UCIのランキングを眺めていると、様々な発見があります。
今回は、『WorldTour Ranking』の「Individual」、つまりワールドツアー個人ランキングをチェックしていました。
そこで気付いたことは、チームのエースと呼ばれるには、知名度と活躍の印象が薄い選手にもかかわらず、多くのUCIワールドツアーポイントを獲得している選手がいることです。
ワールドツアーライセンスの発行にあたって、重要視されるワールドツアーポイントを獲得する選手は、チームにとって重要な選手に違いありません。
あまり目立たなくても、世間の知名度は低くても、チームにとって良い仕事をしている選手をランキング形式でまとめてみました!
※知名度や活躍の印象については、完全に筆者個人の主観です。特定の選手をディスる意思は全くないことを、ご了承の上ご覧いただきたいです。
1位、ヨン・イザギーレ(スペイン、モビスター)
WTポイント:270pts(11位)
主な戦績:
・パリ〜ニース総合5位
・ツール・ド・ロマンディ総合3位
・ツール・ド・スイス総合2位
・ツール・ド・フランス第20ステージ優勝
・GPモントリオール8位
・エネコツアー総合8位
2017年からはバーレーン・メリダへの移籍を決めました。TTスペシャリストとして、平坦スペシャリストとしての活躍を期待され、獲得に至ったのかと思ってました。
実のところは、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(241pts)よりも、ホアキン・ロドリゲス(211pts)よりも、ワールドツアーポイントを持っている選手だということが分かりました。
グランツールを除く、ワールドツアーのステージレースには4つ出場し、全て総合10位内で完走しています。
TTでタイムを稼げる上に、ある程度メイン集団内でフィニッシュ出来る登坂力を持ち合わせていることが非常に大きいようです。
新チームでは、ニーバリのアシストだけでなくステージレーサーとしての活躍にも注目です。
2位、セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)
WTポイント:234pts(14位)
主な戦績:
・ツアー・ダウンアンダー総合3位
・パリ〜ニース総合6位
・ブエルタ・シクリスタ・ア・パイス・バスコ総合2位
・ツール・ド・フランス総合12位
クリス・フルームのアシストというイメージが強いですが、フルームが出場していないステージレースでコンスタントに上位に入賞した結果、多くのポイントを稼ぐことに成功しました。
エナオモントーヤの234ptsは、ティボー・ピノ(206pts)、ルイ・コスタ(194pts)、バウケ・モレマ(160pts)よりも多いです。
スカイのエースアシストが、他のチームに移籍していくのも納得です。
3位、アルベルト・ベッティオール(イタリア、キャノンデール・ドラパック)
WTポイント:185pts(20位)
主な戦績:
・ツール・ド・ポローニュ総合3位
・ブルターニュクラシック・ウエストフランス2位
・GPケベック4位
・GPモントリオール7位
2016年シーズンは1勝もあげることが出来ませんでした。というより、まだ23歳の若手イタリア人選手は、プロ入り後カテゴリー1クラス以上のレースでの勝利経験はありません。
それでも、キャノンデール・ドラパック内で最もUCIポイントを稼ぐ選手となりました。
ワールドツアーのワンデーレースで、一桁順位に入ることは大事なことなんですね。
4位、オリバー・ナーセン(ベルギー、IAMサイクリング)
WTポイント:162pts(23位)
主な戦績:
・ブルターニュクラシック・ウエストフランス優勝
・エネコツアー総合2位
8月28日のブルターニュクラシックで優勝して、名をあげましたが、それまで1ptたりとも獲得することが出来なかった選手でした。
ステージレースでは、各ステージで5位以内に入ればポイントを獲得することが出来るのですが、決して簡単なことではありません。ゆえに、1ptも獲得出来ないままにシーズンを終える選手も少なくありません。
ブルターニュクラシックの1ヶ月後のエネコツアーでも総合2位で80ptsを獲得し、IAMサイクリングが2016年に獲得したポイントの40%はナーセンのポイントでした。
5位、アンドリュー・タランスキー(アメリカ、キャノンデール・ドラパック)
WTポイント:132pts(33位)
主な戦績:
・ツール・ド・スイス総合5位
・ブエルタ・ア・エスパーニャ総合5位
4月のツール・ド・ロマンディのプロローグの個人TTでは全160選手中155位という、総合上位を狙う選手としてはあまりにも酷い結果でした。結局総合105位と、キャリアで最も悪いコンディションだったと言える時期です。
5月のツアー・オブ・カリフォルニアの個人TTステージで復調の予感を得ると、6月のツール・ド・スイスでは総合5位に入りました。ステージでは軒並み上位で、個人TTでも5位という結果は、タランスキーの自信を回復させるには十分な結果となりました。
そして、ブエルタで総合5位です。
同僚のリゴベルト・ウランの陰に隠れがちな選手ですが、ポイントではウランは137ptsと、ほぼ同等です。2017年はタランスキーが真のエースとなるのか注目です。
6位、ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)
WTポイント:130pts(34位)
主な戦績:
・パリ〜ニース第7ステージ優勝
・ジロ・デ・イタリア第6ステージ優勝
・ツール・ド・ポローニュ総合優勝&ステージ1勝
ブエルタ・シクリスタ・ア・パイス・バスコ、ツール・ド・スイス、エネコツアーは全て途中リタイアに終わりました。
それでも、出場した他のステージレースでは必ず結果を残した結果、チームのエースであるアンドレ・グライペル(92pts)よりもポイントを稼いでいます。
ウェレンスはステージレーサーではなく、ステージ優勝を狙うパンチャーです。総合優勝したツール・ド・ポローニュでも、第5ステージで2位に3分48秒差をつける逃げ切り勝利を決めたことが大きいです。
クライマーやパンチャーで、かつステージレースのステージ優勝を狙える選手は結果としてポイントを稼ぎやすいようです。
7位、ルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター)
WTポイント:88pts(59位)
主な戦績:
・ツアー・ダウンアンダー総合6位
・ツール・ド・ポローニュ総合6位
・ブエルタ・ア・エスパーニャ第3ステージ2位
ブエルタでマイヨロホを着用した印象が強いですが、ブエルタで獲得したポイントは、第3ステージで2位に入ったことによる8ptsのみです。
山岳アシスト系の選手は、アシスト対象のエースが出場しないステージレースで上位に入賞することが重要です。逆に言えば、それくらいの選手でなければ、山岳アシストは務まらないとも言えましょう。
8位、ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、IAMサイクリング)
WTポイント:72pts(72位)
主な戦績:
・ミラノ〜サンレモ7位
・パリ〜ルーベ6位
2つのモニュメントでトップ10に入った結果、マルセル・キッテル(81pts)、トム・ボーネン(80pts)、マーク・カヴェンディッシュ(80pts)、エドゥアルド・ボアッソンハーゲン(79pts)らに次ぐポイントを獲得出来ました。
パリ〜ルーベの6位は、先頭集団の4名から遅れた第2集団で上位に入った結果です。重要なワンデーレースほど、諦めずに1つでも上の順位を目指して走ることが大切だということがよく伝わります。
9位、ジェイ・マッカーシー(オーストラリア、ティンコフ)
WTポイント:68pts(73位)
主な戦績:
・ツアー・ダウンアンダー総合4位&ステージ1勝
全68ptsは、すべてダウンアンダーで獲得したポイントです。
それでも、ジャンルーカ・ブランビッラ(60pts)、ロバート・ヘーシンク(59pts)、アントニー・ルー(56pts)より多くのポイントを獲得出来ています。
一つでも自分に得意なステージレースがあれば、それだけで他のチームのエース級の選手並のポイントを稼ぐことだって不可能ではないのです。
10位、ティージ・ベヌート(ベルギー、ロット・ソウダル)
WTポイント:66pts(75位)
主な戦績:
・E3ハーレルベルケ7位
・ツール・ド・ポローニュ総合5位
ツール・ド・フランス開催期間中に行われるツール・ド・ポローニュだからこそ、番狂わせや無名選手の台頭が起きるのかもしれません。ワールドツアーが増える2017年は、より多くのこういった地味にポイントを稼ぐ選手が増える予感がします。
ただし、このべヌートは実力も伴った期待の22歳のベルギー人選手です。
来季からワールドツアーとなるオムループ・ヘット・ニュースブラッドでは3位で、22歳とは思えない戦績を残しています。楽しみな逸材です。
まとめ
このランキングをつくっていて、強く思ったことは、スプリンターが不遇だなということです。
サガンは別格としても、カヴェンディッシュやグライペルのような登れないピュアスプリンターは悲しいくらいポイントが稼げていません。
そして、ワールドツアーポイントを獲得するにあたっては、着用したジャージの色に全く意味がないということです。ブエルタ山岳賞のオマール・フライレが2ptsしか獲得していないランキングを見て、愕然としました。トーマス・デヘントも言うほどポイント稼げていません。
レース中継で、明らかに目立って活躍していると思われる選手が、あまり名前を聞いたことのない選手よりポイントを獲得していない様子を目の当たりにすると、何とも言えない気持ちになります。
もちろん、現行のルールの中で、ワールドツアーライセンス獲得を懸けて、戦略的にポイントを稼いだチーム・選手もいることでしょう。ゆえに、そういった選手をもっと評価してほしいという想いがあって、今回のランキングをつくってみました。
一方で、グライペルやカヴェンディッシュ、フライレやデヘントのような選手も、違う形で数字で評価出来る仕組みがあれば、いいのになとも思いました。
もし、ワールドツアーチームが18チームのままでなく、1チーム減らされるようなことがあったら、確実にディメンションデータがプロコンチネンタルに降格していたことでしょう。ディメンションデータが降格を避けるために、ワールドツアーポイントを稼ぐ方針に切り替えたとしたら、ツールでのカヴェンディッシュの4勝や、フライレの山岳賞は無かったように思えます。もしそうしていたら、今年のツールとブエルタの面白さが減ってしまうことは間違いなかったでしょう。[1] … Continue reading
集団スプリントステージの獲得ポイント数を倍にする、各賞ジャージの着用日数に応じてポイント付与など、ルールを変えてみてもいいのではないかと、個人的には考えています。
2017年はワールドツアーが増えることもあり、ポイント制度も大きく変わるかもしれないと言われています。
よりレースが面白くなうようなルール改訂であることを祈るばかりです。
References
↑1 | ディメンションデータは、ツール・ド・フランスの公式スポンサーを務めていることもあって、プロコンチネンタル降格は絶対に無い、という密約か確証があったのではないかと思っちゃいます。 |
---|