サガンの目下の悩みは、自分への厳しすぎるマークだ。
持ち前のパワーで集団を破壊するアタックを仕掛けて、少人数で抜け出す展開を作り出すことは彼にとっては容易なことだ。
しかし、そのあまりにも突出したパワーを警戒されることで、少人数グループが綺麗にローテーションしながら後続集団とのタイム差を開く展開に持ち込むことが難しくなっている。
結果的に、サガンはライバルたちよりも先頭を牽かされる時間や、アタックが徒労に終わることも多く、本来の力を発揮できぬまま敗れることも多いのだ。
そのため、勝負どころでサガンに代わって前を牽くアシストの存在が必要だと思われていた。BMCレーシングより獲得したダニエル・オスは要所要所で効果的な働きを見せており、サガンにとって足りなかったピースを埋める存在になっている。
E3ハーレルベーケでは、クイックステップの猛攻に対し、オスの必死のアシストにより、サガンはどうにかメイン集団内でレースを展開していた。
ところが、質量に勝るクイックステップ勢の攻撃に耐えきれず、オスは集団から脱落した。単騎での戦いを余儀なくされたサガンは、勝負どころの上りで力なく失速。3分以上遅れて26位でフィニッシュする結果となった。
迎えたヘント〜ウェヴェルヘムでは、やはりクイックステップ猛攻の前に、オスがメイン集団から遅れをとってしまい、サガンのそばにはマルクス・ブルグハート1人を残すのみとなっていた。
そのブルグハートも中終盤にかけて、集団の先頭で度々ペースアップを仕掛ける姿が見られたように、もはや脚がほとんど残っていない状況だった。
やむを得ず、サガンは後続集団を引き離すために先頭集団でローテーションに協力していた。
世界チャンピオンがローテーションすることで、集団の秩序は保たれ、他のチームのエース格の選手も積極的にローテーションに協力しているように思われた。
だが、ブルグハートの見立ては違った。
集団内のパワーバランスを冷静に見渡す
メイン集団には、E3で圧倒的な強さを見せたクイックステップ勢に加え、エースのエリア・ヴィヴィアーニが控えており、さらに今季好調を維持しているアルノー・デマール、クリストフ・ラポルテらピュアスプリンター勢が健在だった。E3で失速したサガンは脅威ではあったものの、最もマークすべき相手はサガンではなく、このピュアスプリンターたちだった。
つまり、サガンがローテーションを回らなくても集団のペースは落ちないと、ブルグハートは判断したのだろう。
ブルグハートはサガンに寄り添うと、諭すように指示を送った。
かつて2007年のヘント〜ウェヴェルヘムで優勝経験を持つ34歳の大ベテランもまた、サガンをクラシックでアシストするために昨シーズンBMCレーシングから移籍してきた選手の一人だ。そして、ブルグハートはサガンに対し、「ヴィヴィアーニをマークしよう」と言ったのではないかと思う。
サガンはブルグハートとの会話を終えると、ヴィヴィアーニの背後を確保してローテーションに加わらなくなったからだ。アシストを複数残しているクイックステップにとって、最もスプリント力のあるヴィヴィアーニがローテーションに加わることは絶対に無いので、ヴィヴィアーニの背後にいればローテーションの流れを阻害することなく、サガンもまた最後の勝負に向けて脚を溜めることができるのだ。
これが残り17km地点での出来事。
ブルグハートの采配はずばり的中し、メイン集団のペースが落ちることはなく、むしろ後続集団とのタイム差は拡大していった。
サガンは集団の中で息を潜めながら、最後の勝負時を待っていた。
残り2kmを切って、立て続けにアタックがかかるが、サガンはじっと静観。ヴィヴィアーニを常に視界に捉えマークに徹していた。
セプ・ヴァンマルクのアタックを、イヴ・ランパールトが吸収したその瞬間、ヴィヴィアーニの前方はランパールト、ヴァンマルク、ルカ・メスゲツらに塞がれる格好となっていた。その一瞬を狙ってサガンはスプリントを開始した。
出遅れたデマールとヴィヴィアーニを振り切って、最初にフィニッシュラインに飛び込んだのだ。
サガンの勝利を確信したブルグハートも、後ろでガッツポーズをしているのが見えるだろう。
ボーラ・ハンスグローエとしては、最後の勝負どころである残り34km地点のケンメルベルグを過ぎて、サガンを含む小集団で逃げる展開持ち込むことが理想だっただろう。
だが、クイックステップをはじめとして、強力なライバルチームがそのプランを阻んだ。
ケンメルベルグを越えてもなお、デマールやヴィヴィアーニなどピュアスプリンターを含む20人以上の集団だった以上、サガンが勝つためにはピュアスプリンターを抑えて集団スプリントで勝つしかなかった。
そのためには、サガンが勝負できる脚を残すこと、ピュアスプリンターの脚を削ること、そして鉄壁のクイックステップ勢に守られしヴィヴィアーニを打ち破るために徹底的にマークすることが必要で、あの時ブルグハートはその全てを満たす作戦をサガンに耳打ちしたのではないだろうか。
アシストには様々な役割がある。たとえ物理的に牽くことができずとも、時には路上の参謀としてエースを勝利に導く戦術を編み出すこともまた、アシストの仕事の一つなのだ。
Rendez-Vous sur le vélo…
ボーラはオス、ボドナール、そしてこのブルグハートと、職人的な良い仕事をするルーラーを揃えていますね!
どちらかといえば単騎で勝負できるサガンにとって、ラストで直接的に牽引するアシストよりも、彼らのような時には地味に、時には圧倒的に引きまくるチームメイトの方が頼もしい相棒になっている感があります
ボドナールは結果にこそ繋がりませんでしたが、ミラノ〜サンレモのポッジオでも良い仕事をしていましたね(^^)
こういう閃きとレース展開に乗れる力を見てしまうと、スプリントは奥が深い!と改めて実感します
最近競輪場のバンクで実際にレースを体験したり観たりしましたが、自分は全くレースにならなかったので、イメージだけでも掴んでおきたいです(笑)
そういえばTOJについての記事も拝見しました
イスラエルサイクリングアカデミーの出場には驚きましたし、バーレーンメリダら、今年の出場チームもレベルが高くて今から楽しみです(^o^)
アディさん
サガンのためにトレイン組んでも、肝心のエースがほかのチームのトレインに無賃乗車してることが多いですしね笑
今回のブルグハートのような裏方みたいなアシストや、宿泊施設で戯れる友達のようなアシストがサガンには一番効果的なんだなと思いました。
TOJ楽しみですね!
今年はいなべステージに行きたいなと思ってます!
まだスケジュールが読めないので、確定したら何かでお知らせしますね。
ミラノ〜サンレモの内容でブルグハートとボドナールを間違えてしまいました(^_^;)