のジロ・デ・イタリアで総合12位という結果を残して、アスタナに移籍。加入1年目は山岳アシストとして起用されることが多かったが、要所で光る走りを見せていた。
特にブエルタ・ア・エスパーニャでは、難関山岳の上り口で集団を減らすような鬼引きを見せていた。こうした集団を壊す力を持っている山岳アシストは、グランツールの総合を戦ううえで極めて重要な戦力となる。
2019年シーズンもロペスの頼もしい山岳アシストとして起用されることだろう。
上りに強いコルトニールセン
グランツールでのステージ優勝は、人生を変えるといわれている。特にツール・ド・フランスで1勝でもあげることができたら、プロサイクリストとしてとてつもない栄誉となる。
コルトニールセンはツール・ド・フランス第15ステージで、逃げ切った小集団のスプリントを制してツールでは初めてのステージ優勝を飾った。このステージはラスト41km地点に1級山岳ピック・ド・ノール(登坂距離12.3km・平均勾配6.3%)が現れ、逃げ集団に乗ったスプリンターの多くはここで脱落していた。
しかし、コルトニールセンはもはやクライマー並の登坂力を見せてこの山岳をクリア。ダウンヒルを終えて8人まで絞り込まれた先頭集団内ではコルトニールセンのスプリント力はずば抜けていた。にもかかわらず、コルトニールセンは集団からアタックを仕掛けて、さらに3人の小集団へと絞り込みをかけて、最後は3人のスプリント勝負で圧勝したのだった。
シーズン初戦のドバイツアーではピュアスプリンターと真っ向勝負を戦い抜いて総合2位になっているだけに、スプリンターとしての登坂力の高さは随一である。ミラノ〜サンレモやロンド・ファン・フラーンデレンでの成績も年々向上しているように、クラシックレーサーとしての素質が開花しつつあるようにも見える。
ヴァルグレンが移籍したアスタナにおいて、コルトニールセンはクラシック戦線でエースを任されることだろう。新たな境地の開拓にも注目していきたいところだ。
逃げ職人からパンチャーに進化するフライレ
2018年はワールドツアーのレースで3勝をあげるなど、キャリア最高の一年となったフライレ。2015・2016年とブエルタ・ア・エスパーニャで2年連続山岳賞を獲ったことで、クライマーのイメージが強いが、フライレの脚質はどちらかというとスプリント力のあるパンチャーだといえよう。
2017年ジロ・デ・イタリア第11ステージでは逃げ切った12人によるスプリントを制して勝利、2018年イツリア・バスクカントリー第5ステージでは絞り込まれた精鋭集団6人によるスプリント勝負を制し、ツール・ド・ロマンディ第1ステージも同様にスプリンターが生き残れなかった50人ほどの集団スプリントを制した。
中級山岳ステージほどの難易度であれば、十分にこなせる登坂力に加えて、小集団スプリントを制するスプリント力が持ち味なのだ。そのスプリント力が下支えとなって、ツール・ド・フランス第14ステージでは逃げ切り濃厚な逃げ集団において、ラストの短い激坂区間でいち早く飛び出して独走勝利を決めた。
逃げ集団に乗って、逃げ切りさえすれば高い確率で勝利することができる世界屈指のパンチャーへと成長したのだ。
カザフスタンの星・ルツェンコ
ルツェンコのプロデビューは2013年。母国カザフスタンに本拠地を置くアスタナ一筋で、プロ7年目のシーズンを迎えようとしている。自転車選手としてのキャリアは中堅に差し掛かるところが、年齢は26歳とまだまだ若い。ルツェンコはまだまだ伸びしろたっぷりな選手なのだ。
2018年シーズンはツアー・オブ・オマーンで総合優勝を飾った。序盤のパンチャー向きのステージで上位に食い込みながら、クイーンステージの第5ステージでロペスと共にワンツーフィニッシュを果たした。平均勾配10%を越える難関山岳をメイン集団から抜け出すだけの登坂力があったのだ。さらにツアー・オブ・ターキーのクイーンステージとなった山頂フィニッシュでもステージ優勝を飾り、総合2位となった。
なおかつ、アジア大会で別府史之をスプリントで下したように、小集団でのスプリント勝負にも強く、タイムトライアルも得意としている隙のない選手へと成長しつつあるのだ。
謎脚質の持ち主となるギディッチ
アジアのレースを中心に集団スプリントで猛威を奮ってきたギディッチだが、2018年は突然上れるようになった。
ツール・ド・ランカウイのクイーンステージで4位に入り、総合では6位となった。その前後の平坦ステージではしっかり集団スプリントに絡んで一桁フィニッシュをしている。ツアー・オブ・クロアチアのクイーンステージでは3位に入って、総合でも3位となり新人賞を獲得。
22歳と若く、アンダー世代の選手の脚質は日進月歩で進化するのだと思わされる不思議な戦績を残した。2019年はどういった方向へ進化を遂げるのか注目の若手選手の一人だ。
チーム総合評価
ステージレース:★★★★☆
北のクラシック:★★☆☆☆
アルデンヌクラシック:★★☆☆☆
スプリント:★★★☆☆
個人タイムトライアル:★★★☆☆
チームタイムトライアル:★★★☆☆
平均年齢:27.5歳
ロペス、フルサング、イサギレ兄弟、ビルバオ、ヒルト、カタルド、クドゥス、ボホルケスとクライマーが揃っており、ステージレースで上位を狙う戦力は揃った。A班とB班に分けたとしても、十分に強い布陣で挑めるほど充実している。
北のクラシックではコルトニールセンの進化に期待がかかるが、サポートする戦力は乏しくどちらにせよ苦しい戦いとなるだろう。アルデンヌクラシックでは、フルサング、ヴィレッラ、イサギレ兄弟、LLサンチェス、フライレらは向いているとはいえ、突き抜けた実績はなく勝利は遠いかもしれない。
コルトニールセン、ギディッチ、バッレリーニとスプリンター系の選手は複数人いるものの、大型ピュアスプリンターに対抗するにはややパワー不足か。
個々の力を見ると厳しそうに見えるが、それでも2018年シーズンに30勝をあげたようにチーム戦術がハマったときには勝ちに繋げることができるチームでもある。いずれにせよチーム首脳陣の手腕次第となりそうだ。
(おまけ)サイバナの推しメン:カタルド
2015年シーズンからアスタナで4年間走って勝利はゼロだが、堅実な走りと全局面に対応できる脚質から、いぶし銀の走りが光っている。
そんなカタルドがひときわ注目を集めたのは、2018年2月14日の出来事。アスタナが各種SNSでショートムービーを公開した。バレンタインデーにちなんで、ロードバイクを愛する女性に見立てた恋愛ストーリーなのだが、主演のカタルドの演技が素晴らしかった。
A rider and his bike: A Love Story♥️ @DarioCataldo #AstanaProTeam #HappyValentinesDay #ValentinesDay #Argon18 pic.twitter.com/6upUqpi4CM
— Astana Pro Team (@AstanaTeam) 2018年2月14日
改めて見直しても、笑ってしまう。個人的にはローラー台のシーンで、絶対に笑ってしまう。2019年もアスタナが生み出す新作ムービーに期待したい。主演に誰を起用するのかにも注目だ。
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