イネオス・グレナディアーズが好調だ。エトワール・ド・ベセージュではフィリッポ・ガンナの区間2勝に加えてミハウ・クフィアトコフスキが総合2位。ツール・ド・ラ・プロヴァンスではカルロス・ロドリゲスの好アシストが光り、イバン・ソーサが区間1勝をあげ総合優勝を飾り、エガン・ベルナルも総合3位に。UAEツアーでは再びガンナが個人TTに勝利し、ブランドン・リベラとダニエル・マルティネスに守られたアダム・イェーツが山岳ステージ2つを終えて総合2位につけている。
グランツールに特化したチームにおいて、春先のレースはあくまで調整。ゆえに、本領発揮は4月頃から。というイメージが筆者にはあったのが、いまチームとして全体的に好調のようだ。
そこで過去にイネオスないしチームスカイが1〜3月にあげた勝利について調べてみた。
2011年:5勝(スウィフト2)
2012年:13勝(カヴェンディッシュ4、ウィギンス3)
2013年:11勝(フルーム5、ポート4)
2014年:9勝(フルーム2、ケニャック2)
2015年:16勝(ポート7、トーマス3、フルーム2)
2016年:13勝(プールス4、フルーム2)
2017年:8勝(クフィアトコフスキ2、セルヒオ・エナオ2)
2018年:15勝(クフィアトコフスキ4、プールス2、ベルナル2)
2019年:5勝(ベルナル1)
2020年:1勝(ドゥール1)
2021年:5勝(ガンナ3、ソーサ2)
※( )内は主な勝ち頭
チーム設立初期の2010〜2012年頃はスプリンターたちが勝ち星を稼ぎ、グランツールでの強さが際立っていた2013〜2015年頃は総合エースや、その座を狙う若手・中堅が勝利を重ね、2016〜2018頃は春のクラシック狙いのプールス、クフィアトコフスキらが中心となっていた。
そして直近2シーズンはパリ〜ニースに総合優勝したベルナルを除くと、普段アシストに専念してる選手や、スプリンター系の選手を中心に1勝ずつあげている状況であり、その2年間の印象と2017年以降の春先にフルームが勝利していないことからイネオス=スロースタートのイメージがついたのだろう。
2019・2020年はグランツールで総合優勝を飾っているものの、フルームがツール3連覇を達成した2015〜2017年頃のような支配的な強さは感じられなかった。(それでも十分強かったとは思うが、2015〜2017年の強さは別格)
一方で少し視点を変えてみると2013年のポートはツール第18ステージでハンガーノックに陥ったフルームを救出したように山岳アシストとして際立った活躍を見せ、2015年もフルームのツール総合優勝に大きく貢献している。いずれの年も春先に4勝・7勝と好調だったわけだ。
トーマスが山岳アシストとして台頭したのは2015年だろう。ツールではダウンヒル中にワレン・バルギルに追突されて、コースアウト。あわや崖下に転落というトラブルにさえ巻き込まれていなければ総合表彰台も狙える位置にいたほどだったのだが、この年のトーマスも春先に3勝をあげている。しかも、うち1勝は北のクラシックであるE3・ハーレルベーケだ。
同様にプールス、クフィアトコフスキ、ベルナルなどその年のツールで山岳アシストとして大活躍した選手たちが、同年の春先に好成績を残していることがわかる。2015年E3・ハーレルベーケを制したトーマス、2017年ミラノ〜サンレモを制したクフィアトコフスキのように、決してクライマータイプではなかった選手が、山岳アシストとして開花していることも興味深い。
今年でいうと、その立ち位置にいる選手はガンナとソーサだ。ガンナはTT世界王者にして、昨年のジロでは山岳ステージで逃げ切り勝利を飾ったように、独走力と登坂力を兼ね備えていることを示した。ソーサはクライマータイプの選手であり、同郷のベルナルの山岳アシストにうってつけの存在だ。
そして、ガンナ、ソーサ、ベルナルはジロへの出場が内定している。今年のジロは最大勾配23%の「魔の山」ゾンコランを筆頭に、後半ステージで難関山岳ステージが連続して登場するコース設計だ。そのような山岳ステージを延々と先頭で引き続けるガンナや、ゾンコランのような超級山岳の上りでベルナルを護衛し続けるソーサの姿が思い浮かべられるのではなかろうか。