世界チャンピオンのペーター・サガンが見せたリードアウトの真意とは?

正直、驚いた。

先日のピープルズ・チョイス・クラシックに続いて、世界チャンピオンのペーター・サガンが、チームメイトのサム・ベネットのためにリードアウトを務めたからだ。

ピープルズ・チョイス・クラシックは、UCI公認レースではないため、いわばショーレースの要素があった。エンターテイメント精神旺盛なサガンが、チームメイトのためにリードアウトを務めて、場を盛り上げようとした意図は十分理解できる。

サガン自身もピープルズ・チョイス・クラシックでのリードアウトについて、自身のインスタグラムにて「作戦だった」と明かしている。

同時に「次のステージ(ツアー・ダウンアンダー本戦)に向けて、脚を回復していくよ」とも語っていた。この言葉は『本戦ではスプリント行くよ!』という意味ではないかと、筆者は受け取った。

ところがである。

ツアー・ダウンアンダー第1ステージで、サガンは再びベネットのためにリードアウトを敢行した。

最終コーナーの立ち上がりで、するすると先頭に躍り出ると、そのまま一気にフルスロットルで加速を始める。アルカンシェルによるロングスプリントかと思いきや、サガンの背後にはピタリとベネットがついている。

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周囲のスプリンターたちは、瞬時にサガンのリードアウトだと悟ったことだろう。

最も煽りを受けたのは、チーム・サンウェブだった。エースのニキアス・アルントを含めた3名のトレインを形成して最終ストレートに突入するところを、アウト側から特急サガンが猛然と先頭を走り出したからだ。

サンウェブのリードアウト陣に為す術はなくサンウェブトレインは崩壊。アルントは咄嗟の反応でベネットの背後につくことに成功する。アルントの更に背後にはオリカ・スコットのカレブ・ユアンがついた。

サガンが先頭で、残り150m地点でベネットを解き放った。サガンは仕事を終えた振りをして、コースから外れながら、アルントの進路をふさいだ。この動きでアルントは失速し、先頭争いから脱落してしまう。

アルントの失速を避けるように、更に大外からユアンが加速する。前に誰もいない時のユアンは、必殺の超低空スプリントを繰り出すことが出来る。ユアンのスピードが最高速に達した。

中央からはチームスカイのダニー・ファンポッペルがスプリントを開始。そして、ベネットはユアンとは逆サイドで単独でもがいていた。

ユアン、ファンポッペル、ベネットの3人が先頭に出ると、互角のスプリントを繰り広げ、3人同時にフィニッシュしたかに見えたが、わずかにユアンが差していた。ピープルズ・チョイス・クラシックに続く連勝だ。

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ベネットは、ファンポッペルの執念のハンドル投げにより、わずか数cmの差で3位となった。

完全にスプリンター向けの昨年の世界選手権を制したチャンピオンであるサガンのリードアウトに始まったスプリントバトルは、ユアンの勝利とベネットの3位という結果になった。

WTに昇格したボーラ・ハンスグローエにとって、勝利とWTポイントは喉から手が出るほど欲しいはず

ピープルズ・チョイス・クラシックは、ポイントが発生しないレースである。

意表をつくリードアウトによって、ファンにエンターテイメントを提供すると共に、これから1年間、サガンのリードアウト役を務めるであろうベネットに対する労りの気持ちとして、サガンがリードアウトしたのではないかと思っていた。

しかし、ツアー・ダウンアンダーはワールドツアーカレンダーに組み込まれた重要なレースであり、新生ボーラ・ハンスグローエを世界にアピールする絶好の機会でもあり、多くのWTポイントを獲得するチャンスでもあった。

サム・ベネットは決して悪い選手ではなく、むしろピープルズ・チョイス・クラシック2位、ダウンアンダー第1ステージ3位に入ったように、キレ味鋭い加速が魅力の期待のアイリッシュ・スプリンターである。とはいえ、さすがに実績・実力ともにサガンの方が上だと思っていた。

加えて、ツアー・ダウンアンダーに参戦している選手の中で、最も大物である選手がサガンだ。現地の実況がサガンと喋る回数、現地のカメラがサガンを捉える回数、レース前のインタビュー、どれをとってもサガンが最も注目を集めていた。

以上の理由により、サガンがエーススプリンターとして勝負しない理由が見当たらないのだ。

一体なぜ、ボーラ・ハンスグローエはサガンで勝負しなかったのか。いや、なぜサガンはベネットにエーススプリンターの座を譲ったのだろうか。

2017年、サガンが目指すものは何か?

サガンが最もモチベートされるものは何だろうか。

2016年シーズンは、キャリア最高のシーズンを送った。

自身初のモニュメント制覇、5年連続のマイヨ・ヴェール、ワールドツアー年間チャンピオン、ロード世界選2連覇。文句のつけようのない、パーフェクトなシーズンだったと言えよう。

2017年シーズン、サガンが見据えているものは何か。

ツール・デ・フランドルの連覇だろうか、マイヨ・ヴェール6連覇だろうか、ワールドツアー年間チャンピオン2連覇だろうか、ロード世界選3連覇だろうか。

全て、掛け値なしに偉大な記録となり得るが、この中でずば抜けて価値の高い記録が”ロード世界選手権3連覇”だろう。

最も偉大なレーサーだけに着ることが許される象徴、プロサイクリストなら誰もが憧れるアルカンシェルを3年連続で獲得することは、人類の歴史上いまだかつて誰もなし得ていない快挙中の快挙である。

サガンが見据えるものはただ一つ、ロード世界選手権3連覇に違いない。

2015年ロード世界選はアメリカのリッチモンドで、コースはサガン向きのクラシカルなレイアウトだった。2016年はカタールのドーハで、ド平坦のスプリンター向きのコースだった。

2017年はノルウェーのベルゲンだが、平均勾配6.5%・登坂距離1.4kmの登りを含む周回コースが登場する。クライマーやクライマー寄りなパンチャーに有利なコースレイアウトとなっている。

2016年のカタールでのように、マーク・カヴェンディッシュやトム・ボーネンらヘビースプリンターに対抗し、圧倒するような脚質ではノルウェーの世界選を制することは難しいだろう。

つまり、サガンは世界選3連覇を狙うために、昨年のスプリンター仕様の脚質から山も登れるパンチャー仕様の脚質へと調整しているのではないだろうか。

だからこそ、ピュアスプリンター向けのダウンアンダー第1ステージでは、エースの座をベネットに譲り、自身はリードアウト役に徹したのではないかと思う。

第2ステージのフィニッシュ地点には、平均勾配6〜7%・登坂距離1.5kmの登りが登場する。まさしく、世界選のプロフィールにピッタリのコースだ。ノルウェーの世界選を見据える2017年仕様のサガンにとって、己の力を試すには持ってこいのステージだと言えよう。

更に第5ステージでは平均勾配8%・全長3kmのウィランガヒルが登場する。ノルウェーのコースと比べると、よりハードな登りである。サガン自身の調整の方向性や程度を確かめる意味でも、より厳しい登りで力を試したい意図もあるはずだ。

サガンは当初からスプリントステージを獲る狙いはなく、第2ステージや第5ステージのようなパンチャー・クライマー向きのステージを獲るつもりだったのではないかと、筆者は結論づけたい。サガンは世界選を見据えて、スプリントによるボーナスタイム狙いではなくがっぷり四つのクライムバトルを制しての総合優勝を狙っているのだ。

第2ステージ、サガンが最後の登りで飛び出した時に、ロード世界選手権3連覇へのカウントダウンが始まるだろう。

Rendez-Vous sur le vélo…

2 COMMENTS

蓮ぽとふ

いつもお疲れ様です!
サガンのリードアウトについて、鋭いですね!
そうやって広い視点で考察するんですね…参考になります。
去年マイヨジョーヌ獲ったときも「もう素晴らしいジャージを着ているけど、こっちもイイね」みたいな感じのことを言ってましたし。
王者の証たるアルカンシェルが彼にとっての本命なのかもしれませんね。

そうは言っても器用なサガンのことですから、カンチェラーラに世代交代を叩きつけたクラシックや、アルカンシェルと同じく連覇のかかるマイヨベールも上手く立ち回って狙ってきてくれるのではないかと期待してしまいます。
今年もサガンから目が離せそうにないです笑

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アバター画像 サイバナ管理人

蓮ぽとふさん、いつもありがとうございます!

サガンのリードアウトには違和感しかなくて、意図を突き詰めていったら、こんな感じになりました。まあ、ほとんど妄想に近い憶測ですけど笑

> 王者の証たるアルカンシェルが彼にとっての本命なのかもしれませんね。

これは間違いないと思います!
サガンの話ではないのですが、あるファンがアルカンシェルのジャージにサインを求めたところ、一部の選手はサインを拒否するって話を聞きました。

それくらいアルカンシェルは神聖で崇高な存在なんだなあと思います。

マイヨ・ヴェールも、モニュメントの優勝も素晴らしい栄誉ではありますが、プロ選手の中ではアルカンシェルが最上ではないかと感じています。

密かにわたしがサガンに実現して欲しいと思っていること、モニュメント5連勝です。

ミラノ〜サンレモ、フランドル、パリ〜ルーベ、リエージュ〜バストーニユ〜リエージュ、ロンバルディアを同年に制して欲しいなと。

サガンならそれくらい出来ちゃう!って期待しちゃいます。

なんにせよ、目が離せない選手ですね!

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