グランツールの出場人数が、現行の9名から8名に減るとの発表があった。
※参考:Grands Tours organizers reduce number of riders from 2017
ジロ・デ・イタリアの主催者であるRCSと、ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャの主催者であるASOの共同声明である。また、これまでは8名出場していたクラシックレースも1名減り、7名での出場となるようだ。
出場チーム数は変わらないため、出場選手数が純粋に減ることになる。ASOとRCSの意図は路上を走る選手を減らし、より安全を確保するためと、一つのチームによるレースの支配を妨げるためだと発表している。
移籍市場が終わりに近づき、各チームとも来季の陣容をほぼ固めた頃に、「2017年シーズンから追加されるワールドツアーレースへの参加義務はない」というUCIの発表や、「グランツールの出場選手数を1人減らす」というASOとRCSの一方的な発表に、ワールドチームからすればもっと早く言えよと非難轟々な気持ちに違いない。計画が完全に狂うからだ。
現在のサイクルロードレース界は、主催者の権力が強すぎるためにワールドチームは弱い立場にある。この歪な状況が、健全なサイクルロードレースの発展に繋がるか疑問ではあるが、本稿では深く言及しないことにする。
純粋に、8名で走るグランツールにおける、具体的な戦略の変化について書きたい。
シンプルに選手1人あたりの負担が増す
2016年のツール・ド・フランスにおけるチームスカイは、全くの隙のない鉄壁のレース展開だった。
山岳では強力なクライマーたちによる高速牽引によって、ライバルチームのアタックを封じ込めた。グランツールの大きな見どころであるエース同士の山岳バトルに発展することなく、スカイがレースをコントロールするシーンが幾度も見られた。
筆者は、一連のチームスカイの戦略は高く評価している。強力なクライマーたちによる高速牽引によって、ライバルたちのアタックを封じる戦略は実に理にかなっているからだ。クリス・フルームはTT力において、ライバルたちと圧倒的な差がある。TTで築いたリードを守る戦略を考えることは、勝負に徹するプロの世界では当然のことである。
だが、華々しい山岳バトルを見られる機会が減ったことに対して、不満を抱いたファンは少なくはないだろう。超級山岳で抜きつ抜かれつのアタック合戦により、総合バトルが繰り広げられる方が、間違いなく盛り上がることだろう。
出場選手数が9名から8名に減ったことにより、激しい山岳バトルが増えることだろう。なぜなら、グランツールに出場する山岳アシスト選手が減ると思われるからだ。
アシストの重要な仕事の一つがボトル運びだ。特にツール・ド・フランスやブエルタ・ア・エスパーニャは夏に行われるため、気温が30度、酷いときは40度に達するときもある。猛暑のステージでは、ボトルを一人で10本以上消費することもザラにある。通常、ボトルゲージは2ヶ所あるため、不足したボトルはアシスト選手に運んでもらって補充する必要がある。
仮に集団前方で集団の牽引を担うチームのボトルを運ぶ場合、一旦集団後方に走るチームカーまで下がって、ボトルゲージ・ジャージのポケット・ジャージの内側に、合計数kgに及ぶ大量のボトルを入れ込んで、また集団前方まで戻ってくる必要がある。チームカーから集団先頭まで距離にして数百mに及ぶだろう。集団前方に上がるためには、時速40〜50キロで巡航している集団よりも速いスピードで走る必要がある。一人で数kgもの重りを背負って、集団より速いスピードで数百m走ることは非常にタフな仕事なのだ。
したがって、軽量級のクライマーには不向きな仕事であり、重量級の平坦スペシャリストたちが主にこの仕事を担うことが多いが、エースやエース級の山岳アシストを除いた選手たちで分担して仕事をすることが多い。出場メンバーが9名から8名になることは単純にボトルを運ぶ選手が1人減ることになり、一人あたりのボトル運びによる負担が増すこととなる。
このボトル運びなどのアシストをスムーズに行うことが、終盤の山岳で多くの山岳アシストを残すために重要となる。ボトル運びにおいても強力な平坦スペシャリストを安易にメンバーから外すことは難しい決断のように思える。
となると、減らされるのは山岳アシストになるだろう。
山岳で集団を支配する、ライバルチームに攻撃するためには山岳アシスト個人の力量が問われるように
いつもより1人少ない山岳アシストで、ライバルチームに攻撃を仕掛ける、またはエースを守ることになる。
ならば、山岳アシスト個人の力が高い方が有利になるだろう。
2016年のチームスカイの例で言えば、ゲラント・トーマス、ワウト・ポエルス、セルジオルイス・エナオモントーヤ、ミケル・ランダ、ミケル・ニエベらが、山岳アシストの任務を担っていた。最終盤までフルームの側についてる選手は主にポエルスかエナオモントーヤだった。もし1人減らすなら、ランダかニエベが外されることになるだろう。
ランダとニエベは、中終盤の山岳の登りで集団の人数を減らしたい時に思いっ切り牽く役割を担うことが多かった。その任務を、トーマス、ポエルス、エナオモントーヤが担うことになると、終盤でフルームをポエルスが守りながら、エナオモントーヤがアタックを仕掛けるみたいな仕掛けは成立しづらくなるだろう。
すると、フルームとポエルスのコンビで、ライバルチームと戦うことになる。
筆者はエース+エースアシストのコンビネーションが、2017年のグランツールの鍵を握ってくるのではないかと思う。
エース+エースアシストのコンビで最強は誰か
クリス・フルーム&ワウト・ポエルスだろうか。
アルベルト・コンタドール&バウケ・モレマだろうか。
エステバン・チャベス&アダム・イェーツだろうか。
リッチー・ポート&ニコラス・ロッシュだろうか。
ロメン・バルデ&マティアス・フランクだろうか。
筆者はナイロ・キンタナ&アレハンドロ・バルベルデのコンビが”最強のふたり”であると考えている。
バルベルデは、グランツールへの出場21回中18回完走し、一桁順位は16回、表彰台は8回、総合優勝は1回という、とてつもない結果を残している。現役の選手の中で圧倒的なグランツールでの戦績である。
平均して一桁順位がほぼ確実に狙える登坂力に加えて、クライマーとは思えないスプリント力を活かしたアタックによる揺さぶり、ダウンヒルも上手くて、TTもそれなりにまとめる独走力もある。
2016年ツールの第8ステージ、ペイルスールド峠の下りでフルームが宇宙レベルのダウンヒルで逃げ切りを決めたとき、メイン集団に13秒のタイム差をつけた。ダウンヒルではローテーションの効果が薄く、集団に対してリードを築きやすいと言えよう。あの日、誰よりも速かったフルームに対して、”わずか”13秒を失うにとどまったのは、何を隠そうバルベルデのおかげである。フルームのアタックが決まった時から、バルベルデが先頭固定でキンタナを含む集団を牽き倒していたからだ。
ペイルスールド峠までバルベルデは山岳アシストとしての仕事もしながら、全開でフルームを追う力を持っている。登りでも下りでも強力にキンタナをサポートする、本当に頼もしい相棒である。
たまに信じられないミスをしでかすが、深く追及するのは野暮だろう。
2016年のバルベルデは、3つのグランツール全てに出場するという、なかなか無茶な試みをした結果、ツールとブエルタでは重要な局面で脚が無い場面も見られた。2017年、キンタナが悲願のツール制覇を狙うためには、体調万全なバルベルデの助力が不可欠である。バルベルデはツールに絞って、ジロをパスするべきだと、筆者は考えている。
バルベルデがジロに出場しないというニュースが報道されれば、また一歩キンタナのマイヨ・ジョーヌが近づくことだろう。
2017年のツール・ド・フランスでは、キンタナ&バルベルデの最強のコンビネーションに注目したい。
Rendez-Vous sur le vélo…
バルベルデの特集ありがとうございます!
本当にタフで、でも肝心なところで大ミスをするところが魅力的ですよね。
2016年のレースではブエルタでコンタドールとキンタナが逃げたステージでバルベルデが集団の撹乱作戦に出たのが印象的でした。他の選手では批難殺到なこともバルベルデなら許される気がしますし、こんな攻めのアシストができるのもバルベルデならではだと思います。
グランツールの出場人数が減るというのはかなり衝撃的ですね・・・
スカイのアシストが強すぎるから減らしてやろうという目的もあるのでしょうか。笑
林さん
ちょうどいいニュースもあって、バルベルデの話が書けました!
2016年のブエルタ第15ステージは、見事なアシストでしたね!バルベルデが先頭に出た時に『バルベルデ牽いちゃダメなのに分かっているのかな?』と疑われていたのが笑えました笑
同じことを世界選手権でデブシェールがしたら、デゲンコルブに水ぶっかけられましたしね笑
ASOはイギリスが大嫌いなんでしょうねえ汗
フルーム向きじゃないコースを設計して、スカイに不利なルールを作る。ヨーロッパらしいやり方ですけど…。