サイクルロードレース史に残る偉大なレーサーの最後を、まさか日本で、直接この目で見ることが出来るなんて夢にも思わなかった。
ファビアン・カンチェラーラ、35歳。リオ五輪個人TT金メダルを獲得したレースを最後に、UCIレースからは退いていた。
ジャパンカップ・クリテリウムは、ポイントがつかないオープンレースであり、カンチェラーラは自身の引退レースに、このジャパンカップ・クリテリウムを選んだ。
2年前に怪我をおして来日した際も、昨年ジャパンカップに参戦した際も、日本のファンの熱烈な歓迎に感激したことがキッカケになっていることは明白である。
日本のファンも、日本のサイクルロードレース界も、偉大なるレーサーの花道に、日本の地を選んでくれたことに感謝し、最大限の”おもてなし”で迎えた。
特別仕様のジャージ・バイクに、大量のグッズ
トレック・セガフレードのバイクサプライヤーであるトレック社は、ジャパンカップ仕様に蛍光イエローのジャージとバイクをつくった。(なお、日中でも視認性を高めて安全に走ろうという啓蒙が目的とのこと。)
トレックセガフレードは、ハイビズ(蛍光イエロー)のマドンおよびエモンダ、そしてジャージを着用してジャパンカップを戦います。そのスペシャルチームカラーバイクのFSを限定販売。https://t.co/U53BqJM31q #ABCconcept #BeLoud pic.twitter.com/fLjj8i7g6i
— トレックジャパン (@TREKJapan) 2016年10月13日
さらにフリーペーパーの配布、スイス国旗をあしらった応援グッズの配布、『Thank you Fabian』とプリントされた赤色の限定Tシャツの販売と、至るところでファビアン・カンチェラーラを歓迎・惜別するための最大限のサポートが見られていた。
わたしは、ホープフルレースやガールズケイリンも気になったが、ファビアン・カンチェラーラを近くで見たいとの思いが強く、パレード走行をするらしいとのことで、ジャパンカップのコースと宇都宮市役所を繋ぐ道路へと向かった。
チームカーの隊列、ジャパンカップ・クリテリウムに参加するレーサーたちが一同に集まっていて、興奮した。ここに、間違いなくファビアンがいるはずだと。他のチームの選手たちも、つぶさにチェックしたかったが、まずはトレック・セガフレードの蛍光イエローを探しに行った。最も後方、つまり最も市役所側のあたりに、蛍光イエローの5人組はいた。
ファビアンは楽しそうにファンに向かってキーホルダーを配っていたのだ。一人一人、全員に行き渡るように『君は貰ったかな?』と確認したり、『まるで野球してるみたいだよ』とジョークも飛ばしながら、サコッシュに入ったキーホルダーを配っていた。
カンチェラーラのキーホルダープレゼントシーン。
『まるで野球してるみたいだよ笑』と場を和ませる発言も超イケメン紳士的で最高にカッコよかったです。#jspocycle pic.twitter.com/Vh028s4TmE— Akisane Yuu (@saneyuu) 2016年10月22日
いただいたキーホルダーはこちら。
スイス国旗が描かれたスポンジ状のキーホルダーだ。何かに使いたいところだが、もったいなさすぎて、自宅で永久保存することになりそうだ。
チームカーに戻り、再びサコッシュにキーホルダーを詰めてから、いよいよパレード走行がスタートした。
レースは、序盤からハイスピードでトレック・セガフレードがコントロール
現地観戦では、レースの展開や細かい動きは全く把握出来ない。サッシャさんの実況と、栗村さんの解説がスピーカー越しに聞こえては来るが、やはり映像がないことには理解が追いつかない。
それでも確かなことは、トレック・セガフレードのコントロールが凄まじかったことだ。
最後のスプリント勝負に絡めないであろう、プロコンや日本人選手たちによるアタック合戦が普通は起きるはずである。しかし、中盤でジョセフ・ロスコフ(BMCレーシング)とベンジャミン・ヒル(チーム・アタッキグスト)の2名が抜け出したのみで、あまりのスピードに集団から飛び出すことすらままならなかったことが、現地で見ていても分かった。逃げた2名にしても、ほとんど全ての時間をワールドツアーチームのロスコフが牽いていたように見える。蛍光イエローの集団が先頭を牽いているスピードが圧倒的に速かったのだ。
そのスピードの源こそ、ファビアン・カンチェラーラである。
カンチェラーラのバイクには350ルーメンの前照灯が取り付けられており、集団の先頭を明るいライトで照らした選手が走行している様子を幾度も目撃することが出来た。
遠目から見ても、トレックの選手の明るさが際立っています笑#jspocycle pic.twitter.com/eMV5jEcQQJ
— Akisane Yuu (@saneyuu) 2016年10月22日
カンチェラーラの集団牽引は最後まで衰えることなく、全てのアタックを完全に封じ込めた。
第14周にトレック・セガフレードの選手5名が全員揃って走っている姿を見たときに、これほどの牽きを見せるカンチェラーラの引退が惜しくてたまらないという気持ちと、これほどの本気の走りを日本のファンの前で見せてくれて感謝感激という2つの感情が沸き起こった。
ジャパンカップクリテリウム14周目、完璧すぎるトレックトレインの牽き。#jspocycle pic.twitter.com/GL59rovajC
— Akisane Yuu (@saneyuu) 2016年10月22日
もうすぐラスト1周という段階にもかかわらず、集団が一列棒状に伸びるほどのスピードで、カンチェラーラだけでなく、バウケ・モレマとグレゴリー・ラストも全開で牽いていた。
最後の周回で、ヤスパー・ストゥイヴェンが別府史之を引き連れて好位置まで引き上げる。
『うちのチームの仕事、カンペキだったでしょ!』と、レース後に語ったように、完璧すぎる展開で、勝利を確信した別府のスプリントが始まった。あまりにも見事な2連覇を達成した。
今日のヒーローは間違いなく、別府史之だ。別府がフィニッシュした瞬間の大歓声は、少々離れた場所にいた私のもとへも地響きのように轟いた。誰もが別府の勝利を望む中で、勝ち切った別府がヒーローだった。
しかし、ここまでチームがまとまったのはファビアンの引退レースだったからだろう。
グレゴリー・ラストは、ファビアンがジュニア時代から一緒に戦ってきた唯一無二の戦友で、ファビアンの右腕的存在だ。
バウケ・モレマは、別府曰く『どんな悪条件でもレースするファイター』『アシストする時はアシストするし、平坦でも力抜かないリアルプロレーサー』と言われるほどのスペシャルな選手。
ヤスパー・ストゥイヴェンは、先日のロード世界選手権でもベルギーチームの実力を発揮する猛烈な先頭牽引をしていた。
ファビアン、別府以外の3名も、同じ意思のもと見事に団結し、5人以上の力を発揮出来た結果であろう。
サイクルロードレースの美しさを表現したチームプレーが光る勝利であり、ファビアンの勝利でもある。
リオ五輪での金メダルに続き、完全なる有終の美を飾った。
ファビアン・カンチェラーラは、どこまでも偉大だった。
Thank you Fabian.
ありがとう、ファビアン。
Rendez-Vous sur le vélo…