新人さんいらっしゃい!ツアー・ダウンアンダー ネオプロ通信簿

サイクルロードレース界では、新人のプロ選手のことをネオプロと呼んでいる。UCIが定義するプロ選手とは、プロコンチネンタルチームもしくはワールドチームに所属する選手のことを指す。コンチネンタルチームで専業で走っている選手も一般的な「プロ選手」の定義には該当するかもしれないが、UCI的にはプロではないということになる。

今回のツアー・ダウンアンダーでは、8人のネオプロがデビューを飾った。

将来を嘱望されてワールドチームが契約した選手たちのプロデビュー戦の出来はどうだったのか?
鮮烈なデビューを飾った者もいれば、プロの走りに圧倒されっぱなしだった者もいるだろう。

そんなネオプロたちの走りを振り返ってみたいと思う。

8人のネオプロたちの戦績

今回出走したネオプロは以下の10名で、総合成績順に記載すると、

23位、スコット・デーヴィス(イギリス、ディメンションデータ) +45秒
36位、ニコラス・イーグ(デンマーク、トレック・セガフレード) +5分24秒
48位、マイケル・ストーラー(オーストラリア、チームサンウェブ) +11分2秒
99位、ニコラス・ドラミニ(南アフリカ、ディメンションデータ) +33分40秒
107位、ハイメ・カストリリョ(スペイン、モビスターチーム) +37分1秒
115位、クリストファー・ローレス(イギリス、チームスカイ) +41分25秒
117位、ローガン・オーウェン(アメリカ、EFエデュケーションファースト・ドラパック) +41分46秒
121位、アレックス・フレーム(ニュージーランド、トレック・セガフレード) +47分29秒

となっている。

クリストファー・ハルヴォルセン(ノルウェー、チームスカイ)は直前のピープルズ・チョイス・クラシックで落車骨折したため、ビョルグ・ランブレヒト(ベルギー、ロット・スーダル)は居場所報告のUCI規定を満たしていなかったために欠場となっている。

では、出場した8名の

スコット・デーヴィス

評価:★★★★☆

2017年はU-23イギリス国内TT選手権で優勝し、U-23版ジロ・デ・イタリアでは総合4位に入っていた。

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ツール・ド・ラヴニールでは総合44位となっており、恐らくエーススプリンターのローレス、総合エースのジェームス・ノックス(クイックステップ・フロアーズ)をアシストしていたと思われる。

という戦績からTTスペシャリスト系の脚質かと予想していたが、第4ステージ終了時点までトップグループと同タイムでフィニッシュしていて、ウィランガヒルの第5ステージでは35秒遅れに留めた。

非常に総合力の高い選手だということがわかったので、今後はイギリス期待の新たな総合エース候補として注目していきたい。

ニコラス・イーグ

評価:★★☆☆☆

2017年ツール・ド・ラヴニール総合3位という実績から、上りに強い選手として大きな期待がかかっていた。

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しかし、最高気温40度オーバーの熱暑の第4ステージでは、3分56秒遅れてしまった。第5ステージでは、リッチー・ポートのアシストをしていたローハン・デニス、チームスカイでは普段リードアウトを担当しているオウェイン・ドゥールらと同タイムの1分18秒遅れでフィニッシュしており、イーグの潜在能力は発揮されないままレースを終えた。

今後に期待したい。

マイケル・ストーラー

評価:★★★☆☆

2017年は逃げ切りで2勝をあげた独走力の高いパンチャータイプの選手だ。

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ツアー・ダウンアンダー直前まで虫垂炎に苦しんでいて、コンディションは万全ではないなか出場した。スプリントステージではエーススプリンターのフィル・バウハウスのサポートを務めながら、第4ステージでは先頭集団でフィニッシュ。第5ステージはティアゴ・マシャド、ゲオルグ・プレイドラーと同タイムの1分16秒遅れでフィニッシュした。もし、第1〜3ステージでの遅れが無ければ、総合30位以内で完走できていただろう。

まだ20歳と非常に若い選手ではあるが、ワールドツアーのスピードに適応することができそうだ。育成枠ではなく戦力として計算できる存在となるだろう。

ニコラス・ドラミニ

評価:★★★★★

2017年はU-23版ジロ・デ・イタリアで山岳賞を獲得した。

そして、ダウンアンダーでも初日から逃げまくり、見事に山岳賞を獲得した。デビュー戦で特別ジャージを獲得するとは、並の選手にできることではない。

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そして連日の猛暑のなかでもコンディションを落とさずに、ワールドツアーの集団を振り切って逃げに乗っていた。タフネスさとスピードを合わせ持った選手として、今後も逃げ屋として起用することができるだろう。

ハイメ・カストリリョ

評価:★★★★☆

2017年のU-23スペイン国内TT選手権で優勝している。

猛暑でレースが短縮された第3ステージでは逃げに乗り、終盤は単独で逃げ続け敢闘賞を獲得した。

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デビュー戦でポディウムに上り、自らをアピールすることができた。第4ステージでは11分30秒遅れ、第5ステージでは11分47秒遅れを喫しており、上りはあまり得意ではないのかもしれない。

これまでにTTと逃げで結果を残しているため、クライマーではなくTTスペシャリスト・ルーラー的な脚質を持った選手かもしれない。スペインでは貴重な脚質の選手であるため、モビスターとしてもしっかりと育成していきたいところだ。

クリストファー・ローレス

評価:★★☆☆☆

2017年はネイションズカップのZLMツアーで勝利し、ツール・ド・ビュース(2.2)でステージ1勝、ツール・ド・ラヴニールで1勝をあげ、U-23イギリス王者となったスプリンターだ。トラック、クリテリウムでの戦績も非常に良い。

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ダウンアンダーではトップスプリンターたちとどこまで競り合うことができるのか注目されていたが、第1ステージで13位に入った以外はスプリントに絡むことができず、不発に終わってしまった。

ピープルズ・チョイス・クラシックと第1ステージのスプリントの様子を見ても、集団内の位置取りに苦しんでいる様子が伺えたので、もっと経験を積んでいく必要がありそうだった。

とはいえ、無茶苦茶な位置取りでも非凡なスピードを発揮しており、今後がとても楽しみな選手である。

ローガン・オーウェン

評価:★★★★☆

2017年はボルタ・アオ・アレンテホ(2.1)でステージ1勝をあげ、2016年にはU-23版リエージュ~バストーニュ~リエージュで優勝している上りスプリントに強い選手だ。

ダウンアンダーでのEFエデュケーションファースト・ドラパックは積極的に集団を牽引して、集団内で目立っていたもののリザルト面では結果を残せていない。オーウェンも集団コントロールに力を使っていた可能性があり、スプリントに絡まなかったのか絡めなかったのか詳細は不明だ。

だが、第6ステージでは序盤から逃げに乗り、中間スプリントで1位通過した。最後まで粘って逃げ続けたことも評価され、見事に敢闘賞を獲得した。

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非凡な才能を持っていることを示し、今後の活躍がとても楽しみな選手である。

アレックス・フレーム

評価:★☆☆☆☆

2017年シーズンは2クラスのレースで5勝をあげたスプリンターだ。

ダウンアンダー直前のニュージーランド国内選手権では6分43秒遅れの27位に沈んでいた。ダウンアンダー本戦でも、自らスプリントに絡むことはなく連日大きく遅れながらフィニッシュしていた。

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コンディションが良くなかった可能性が考えられるが、デビュー戦としてはいささか残念な結果となってしまっている。

今年のネオプロは逸材揃い?

スポンサー問題が頻発するサイクルロードレース界では、なかなか5年・10年といった長期スパンでチーム計画を立てることが難しい。その中でネオプロに期待されることは、成長して将来的に強い選手になることではあるが、いかに早く成長し結果を残すことができるか、ということがとても大事なことである。

ネオプロが結果を出すだけでも、非常に大変なことで称賛されるべきことだろうが、なかでも最上位で完走したデーヴィス、山岳賞のドラミニ、敢闘賞を獲得したカストリリョとローガンは素晴らしいデビューを飾ったといえよう。

特にここ数年ワールドツアーで苦戦しているディメンションデータにとってデーヴィスとドラミニは純粋に戦力として期待がかかり、著しく戦力ダウンしたEFエデュケーションファースト・ドラパックにとってもオーウェンの存在は非常に大きくなりそうである。

ファン目線では、まだ実績を残していないネオプロに注目することで、もし将来スター選手になれば、その過程を楽しむこともできるだろう。

今後のレースでもネオプロに注目していきたいと思う。

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