アナコナが強すぎる。
集団の先頭で淡々と牽き続ける28歳のコロンビア人クライマー、ヴィネル・アナコナの鬼牽きによって、ライバルチームの山岳アシストは根こそぎ削り取った。
更にはマリア・ローザを着るボブ・ユンゲルスを突き落とし、イルヌール・ザッカリンとダヴィデ・フォルモロをもふるい落とし、ついでにティージェイ・ヴァンガーデレンも落ちていった。
たった一人の山岳アシストの牽引によって、集団は完全に大崩壊。
各チームのエースだけを残して、ナイロ・キンタナは好きなタイミングでアタック出来るというこれ以上ない完璧なシチュエーションを作り出したのだ。
キンタナ一人いるだけでも、手に負えないのに、アナコナという強烈な山岳アシストの存在はもはや絶望だ。
残り6.8km地点、満を持してキンタナがアタック。
反応できたのはヴィンチェンツォ・ニーバリとティボー・ピノのみだった。
キンタナの度重なる揺さぶりに、ニーバリとピノは耐えきれず遅れる。
あとはキンタナの独壇場だ。
全く危なげなくステージ優勝を果たし、マリア・ローザを獲得したのだった。
その後、ペース走行で追いついたトム・ドゥムランとピノ二人は粘りを見せ、キンタナから24秒遅れに留めることが出来た。
この結果、総合成績では、首位のキンタナに対して、
2位は28秒遅れのピノ
3位は30秒遅れのドゥムラン
4位は51秒遅れのバウケ・モレマ
5位は1分10秒遅れのニーバリ。
マリア・ローザ争いは、早くもこの5名あたりに絞られたのではないだろうか。
キンタナにとって、24秒リードはセーフティと言える差ではない。
むしろ、長い個人TTステージが2つ残っていることを考えれば、現状最も良い位置につけているのはドゥムランだろう。
この後も何度も登場する本格的な山岳ステージでの、総合争いが見応え十分だろう。
ここまで、終盤のブロックハウスでのダイジェストを書いたのだが、悲しいことにチームスカイのメンバーの名前が一切出てこない。
残り14km地点。
ブロックハウスへの登りに差し掛かる直前で、集団落車が発生し、ゲラント・トーマスとミケル・ランダの二人が同時に巻き込まれてしまった。
その後、トーマスを何とか集団復帰させようと、ディエゴ・ローザとセバスチャン・エナオが献身的な牽きを見せていた。
アナコナが牽引するメイン集団からタイム差が離されずに、エナオは牽引できていたのだ。
もし、落車が無ければ、モビスターの独壇場にはならなかったに違いない。
そう思えば思うほどに、抑えきれない悲しみに包まれる。
トーマスはそれでもベストを尽くして、5分08秒遅れのステージ29位でフィニッシュ。
総合では5分14秒遅れの17位となり、チームスカイの最強山岳アシスト陣が仕事をする機会が全く与えられないままに、事実上マリア・ローザ獲得が絶望的となってしまった。
落車の原因は、道路の左端に何故か停車していたバイクに、チーム・サンウェブのウィルコ・ケルデルマンが避けきれずに落車したためだ。
ケルデルマンの背後を走っていたスカイの選手たちが一斉に巻き込まれてしまい、ランダとトーマスも転んでしまった。
さらにオリカ・スコットのアダム・イェーツも遅れてしまいマリア・ビアンカ争いで1位のフォルモロから2分以上の差をつけられてしまい、誘因となったケルデルマンはリタイアを余儀なくされ、チームのエースであるドゥムランにとっても重要なアシストを失う結果となっている。
原因が、路上に止まっていたバイクへの衝突というレース展開に全く関係のない要素によるものであることが、やりきれない気持ちを増幅させる。
「What the fxxk!」と言いたくなる気持ちもわかる。
だが、
「That’s part of cycling.」
これもサイクルロードレースの一部なんだと。
受け止めて前を向くしかない。
落車を回避するためには、平坦アシストを増やせばよかったのか?
モビスターにとってみれば、豊富な平坦アシスト陣による『あんしん平坦保険』が再び効いた格好となっている。
逃げ集団を捕まえ、ステージ優勝を狙うためではあったが、結果として見通しの良い集団先頭をキープし続けることが出来て、当然バイクに衝突する危険は回避できていたわけだ。
チームスカイもヴァシル・キリエンカを筆頭に平坦アシストの力が不足していたわけではない。
そして、落車した瞬間も集団前方に位置取りは出来ていたため、ポジションが悪かったわけでもない。
それでも、あえて対策を言うならば、モビスターのように平坦アシストの枚数を増やして最も安全な集団の先頭を維持し続ける戦略の方が良かったのかもしれない。
この点をチームスカイの戦略ミスと言うのは野暮だし、山岳アシスト重視の布陣は間違っていないとわたしは思う。
こればかりは不運を嘆くしかない。
同じようにトラブルによって、大幅に遅れてしまったティレーノ〜アドリアティコ、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでは、翌日以降のチームスカイの猛攻は凄まじかった。
ティレーノ第1ステージのチームTTで集団メカトラに見舞われて、総合優勝が絶望的になった時には、第2ステージで集団を強烈に牽き倒したあげく、トーマスが単独アタックを決めてステージ優勝を遂げている。
ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ第6ステージで大幅にタイムを失った時も、翌日の第7ステージではクリス・フルームの捨て身のアタックは迫力十分だった。
ジロでの挽回策はあるのか?
ダブルエースと言われたランダは、この日26分56秒遅れてフィニッシュした。
落車の影響で、身体の半分に力が入らない状態だったようだ。
幸い、明日は休息日であり、その後もタイムトライアルで少しは回復を図ることが出来るかもしれない。
ランダの調子が戻ることができれば、この後の山岳ステージで逃げやすくなったと言えよう。
ランダ以下、ローザ、エナオ、ケニー・エリソンドと言った面々も、総合で30分以上遅れている。
チームスカイの選手が逃げに乗った時に、容認される可能性は高い。
トーマスの新たな目標はステージ優勝と、出来るだけ総合上位に浮上することだろう。
総合トップ5に再浮上するためには、2分28秒遅れの総合7位のザッカリンあたりを最低限上回る必要がある。
ザッカリンから2分40秒奪うことは簡単ではないが、狙うしかない。
ならば取りうる作戦は一つ。
ランダやローザを逃げに送って、前待ち作戦を実行するしかないだろう。
死してなお恐ろしいチームスカイの力。思い知るがよい!
と言える走りを、心から期待している。
トーマスの挑戦はまだ終わってなんかいないのだ。
Rendez-Vous sur le vélo…